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第6話

一度は完結しましたが新章突入です。

今月中に更新出来て良かった。

俺は今、岩だらけの惑星 ダゴンにいる。開拓前の火星や俺の故郷の様に赤褐色の地面が一面に広がっている。俺にとっては、一面海の世界よりも馴染み深い風景だ。


 赤茶けた地面は、全くもって懐かしい限りだが、今の俺にとってこの地はあまりありがたいとは言えない。


 俺は、仲間達と共にこの惑星で戦っているからだ。銀河連邦宇宙軍に所属していた頃の様に。


 俺と仲間達は、皆軍用のパワードスーツを着用している。前の戦争でパイロットだった俺は、着用して実際に戦場に出た事は無かった。だが、今は違う。



 俺と仲間達がいるのは、環境ドーム都市 ティルス………厳密にはかつてそう呼ばれていた廃墟の一区画。ティルスは、つい3時間程前までは、この惑星最大の都市だった。


 だった。というのは、つい1時間前にこの都市が破壊されたからだ。


 約30万人の生活圏を収めていた修復機能付きのナノガラスと特殊合金のフレームで出来たドームは、完全に崩壊している。


 フレームは、無残に歪み、一部が弾け飛び、ガラスの無数の破片は、割れた卵の欠片の様に空中を漂っている。


 そう、漂っている。抜け落ちた鳥の羽みたいに。


 無重力の宇宙空間のデブリの様に。この惑星 ダゴンは、地球よりも重力が小さいが、無重力ではない。


 常識的に考えれば、目の前の事象は、物理的にあり得ない。そう。地球で人が生身で空を飛ぶのと同じ位にあり得ない。その筈だ。


 だが、それは、俺達の目の前に聳え立っていた。


 ドーム内にあった都市の建造物は、全て破壊されている。


 中心街の数百mの高層ビルディングから労働者向けの地下居住区まで平等に叩き潰されていた。それらの瓦礫も、環境ドームの残骸と共に浮かんでいる。


 住んでいた住民は、全員死んだ。恐らく。


短時間で完膚なきまでに破壊されたドーム都市 ティルス。


先程まであったドーム都市の代わりにその場所には、ギリシャ神話に登場する怪物 一つ目巨人キュクロプスの1個大隊が建設したのかと見紛う石造りの巨大な建築物………おそらく神殿。が地中深くから聳え立っている。神殿の柱の高さは、傾いた200mのビルの残骸よりも高い。


その神殿は、シュメール文明、ギリシャ・ローマ文明、古代エジプト文明………人類の古代文明の建築様式のどれにも当てはまる様で、当てはまらない、異様な建築様式をしている。当然である。それらの巨石群は、我々地球人類が建設したものではないのだから。


「〝奴ら〟派手にやってくれるな……!」


 通信機から男の声が聞こえた。俺の仲間の一人 マイクだ。そう叫んじまうのも無理はない。俺も〝奴ら〟には、腸が煮えくり返る程の怒りを感じている。


 ウィルソン、ハリド、チャン、セルジュ、マイク、ロザリア………そして、ジェフ隊長……。皆、あのエイリアン共の、〝奴ら〟の餌食になった。


 奴らは、俺達の部隊が派遣される2週間前に突然この惑星の地中からに現れたという。

最初は、赤道に設けられた採掘基地が襲撃を受け、隊員が全員奴らに食い散らかされた。

その後も襲撃が続き、現地の守備隊では対処できず俺達海兵隊がダゴンに着陸した。


それ以来、3か月近く俺達は〝奴ら〟と戦っている。


「俺は、負け戦には参加しない。」


 この戦場に立つ前、ビリーがそう言って断ったのを思い出す。


「……へっ、どうやらお前の判断が正しかったかもしれないな」


 心の中で俺はビリーに同意した。目の前の地獄を見れば、俺じゃなくたって同じ意見になるに違いない。


「ケン小隊長、仕掛けますか?」


 部下の一人から通信が入った。その声は微かに震えている。目の前の絶望的な風景を見れば、誰だってそうなる。


 

 俺自身、あの神殿の中に入って異星人野郎共を根絶やしにするなんて不可能だと思ってる。奴らの昼飯になるのが関の山だと。


「ケン!攻撃準備は出来たかい?」


「ああ、ジェニファー………」


 バイザーの隅に髪を短く刈った黒人女性の顔が表示される。俺は、彼女を呼び捨てするのを躊躇した。


 彼女……ジェニファー・マクドネルは、俺達とは別の小隊 A小隊の指揮官を務める。彼女の部隊 A小隊は、自走砲台を2台有している。


 こちら側にとっては貴重な支援火力………最もエネルギーと弾薬が尽きれば、補給が無い限り、無用の長物だが。


 階級では、ジェニファーの方が本来上だ。つい数時間前まではそうだった。

運命が変わったのは、この任務の直前の任務でトラブルが起きたからだ。


 ジェフ隊長が、〝奴ら〟のボス………ヒトデ野郎の親玉に八つ裂きにされたのだ。俺は、小隊長に繰り上がった。ジェフ隊長は、強かった。


 建設用ロボット(40m~18m級を指す)並みにデカい半魚人も、チビで厄介な蜘蛛野郎もプラズマライフルやグレネードで撃破していった。


 俺も仲間も何度も助けられた。


 そんな隊長が、呆気なくこの戦場から退場を余儀なくされたのは、今でも信じられない。信じたくなかった。


 勝てる確率が更に減るからだ。だが、現実は受け入れる他ない。それが、俺が前の戦争で生き延びるため学んだことだ。



「気にすんなケン!今はお前がB小隊指揮官だ。あたしらも支援するから、半魚人共のボスを吹き飛ばしな!」


 男勝りな声が通信機越しに聞こえてくる。今の俺は、B小隊指揮官………部下を率いる身だ。


「いつでも行けますよ!ケン隊長!」


「先輩、援護します。」


「まかせろケン!」


「攻撃開始!」


 後方にいたA小隊が砲撃を開始した。神殿の入り口に次々と光弾が着弾する。神殿に対しても砲弾が次々と撃ち込まれる。


 一時的に入口が煙と炎に包まれる。煙と炎が晴れた後、神殿の入り口からヒトデ野郎が現れた。〝奴ら〟における歩兵の様な存在であるヒトデ野郎は、蜘蛛野郎と並んで厄介な存在だ。


 一体一体は、スーツを着た俺達の素手でも殺せる。攻撃手段も大したことなく、腕のかぎ爪と胴体中央部の口からの毒液だけ。だが、ヒトデ野郎は数が厄介だ。


 一体現れたら三十体いると考えないといけない。


 今回も入口を塞がんばかりに溢れ出てやがる。砲撃で少なくない数を吹き飛ばしたはずだが……。これが奴らの本拠地 最終ステージなのだから、無限にいてもおかしくはないのだろう。


「行くぞお前ら!!」


 装甲服を着た俺達は、走りながらプラズマライフルを乱射する。


 六角形の銃口から青白い雷光の様な光弾が次々と吐き出される。光弾は、入口にごった返している


 ヘルメットのバイザーに〝奴ら〟のおぞましい姿が表示される。ヒトデ野郎の背後には、蜘蛛人間や半魚人、のっぺらぼうのドラゴン、その他様々な怪物どもがいる。


 俺達B小隊メンバーは、入口の前で弾幕を張る。


 キルゾーンを形成して奴らを根こそぎ全滅させてから神殿に突入する。そして神殿の中心に居座っている〝奴ら〟のボスを叩き潰す。それが当面の作戦だ。


「接近されたら俺達の負けだ!撃ちまくれ!」


 あれだけの数に肉弾戦を挑むのは自殺行為だ。

俺はこれまでの戦いでそれを嫌という程思い知らされた。今まで退場を余儀なくされた仲間達も酷い死に方をしている。あんな最後は御免だ。


 ヒトデ野郎と半魚人が2個小隊ずつ突進してくる。ヒトデ野郎と違って半魚人は、偶に遠距離攻撃できる奴が混じっている。


早めに潰さなくては。


「グレネードを使うぞ!」


「おう!」


「ああっ!分かった」


「了解だ!」


 衝撃波グレネードが一斉に俺達のライフルから発射され、奴らの真ん中で炸裂した。


 直後、極彩色の肉片と体液が飛び散る。更に化け物共が湧き出ていった。地面はすっかり奴らの肉片と血で染まっている。子供が絵具をぶちまけたかの様に。


更にA小隊の支援砲撃が入り口付近に降り注ぐ。怪物どもの群れが次々とはじけ飛び、肉片と化す。


「残弾50パーセント未満!後1回全力で支援砲撃したら再チャージまで使えないよ!」


 ジェニファー達から通信が入ってきた。


「分かった!前進するぞ!」


 ………言っては見てみたものの、前進するのは、至難の業だった。何せ目の前には、〝奴ら〟が犇めいているのだ。



 その光景は2年前に農業惑星 デメテルⅣを滅茶苦茶にした冠飛蝗(飛蝗の一種。アポリオン・ローカストとも。公式にはデメテルⅣの気象コントロールシステムの異常によって発生した新種とされているが、その繫殖力と生命力の強さから、某企業が開発した生物兵器だとする説もある。565年現在、複数の惑星で農地や生態系を食い荒らし甚大な被害を齎している。)の群れを思わせる。


「畜生!ちっとも数が減らない!!!」


「撃てば当たるぞ!糞ったれ!」


 プラズマライフルを撃ちながら、ゴードンが笑う。笑うしかない数だ。全く撃てども撃てども連中は減らない。


 出来れば神殿内に前進したかったが、俺達の前進は、入り口付近に少し進んだだけで止まった。奴らが逆に次々と溢れ出てくる。


 現状は奴らに阻止弾幕を張るのがやっと…………また元の地点に後退する羽目になりそうだ。


「畜生!このままじゃこっちがじり貧だ。」


 ローウェルが吐き捨てる。全く同意見。指揮官として俺は何とかする為の方策を立てねばならない。


「戦闘支援ポッドを出そう!ケン」


ウォーレンが両手でパルスマシンガンを乱射しながら叫ぶ。


 あいつだけ装備がプラズマライフルではなく、それよりも連射速度の速いパルスマシンガンだ。その分プラズマライフルより威力が低いが。


「ああっ、賛成だ。……温存したかったが。」


 戦闘支援ポッドは、群れを薙ぎ払うのに有効だが、おいそれと使えない。後の事を考えると温存したいが、そうも言っていられない。


「……今使うのか?一度使うと再補給まで時間が……」


「今使わなきゃいつ使うんだ?!やられちまう!」


プラズマライフルを連射しながらローウェルが叫ぶ。俺も奴と同意見だ。


「支援ポッドと支援攻撃で入口を綺麗にする。」


 指揮官として俺は、決断した。


「ジェニファー!頼む。神殿の入口に砲弾をありったけ撃ち込んでくれ」


「分かった!」


 戦闘支援ポッドによる支援要請を出せるのは、各小隊の指揮官のみ………つまり、俺とジェニファーの2人だけだ。



「支援要請!前方の敵集団を殲滅せよ。」



<命令を受諾。これより航空支援を開始します。>


 B小隊指揮官である俺の命令が伝わると同時に機械音声が聞こえてくる。


 女性的なその声は、本物の女性の声帯から発せられたのだと勘違いしそうだった。数秒後、俺達の背後の空を1m程の大きさの白い球体が複数飛来した。黄灰色の空にその姿はやけに目立つ。


 今の俺達には、その白い球が何よりも頼もしい希望だった。

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