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第8話

  GAME OVER GAME OVER GAMEOVER


 赤く光るその文字が、俺の網膜に表示された。俺は負けた。

そして10秒後………。



 俺は、現実世界へと帰還を果たした。


 周囲には、他の奴ら………先程一緒に仮想現実の中での〝戦友〟共が倒れている。俺達が今いる部屋は、VRネットルーム。


隣の部屋には、ジェニファー達A小隊メンバーが同じ様に現実に帰還しているのだろう。


俺達はゲームオーバーという形で現実に戻った。意識が完全に回復していない中、俺は上を見た。


 地面に情けなく横たわる俺を数人が見下ろしている。左から、ウィルソン、ハリド、チャン、ロザリア、そしてジェフ隊長。


「残念だったな。お前ら、同じチームのメンバーとして残念だぜ」


  褐色の肌に亜麻色の髪の男、ハリドが笑った。嘘つけ。お前は心の中で俺らがゲームオーバーになった事喜んでるだろ!奴の嫌らしいほど清々しい笑みに俺は心の中で毒づく。



「ケン、最後まで粘ったのは、流石だな。………だが、負けは負けだぞ。」


 今度はビリーが言った。


「スコア更新まで後もう少しだったのに……!」


「ローウェル、お前はチームワークをもう少し考えなっ」


全くだ。あのアホが突撃しなきゃ、善戦できたかもしれない。


「ローウェル、ラスボスが出た位でパニックになるな」


「早く起きろケン、他の奴らもだ。楽しいゲームの時間は終わりだ。ゲームセンターからでるぞ」


 威圧感たっぷりの声でジェフ隊長は言った。


「分かりました隊長……」


 俺は、まだ現実世界に帰還しきれていない意識を引きずりながら、立ち上がった。他の奴らと共に俺 ケン・ガードナーは、VRゲームセンターを出た。





地球統一暦565年 7月21日。<クストーⅢ>の繁華街エリア。


 眩いネオンの並木道を俺達は歩いている。いつ来ても眩しい所だ。

前の戦争では、こういう所で暇を潰したのを思い出す。


「やっぱ、アイゼンク艦長(さっきのゲームのNPC)との会話が分岐点なんだよ。アイゼンク艦長を説得してミネソタ号の軌道爆撃が実行されてたらあのラスボス戦は勝てたね。」


「あのイカ野郎は、軌道爆撃をシールドで無力化してたわよ。最終ステージのムービー忘れたの。」


「!!……分かりませんよ。体力削る位にはなったかも」


 今俺達が歩いているのは、<クストーⅢ>の繁華街エリア。



 俺の住宅兼職場である海上都市<クストーⅢ>の下層部に位置するこの繁華街エリアは、VRを始めとする様々なゲームセンター、テニスコート等のスポーツ施設やトレーニングジム、レストラン、バー等の娯楽施設が揃っている。


 <クストーⅢ>で働く俺達にとっては、息抜きに丁度いい場所であり、この海洋惑星でも数少ない心の底からリラックスできる場所だ。


 同様の設備は、軍隊にもある。


 この繁華街エリアは、前の戦争で銀河連邦第5艦隊司令部が置かれていた宇宙要塞<トリロバイト>か、終戦後1年前に第3艦隊が寄港した惑星 オグンの第3浮きドック並みに充実している。



 先程俺達が楽しんでいたのは、VRゲームの1つ『外宇宙からの侵略者Ⅴ』……架空の植民惑星 ダゴン(紛らわしいが、ダゴンという名前の惑星は、現実でも複数ある)でクトゥルフ神話の世界観をベースにしたエイリアン共と戦うゲームで、今から3年前に発売された。


 現在でもアップデートされていて、ヴィクトリア星系と、いくつかの星系では今も熱心なファンがいる。


 俺達第65収穫隊は、1年前からこのゲームをプレイする様になった。

俺達は、今回、最終ステージまで進んだが、ラスボスに健闘虚しく敗北した。最終ステージを超えれば、別の新しいエキストラステージが俺達を待っているらしい。


「ケン、あと少しでラスボス倒せたのにな!ほんと残念だな!!」


 ちっとも残念に思っていない顔でビリーが言う。


「……うるせえ」


「惜しかったなぁ。これでお前と俺はスコアでお相子だがっ」


 ビリーが俺の右肩を叩いて言った。


 奴は1週間前俺と同じくラストステージで敗北している。今回ゲームに参加するのを断ったのも、1週間前にゲーム内で酷いやられ方をしたのが原因だ。


 「惜しかったですねぇ。ケン先輩」



「ああ、今回は、ジェフ隊長よりも長く生き延びたのになぁ」


「隊長も、今回は残念でしたね。隊長が生き残ってたら、最終ステージも楽勝でしたよ。」


「……所詮ゲームだからな。どんなにリアルでも実戦とは違うよ」


 ジェフ隊長は、吐き捨てるように言う。


  普通の男が言うと単なる負け惜しみに聞こえるが、機甲歩兵部隊の指揮官として何度も死線を潜った彼が言うとそれっぽく聞こえる。


 …………恐らく単なる負け惜しみでしかないんだろうけど。



「レーザーブレードで触手切り落として、胴体にプラズマライフル叩き込んで、弱点のコアに反応弾頭のリニアランチャーぶち込めば勝てたってのに。」


「反応弾頭のリニアランチャーは、前のステージで使い切ってたからな~あれも失敗だろ。」


「……でも、ローウェル、前のステージのボス、あれがなきゃ倒せなかったからなぁ」


「ケンがもうちょっと頑張ってたらなぁ、」


 ロザリアは、残念そうに言った。前のステージで真っ先にやられた奴が言うのかと思わなくもない。だが、同じ隊で最後にやられたのは、俺だったから仕方ない。


「苦手なんだよ。触手は。」


「現実なら巨人イカの触手切り刻みまくってるのにな」


 背後からビリーが茶化してくる。


「それとこれとは別さ」


 苦手なものは苦手なのだから仕方ない。ディープランサーに乗ってるのと、装甲服だけで戦うのでは勝手が違い過ぎる。


 宇宙戦闘機と個人用シャトル位差がある。


「もし、最終ステージのクトゥルフスクイッドみたいな奴とこの海で戦う事になったらどうする?」


クトゥルフスクイッドというのは、俺達が負けた最終ステージのラスボスの正式名称だ。長いので、俺らはイカ野郎とかあだ名で呼んでるが。


「あり得ないことを言うなよ。酔ってるのか?」


「………ケン、冗談の話だよ。本気にするなよ」「………あり得ない事じゃないかもしれないぜ……」


 そう言ってきたのは、金髪に褐色肌の青年 ハリドだ。奴の右手には、コーラのペットボトルがある。俺は今、世にも珍しい炭酸飲料で酩酊状態になっている奴を見ているのかもしれない。


「俺は素面だぞ。ケン、お前知らないのか。ミュータントスクイッド………変異体の話」「なんだそりゃ、ゲームかVRムービーのクリーチャーか?」


 ビリーが言う。彼の顔には、苦笑いが浮かんでいる。俺も同意見だった。


「この惑星に降りた調査隊が見た怪物の名前さ。」


「怪物?」


 この惑星で怪物と言えば、巨人イカ以外に幾らでもいる。そしてその全てが人間に狩られる存在。ゲームの雑魚モンスターと変わらない。ハリドが言っている怪物もその内のどれかだろう。


 とてもではないが、さっきのVRゲームのラスボスに張り合う存在じゃない。あれが宇宙戦艦だとしたら、巨人イカとかは、ミサイルコルベットとか宇宙駆逐艦と言った所か。


 俺と数人の呆れた目線にもめげずにハリドは、言葉を続ける。



「お前ら知らないのか?この惑星に調査隊が降り立った時、巨人イカとかオイルフィッシュとかに遭遇して度肝を抜かれたのは知ってるよな。」


「ああ、常識だな。」


「それがどうしたんだ?」


 今から95年前 475年にこの惑星………ニュー・ネレウスは、人類に発見された。


 正式に開拓が開始される85年前までの10年間、銀河連邦惑星開拓局とそれに協力する企業は、調査隊を繰り返し派遣してる。


 ニュー・ネレウスが開拓される直前に10回近く派遣された調査隊は、惑星の9割を占める海と1割の陸地を探索したわけだが、この際に何度も海に生息している生物共に遭遇した。


 俺達の獲物 巨人イカが人間に襲い掛かってきたのもこの時だ。調査隊の無人深海探査機を触手で粉々にした映像は今でも記録されてる。



「じゃあ、第5回目の調査の時、調査隊が最大の損害を受けたのも知っているな。」


「NHST-05~019連続爆発事故だな。」


「ああ、燃料補給用のメガフロートの爆発事故か。」


 第5回目の調査………ハリドの口からその一言が出てきた時点で俺はある事故を連想した。連続爆発事故……………当時、ニュー・ネレウスの調査隊は、惑星環境への配慮から、水素燃料を動力源にする機械を使っていた。


 テラフォーミング無しで地球型生命体が呼吸できる惑星は、地球サイズのダイヤモンドよりも高価だ。


 この惑星の場合、地表を覆っている水を燃料に出来る利点があった。第2から第5までの調査隊は、この惑星に無人探査機や船舶、航空機、潜水艇用に多数の無人水素ステーションを建設した。


 小型の六角形のメガフロートみたいなもんだ。今も沢山浮いてる。


 NHST-05~019というのは、第5回調査隊の調査の最中に起きた無人の水素燃料ステーションの連続爆発事故の事だ。


 地球統一暦の485年の2月7日に突然、NHST-05が爆発した。それが事件………事故の始まりだった。


 調査隊の有人船舶の補給作業が完了した5分後にステーションが爆発した。その3日後にNHST-07が爆発した。


 更に翌日には、NHST-06が………といった具合に。ニュー・ネレウスに人類が浮かべていた水素燃料の製造工場は次々と海の藻屑になった。


 事故原因の特定や安全対策の徹底が行われた効果は無かった。一時は、軌道上の基地への撤退も検討された程だったらしい。


 連続爆発事故は、3月15日…………北部海域のNHST-019が木端微塵に吹き飛んで終わった。この事故で、当時34基あったステーションが12基失われた。



 幸い人的損害は、死者も出ず10名の負傷者以外無かった。だが水素燃料ステーションが複数破壊された事は、調査隊の海中、海底資源調査のスケジュールに悪影響を与えた。


 海底鉱物資源のボーリング調査に至っては、予定の3割も出来なかったそうだ。


 学者先生の中には、あの事故がなければ、後10年早く開拓が開始されていたかもしれない。と主張する奴もいる。


 事故原因は、未だに不明。中には、テロ攻撃を疑う者もいる。………その他色々な荒唐無稽な〝仮説〟もある。



「それでなんだ?その化け物が事故原因だってか?」


 ビリーが茶化す。


「そうさ。あの事故は事故じゃなくて、実際は、あれを破壊したのは、その変異体らしい。」


予想通りだった。


「ほう。水素燃料ステーションを粉々に出来る怪物か。恐ろしいな」


 今度は、ハリドの後ろにいたウィルソンが言う。口調から全く信じていないのは、明らかだ。当たり前だ。馬鹿げている。だが、ハリドは一歩も引かない様だ。



「本当だって、当時の通信記録にも未知の海洋生物による襲撃を疑う記述があったんだよ。それは、巨人イカの変異体ではないかと言ってる記録もあるんだ。水素ステーションを破壊したのがそいつだってことだって。………それにステーションの残骸には、何か強力な力で破壊された痕跡だってあるんだ。変異体が実際にいる可能性はあるぜ」


「いや、無いね」


「考えすぎだ。」


「右に同じ……だ」


 ハリドの考えを俺達は否定する。当たり前だ。


「そんなの、調査が完了していない生態系の存在する惑星の開拓隊が、いの一番に疑う事故原因だろう。」ビリーが苦笑いする。その通り。


 独自の生態系の存在する惑星の調査の際に起きる事故の原因で、真っ先に疑われる。


 彼らは、宇宙船の墜落から保存食の想定よりも1日早い腐敗まで多岐にわたるアクシデントの容疑者にされてる。


 ハリドの言う様に未知の海洋生物………巨人イカの変異体が実在していたら、それこそすぐに発見されて叩き潰されているだろう。



「お前ら、あれは調査隊と政府が隠蔽したんだよ。ニュー・ネレウスの開拓に差し障るって理由でな。」


「……都市伝説だろう。」


「酔っ払いの戯言にしか聞こえないな。」


「政府が隠蔽したからって見つからないのはおかしいだろ」


「そ、それは、まだ見つかってないだけだ。それか本社の連中も隠蔽工作に関与してて………」


ハリドは、尚も自説を曲げない。こいつ、陰謀論を曲げたら負けだと思ってるのか。頑固な野郎だ。


「そんな怪物が実際にいるんなら、俺達が知らないはずないだろ。」


「そうだぞ。人類がこの惑星で資源採取初めて何十年経ってると思うんだよ。」


「普通に途中で発見されてるだろうな」


「ソニック爆雷で退治されてそうだ。」


「警備艦隊に退治されてるに違いないな」


 30年前に銀河連邦から惑星管理権の大半を購入して以来、ニュー・ネレウスの施設を他社から買収したり、新しく開発したりした俺達の雇い主である会社 ダゴン・マリンマイナー社も何度か海中調査をやっている。


銀河連邦に認可された科学者も環境保全やら宇宙生物学の研究目的で滞在して調査してる。


 この状況でハリドの言う様な変異体、ミュータント・スクイッド………化け物イカなる怪物が人目に触れられずに存在し続けているとは思えなかった。


 普通に考えたら、見つかって駆除されてるか、貴重な生物なので絶滅させるなよと銀河連邦議会から勧告されてる。


 1か月前も巨人イカを捕り過ぎるな。惑星生態系を守れという内容の市民団体の抗議があった。


 こっちは殆どデータ無き難癖だったが。


 世の中には、その惑星独自の生物を捕獲、資源利用すること自体が、小惑星を可住惑星に突っ込ませるのに匹敵する犯罪だと思っている奴らが多い。


「まだ深海底の何割かは未探査のエリアがあるだろ………」




 尚も自説を曲げないハリドと俺達は、会話を続けようとしたが、阻止された。非生産的な会話に参加していなかった賢明な奴らの仕業によって。



「っ……お前ら、アホな話してないでさっさと飯食いにいくぞ。」


「置いてくわよ!あんたたち!!」


「ハリド、ウィルソン、ビリー、ケン!!早く来い!!お前らのせいで飯が食えねえ!!」


 ジェフ隊長、後ロザリアが大声で言ってきた。2人の後ろには、他の奴らが立っている。


 その横には、回転寿司屋の入り口がある。ゲームセンターで遊んだ後、一杯やろうという事になっていた店だ。………いつの間にか俺らは、皆に遅れていた。


「ああっ!!急ぐぞ!すみません隊長、皆!」


「っ!待っててください!」


「お前のせいだぞハリドっ!」


「すんません隊長!!」



 俺とビリー、ウィルソン、そしてハリドは、慌ててジェフ隊長達が立っている場所に急いで走った。全く、馬鹿げた話に付き合うんじゃなかった。

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