"元"天才勇者、旅に出る。
「今まで、ありがとうございました」
フィウスの記憶が戻ってから3年間。
セルティアとしては15年間。
ずっと世話になってきた集落に、深々と頭を下げる。
「さ、行くぞ、ウィアレル」
「はいっ!ティさん!」
ウィアレルが楽しそうに返事をする。
俺は自然に、頬が緩んでいくのを感じた。
「......で、この先行こうと思ってたところはあるのか?」
「うーん、今までモンスターたちに結構圧されてたから、装備をとにかく新しくしたくてあの集落へ行っただけだから、明確な次の行先は何も......」
そういう事か。ウィアレルの酷い剣筋では、装備がしっかりしていないと辛いモンスターも多くいるからな。
それにしても、ここの周辺に湧くモンスターはそこまで強くもない。
こんなモンスターに圧されるのか?俺相手には接戦ができたのに?
「そうか。じゃあまずはフレイムハイ城下町だな」
「フレイムハイ城下町?」
「ああ。あそこに見える音叉山を越えた先にある城下町だ。定期的に武闘大会が開かれていて、戦いを極める奴にはうってつけだ」
「武闘大会ですか!それを見学して、戦術を学ぶってことですね!」
「なわけあるか。参加するんだ」
「...........えぇええ!?!?むむむ、無理ですよ!!俺、まだ旅立ったばかりだし!!」
「武闘大会には5段階でランクがあるから問題ない。それに、道中のモンスターを全て真剣に倒していれば、問題なく突破出来るレベルだ」
フレイムハイには、フィウスの時も何度も訪れた。
というか、招かれた。
トップランクの大会の優勝者が俺への挑戦権を得ることが出来るという趣旨の大会だ。
結局、俺の全戦全勝だったが。
山に篭もって以来は一切行くことが無かったので、まだ武闘大会が残っていて嬉しかったりする。
「音叉山は、ここよりは敵が強くなる。それまでの道中で、しっかり体を慣れさせておくことだな。......ソウルもだぞ」
「はっ、はい!」
鼬族のソウルは、脳筋アタッカーだ。
対して狐族のグレイは回復役。パーティに於いては重要な役割だ。ただ、2匹とも種族値自体が低いモンスター。どこまで踏ん張れるかがキーポイントだ。
「......ほら、早速モンスターのお出ましだ」
「えっ!?」
飛び出してきたのは、液状形のモンスター。防御も攻撃力も低いが、攻撃を当てるのには一苦労する、という、今のウィアレルにはぴったりの相手だ。
「ああ、こいつなら大丈夫か」
「......え?」
ウィアレルが、ふいに肩の力を抜く。
構えていた剣を、下ろしかけている。
な、何をしているんだこいつは。こんなんじゃ隙を突かれて......
......そういうことか。
「なあウィアレル」
「はい?......って、何してるんですかティさん!!」
「まあ見てろ」
俺は近場にあった小枝を拾い上げ、液状モンスターに投げつけた。
モンスターはその小枝を興味深そうに見つめると、一瞬にしてその小枝を自らの体で包み込んだ。
液状モンスターは透明な体を持つ。小枝の惨状は、肉眼でも見ることが出来る。
小枝はモンスターから出る体液でどろどろに溶かされ、見る影もなくその形を失っていく。
「液状モンスターを侮るな。放っておくと、体液中にある微量の毒で溶かされるぞ。お前も、そうなりたいのか?」
「なっ、なりたくないっ」
「だったら、一瞬たりとも気を抜くんじゃない!モンスターは、危険な存在なんだぞ!!」
俺の声に、ビクリとウィアレルが体を震わせる。
「......わ、分かりました」
ウィアレルは再び剣を構える。ソウルもウィアレルの肩から飛び降り、臨戦体制だ。
対する液状モンスターは、小枝を投げられたことに怒りを顕にし、俺とウィアレルを睨んでいる。
__最高のシチュエーションだ。
「いくよ、ソウル!......はあッ!!」
大きく剣を振りかぶる。液状モンスターはそれをするりと避けると、ウィアレルに向かって微量の体液を飛ばした。ウィアレルはそれを横に跳んで避けるも......
「...........っ、ソウル、左に跳べ!」
俺の指示に、ソウルが咄嗟に左に身を引く。ソウルがいた場所には、液状モンスターの体液が付着しており、その部分の草が焼け爛れていた。
「近接アタッカー同士が縦に並ぶんじゃない!!近接で戦うタイプの奴は、横列になれ!!でないと今みたいなことになるぞ!!」
「は、はい!!」
まったく、危なっかしい。
ウィアレルとソウルが横列に並ぶも、今度は......
「近すぎるだろ!!横からの攻撃を見越すには、もっと距離をとらないと駄目だ!!」
「はいっ、」
予想以上の出来栄えだった。
これ、本当に俺の子孫か?
充分に距離をとった2人が横に並んで攻めてきたことで、液状モンスターも困惑した表情を浮かべる。
「......今だ!!決めろ!!」
「はい!ソウル、行くよ!"Thunder Sword"!!」
あっこいつ。
俺が魔法名省略しろって言ったの忘れてやがる。
ウィアレルの手から溢れ出した魔力が、魔剣に供給される。魔剣は魔力の変換効率が大変優れている為、ものすごい威力の雷撃を纏った魔剣が完成される。
その魔剣を、ウィアレルは力一杯__振った。
無論、モンスターは跡形もなく消えさった。
「......勝ちました!」
ウィアレルはそう、自慢げに俺の方を見る。
はぁ。全くこいつは。
「反省点しかないな」
「ええっ!?なんで!!」
ほんとに、てんで駄目な勇者様らしい。
To Be Continued!!