"元"天才勇者、旅に出たい。
「……は?弟子、ですか?」
「ああ。冒険は初めてだろ?初心者ってアンタ自身も言ってたし、その身なりを見りゃ分かるさ。俺は一応冒険者の経験もある。アドバイスとかも出来るが、どうだ?」
自分を育てられないなら、誰かを育てればいい。山に篭ってたコミュ障には少々キツいかもしれないが、こんな伸び代のある奴を放ってなんておけるか。それでこいつが輝かずに終わるんなら、俺が育てる。
「い、いや、別にそこまでしていただかなくても結構ですよ?ただ、初心者に扱いやすい武器さえ教えてくれれば……」
……そう簡単にうんとは言わないか。それもそうだろう、いきなり武器屋に「弟子になれ」と言われたら、俺だって困る。
「それに、武器屋さん、見た感じ俺と歳近いですよね?冒険者の経験もあるって言ったら、10歳くらいにはもう旅してたことになりますよ?」
そうだった。魔法技師セルティアは15歳。5年以上冒険しないと冒険者とは呼ばれないし、前世で勇者やってたーなんて言っても、こいつ何言ってんだ、って目線しか返ってこないことは百も承知だ。
「……分かった。言い方を変えよう」
俺は1つ咳払いをし、今の自分が思いつく限り、最良の答えを導き出した。
「……この中で1つ、お前に武器をタダで譲ろう。その代わりと言っては何だが、お前の旅に同伴させてくれ」
「えっ」
ここまで言って、客の顔色が変わった。
な、なにか悪いことを言っただろうか。それとも、もう彼には仲間がいるのだろうか。この冒険者は一人旅だと勝手に思っていたが、こいつはコミュ障には見えないし、いや、でも……
そこまで考えたところで、その客はいきなり吹き出した。
「なあんだ、そういうことですか」
「どういうことだ」
「要は、武器屋さん、誰かと一緒に旅したいんでしょ?」
あっているようで違う。
でも、そういう方向性に解釈してくれたのなら有難い。その方針でいいか。
「いいですよ。俺で良ければ、一緒に旅しましょう!武器屋さんの言った通り、俺ほんとに旅のことなーんにも分かんないし、一緒に旅してくれる人がいるのはありがたいです。それに、この店の商品、ぶっちゃけ高いですもんね、タダで手に入るのはこちらとしても嬉しいです!」
おい。
軽く俺の商品ディスらなかったか。
「俺、ウィア・アレンドール・グレンっていいます!14歳っす!!ウィアレルとでも呼んでください!よろしくやっていきましょう!!」
「……セルアス・ティーア・レンシアだ。15。セルティアとでも呼んでくれ」
「セルティアさん!年上ですね!お願いします!」
そう言って、彼は人懐っこい笑みを浮かべた。
短く切りそろえられた黒髪が、ふわっと揺れた。
「……と、言うわけで。まずは、お前の剣筋を見させてもらう」
「なんだか緊張しますね」
「そう変に構える必要は無い。普段通り、戦ってみてくれ」
「わかりました!」
いきます!その声と共に、ウィアレルが地面を蹴って飛び出す。
その剣を俺は片手で受け止めた。
「っ!?」
ウィアレルの表情が驚きに歪む。
それもそうだろう。自分の剣が、片手で、しかも素手で受け取られたら、誰だって驚く筈だ。
「手加減してるか?」
「しっ、してないっ」
ウィアレルは、俺の手の中から剣を引き抜いてから後ろに大きく飛んだ。
俺の手のひらが小さく切れた感じがする限り、手加減をしていないというのは事実なのだろう。
再びウィアレルが斬りかかってくる。今度は真正面からではなく、俺の目の前で跳躍し、高い位置から振りかぶってきた。
俺はそれを今度は剣で受け止める。
__なるほど、こいつは力が無いな。
力のなさを、跳躍することで補っているということか。しかし、跳躍から斬り掛かるという技術は、初心者がよくやる最も"愚策"だ。
剣と剣がぶつかり合う。キィン、という金属音があたりに響いた。
ウィアレルの力に合わせて、俺は力の入れ具合を調整する。
両者の力が、均衡した。……しかし、その均衡も長くは持たない。
空中で静止していたウィアレルの体が、徐々にバランスを失って倒れ込んでいく。
俺はその瞬間__最も無防備になる、倒れる瞬間に自らの剣を横に滑らせた。
「うわっ」
勢いのまま、ウィアレルが地面に叩きつけられる。
__もらった。
しかし、そう甘くはないようで。
「……"Side Diving"!!」
瞬時に魔法陣が展開され、ウィアレルの姿が空中に溶け込まれた。
Side Diving。俺が前世で『S-200』番と呼んでいた初歩的魔法だ。
低魔力で発動出来る代わりに、発動条件が難しい。対象者の体が全て地面と密着している時でないと展開出来ないのだ。使うと一定時間地面と一体化できるが、使い勝手が悪いので、前世で俺はあまり使うことのなかった技だ。俺以外にも、使う人はあまり見なかったように感じる。
こんなに有効的に使う奴は、初めて見た。
倒され、地面に叩きつけられた瞬間の発動。止めの一手を刺させない、絶妙なタイミングだ。
__こいつは、本気でかかってきてるな。
だったら、こちらも美しく舞わせてもらおうか!!
久々の心躍る戦い。真剣に受けてやらなければ、意味が無い!!
To Be Continued!