少女達は今日も生きている③
私は違う。
私はほかの子たちとは違う。
だから私は絶対に弄ばれたりしないんだ。
ついこの間まで私は弄ぶ側の人間だったのだ。
そんな私が弄ばれるわけはない。
これは私が主導権を握っているんだ。
彼は昔好きだった人と私を重ねて、私に恋心を抱いているんだ。
だからそう…私は間違っていない。
そう、まるで自分に言い聞かせるかのように私は振舞った。
今は翠ちゃんにもユウキにも会いたくなかった。
二人には何故か会いたくなかった。
私の心が透けてしまうと思ったからかもしれない。
透けてしまうことに何の問題があるのだろうか?
だって私は間違っていないのだから…
じゃあ何故…私は彼らを避けているのだろう。
「郡山さん?」
先輩が優しい声をかけてくる。
初めての夜を共にしてからまだ日が浅いというのに私は何をしているのだろうか。
先輩の部屋でスカートを履きなおしている今の私はどんな顔をしているのだろうか。
あれから私が小島君を狙っていないということは薄々伝わったようで、先輩のファンからの牽制こそ増えたものの、小島君推しの子たちから手のひらを返して絡まれるようになっていた。
そんな彼女たちと行動を共にしていると、
まるで先輩は狙いすましたかのように現れた。
「ごめん。借りてくね。」
一体誰に向けた断りなのだろうか。
連れの女の子たちは、まるで私を差し出すかごとく先輩に引き渡した。
黙って私の手を引く先輩はどんな表情をしていたのだろう。
恋する男子高校生の顔をしているのだろうか。
そんな幻想のような、一縷の期待だけを胸に
私は先輩の後を歩く。
とても趣深いとは言えない彼の3歩後ろの景色は
嫌なほどよく晴れた空に照らされていた。
私は、彼に抱かれることを望んでいたのだろうか。
魅力ある男性に好かれることで己の自己肯定感を高めていたかったのだろうか。
本当に彼に心酔してしまっているのだろうか。
あぁ…
私も何度時を過ごしていたとしても
どこにでもいる大人ぶった女子高生でしかないのだろう。
あれだけ見下していた。
あれだけ蹴落としてきた存在に自分がなっているのだという事実。
不思議と嫌な気持ちにならない。
それだけ彼を愛しているということなのだろうか。
「なんでもないですよ。」
私は着かけの服とともに彼に飛び込んだ。
私は
一人の女に戻ることにした。
強がりの「郡山 葵」の殻を破り捨てた。
むき出しの高校生に。
「送っていこうか?」
あたりはすっかり暗くなっていた。
「いえ。大丈夫です。お邪魔しました。」
心配してもらえた喜びを表情に隠し切れず
私は余韻を噛みしめるために一人の帰路につくことに決めた。
今日は夜空が澄んで見える。
先輩の立派な高層マンションから見上げる空は、自分と夜空の境界線を見失わせるほどに美しい。
「…だよ。」
エレベーターを待つ私の耳に先輩の声が聞こえてきた。
内容はよく聞こえないが、電話をしているのだろうか。
こんな立派なマンションなのに防音が甘いのは少々キズであろう。
私は少し恥ずかしく思いながら、無意識にその声に耳をすませた。
「いや人気者とは聞いてたけど、案外大したことなかったよ。」
背筋に嫌な汗が伝った。
先輩は何の話をしているかなんてこの部分だけでは何もわからない。
誰の話をしているかなんて分からない。
ただ、嫌な汗だけがこの続きを知っているようだった。
「連れ出したら簡単に家まで来ちゃってさ。なんか普通だったよ。…」
ほのかに彼の笑い声が聞こえてきたとき
私はもうその場には居なかった。
私を乗せたエレベーターはゆっくり、ゆっくり下に私を運んでいく。
私の気持ちごと地の底に突き落としていくように。
何も
考えられない
何も
考えたくない。
呆然とした私の足取りは不確かながら、自宅へと進んでいた。
「紹介してもらっておいて言うのもなんだけど。」
「友達だったんだろ?」
「小島」