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第13話

「音響センサーに反応あり。皆、音響センサーに異常はないな」


「モニターにも見えてきた。相変わらず、すごい数だ。」


「こっちもモニターで確認している。ソナーは奴らの音楽で一杯だぜ」


 正面モニターには、こっちに向かってくる大きな白い塊が映し出されている。群れを作ってる白い塊は、無数のヒレの様な細長いもの……触手を振り回していた。相変わらず凄いサイズだ。ちょっとした貨物船位はあるかもしれない。


 しかもその白い塊は、薄緑色に点滅して見えた。巨人イカの群れ……新しい海底の住処を探して移動中の奴ら。2時間半以上、俺らはあいつらをこの海の底で待ち伏せしてきた。いよいよ、あいつらを狩れる。


音響センサーには、触手を振り回して、口から水を吐き出しながら、我が物顔で進む奴らの轟音が鳴りっぱなしになってる。補助AIのマックスがトリミングしてても耳障りな音だ。俺ら以外の生命体……この<ニュー・ネレウス>の大洋に生息してる海洋生物で聴覚器官が備わっているのは、大体この音を聞いたことがあるんじゃないだろうか。


「目立つ音を出してやがる……〝天敵〟が襲ってくるとか、奴らは考えないのか?」


「ふん!あいつら馬鹿なんだろう。今に始まったことじゃないさ」


 チャンが怪訝そうに言った。ウィルソンが鼻を鳴らして馬鹿にする。


「今の今まで、あいつらには、天敵がいなかったからな。仕方ないさ」


この惑星では、殆どティタノセピアの天敵は、数百万年の間(現時点の化石記録では、巨人イカことティタノセピアがニュー・ネレウスに現れたのは、約1000万年前。)、いなかったんだから警戒する必要がないんだろう……今は、6000光年の彼方から、奴らにとって、恐ろしい天敵が現れてるわけだが。


「相変わらず、煩い連中だな。お陰でやりやすくなる。」


「選り取り見取りってことだろ!」


「お前ら、予定通りのフォーメーションB-2でやれ。リスクより堅実さだと上は望んでる。」


 ジェフ隊長の指示がコックピットに響く……フォーメーションB-2というのは、待ち伏せの時の戦法の2番目を意味する。やり方は、海底地形に潜伏して、奴らが上を通過しているときに下から一気に襲い掛かる。まずは、ソニック爆雷を使う。


 ソニック爆雷を炸裂させて、奴らが耳を潰されて混乱している所を全員で襲い掛かる。1体ずつ、電磁パイルバンカーで仕留める。あいつらに連携されると厄介な事になる。それを防ぐためでもある。


 これは、この巨人イカ釣りをやる様になって、何度もやっているやり方だ。戦争で、敵軍の通信ネットワークを破壊してから攻撃する戦法の応用版。



「了解です。ジェフ隊長。」


「巨人イカの奴ら、俺らが潜んでるのも気付いてないだろうな。」


 ジャックが自信たっぷりに言った。巨人イカを狩る為に改造された、深海作業艇 ディープランサーは、奴らの感覚器官に見つからない様に耐圧殻に特殊塗料が塗られている。


「油断するなよ。連中は、鼻が利く。前に別の隊が待ち伏せに気付かれたことがある。」


「」


「ケン、何匹か大物がいるぜ。声までデカいときてる」


「ああ、こいつはデカいな。右の奴の触手は高くなりそうだ。」


 ビリーから送られてきた画像には、巨人イカの群れの中の「大物」が映し出されている。

どれもかなりデカい、それに触手が長くて太い。音響センサーが取り込んだ音を、マックスが分析してくれたから分かる。どれ位太くて、長い触手を振り回して進んでいるのかが。丁度、人間の声の大きさで、そいつの身長や顔立ち、性別、健康状態まで分析できちまう様に……。


 この狩りは、ボディよりも触手のサイズの方が重要だったりする。だからって、ボディが無価値という事は無いんだが。


 デカい奴を仕留めたら、その分貰える報酬も増えるってもんだ。触手の長くて太い奴なら尚更。


「ケン、ハリド、他の奴らも私語に熱中しすぎて、獲物を取り逃がすなよ!」


 ジェフ隊長が釘を刺してきた。深海で待つのは暇で仕方ない。必然的に隣の奴とお喋りして話を潰すという事になる。


「了解。」


「了解っ!」


「俺はそんなへましませんよ!ジェフ隊長」


「ローウェル、あまり先走るなよ!」


 エミリオが、ローウェルの奴に釘を刺した。あいつは一度、先走りしたことがあった。危うく待ち伏せがぶち壊しになるところだった。待ち伏せに気付かれたら、巨人イカどもは、群れで固まって触手を振り回して防御してくる。


 そうなると、厄介なことになる。巨人イカどもが形成した触手の密集陣形を突破して、1体、1体仕留めていかなくちゃならない。下手すると、ディープランサーの高機動力、ソニック爆雷や攪乱用の薬剤による攪乱も最悪、役に立たなくなることだってある。


 俺が待ち伏せが苦手なのは、そういった面もあったりする。海溝にいる連中をいぶりだすのとは難易度が違ってくる。宇宙戦闘機に乗ってた時も、護衛船団よりも、単独の輸送艦の方が狙いやすかった。


「見えてきたぞ!」


「……!(ようやく来やがった!イカの奴ら……!)」



 これで、退屈ともおさらば……危険で興奮に満ち溢れた、釣りの時間だ。異星由来のデカいイカもどきの触手とダンスを踊る時間だ。触手をかいくぐるか、切断するかして、奴らの眉間に電磁パイルバンカーを撃ち込む。


仕留めた後は、何時もの様に触手をブレードで切り落としていく。それだけだ。

俺達が今か今かと海底にディープランサーの機体をへばりつかせる間も奴らはこっちに近付いてきているのが分かる。



 ディープランサーの音響センサーが捕えた音と、モニターに映る薄緑の燐光を放つ白い塊は、どんどんと大きくなっていく。


「こい、来い。柔らかい腹を見せろ……!」



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