第7話
「ポッドが来たぞ!」
「よし!奴らを灰にしちまえ!!!」
「皆殺しだぁ!!」
B小隊の仲間達は、叫び声を上げる。俺も叫んでいた。
「よし!入口を綺麗にしてくれ!!」
戦闘支援ポッドは、命令通りの行動をしてくれた。何体かの球体が変形し、脚部が露になる。ポッドは次々と俺達の前に着地した。
着地と同時に球体からレーザーと光弾が吐き出される。
光弾を浴びたヒトデ野郎が次々と破裂していく。蜘蛛野郎が、数体まとめて火炎放射で焼殺される。銀色の鱗を持つ半魚人がぼろ屑の様に引き裂かれて次々と地面に横たわる。
戦闘支援ポッドの圧倒的火力の前に見る見るうちに〝奴ら〟の数は減っていった。最高の風景だ。
空中に浮いている別の戦闘支援ポッドは、内蔵していた震動弾ミサイルを発射した。
2発の震動弾ミサイルが入り口付近に着弾し、半球形の火球と共にクレーターを作る。クレーターの周りは、焦げた肉片しかない。
それでも入口からは、〝奴ら〟の群れが、ヒトデ野郎と半魚人、その他気持ち悪い化け物の大群が現れる。その頭上に砲弾が降り注いだ。今度はA小隊が自走砲台で砲撃してくれた様だ。
「最後の砲撃!!ちゃんといかせよ!」
「よし!」
砲撃の轟音にジェニファー達の歓声が重なる。それでも〝奴ら〟は湧き出てくる。今度は戦闘支援ポッドが砲火を浴びせる。
火炎放射にレーザー、エネルギー弾が異形の肉塊どもを打ちのめす。残っているのは、20体、それもどれも損傷した個体のみ。
「残敵掃討するぞ!」
俺達A小隊がプラズマライフルやパルスマシンガンで銃撃する。
俺の撃った光弾を浴びた半魚人が紫色の脳漿をまき散らして倒れた。弾薬を節約する為か、ゴードンは、拳でヒトデ野郎を撲殺していた。
この俺達が着用しているパワードスーツは、人間の身体能力を数十倍にまで強化する。便利なものだと思う。
海兵隊上がりのジェフ隊長は、「こんなものはまがい物だ。どんなに精巧でも〝本物〟とは違う」と言っていたが……。
最後の一体が弾け飛び、入口周辺は、クリアとなった。すっかり肉片と体液で染め上がっている。生身ならさぞ嫌な臭いがするのだろう。と嫌な想像してしまう。
瞬く間に〝奴ら〟の大軍勢を片付けた戦闘支援ポッド達は、後方に飛び去っていった。
再補給のためだ。補給が完了する一定時間経過するまで奴らは帰ってこない。A小隊も補給が無ければ支援砲撃できない。文字通り俺達だけで戦わなければならない。
「よし!神殿内に、奴らの巣に突っ込むぞ!」
俺達は、前進を再開した。目指すは〝奴ら〟の神殿内部……その最深部に潜む怪物。奴らの親玉………そいつさえ倒せば、この地獄の様な任務は終わる。ゆっくりと休息できる。
俺達は、装甲服の出力を最大にして神殿へと突っ走った。突如として地面が揺れ始めた。硬い地面がカーペットみたいに脈打つ。
「!!全員進撃停止!!」
「地震!?」
「あぶねぇ!な、なんだ?」
「ケン!アレを見ろ!」
入口の奥には、更に扉があった。
緑色の触手がこちらに飛んできた。
「!!」
とっさに俺は、横に跳躍して回避する。
他の奴らも同じ様に触手を回避する。着地と同時に俺は、前を見た。
神殿の入口は、完全に崩壊していた。神殿の入口周辺を形成していた貝緑色の岩石は、瓦礫と化していた。
灰色の土煙の奥に影が見えた。
その影は、俺達よりも、遥かに大きく、神殿の入口の門位あった。
そして、〝奴〟が現れた。〝奴ら〟の親玉が。
親玉は、巨大な胴体に蝙蝠の様な翼を生やしていた。頭部のサイズは、装甲車と同じ位あった。
老人の顔に似たその頭部からは、髭の様な触手が生えている。
全身が貝緑色に塗られ、目玉は、赤色巨星の様に爛々と輝いて俺達を睨んでいる。
「!!………なんてでかさだ。」
呻くように同僚が言った。
全くだ。俺達が何時も狩っているニュー・ネレウスの深海に生息している巨人イカとは、桁違いの大きさだ。
何しろ触手の太さだけでも装甲車位ある。その先端には、何と鋭い牙が並んだ口があった。
先端は白い粘液で濡れていた。こいつは、生物と言うよりも怪獣だ。子供の悪夢に出てくる怪獣。
「畜生!あんなの卑怯だ!」
仲間の一人 ローウェルの叫び声が通信機から聞こえてくる。
「ケン!どうする?砲兵も戦闘支援ポッドも今の俺達には……‥」
「A小隊!」
「ケン、こっちからも見えてるよ!ラスボスのお出ましだね。」
「ああ、支援砲撃出来るか?」
「出来ないね!まだ180秒かかる。」
180秒……その前に俺達が全滅するのが先だろう。ジェニファー達と合流するか。俺が判断するよりも早く、動いた奴がいた。
「………こうなりゃ、イチかバチかだ!うぉおおおおおおっ」
ローウェルは、何を思ったか、プラズマグレネード片手に銃を乱射しながら突進していった。
「馬鹿野郎が……」
「ローウェルめ!食われても知らんぞ!」
「あのバカ!」
援護する暇もない。
奴は、いつも無謀なことばかりして、このダゴンの地面でも散々無謀な行為を繰り返してきた。
ハリドがやられたのも奴が宇宙港で先走った所為だ。
一度俺も奴のバックアップで死にかけた。今回は、誰の援護も間に合わなかった。ローウェルは、哀れにも触手で叩き潰された。
「っ……ローウェル……馬鹿野郎が……!!」
ローウェルは簡単に死んだ。なんとも奴らしい最期だ。次の瞬間には、潰された奴の死体と装甲服は、跡形もなくなっている。
更に2人がやられる。残っているのは、俺とゴードン、ウォーレンのみ。俺達3人がB小隊の残存戦力。
「この、化け物が!」
必死で俺は、奴に向けてプラズマライフルを連射する。
半魚人どもをハチの巣に出来るエネルギー弾の連打も奴の太い触手には通じない。分厚い表皮に弾かれて終わり。
「どうする?隊長殿!ちっ!!」
「レーザーブレードを使うぞ。」
俺は、右手首に装着したレーザーブレードを展開する。手首から荷電粒子の刃が飛び出す。
青白く光る刃は、時間を掛ければ兵員輸送船の装甲さえ切り裂ける。もしかしたら……‥やつの触手を切り裂けるかもしれない。ウォーレンは、プラズマライフルを向ける。ゴードンはレーザーブレードを展開した。
白い粘液で塗れた緑色の触手が俺達に迫る。
俺達はそれを回避し、それぞれ別の方向から小山の様な化け物に向かって突撃する。人工筋肉と背部のブースターを全開にする。
「陸上戦艦だって機甲歩兵に密着されたら………」
前の戦争で俺は、ハイテク兵器で武装した陸上戦艦が機甲歩兵に制圧されるのを見た。あれと同じ要領でやれば………。
「うわあっ!!」
ゴードンの悲鳴が聞こえた。やられたようだ。残るは俺とウォーレンだけ………後、A小隊。
A小隊は、自走砲台以外は、軽装備しかない。俺達よりも容易く全滅させられるだろう。俺達がやるしかない。
「畜生!離せ!化け物………うわあああっ!」
ウォーレンが捕まった。俺が振り向いた時には、奴は、触手の牙にバラバラにされていた。
触手が鞭のように迫ってくる。跳躍して回避―――――――今度は別の触手が来た。ギリギリで回避する。
触手を回避しつつ、化け物の頭部に接近する。次々と襲ってくる触手は、大蛇の群れの様だ。
さしずめ俺は、大蛇の巣に迷い込んだモルモットと言った所か。
「!!」
目の前に現れた触手をレーザーブレードで切断する。だが、別の方向から触手が襲ってきた。レーザーブレードで切り裂く。
「やったぜ!ざまあみろ!!」
プラズマライフルが通用しない触手も、レーザーブレードなら通用したようだ。
「レーザーブレードなら切り裂ける!俺の読みは正しかったようだな」
切断面の傷口は即座に焼灼され塞がれる。化け物は、特に苦しんだようには見えない。
「お次の獲物は……」
俺は続いて2つ目の触手を切り落とす。跳躍と横滑りを繰り返し、貝緑色の巨体に接近する。
「頭に熱いのを食らわせてやるぞ!イカ野郎!」
俺は、一気に接近を試みた。だが、その判断は、間違いだった。触手が複数待ち伏せていた。粘液で濡れた貝緑色の皮膚が俺に迫ってくる。
「ぐわぁっ!!」
しまった!俺がそう叫ぶ暇もなかった。次の瞬間、強い衝撃が襲ってきた。
<レーザーブレード使用不能!>
機械音声がレーザーブレードが使用不能になった事を知らせる。
俺は、地面に叩きつけられたようだ。全身の痛みを押し殺し、立ち上がる。プラズマライフルを握る。幸い壊れていない。
「どうすりゃいいんだよ……畜生!」
化け物の緑色の触手が一斉に俺に襲い掛かってきた。
今の俺にはレーザーブレードもない。腰の高周波ナイフは、間に合わない。同じ理由でソニックグレネードも使えない。
使えるのは、両手に握ったプラズマライフルだけ。俺は、迫る化け物の魔の手ならぬ触手目掛けてプラズマライフルを乱射する。
「来るな!来るなぁ!!!」
ひたすらトリガーを引く。こちらの攻撃は簡単に弾かれる。
「わああっ」
次の瞬間、俺は、奴の触手に捕えられた。最大出力で暴れても巻き付いた触手を外す事は出来ない。化け物の頭部が近付いてくる。
化け物の頭部は、巨大な嘴が生えていた。奴は俺を食うつもりらしい。装甲服ごと……。
「ちっ……畜生!」
俺の身体は、巨大な怪物の嘴の中に飲み込まれた。
続いて俺の意識は、真っ暗な闇に飲まれた。
そして、その3分後、ジェニファーの率いるA小隊が全滅。
俺達は敗北した。
そう。俺達のゲームオーバーだ。