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物事の始まりはいつも不可思議である


“高校時代”


なんと甘美な言葉であろうか。


ティーンエイジャーが一つの学舎に集まり、学問に励み青春の汗を流す。


ある時はスポーツで青春の汗をかき

ある時は書物にて知見を広め

ある時は共同活動に涙を流す




集団行動の中には男女が色恋に目覚めることも多々


ある者は運動している姿に見惚れ

ある者はその麗しくまた妖艶な四肢に見惚れ

ある者は己の趣味趣向に理解のある者に見惚れ



それら酸いも甘いも混在する3年間


この青春の代名詞 “高校時代”


そこでは日夜、様々なドラマが繰り広げられている




………



…わけなのだが。


当然世の中には、輪から出ている「はみ出し者」も

存在するわけで。



当然こんな手記を残す人間が

「高校時代ですか?友達や恋人と青春を謳歌していました。」

などと、浮ついた一言を世に放てる事もなく。




友達に不便を感じることは無かった3年間

恋人に充足感を感じることは無かった3年間



人はこの“高校時代”を振り返り


「あの頃に戻りたい。あの頃は良かった。」と嘆く



そんな人々を尻目に私は働いた。

常に未来を明るくしようと働いた。

働いて働いて、それなりの収入を得た。




そして、己の人生を省みる機会が訪れた。



「…残念ですがステージⅣです。」


突然のガン宣告


目の前が真っ白になった。

私がガンになっていたのか。



ワイドショーなどで時折耳にする医学情報



どこかで他人の話と耳から零していた話が

よもや齢40で医師から宣告されようとは。



それから私は。


私は。






私は己の人生を省みる過程で

ある一つのことに気がついた。


いや、本当はとっくに気づいていたのかもしれない


だから私は己の最期の言葉を

この手記に残そうと思う。


相卜 悟』



「…はぁ…」



私は最期の一筆を前に溜息を漏らす。


全身は痩せ細り、チューブに繋がれた様は

かつて見た祖父の最期を思い出させる



「アイウラさん。聞こえますか?」


側では看護師が私の顔色を伺っている。



この姿で入院してからの私は

手記を片手に物思いにふける毎日だった。


そんな私を気遣って声をかけてくれたのがこの人だ。



彼女に看取られながら死ぬのなら本望かもしれない




私は最期の力を絞り出すかのように手記を開いた。



そしてペンを握り






「アイウラさん!聞こえますかアイウラさん!」



…遠のく意識の中で彼女の声が響く


…ありがとう。




すると眼前に己の灰色の“高校時代”が広がっていた



…走馬灯というやつかな。

…最後に見るのがこれとは嘆かわしい。



懐かしい友人達の顔

懐かしい学舎

懐かしい教室の匂い




私の色恋の香りのしなかった高校時代そのものだ。



あぁ…これが私の人生で最良の時だったのか







病室に医師が駆けつけた。

僅かな不整脈を探す所作で手記が手元を離れた



真っ白なページに一言。







『可愛い彼女が欲しい』


……あ。

看護師の口から情けない一言が漏れると同時に


私の意識は闇に消えた。

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