"元"天才勇者、剣を打つ。
「あっ、じゃあ俺の仲間、かるーく紹介しちゃいますね!」
「連れがいたのか?」
「連れっていうか、モンスターなんですけど」
おいで、とウィアレルは虚空に向かって手を振る。
すると、ふと1箇所の時空が歪み、そこから2匹の獣が飛び出した。
「こっちのフォックス族の女の子がグレイ、フェレット族の男の子がソウルです!ほら、ご挨拶は?」
グレイとソウル、と呼ばれた2匹の獣は、互いに顔を見合わせると、俺に向かって小さく会釈した。
「そいつら、モンスターか?」
「はい。最初は俺に襲いかかってきたんですけど、俺が倒したら、妙に懐いちゃって。追い払うのも忍びなかったんで、一緒に旅してるんです」
なるほど。こいつには、魔物使いの素質もありそうだ。
「よく躾られてるな」
「そうでしょう?いい子なんですよ、2匹とも」
ね?とウィアレルは2匹に声をかける。2匹の獣は嬉しそうにウィアレルに駆け寄り、彼の体をよじ登って肩に落ち着いた。
どうやら、そこが2匹の定位置らしい。
なるほど、こいつがモンスターに好かれやすいのも分かる気がする。
だが......
「でも、折角仲間にするならこんな子狐とかじゃなくて、狼族とかのほうが使えるんじゃないか?」
「この子たちは別に戦闘に使うってわけじゃないです。ついてきたいって言ってる子を振り払うのは最低の行為ですし、別に強さは関係ないですよ」
少しムッとしたようにウィアレルは返す。
彼が連れている狐やフェレットは、ペットとして市場に出回ることなんかもあるほど温厚なモンスターだ。
2種類とも素早さ特化型の獣で、育てればマルチな戦闘には向く。ウィアレルには向いたモンスターなのは確かだ。しかし、相手が強くなれば強くなるほど、その火力の低さや魔力の弱さが祟り、不利になる相手が多くなる。
その点、俺の薦めた狼族は、強い攻撃力を持つ。防御こそ薄いものの、魔法展開によって素早さをあげ、回避することが得意だ。特に初心者冒険者には、いるだけで一安心なモンスターではある。
だが、こうして愛おしそうに2匹の獣を撫でているウィアレルには、余計なお世話だったのかもしれない。
「......いつの間にか、自分の周りがモンスターだらけになってるタイプだな」
「? なにか言いました?」
「いや、なんでもない」
グレイは無防備に欠伸をし、ソウルは自らの体を舐めていた。
「俺の連れも一応紹介しておこう......ほらリズ、起きろ」
俺にも、モンスターがいないことはない。
俺の服の胸ポケットの主、鼠族のリズだ。
鼠族は火力もなく、防御もペラッペラで戦闘にこそ向かない種族だが、とんでもなく魔力の量が多い。武器に魔法を込めて武器の精度をあげる為に飼い始めたが、こいつはちょっと訳ありで。
「......んだよまだ昼だよ......?あたしの完璧な睡眠、邪魔しないでくんない......?」
「え......聞き間違いだよね?......いや、俺の耳が悪いだけで......」
「ん?......なんだセルティア、随分面白そうなのと一緒にいんじゃん」
「......うわあああああ!?!??」
喋る。
人間の言葉を。
英語、仏語、日本語、中国語、韓国語をマスターした彼女は、モンスターとは思えない知能の高さを誇る。普通、モンスターは喋ることはおろか、人の言葉を理解するのも難しいとされている。そういう面では、ウィアレルのグレイとソウルは、彼の言葉で会釈したのだから、優秀な方だ。
そのくせ、生意気だし、図太すぎる。
さっきの戦い(ウィアレルの剣筋を見るという目的で行われたヤツ)中もずっと俺の胸ポケットにおり、潰されたり締め付けられたりしてもずーっとヤツは寝続けた。
「こいつがリズ。魔法の付与ならプロ級だが、性格にかなりの難あり。こいつに構う時には気をつけるんだな」
「説明が酷すぎるわ!!あたしリズね。言っとくけど、戦闘とかは一切しないから。あんた達があたしをちゃーんと守るのよ。分かった?」
「えー、えーっと、まず理解が追いつかないんだけど......?」
モンスターが喋るのは、ウィアレルにとってかなり衝撃的だったらしい。
まあ、慣れてもらうしかないな。強いモンスターとかは、普通にベラベラ喋るし。
ウィアレルの剣筋を確かめたついでに、弓や槍も軽くテストしてみた。
今まで扱ったことがないということで、少々習得まで時間はかかったものの、流石は俺の子孫、俺のアドバイスで人並み級には成長した。
弓や槍もなかなか筋はいいが、でもやっぱりこいつには剣だな。と、いうことで、こいつ用に魔剣を用意した。いわゆるオーダーメイドってやつだな。オーダーもクソもないけど。
初心者が扱いやすい、火力もまあまあ、魔力の乗りもまあまあなヤツだ。いきなり斬れ味の良すぎる剣を使ったところで、逆に自分がその剣に振り回されて、自らが怪我をすることだってある。
「リズ」
「はいはい。ったく、ほんっと人使いが荒いよね」
「お前は人じゃないだろう」
「うわー動物虐待だー」
「いいから早くしろ」
剣に魔力を流し込むのにもコツがいる。あまりにも高速に魔力を流し込んでしまうと、剣が耐えられなくなって破裂する。1話の前世の俺がやったヤツだな。アレは敢えてだけど。
反対に、遅すぎると、剣が魔法についての耐性を身につけてしまい、途中で変な風に劣化する。故に、速すぎず遅すぎず、微妙なラインで流さなくてはならないのだ。
これはもう慣れだ。何度も剣を作ってきたヤツじゃないと出来ない。前世の俺はできたが、なんせセルティアは魔力がない。リズにやってもらうしかないのだ。リズも徹っっ底的に俺が仕込んだ。魔武器を作る為、俺はしかーたなくそこそこ優秀なリズと一緒にいるわけだ。
リズが剣の柄の部分から魔法を流し込む。この時のリズは真剣だ。話しかけようものなら、徹底的に噛みつかれ、1ヶ月は人差し指が使えなくなる。
リズの小さな体から、魔力が溢れ出す。邪心のない魔力は、美しい。表現のしようもないが、7色に淡く輝きを放つ様子は、誰をも魅了する。魔法を使えなくなった俺からしたら、なおのことだ。
少しでも邪心のある魔力は、濁った灰色をしている。負のオーラのような感じだ。そいつが敵か味方かは、魔力の"色"によって分かってしまうのだ。
魔法が使えなくなった今も、俺は魔力の色だけは見分けることが出来た。色の見分けは、高度な技術だ。恐らく、ウィアレルには見えていない。
しばらくして、リズが剣から離れた。剣は魔力を帯び、光を受けて7色に輝いている。
「ん。成功したよ。なかなかいい出来なんじゃない?」
「ああ、かなり良い。ウィアレル、持ってみろ」
「い、いいんですか?」
「当たり前だろ。お前のための剣なんだ」
ウィアレルは恐る恐る、といった様子で、剣の柄に触れる。その瞬間、剣の方からシュッと動き、ウィアレルの手の中に収まった。
「うわっ、!」
「魔剣は初めてか?」
「は、はい。でも、なんだかすごい、持ちやすいし振りやすいです!」
どうやら、気に入ってくれたようだ。魔剣は、持ち主の魔力より含まれる魔力が大きければ、振りにくいし扱いが難しくなるからな。それを考えて、リズは魔力量を調節したのだろう。全く、こういう時だけ優秀なヤツだ。
「そうか。まだお前が弱いうちはこの剣くらいで十分だが、いつかはもっと高度な魔剣を扱うことになる」
「これの、もっと上があるんですか!?」
「もっともっとある。今まで魔法の含まれてない剣を使ってたヤツからすれば、この魔剣も相当使いやすいが、魔法レベルが上がれば、もっと繊細な魔剣も余裕で振り回すことができるようになる」
「そ、そうなんですね......でも、セルティアさんは、魔剣を持たないんですか?」
......痛いところを突かれてしまった。
実は、魔力の含まれた剣は、魔法レベルが低い人にとっては重量級に重く感じる。というか、持つことすらできない。俺の魔力レベルは1だ。ウィアレルに与えた剣も相当弱い魔法しか含まれていないが、俺はそれすら、重すぎて持てないだろう。
「......俺は、剣を使わない」
「え?」
「俺の相棒は、こいつだ」
俺は、現世ならではの武器を、ポケットから取り出した。
To Be Continued!