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最果ての主人公  作者: 錦乃 神矢
第1章 勇者ウィアレル育成計画
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"元"天才勇者、剣を打つ。

「あっ、じゃあ俺の仲間、かるーく紹介しちゃいますね!」

「連れがいたのか?」

「連れっていうか、モンスターなんですけど」


おいで、とウィアレルは虚空に向かって手を振る。

すると、ふと1箇所の時空が歪み、そこから2匹の獣が飛び出した。


「こっちのフォックス族の女の子がグレイ、フェレット族の男の子がソウルです!ほら、ご挨拶は?」


グレイとソウル、と呼ばれた2匹の獣は、互いに顔を見合わせると、俺に向かって小さく会釈した。


「そいつら、モンスターか?」

「はい。最初は俺に襲いかかってきたんですけど、俺が倒したら、妙に懐いちゃって。追い払うのも忍びなかったんで、一緒に旅してるんです」


なるほど。こいつには、魔物使いの素質もありそうだ。


「よく躾られてるな」

「そうでしょう?いい子なんですよ、2匹とも」


ね?とウィアレルは2匹に声をかける。2匹の獣は嬉しそうにウィアレルに駆け寄り、彼の体をよじ登って肩に落ち着いた。

どうやら、そこが2匹の定位置らしい。

なるほど、こいつがモンスターに好かれやすいのも分かる気がする。

だが......


「でも、折角仲間にするならこんな子狐とかじゃなくて、狼族とかのほうが使えるんじゃないか?」

「この子たちは別に戦闘に使うってわけじゃないです。ついてきたいって言ってる子を振り払うのは最低の行為ですし、別に強さは関係ないですよ」


少しムッとしたようにウィアレルは返す。

彼が連れている狐やフェレットは、ペットとして市場に出回ることなんかもあるほど温厚なモンスターだ。

2種類とも素早さ特化型の獣で、育てればマルチな戦闘には向く。ウィアレルには向いたモンスターなのは確かだ。しかし、相手が強くなれば強くなるほど、その火力の低さや魔力の弱さが祟り、不利になる相手が多くなる。

その点、俺の薦めた狼族は、強い攻撃力を持つ。防御こそ薄いものの、魔法展開によって素早さをあげ、回避することが得意だ。特に初心者冒険者には、いるだけで一安心なモンスターではある。


だが、こうして愛おしそうに2匹の獣を撫でているウィアレルには、余計なお世話だったのかもしれない。


「......いつの間にか、自分の周りがモンスターだらけになってるタイプだな」

「? なにか言いました?」

「いや、なんでもない」


グレイは無防備に欠伸をし、ソウルは自らの体を舐めていた。






「俺の連れも一応紹介しておこう......ほらリズ、起きろ」


俺にも、モンスターがいないことはない。

俺の服の胸ポケットの主、鼠族のリズだ。

鼠族は火力もなく、防御もペラッペラで戦闘にこそ向かない種族だが、とんでもなく魔力の量が多い。武器に魔法を込めて武器の精度をあげる為に飼い始めたが、こいつはちょっと訳ありで。


「......んだよまだ昼だよ......?あたしの完璧な睡眠、邪魔しないでくんない......?」

「え......聞き間違いだよね?......いや、俺の耳が悪いだけで......」

「ん?......なんだセルティア、随分面白そうなのと一緒にいんじゃん」

「......うわあああああ!?!??」


喋る。

人間の言葉を。

英語、仏語、日本語、中国語、韓国語をマスターした彼女は、モンスターとは思えない知能の高さを誇る。普通、モンスターは喋ることはおろか、人の言葉を理解するのも難しいとされている。そういう面では、ウィアレルのグレイとソウルは、彼の言葉で会釈したのだから、優秀な方だ。

そのくせ、生意気だし、図太すぎる。

さっきの戦い(ウィアレルの剣筋を見るという目的で行われたヤツ)中もずっと俺の胸ポケットにおり、潰されたり締め付けられたりしてもずーっとヤツは寝続けた。


「こいつがリズ。魔法の付与ならプロ級だが、性格にかなりの難あり。こいつに構う時には気をつけるんだな」

「説明が酷すぎるわ!!あたしリズね。言っとくけど、戦闘とかは一切しないから。あんた達があたしをちゃーんと守るのよ。分かった?」

「えー、えーっと、まず理解が追いつかないんだけど......?」


モンスターが喋るのは、ウィアレルにとってかなり衝撃的だったらしい。

まあ、慣れてもらうしかないな。強いモンスターとかは、普通にベラベラ喋るし。








ウィアレルの剣筋を確かめたついでに、弓や槍も軽くテストしてみた。

今まで扱ったことがないということで、少々習得まで時間はかかったものの、流石は俺の子孫、俺のアドバイスで人並み級には成長した。

弓や槍もなかなか筋はいいが、でもやっぱりこいつには剣だな。と、いうことで、こいつ用に魔剣を用意した。いわゆるオーダーメイドってやつだな。オーダーもクソもないけど。

初心者が扱いやすい、火力もまあまあ、魔力の乗りもまあまあなヤツだ。いきなり斬れ味の良すぎる剣を使ったところで、逆に自分がその剣に振り回されて、自らが怪我をすることだってある。


「リズ」

「はいはい。ったく、ほんっと人使いが荒いよね」

「お前は人じゃないだろう」

「うわー動物虐待だー」

「いいから早くしろ」


剣に魔力を流し込むのにもコツがいる。あまりにも高速に魔力を流し込んでしまうと、剣が耐えられなくなって破裂する。1話の前世の俺がやったヤツだな。アレは敢えてだけど。

反対に、遅すぎると、剣が魔法についての耐性を身につけてしまい、途中で変な風に劣化する。故に、速すぎず遅すぎず、微妙なラインで流さなくてはならないのだ。

これはもう慣れだ。何度も剣を作ってきたヤツじゃないと出来ない。前世の俺はできたが、なんせセルティアは魔力がない。リズにやってもらうしかないのだ。リズも徹っっ底的に俺が仕込んだ。魔武器を作る為、俺はしかーたなくそこそこ優秀なリズと一緒にいるわけだ。

リズが剣の柄の部分から魔法を流し込む。この時のリズは真剣だ。話しかけようものなら、徹底的に噛みつかれ、1ヶ月は人差し指が使えなくなる。

リズの小さな体から、魔力が溢れ出す。邪心のない魔力は、美しい。表現のしようもないが、7色に淡く輝きを放つ様子は、誰をも魅了する。魔法を使えなくなった俺からしたら、なおのことだ。

少しでも邪心のある魔力は、濁った灰色をしている。負のオーラのような感じだ。そいつが敵か味方かは、魔力の"色"によって分かってしまうのだ。

魔法が使えなくなった今も、俺は魔力の色だけは見分けることが出来た。色の見分けは、高度な技術だ。恐らく、ウィアレルには見えていない。


しばらくして、リズが剣から離れた。剣は魔力を帯び、光を受けて7色に輝いている。


「ん。成功したよ。なかなかいい出来なんじゃない?」

「ああ、かなり良い。ウィアレル、持ってみろ」

「い、いいんですか?」

「当たり前だろ。お前のための剣なんだ」


ウィアレルは恐る恐る、といった様子で、剣の柄に触れる。その瞬間、剣の方からシュッと動き、ウィアレルの手の中に収まった。


「うわっ、!」

「魔剣は初めてか?」

「は、はい。でも、なんだかすごい、持ちやすいし振りやすいです!」


どうやら、気に入ってくれたようだ。魔剣は、持ち主の魔力より含まれる魔力が大きければ、振りにくいし扱いが難しくなるからな。それを考えて、リズは魔力量を調節したのだろう。全く、こういう時だけ優秀なヤツだ。


「そうか。まだお前が弱いうちはこの剣くらいで十分だが、いつかはもっと高度な魔剣を扱うことになる」

「これの、もっと上があるんですか!?」

「もっともっとある。今まで魔法の含まれてない剣を使ってたヤツからすれば、この魔剣も相当使いやすいが、魔法レベルが上がれば、もっと繊細な魔剣も余裕で振り回すことができるようになる」

「そ、そうなんですね......でも、セルティアさんは、魔剣を持たないんですか?」


......痛いところを突かれてしまった。

実は、魔力の含まれた剣は、魔法レベルが低い人にとっては重量級に重く感じる。というか、持つことすらできない。俺の魔力レベルは1だ。ウィアレルに与えた剣も相当弱い魔法しか含まれていないが、俺はそれすら、重すぎて持てないだろう。




「......俺は、剣を使わない」

「え?」

「俺の相棒は、こいつだ」



俺は、現世ならではの武器を、ポケットから取り出した。











To Be Continued!


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