"元"天才勇者、旅立ちの挨拶をする。
新たな鎧を身に纏ったウィアレルは、ちょっと勇者らしさが増した。
青は、ウィアレルに良く似合う。
走るとマントがはためくのも、実に剣士の冒険者らしい。
それに比べて、俺はマジで陰キャの代表とも言えるくらーーーーーーい色のローブだ。このローブは、見た目こそ魔力が篭っていそうだが、実際は何の付与もなく、ただ頑丈なだけだ。そんなローブを足が殆ど見えないくらいの長さで着ており、ブルーハットまで被っているのだから人相は最悪だ。
勇者と、呪術師みたいな2人。周りからみたら、俺が不審者扱いされそうだ。
だが、ウィアレルはそんな俺の心配を覆すように、
「ねえねえティさんティさん!」
と話しかけてくる。
また呼び名が変わった。セルティアさんからティア師匠、ティ師匠ときて、遂にティさんときた。
「人の名前を短くしすぎだ」
「いーじゃん、呼びやすいんだし!で、ティさん、今度はどこいくんですかー?」
大分、口調が砕けてきた。
これがウィアレルの本来の姿なのだろう。
「ちょっと、領主様のところにな」
「領主様?この集落の、ですか?」
「そうだ。もうこの集落には戻ってこないであろうから、一応挨拶くらいしておかないとな」
旅に出る者は、領主様のところへ報告へ行かなくてはならない、という掟がある。
この海と光の集落は、昨年、前領主様の七海 忠様が病でお亡くなりになり、今はその息子である七海 光様がその座を継いでいる。光様も気の毒なことだ。領主とはいえ7歳で父君を亡くし、代わりにその座に就いているのだから。
8歳の領主様なんて、色々問題があるんじゃないかって?
大丈夫、光様はとても、なんていうか、次元が違う御方だ。
「セルアス・ティーア・レンシア。領主様にお目通りを願いたい」
「セルアス・ティーア・レンシアだな。ちょっと待っていろ」
衛兵は軽く頭を下げ、その場を立ち去った。
「ねえティさん、これ俺居てもいいの?ここの人間じゃないのに......」
「問題ない、光様は心の広すぎる御方だ」
「広すぎる?」
「レンシア、付いてこい」
そんなことを話していたら、許可が取れたらしい。衛兵に連れられ、領主様の家の中へ足を踏み入れる。
もともと貧乏な集落だ、領主様の家と言っても、城のように豪華なわけでもなく、ひろーいわけでもなく、ただ普通の古民家だ。
「こちらに領主様がいらっしゃる」
「分かった。ありがとう」
衛兵は軽く一礼して、その場を立ち去った。
そして、俺は扉を軽くノックする。正式なノックは4回だ。2回ノックはトイレノック。面接でやったら即落ちだ。
「入りなさい」
「失礼致します」
声変わりもしていない高い声。
その堂々たる声色は、何度も練習したのであろう。
領主様の前で、跪く。ウィアレルも俺にならって、跪いた。
「セルアス・ティーア・レンシアです」
「ははっ、分かっています。顔を上げてください」
その声で、顔を上げる。
やはり、まだ幼い。領主の証である金色のマントは、彼にはまだ大きい。
「して、要件は?」
「この度、私セルティアは、勇者ウィア・アレンドール・グレンと共に、旅に出ることになりました。本日は、その挨拶に参りました」
「ほう、勇者様?」
領主様は、興味深そうにウィアレルを見つめる。
「はっ、はい!ウィア・アレンドール・グレンと申します!グレン家の長男として、モンスター討伐の為に旅に出ています!」
「ほう、アレンドールさん。本当に勇者様なんですね......美しい瞳をお持ちだ」
「あっ、ありがとうございます!先代勇者フィウスは、俺の曾祖母の兄に当たります!」
ほう、妹のひ孫か。
ということは、俺が転生してからまだそんなに時間は経っていないんだな。
「しかし、セルティアさんまで出ていってしまうのですね。寂しくなります」
「......申し訳ございません」
「いえいえ、責めているつもりはございません。あなたのお兄様たちが出ていって、もう2年になります。あなたが出ていきたくなるのも、無理はありません」
そう、俺には2人の兄がいる。
2人とも俺を置いて、冒険者として旅立っていった。
俺は魔法が使えなかったから、足でまといだと思われたのだろう。
「父上も、セルティアも、みんな去っていってしまいます。......実は、近頃僕も出ていこうと考えているのですよ」
「えっ、こ、光様も?」
「はい。この集落からは、どんどん人が出ていってしまいますから。......僕が強くならないと。モンスターが襲ってきた時に、僕一人で対処できるようになりたいのです。鈴風家へ1年間、修行に行くつもりです」
なんてしっかりしているんだ。
本当に、これで8歳なのか?
威厳と風格が違う。
「で、でも、そのあいだ、集落は?」
「妹たちにその為の指導をしています。幸い彼等は双子ですから、何かあっても2人で対処出来る筈です」
そうか。光様には2人の妹弟がいる。
七海家の3人は、名前がちょっと複雑だ。
まず、現領主の光様。その下が、双子の、光様と光様だ。
__全員漢字が一緒なのである!!!
因みに、彼等の母は双子の出生時に出血が止まらなくなり、そのままお亡くなりになった。もう彼等には、母も父もいない。そんな中で、気丈に頑張ろうとしている。
「そ、そうですか......」
「はい。でも......セルティアさんは、大丈夫なのですか?その、あれ、じゃないですか」
「あれ?...........ああ、平気ですよ。私の強さは、光様も知っておいででしょう?」
「......そうでした。僕が強くなったら、また戦わせてくださいね!」
「ぜひに」
領主様は、俺が魔法を使えないことを心配してくれたのだろう。
確かに、旅に出るにあたって、魔法が使えないと辛い場面が沢山ある。物理が通じないモンスターや、身動きが取れなくなった時などに、脳筋アタッカーは動けなくなるからな。
でも、こんな幼い領主様が頑張っているんだ、俺も負けていられるか。
__今後、彼の妹たちや、今後 彼が修行に行くという鈴風家の長男に、思わぬ形で再会することになろうとは、俺は、夢にも思わなかった。
To Be Continued!
キャラの姓名について。
セルティアの姓名を例に説明すると、
セルアス・ティーア・レンシア
1番最初にくるのは、その人の親の名前です。男の場合は父、女の場合は母の名前がつきます。
真ん中は、その人の名前。
最後が、苗字になります。
ただし、領主などの重要役職に就いている人や、外国の人々には、現日本人のような姓名がつきます。
次回、やっっと旅に出る。