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第1話

これは、私のなろうにおける初めての非エロ作品です。



母なる地球から遥か離れた惑星に浮かぶ人工島の一室で、俺 ケン・ガードナーは、意識を覚醒させた。


<現在、ニュー・ネレウス時間7時30分。朝ですよ!>


目覚ましメッセージの機械音声が、目覚めたばかりの俺の頭に鳴り響く。俺はよろける様にベッドから起き上がる。



「ふうっ、朝か。シャワーを浴びて歯磨きをしないとな。後朝食も」


俺は、パジャマと下着を脱ぎ捨てて浴室に行く。その前に冷蔵庫から合成食品のハンバーグ弁当を取り出して食品ケースの自動温めボタンを押すのも忘れない。



シャワーの蛇口を捻ると同時に熱湯の雨が俺の体に降り注ぐ。仕事前にシャワーは欠かせない。


数分後、全身を磨き終えた俺は、浴室を出る。替えの下着を履いた後、テーブルの上に置いた合成食品を開封する。入浴前に食品ケースの自動温め機能を作動させているから、中身は既に熱くなっている。


可変生分解性プラスチックのナイフとフォークで切り分けて食べる。ジェシー&アレックの合成食品のハンバーグ弁当は、本物の牛肉並みに美味い。同封されているポテトフライとグリーンピースも中々だ。


食事を終えた俺は、制服に着替え、靴を履いて玄関に向かう。


「さて、仕事と行くか!」


今日も一日何事もなく過ぎること………獲物の触手で絡め取られることも、海底に激突することも、異星の海を漂流することもない様に祈りながら、俺は、右手でドアノブを握り、一気に力を込めた。




地球統一暦 565年 人類が、恒星間航行技術ワープドライブが獲得して500年が経過した時代。

人類は、450年前に発足された統一政府 銀河連邦の元に統一されていた。1000億の人口は、地球はおろか太陽系だけでも維持することが出来ず、各星系に移住していった。今や人類は、600もの恒星系とそこに属する惑星群に入植し、文明を築いている。


人間の生活は、地球だけを生存圏としていた時代とは、石器時代と産業革命時代位は、激変しているが、人類史において変わらないものがある。中央と辺境の存在もその1つだ。


太陽系の火星や木星 グリーゼやプロキシマ・ケンタウリ方面等初期に開拓された惑星や200年前の第1次開拓期に開拓されたイデア星系やヴィクトリア等の星系や惑星が大発展した都市だとするならば、開拓されて50年も経っていない惑星や未探査の宙域に隣接する惑星やコロニーは、開拓されて間もない農村部や鉱山といった辺境だと定義できるだろう。


その中でも地球から6000光年離れた海洋惑星 ニュー・ネレウスは、辺境中の辺境だと言える。150年前に発見され、300年前の第1次開拓時代に建設された海洋惑星 ネレウスに因んで名付けられたこの惑星の最大の特徴は、陸地が殆どないということである。

地球の1.5倍の大きさのニュー・ネレウスには、陸地が地表の5%しかなかった。後の95%は、全て海。その底は、最大で地球のマリアナ海溝よりも深い。


地球人類がニュー・ネレウスの地表に住み始めたのは、約95年前。

30年前からこの惑星は、銀河連邦政府と関わりの深い企業 ダゴン・マリンマイナー社が管理している。地表の9割以上を占める海には、海中・海底資源開発用の海洋都市が50基建設されている。その内、南半球の海域に存在する<クストーⅢ>は、人口200万、全長30km、全高3kmの最大の海洋都市である。


この六角形のメガフロートは、一応銀河連邦政府の自治体の1つだが、実質的には、ダゴン・マリンマイナー社が管理している。


<クストーⅢ>とその周辺海域、正確には深海底 約12000mの底………それがこの俺 ケン・ガードナーの職場だ。


俺がダゴン・マリンマイナー社に入社したのは、2年前、あの戦争が終わって1年後、軍を辞めて2か月後の事だ。あの時は、こんなに危険で刺激的で飽きない仕事だとは、思ってもみなかった。


書いてあった仕事の内容は、辺境の海洋惑星の深海底での資源採取。パワードスーツ、小型宇宙艇の操縦経験者求む。ってだけ。普通に考えたら海底に転がってる鉱物資源の採掘だと考えるのが普通だ。


実際は、それとは違う資源を採取することになったわけだが。


俺が配置されたのは、深海底の生体資源採取部門 通称 巨人イカ釣り。ニュー・ネレウスで最も危険な部署だ。


俺は、これから自室から出て、第15発進口がある第8番桟橋に向かっている所だ。徒歩と海上都市に張り巡らされているリニアトレインで移動すること10分で到着する。


この海上都市の内装は、都市というよりも宇宙船や浮きドック(ここでの浮きドックとは、宇宙船用の自立航行可能な宇宙ステーションを指す)に近い。通路も銀色の壁に覆われている。


宿舎を出て、連絡路を通り、リニアトレインの待合所についた。待合所には、俺と同じ海での資源採取に関わる連中が列を成している。俺の目の前には、巨大な透明のチューブがある。中身は、今は空だ。そのチューブは、リニアトレインにとってのレールの様な物だ。

真空のチューブの中をリニアトレインが高速移動する。


「……8番行きが来るのは2分後か。」


ホログラムの時刻表には、そう書いてある。何らかのアクシデントがない限りは、きっちり2分後に来る。リニアトレインを統括している管理AIは、ダイヤの乱れ等滅多に起こさない。


「よう!ケン眠れたか!」


背後から俺を呼ぶ声がした。その声の主は、俺のよく知る人物だ。俺は、振り返る。俺の後ろには、亜麻色の髪に浅黒い肌の大男が立っている。


初対面の人が驚くのは左頬の傷だろう。一生のうちで1000回も外見を変える奴がいる時代で、傷をそのままにしておく人間は、地球のどんな絶滅危惧種よりも珍しい。


奴の名前は、ビリー・ハンプトン。俺と同じ巨人イカ釣り配属だ。元銀河連邦海兵隊の所属で、前の戦争では、5つの惑星の海に潜った事がある。


「……ビリーか。まぁまぁだ。あんたこそ、昨日は、夜遅くまで飲んでいた様だが大丈夫なのか?」


俺は、奴が昨日酔っぱらっていたのを覚えていた。アルコールで脳髄を侵されている人間に深海作業用の重機を引き渡すのは、危険極まりない。


「ん?そのことなら安心しな!これがあるからな。」


ビリーは、笑みを浮かべてポケットから小瓶を取り出し、俺に見せた。


それは、バッコス19と呼ばれる経口摂取型医療用ナノマシンの一種。摂取した人間の体内でアルコールを無害化し、酔わない身体にさせる。酒は好きだが、酒にそれほど強くない人間にとっては、不可欠な薬だ。


「……ビリー、流石準備を怠らないだけあるな。」


「だろう!」


ビリーは、笑顔を返してくる。


「だが、医療用ナノマシンに頼りすぎるのは、どうかと思うぜ。」


俺は、前の職場……要するに軍隊にいた時、医療用ナノマシンを複数服用して酷い目に遭っていた。


「今回一回だけだよ!」


「……ならいいが。」


この男の性格的に明日も同じことを言ってそうだ。ビリーの朗らかな笑みを見やり俺はそんなことを思った。明るい性格で誰とでも直ぐに意気投合する、いいやつだと思うのだが、こういう所は玉に瑕だと思う。



「今日の〝狩り〟は何処だろうな?ケン」


「デビルズクレバスの辺りじゃないか?あの辺りに巨人イカ共の餌場があると推定されていると探査課のエミィから聞いた」


「デビルズクレバスか、あの辺は、俺達が泳ぎ回るには、十分な広さがあるな。今日も、海の底で〝奴〟を狩るのかと思うとワクワクするなぁ!」


ビリーは、この仕事を奴なりに楽しんでいる……俺と違って。


「ああ」


話している間にリニアトレインがホームに到着した。チューブと車体の自動ドアが開き、乗客の何人かが下りていく。


俺とビリーは、その銀色の車体に乗り込んだ。車内は難民船さながらに混雑していた。



待合所にいた連中の何割かがリニアトレインに乗り込んだ後、チューブとリニアトレインの自動ドアが閉まり、リニアトレインは、物凄い速さで真空のチューブを加速していった。


強化ガラスの窓の向こう側では、景色が、並ぶ人々や売店が歪み、ゴムの様に伸び千切れていくのが見える。


人間の視力が追い付かない位の加速が掛かっているという証拠だ。元宇宙戦闘機のパイロットだろうと、平均的な視力の人間だろうとそれは変わらない。


肉眼にプラスαしてる奴ら、例えば視力強化ナノマシンを投与しているとか網膜に薄型コンピュータレンズを張り付けた奴なら別だが。景色は銀色の線一色に変わった。


リニアトレインは、<クストーⅢ>で一番早い交通手段だ。第15発進口のある桟橋まで5分と掛からず到着出来る。


数分後、リニアトレインは、目的地に到着した。俺とビリーを含む乗客の半数以上がここで降車した。先程と同じ様にチューブの中の銀色の大蛇は、新たな乗客を乗せて次の目的地へと加速していった。俺はそれを一瞥すらせず、仕事場へと向かう。ビリーも同様だ。


仕事場へと近付くにつれ、強烈な潮の香りが漂ってきた。その香りは、通路の壁に染み付いている。それは、通路の先が外へと、海に繋がっているという証だ。


そもそも地表の9割以上が海に覆われた海洋惑星であるニュー・ネレウスでは、潮の香りは、機械の放つ金属臭や土の匂いよりも自然な匂いだといえる。


俺達ニュー・ネレウスで働く人間にとってそれは嗅ぎ慣れた匂いだ。俺の場合は、慣れるのに1週間掛かってしまったが。


俺とビリーは、通路の先にあるドアの前に立つ。他にも同僚が立っている。鈍色のドアのセンサーが俺達の網膜をスキャンし、鋼鉄のドアが開く。


「お前ら!これから仕事場だぞ!」


「おう!」


ビリーの大声に後ろにいた数名の同僚達が吠える。何時もの風景だ。俺達は、ドアの向こうへと歩いて行った。



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