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第14話

今年最後の更新です。


「くるぞ!」


 あいつらの群れが海底山脈の真上に殺到してきたのは、<クストーⅢ>からのジェフ隊長からの通信とほぼ同時だった。


「きやがった!巨人イカの群れだ!」


「……!」


 ソナーが拾った海水をかき乱す轟音と共に俺達の隠れている海底山脈の真上の海中を白くてでかい奴らが突き抜けていく。時々不気味に青白く光るのが見える。


「相変わらずふざけたデカさだ。」


 チャンがそう吐き捨てた。モニターの映像は奴らの群れで真っ白になってる。下手な小型貨物船サイズのイカが群れを作っているんだから当たり前とはいえすさまじい。


巨人イカこと正式名称 ティタノセピア……こんな無脊椎動物が、地球の生態系とは、まったく別の生態系とはいえ、現実に存在してること自体が物理法則や生物学への冒涜行為なのではないかと思えてくる。


 胴体の俺達が脳と便宜上呼んでる部分と中枢神経系の継ぎ目を、電磁パイルバンカーで一撃したら死んでくれるのが俺達にとっての救いか。


「……(尤も、簡単には、そうさせてくれないんだけどな。あのイカ共も)」


 巨人イカの群れは、宇宙艦隊さながらの密集体形で海中を進んでいた。これはスロースシャーク等の天敵に対抗する為に奴らが遂げた進化だ。


更に厄介なことにあいつらの触手の動きは、海中だと馬鹿にならない程早いときている。

油断すると、海底に引き摺り込まれて圧壊させられることだってある。


前の戦争で、宇宙戦闘機に乗ってた頃相手にしたルガルバンダ軍の艦艇や対空砲火や迎撃機よりはマシな相手だと思っても、油断はできない。


「チャン、そういうな……俺達にとっては、大事な獲物だぜ。今日も有り難く仕留めてやろうや」


 ビリーの笑い声が通信回線に乗って流れる。あいつは何時も楽観的だ。皮肉抜きで、俺もああなりたいもんだと思う。


「ケン、前の戦争での腕前を見せる時だぜ!」


「はは、イカと敵艦は違うぞ。ビリー何度も言っただろう。」


 巨人イカ共は、アスタルテ級ラムシップの艦隊……敵艦や造船所に体当たりするために作られた船。にサイズと形が似てるが、それだけだ。


そして、このディープランサーは、あの頃に乗ってた宇宙戦闘機とは深海魚とハクトウワシ程も違うメカだ。その事を俺はこの海に潜って何度も実感させられている。



 ティタノセピアの群れは、白い濁流の様だった。奴らは俺達の存在に気付く事なく、巨体を泳がせて通過していく。間もなく俺達が狙うべき最後尾の集団が現れる。


 この猟では、移動中の群れを全て狩るのは、俺達だけでは無理だ。手が足りない。最低でも10の収穫隊が参加しないと、移動中のティタノセピアを全部仕留めるのに装備も数もたりない。。


「……(仮にそんなことが出来ても、採取船が足りないから、釣果の大半を無駄にするだろうが……)」



 だから最後尾の集団だけを狙う。ソニック爆雷で混乱させてから電磁パイルバンカーで仕留めていく。



「予定通り、最後尾集団にソニック爆雷を打つ。2番艇から5号艇準備はいいか?ジェリコー、ロザリアの代わりは任せたぞ」


 1号艇のエミリオの通信……今回は3号艇のロザリアがいないから、5号艇のジェリコーが代わりのポジションを担当する。


「了解!」


「ソニック爆雷発射……!」


 数秒後、最後尾集団が俺達の乗るディープランサーが潜む海底山脈の上を通った。少なくとも50体はいる。エミリオたちの機体から、小さな物体が分離して海中を突き進んでいった。


 俺が引き金を引くと同時に、俺の2番艇からも勢いよく2発飛び出す。


卵形の魚雷にも、出来損ないのオタマジャクシにも似たそれは、ソニック爆雷。海のある惑星の地表防衛軍が使う爆雷の殆どと同じで、こいつも〝泳げる〟。機雷のようにAIのサポートで仕掛けることもできる優れものだ。


エミリオ達の乗るディープランサーから発射された10発のソニック爆雷は、後部のバッテリー式ハイドロジェット推進器と側面の4基のフィン(ひれ)を器用に使って、ティタノセピアの最後尾集団に突進していく。


「いけっ!」


 イカ共は気づいていない。たとえ気付いてても奴らに出来ることはなにもないんだが。

予定通り、ティタノセピアの最後尾集団の中に突入したソニック爆雷は、奴らの群れの中で炸裂した。


 

 超音波と閃光が、巨人イカ共のあまりよくない視覚器官と鋭敏な聴覚器官を制圧した。混乱した奴らの集団は、12本の触手をやみくもに振り回したりしている。


 真上の海中には、ソニック爆雷の炸裂で動きを止めたティタノセピアの白い巨体が無数に浮いていた。


「いくぞ。皆、奴らの目と耳は潰した。調理キットにぶち込んだ魚介類(俎板の鯉の様なこと)と同じだ。電磁パイルバンカーを脳天にぶち込んでから、触手を頂く!」


「おう!」


「了解!!」


「ケン!」


 俺とビリーの潜伏している前にも、ティタノセピアが沈んできた。12本の触手をでたらめに振り回している。目と耳が潰されてパニック状態なのだと一目で知れた。


「俺が触手を切り落とす!お前は、電磁パイルを脳天にぶち込んでくれ。」


「分かったケン!」


 俺は、ディープランサーを突進させる。触手の一本をマニピュレーターに握った高周波ブレードで叩ききる。高速振動する金属のブレードは深海生物のエネルギーパイプの様な太い触手をたやすく切断した。


 マニピュレーターを振るって、更に2本、3本と切り落とす。4本目、その次に5本目を根元から……というところでティタノセピアの巨体と残りの触手が痙攣した。


「こいつは仕留めたぜ!ケン」


 ビリーがやってくれた。このティタノセピアの眉間には、電磁パイルバンカーが脳と神経束を焼き切った。もうこいつは死んだも同然。


「ケン!次はどうする?俺らの近くにまだ誰もやってないのが4体いるぜ……!」


 サブモニターの1つからの情報では、まだ無事で、浮いてるのが4体近くにいる。触手を振り回してるのもいれば、死んだように浮いてるだけのもいる。


「一番右の奴をやろう。あいつが一番鈍い。とっとと片付けよう」


「分かったぜ。ケン。」


 水死体のように浮いてるそいつに接近し、ビリーと共同作業で12本の触手を切断する。パイルバンカーを胴体に撃ち込まずに済んだ。2分と掛からず、胴体だけになった巨人イカの生白い胴体が沈んでいった。


 黒い眼玉が恨めし気に俺らを睨んでいるように見えるが気のせいだ。ソニック爆雷で使い物にならなくなってるだろうから。


 この調子で……!



「今日は他の収穫隊の横槍はない!俺達だけで海中に浮いてるイカを全部やるぞ。」


 1号艇のエミリオは、既にウォーレンとエリクソンと、共同で10体を解体している。ローウェルは相変わらず、危ない動きで目立つ。見ていてひやひやする。


 ローウェルのディープランサーは、派手な動きで、まだ比較的ソニック爆雷の衝撃が効いていないイカを狙っていた。



「ロザリアがいない分、大変だが頑張るぞ。ケン!」


「チャン、同感だ!」


「他の奴と触手を絡ませてるやつがいる!誰か手伝ってくれ!1人じゃ手に余る。」


 ハリドから通信が入った。奴が転送した映像には、触手を絡ませてのたうちまわる5体のイカがいる。おそらくパニクってお隣さんと触手を絡ませた運の悪い馬鹿がいたのだろう。


「馬鹿な奴だ。」


 チャンが吐き捨てる様に言う。


「その馬鹿のお陰で、俺達は助かる……ってもんだろ」


「そうだな、ビリー」



 俺達は、触手を絡ませて行動不能の5体に接近する。触手を絡ませて浮いてるそいつらは1つの塊の様だった。それぞれの触手を切り取って、無力化していく必要がある。


「さぁて、ケン、どのイカからばらばらにしてやるんだ?」


 ハリドが言う。


「俺が右で触手振り回してるイキのいい奴をやる。ビリーは、動きの鈍い奴、真ん中の奴は、チャンとハリドで頼む。安全の確保のために別々の方向から突撃してくれ。やばくなったらソニック爆雷追加使用で行こう!」


「わかった!」


「ケンの作戦に賛成するよ」


「ハリド、俺が触手を切り払う。」


 俺達は、それぞれの方向から5体の触手を絡み合わせたイカに向かってディープランサーを突撃させた。



15話は明日更新します。来年は第4章にいきます

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