"元"天才勇者、武器を選ぶ。
「俺の相棒は、こいつだ」
「これは......銃、?いや、剣?」
「剣銃だな。剣と銃が複合した武器だ。遠距離相手には銃、近距離の時には剣と使い分けることができる」
「なんだか素晴らしく使いにくそう......」
「魔法も付与出来ないし、扱いにくいことは確かだな。ただ、相手を撹乱させるのには充分だ。今回の旅のメイン火力はお前だからな、俺はサポート程度でいい」
「ああ、確かにそうですね......って、メイン火力!?」
ウィアレルが、驚きに目を見開く。
「むっ、無理ですよ!!俺、戦いそんな上手くないし、それに、集中出来ないし......」
「本当にそうか?」
「えっ?」
「本当にそうなのかどうかは、実践で確かめていこうじゃないか」
俺はそう言うと、適当に準備を整え始める。旅に出るには、それなりの準備は必要だ。と言っても、俺は一文無しだから、装備品や鞄の中身を確認するだけだが。
「......じゃ、ちゃちゃっとモンスター討伐すっか」
「コンビニ行くみたいなノリで言わないで下さいよ。......っていうか、店、閉めるんですね」
「どうせ儲かりもしなかった店だ、店番を頼んだところで何か変わるわけでもないだろ」
「あ、やっぱ売れてなかったんですね」
「やっぱとは何だ、やっぱとは」
武器屋の暖簾を下ろし、ピシャリと扉を閉める。
もう、この家に帰ってくることはないだろう。適当に家売って行くか。
「ちなみにだが、お前は今幾ら持っている?」
「そうですね、武器代が浮いたので......あと700Gくらいはあります」
「俺の家と足せば......それだけあれば充分だ、防具屋回るぞ。まずはその装備をなんとかしなくちゃな」
「ええ!?これ高かったのに!!」
「お前騙されてんだぞ、分かんねえのか?」
こいつ、とんだポンコツだった。
これだからお人好しの田舎者は困る。
と、いうことで。俺の家を見事に金に変え(運良く、すぐそばに高く買ってくれる人がいた。倉庫にでもするらしい)、その辺の防具屋を回ることにした。
と言っても、海と光の集落は小さな村だ。みんな顔見知りの為、どこが良い店かは大体把握している。
「らっしゃい!......って、セルティアのあんちゃんじゃねーか!ひっさしぶりだなあ!武器は売れたか?」
「売れるわけない。店自体なら売れた」
「そりゃいいや」
がっはっは、と豪快に笑うこのおっさんは、この地域一帯の防具屋の中でも、最も質が良くて手頃な値段で物を売る。おっさんの人柄もあって、地元民に最も愛される店だ。
「......で、そっちの兄ちゃんは?」
「あっ、はい!ウィアレルっていいます!この度、ティア師匠と一緒に旅することになりまして......」
「旅!そらぁめでてえ!ってことは、セルティアも遂にこの村出てくんだな。寂しくなるもんだなあ......」
「結構優秀な奴らは、こぞって冒険者になるもんな。領主様には申し訳ないことだ」
「安心しろ。俺はいつまでも、ここで武器屋やってるぜ」
「ってことは、いつかはこの店も客足が途絶えるってことだな」
「おいおい、冗談に聞こえねえからやめろって」
がっはっは、とまたおっさんは豪快に笑う。
「んで?何がいいんだ?」
「こいつに防具一式。それと、俺用のローブ1着」
「あいよ!剣士用の防具はそっちだ。んで、ローブはあっちな」
品揃え豊富な店だけあって、探すのも一苦労だ。
その分、厳選がしやすいので、優秀な冒険者もたまに遠方からわざわざやってきたりする。
「まずは鎧だな。革製のは確かに頑丈だが、銃弾や魔法に弱い。かと言って、金属の鎧は重く、俊敏には動けない。ウィアレルの場合、トリッキーな戦術を目指した方が良いだろうから......」
俺はそう言って1つの鎧を引っ張り出す。
「これだな」
「......ええええ!?幾らなんでも、高すぎませんか!?こんなの、扱いきれる気がしません......!!」
「いや、こんな高性能な鎧、安いくらいだ」
そう、この鎧は、この世界でトップ10に入るくらいには高性能な鎧だ。
人には魔法レベルがあり、そのレベルをあげるのにはモンスター討伐が1番手っ取り早い、と話しただろう。
モンスター討伐で手に入れられるエネルギーを、この鎧は極限まで引き上げることが出来る。無駄なく、素早くエネルギーを吸収することで、早くのレベルアップが可能になるのだ。
それだけじゃない。この鎧には素早さの付与がかけられていて、自らが素早さ魔法を唱えずとも、素早く動けることが出来る。つまりは、魔力の温存と時間の有効活用が出来るのだ。
頑丈なことで有名なピリアスの糸を何重にも何重にも織り込んである為、防御面もバッチリだ。
......実はこの鎧、前世の俺が開発した。
当時、とにかく魔法レベルを上げることだけに拘っていた時、ノリと思いつきだけで作ったものだが、自分で思った以上に上手くいったので、世界に普及したのだ。
この時代まで残っていて、少し嬉しかったりする。
自分で開発した武具なのだったら、もう1回自分で作ればいいんじゃないかって?
バカ言うな。俺の現魔力は0だ。常に魔法をかけ続けながら作らなければいけないこの鎧は、リズを使ったとしたって到底作りきれない。
そんなこんなで、兜、盾も俺が選別してやり、俺のローブも含めると、合計金額はなんと俺とウィアレルの全財産が吹き飛んだ。家まで金に注ぎ込んだのにも関わらず、だ。
それを見かねたおっさんが、「旅の祝だ」とか言って、半額で売ってくれた。
しかも、俺用の盾のオマケつきで。
「......ティア師匠って、赤毛だったんですね」
「え?」
「ほら!ずっとフード被ってたし、髪の色とか全然見えなかったので、まさか赤毛だったとは思わなかったんです」
「......舐めてるのか?」
「いえ!凄く、カッコいいです!ティア師匠、長髪似合いますね!!」
「切るのが面倒なだけだ」
「結ったら、もっとカッコよくなると思うけどなあ。ちょっと、結わせて下さいよ!」
「なっ......おい、何をする!」
ウィアレルは俺の背後に周り、俺の伸びきった赤毛に手を伸ばした。
人に触られることに慣れてない俺は、すぐに振り払おうとするも。
「動かないでください!ちょっとで終わりますから!」
「...........はぁ」
「......うん!こんな感じかな!やっぱり似合いますね!」
セルティアは、俺の髪を見て満足そうに笑った。
「大丈夫ですよ!黒いリボンで、下の方をちょっと結んだだけですから!ティ師匠、髪量少ないですから、なんか西洋の貴族みたいな感じがしますね」
ウィアレルはそう、嬉しそうに言う。
今まで、前世でも、俺の外見について触れてきた者はいなかった。自分の外見に触れてきた者はウィアレルが初めてで。
ちょっと新鮮で、嬉しかったのは内緒だ。
To Be Continued!