向日葵の咲き乱れる夏に⑩
私は女心というものが分からなかった。
きっと、世の男性達はある程度理解し
それにより女性の心を掴んでいるのだろう。
そうに違いない。
だが、私には分からなかった。
今までも
この現状においても
私は立ち止まって状況の理解に励んだ。
私と郡山葵をくっつける。
アロンアルファで?
言葉の意味は分かっていたが、己が置かれている現実に理解が追いつかずふざけて逃避してしまった。
先を歩く彼女の顔は見えない。
どんな顔で今の話をしたのか
揶揄されているのか
鈍感を装って聞こうにも喉が開かない。
完全に混乱していた
「ん?何立ち止まってるのー?」
突然振り返りおちゃらけた様子でこちらを見る彼女の表情はいつも通りだった。
私は久しぶりに彼女に対して恐怖を覚えた。
何の意図があって今の発言をしたのか
戯けてる私を見て楽しむためか?
それとも本当に私のことを…
「え、あ、あぁごめん。ちょっとびっくりしちゃって…」
思わず本音が口から溢れた。
すると満足気に笑顔を浮かべ
「ふーん。」と一言だけ残し
また彼女は歩き出した。
つくづくこの女は分からない…
いや、女の子全般が分からないか。
情けない頭を抱えて後を追った。
「あ、日向先輩ー!」
PARCOのお菓子コーナーで、声を掛けられた男性が笑顔で会釈を返した。
日向先輩は郡山葵の入る園芸部の一つ上の先輩である。
とても大人しい人で、部外者の後輩の私にも優しい素敵な先輩だ。
郡山葵と絡むようになってからは、休み時間に会うと世間話をするくらいには仲良くなっていた。
最も郡山葵の性格を考えると、この人も彼女に振り回されている被害者のようで、放って置けなかったというのが正しいだろう…
「郡山さんと相トくん。
二人もお買い物かい?」
この柔和な物言いが指すように爽やかで綺麗な容姿を持つ先輩である。
ひ弱な雰囲気を除けば文句なしのモテ男にすら感じる。
「そんなとこです!先輩は買い食いですか??」
いつものように彼女は先輩をからかう。
「か、買い食いじゃないですよ!!」
なんてコメディのワンシーンのような時が流れることを想定していたが今日は違った。
「先日、お菓子をご馳走になったのでお礼に何か渡そうかと思いまして。」
も、もう回答がカッコいい…
やだ。本当にこんな彼氏欲しい。
私のキャラが崩壊するまでに心の優しい先輩の返答に不満を覚えたのか
「やっさしーなー。誰かさんもあたしにお菓子くれないかなぁー。」
分かりやすく棒読みで彼女は呟いた。
「ぜ、善処します…」
この手のおねだりをされたことがない。
仕方ない。検討するとしよう
その後、先輩と別れ洋服のフロアに向かう最中、郡山葵が呟いた。
「男の子は手作りのお菓子とか喜ぶのかなぁ」
その声は、私に問うているのか。
また独り言なのか
その判断がつかず、私は言葉を飲み込んだ。
気がつけば、
完全に彼女のペースに呑まれていた。
この思わせぶりな発言も。
この距離感も。
この心の充足感も。
頭が重たくなった。
「まーた私は同じような道を歩むのか。」
そう、過去の7回の私に言われているようだった。
翌日、学校に着くと
いよいよ付き合ったのか?というハルキストの猛烈な言及に耳を痛めながら
世界は何食わぬ顔で同じ日常を彩り続けていた。