"元"天才勇者、人材に出会う。
人通りの少ない商店街の一角に、俺の住処はある。
武器屋の看板を掲げてはいるが、誰も買っていく奴はいなかった。俺の作る剣や槍、弓などは質は1級品だがそれ相応の値段がついている。元々貧乏な村だ、そんなものに金をかけている余裕があったら、食費につぎ込む、という人が多いように感じる。
別に俺も、儲け目的で店を構えているわけじゃないから、売れなくとも別に構わない。この『海と光の集落』で成功しようっていう奴の方が頭がおかしい。
転生失敗__あの事故から、3年が経った。
転生失敗した、と言っても、俺は魔法レベルが高かったから、存在消滅には至らなかったようだ。しかし、とんだ最悪の事態になってしまったのだ。
__俺は、いや、魔法技師セルティアは、魔法が使えない。
魔法技師、という名からは、魔法に特に長けた人を連想できる。実際、魔法技師の殆どが魔法一筋でやってきた人ばかりだ。しかし、俺は、生まれついた時から魔法が使えなかった。
そう、俺には、魔力が無かった。
通常、どんな人間も、僅かでも魔力はあるはずだ。しかし、俺の身体は、どこを探ってみても魔力反応は無い。事実、最も魔力消費が少ない"点灯魔法"でさえ、どんなに試しても発動しなかった。
俺は少なくとも、前世で1度も魔法展開に失敗したことは無い。いや、転生魔法は失敗したが。あれは俺でも原因が分からないからな。あれは不慮の事故だ。それを除いたとしても、俺は魔法展開には人一倍、いや人1000000000……倍には長けていた筈だ。感覚は未だ忘れていない。技術の問題では無いはずだ。
出来るだけ弱くなるように……そう思って転生したが、どうやら効きすぎてしまったようだ。魔法が使えないとなると、魔法レベルを上げる方法がない。つまりは、泣いても笑っても、もう転生はこれっきりだということだ。今のままだと泣く運命しか見えないが。
そんな魔力のない俺がなぜ魔法技師なんてやっているのかというと。
魔法技師は魔法の開発者だ。魔法を開発するだけなら、魔力のない俺にだってできる。繊細な材料を複雑に構成し、魔法陣に描き移すだけだ。……だけと言っても、これにも相当な技術が必要なことには代わりないが。俺はまあなんとか前世の知識だけでやってこれている。
勇者に転生するつもりだったが、平民だった……その点も、転生に失敗した効果だろう。
そんな俺の作った魔法は、レベルが高すぎて誰にも発動出来なかった。俺の構成が悪いわけではないことは前世の俺が実証済みだし、山に篭もりっきりで常識人の魔法レベルを知らなかった俺には、厳しい職業でもあった。
そこで始めたのが、武器屋だ。
剣や槍、弓などといった武器は前世で何度も作ってきたし、この世界でもそれなりの需要はあるようだ。そう思って始めてみたが、3年やって売れたのがたったの3本。1年に1本だ。
正直に言おう。
金がない。
適当に山奥で獣を狩って今までしのいでいるものの、流石に現代人らしい食事もしたい。せめて、汁くらいは飲みたい。
前世で山奥にこもっていた時でさえ、ちゃんとした食事はとっていた。適当に種を撒き、魔法で一瞬で成長させて収穫。その野菜を適当に魔法で加工すれば、5分もせずに豪華な食事が出来た。肉も、その辺にいる獣から狩るか、適当に召喚して殺してた。
ああ、魔法って実に有難い。
そんな俺は、今日も店に無愛想に立つ。
今日も人は来ないであろう。埃を被った武器たちが、寂しそうに鈍く光った。
そんな時。
「……あのー、すみません」
「えっ」
人が来ただけで驚く店主。流石にこれは自分でもないと思う。
「えっ」
ほら、折角の客も驚いてるじゃないか。
「……いらっしゃい」
「あ、どうも」
適当に、そんな言葉を言ってみる。最後にこの言葉を言ったのは、一年前だったか。
「どんなのが好みだ?見た目的に……剣士っぽい身なりだが」
「あ、あの、俺、確かに剣は扱えるんですけど、剣以外のものとか一切扱ったこと無くて。どんなのがいいのか全然分からなくて……初心者に扱いやすい武器とかって、あるんですか?」
初心者?その言葉に、俺は再び来客の身なりを見直した。
確かに、装備は一式揃っているものの、どれも組み合わせとしては微妙だ。初心者が適当に強そうなのを選びました!っていう感じ。
こういう客には、高めの武器も良く売れる。まず、ものの価値が分かってないからな。
そこまで思い、レベルの高い剣を勧めようとして__
ふと、なにか違うことに気がつく。
この客は、今までの客と何かが違う。
この客からは……異常に、魔力反応を感じる。
__この客、伸びるぞ。
今は全然弱い力だが、鍛えれば前世の俺に近いレベルまでいくだろう。
ただ、頭のキレる店主たちに騙されて、高く色々な防具を買わされてるってところか。
「……アンタ、冒険者?」
「はい!まだ旅立って3日も経ってないんですけど、結構長い旅をしようと思ってます!」
やる気も充分。
これはもう、こうするしかないな。
「……ちょっと提案があるんだが」
「はい?なんですか?」
「俺の弟子にならないか」
「…………は?」
予想通りの反応。
こうして、俺と未来の勇者サマは、出会ったのであった。
To Be Continued!