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最果ての主人公  作者: 錦乃 神矢
第1章 勇者ウィアレル育成計画
28/29

"元"天才勇者、過去を乗り越えて。

黒いローブを風になびかせて、その男は静かに立っていた。

白と黒の仮面を被り、よく手入れされた銀髪を短く切りそろえて。

仮面越しに、その男が挑戦的に笑うのが分かった。


「久しぶりだね、ソフィくん」

「......組織の人間だろ?」


その名で俺を呼ぶのは、組織の人間だけ。

だが、機械音のようなその甲高い声は、聞き覚えが無かった。


「まさか、忘れたのかい?僕のこと」

「生憎、お前らにてんで興味が無いものでな」

「へえ?」


面白そうに男は笑った。

......待て。その笑い方......!!



「お前、まさかっ......!!」

「あ、やっと気付いてくれた?」



山上 ケイゴ。

こいつこそ、組織『リンク・レイン』の幹部にして、白銀先生の知り合いであろう人物だ。


「......最も身バレしたくない人物に声でバレたくないから、変な小細工をしている、ということか」

「身バレ?そう言うと聞こえが悪いよ」


山上が幹部に上り詰めたのは、俺が8歳の頃......7年前だ。恐らく、その頃には山上と白銀先生との縁は切れている。昔、クラスメイトの少女を裏切って死に追いやった男が幹部にまでなっていると知ったら、白銀先生がどう思うかは明白である。


「ま、とにかく剣を交えながら話しあおうよ」

「上等だ」


剣をすらりと抜き放つ。何の抵抗もなくあっさりと抜けたその刀は、東雲の努力の現れだ。

対する山上も、腰から剣を抜きはなった。......斬った相手のエネルギーを吸い取ることのできるタイプの魔剣だな。少々厄介だ。


「ティさん、俺らは」

「俺一人で充分だっ!!」


そう言って、強く踏み込む。向こうも同時に、飛び出してきた。

きぃん、という剣と剣がぶつかり合う音が響く。物凄い風圧が頬を掠め、剣同士の力比べになった。


「リンク様は、本気でソフィくんを手に入れようとしてるよ。そのためなら、手段は厭わない。だから、手始めに故郷を焼かせて貰ったんだ」

「......なぜおっさんを殺した?焼き払うだけのつもりだったんだろ」

「殺したくて殺したわけじゃないんだよ?でもね、そこの彼は、僕らの仲間を3人も殺してくれちゃったんだよね!だからそのお礼にってことさ!最高の地獄を見せてやって、じっくりと反省させたんだ!」


力が拮抗し、互いが大きくはね飛ばされる。向こうは勢いをそのままに、再び突っ込んできた。それを俺は受けてやる。


「故郷だけだと思わないでよね。これから、どこをどう焼き払ったっていいんだから。そうだねえ、次は、フレイムハイといこうか?」

「......そんなこと出来ると思ってるのか?」

「出来るよ?こっちには何人の人が居ると思ってるのさ。今のリンク様は冷酷だ。多少の犠牲は仕方ないと思ってる。あんな大都市でも、焼け落ちるのなんて一瞬だ」


白銀先生がひゅっと息を呑むのが分かる。俺は剣を受け止めつつ、その隙を探って......一気にその1箇所に力を込めて、剣を振り切った。

山上が大きく吹っ飛ばされる。空中で受身を取りつつ着地の姿勢をとるも、それが大きな隙になるっ!

地面を思いっきり蹴って飛び出し、着地場所に剣を滑らせる。致命傷はいかなくても、怯ませることは出来るだろう。


瞬間、山上の姿が消える。慌てて剣を振り戻し、直感のまま剣を後ろに振り抜いた。


「へえ、なんで分かったの?」

「こんな簡単に幹部とあろう御方が押されるわけ無いだろ?」

「常に警戒してるってわけね。じゃ、もっと慎重にいかなきゃ」


振り抜いた丁度その先には山上の姿。判断が遅れていたら即死だな。


「滅ぼす予定なのは街だけじゃないよ。ソフィくんのお友達、尊敬してる人、そういう人たちも殲滅対象に入ってる。もちろんそこの勇者様と、医者もね」

「なっ、俺ら!?」

「......馬鹿な選択をしたな。ウィアレルと白銀先生は、俺が傍にいる限り誰にも殺されることはない」

「あっそう。じゃ、東雲と春宮って人達はどう?随分とソフィくんと仲がいいみたいだけど」


その言葉を聞いて、自然に口角があがる。

渾身の力を込めて剣を振り抜けば、その剣先は相手の隙をつき、一気にダメージを重ねた。


「ああ、突撃出来るものならしてみればいい。だが、あいつらは強い。とんでもなく強い。今の俺より何倍も強いぞ。何人で突っ込んだところで、あいつらの勝利は確実だ」

「へえ。ってことは、勇者様より強いんだ?」


隙を突かれた気がして、ぐっ言葉に詰まる。

それをいいことに、山上は更に言葉を重ねた。


「だってそうでしょ?今の言い方からすれば、『勇者様は俺が守ってやれば安全だ。だが、東雲と春宮は俺がいなくても余裕で勝てる』。信頼度が随分違うね。そんなこと、本人の目の前で言っちゃっていいのかな?仮にも勇者様だよ?プライドズッタズタじゃない?」

「......ティさん」


山上は立ち上がると、剣を鞘にしまった。もう手合わせは充分との判断だろう。俺も、剣を下ろす。

ふとウィアレルの方を見れば、苦しそうな表情で唇をかんでいた。だが、俺と目が合えば、ふっと笑った。


「ティさん、いいよ別に。本当のことを言って。分かってるよ、俺はまだまだ未熟なんだよね。まだまだ、頑張らないといけないんだよね」

「......ウィアレル」


確かにウィアレルは強くなった。だが、過去の俺には到底届かないし、今の実力も、年上のベテラン冒険者には及ばないところもあるだろう。

俺は静かに首を振って答える。


「今は確かに、東雲と春宮の方が圧倒的に力を持っている。だが、こいつには勇者の血が、若くして魔王討伐を果たしたフィウスの血が流れているんだ。こいつはいつか俺を超え、東雲と春宮を超えて、世界を平和に変えるだけの強大な力を持つことになる。何事も、準備期間がなければ成功はしないだろう?お前らのやり方と同じじゃないか?お前らがこの集落に乗り込んで来るのだって、随分と遅かったじゃないか」

「苦しいフォローだね」

「何処がだ」


呆れたように、山上は溜息を吐く。


「ねえソフィくん。君が早くこっちに戻ってきてくれないと、どれだけの人が苦しむと思ってる?どれだけの人が死ぬと思う?死ぬのは君の周りの人だけじゃないんだよ、組織の人だって、機嫌が悪いリンク様に殺されたりするんだ。君は何年も組織に居たんだ、それくらい分かるだろう?」


俺は無言で山上を睨みつけた。傍に寄ってきたウィアレルが、俺のローブの裾を強く握りしめる。


「......ねえ、君が今の組織で何て呼ばれてるか、教えてあげようか?」


山上はピッと人差し指を立て、静かに言った。





『裏切り者』(Rat)だよ」




強い風が俺らの間を吹き抜け、俺の伸び切った赤髪を揺らす。

ウィアレルが俺の肩を持ち、近寄ってきた白銀先生が俺の手を強く握った。


「君はリンク様のお気に入りだ。君と触れ合った日は、リンク様は機嫌が良かった。実験台となった人に対しても、扱いが緩くなったりしたんだ。だが、君が居なくなってからは一変。使えない人間は直ぐに殺し、人に八つ当たりするようになった。それで何人も死んで行ったよ」


地を這うような低い声で、山上は言い放つ。


「ねえソフィくん。君はさ、組織の人間はみんな、好きでリンク様についていってると思ってる?」


疑問形だが、俺に答えは求めていないような聞き方だ。山上は、曇った空を見上げて言う。


「そんな訳ないよね。みんな、生活のために仕方なく付いていっている人ばかりだ。もちろん僕だってそうだ。僕だって、こんな、ヘマをしたら直ぐに殺されたり、人を殺したりするような職場は嫌だ。よく言う『Do or Die』の世界。それでも僕は、生きるため、妹を生かしてやるため、働き続けなきゃならない。だから、みんな羨ましがっているんだ。逃げる場所があった君を。それどころじゃない、君が逃げた後、その火の粉は自分たちにかかってくる。ハッ、冗談じゃないね」


ところどころ、声が震えている。

その仮面の下には、涙があるのだろう。


「ソフィくん。今戻ってくれば、まだやり直せる。僕らも、君をもう一度受け入れてあげる。ねえソフィくん、戻ってきてくれて、僕らを救ってよ。賢いソフィくんなら、どっちが正しい選択か、分かるでしょ?」


山上は、その長い手を、俺に向かって伸ばしてくる。

その手は、微かに震えていた。


「......ティさん」

「セルティアくん、分かってるよね」


ああ、分かってる。




俺は、山上のその手を、静かにとった。




「え......っ、!?!?」

「ティさん!!駄目だっ、」




そして、そのまま、その手を下ろさせる。



「......今は、まだ戻れない」

「まだ?」

「いつか、お前らを纏めてリンクの汚い手から救ってやる。それまで、もう少しだけ待っていてくれ」

「......信じられると思う?」


山上は嘲笑うようにそう言ったが、俺は表情を変えない。


「信じてくれ。俺らは必ず、纏めてお前らを救ってやる。お前らの気持ちは、同じ組織に居た者として、誰よりもよく分かってる」

「......俺も、協力します。ティさんと戦ってるのを見て、あなたが悪い人じゃないことはすっごくよく分かりました。俺も勇者として、苦しんでる人は助けたい......!」


ウィアレルもそう力強く言い放つ。白銀先生も、思うところがあるのか、強く頷いた。



「......変わったね、ソフィくんは」

「何がだ?」

「昔はさ、僕らみんな、人を信じなかったよ。誰に裏切られるか分からない状況で、みんなが敵で。常に警戒心を持ってるのは、ソフィくんもだったよね。でも今は違う。凄い感情的な人間になってる。こんなにもソフィくんを変えてしまったのは、そこにいる勇者たちの所為かな?」


山上はピッとウィアレルたちを指さす。その指先は、まだ細かく震えていた。



「僕は信じないよ。僕らは捨てられた。そう解釈するから」


強がりの声だ。俺は思う。

信じたいけど信じられない、過去の俺が出していたような声。



「......白銀先生に変えられたのは、俺だけじゃない」

「ん?」

「お前もだろ、『山上 ケイゴ』」


「なっ......、」


そう、強調するように言えば、その幼なじみが反応した。



「そうだろ、山上?リンク様の命令で人間界に舞い戻ったお前は、平屋ツキノを攫うための前準備として、中学校に紛れ込んだ。そこでお前は白銀先生と出会っている」

「その......名で、僕を、呼ぶな......!!」

「お前はそこで、平屋ツキノと白銀先生に情が移ってしまった。初めて人の優しさに触れたお前は、何もかも捨ててでも、この人達と生きたいと思った」

「違う......違う!!」

「だがそれは叶わず、痺れを切らしたリンクに急かされ、辛い想いを抱えながら平屋ツキノを攫った。それでもお前は諦めきれなかった。最終的にお前は平屋ツキノと一緒に川に飛び込んだが、木の枝に服が引っかかり、助かってしまった。しかも、もう一度リンクに捕まった」


「もうやめろ!!!!!」



山上はまるで幼い子猫が必死に威嚇するように、叫ぶ。


「......ケイゴ、くん」


白銀先生は、恐る恐る、といったように声を出す。

俺は、山上が怯んだ隙に、その仮面を素早く外した。


「なっ」

「......素顔で、白銀先生とゆっくり話してくれ」


顔を真っ赤にして、静かに涙を流している山上は、男にしてはとても整った顔立ちをしていた。

どこか幼さの残るその顔で、怯えたように白銀先生を見つめる。


「ケイゴくん。色々、話しませんか?」

「......ツキノさんのことでしょ?それならもう__」

「ううん。『ケイゴくん』と、お話できたらいいなって。......辛いこととか、色々教えてよ」


そう言って、白銀先生は笑いかける。

中学のクラスメイトとしてひとときを過ごした2人。再びその仲が戻るのに、時間は要らなかった。


「...しゅう、くん......っ、」

「あーほらほら、そんなに泣かないで。こっちおいで?」



人を殺すために汚れた手と、人を救うための綺麗な手。

2つの手が、再び、繋がれた。












夜。

山上はリンクの元へと帰っていき、俺らはここでの野宿となった。

もう手馴れたようにたき火をおこすウィアレルを尻目に、俺は集めた遺体に次々と火をつけていった。


グレイの心配げな目線を感じつつ、俺は無言で指の先を裂き、その血を使って適当な炎を作る。


「埋葬くらい、この手でさせてくれ」


この集落では、死体は火葬する。そして、その火葬の煙が空へ立ち上っている間に、レメリスの花を植えるのだ。そうすれば、その花に死んだ者の命が宿り、通常より強く、逞しく育つ......という言い伝えだ。

そんなことあるわけない、と分かっている。が、今まで伝統的にそうやってきたのだ。同じように、送ってやりたい。


骨が残るくらいの、弱めの火。でも、苦しまないように、急所に入れて。

見つかった遺体は、5人とかなり少なかった。恐らく、炎に包まれて悲鳴をあげる間もなく身体ごと溶けていった者もいるだろう。そういう者たちのため、また、俺らのために死ぬ気で戦ったおっさんのために、俺は手を合わせて祈る。


煙が立ち上り、星空を優しく覆っていく。その間に、俺は、レメリスの種を撒いていった。

焼き払われ、痩せた土地だ。育つどころか、芽が出るとも思えない。しかし、彼らの生命力が、おっさんの、最後まで防具屋の主人であろうとした強い精神が、きっといつか、芽吹く筈だ。そう、信じたい。





「感情的な人間になってる......か」


山上に言われたことを反芻してみる。

確かに、ウィアレルや白銀先生たちと出会って、俺の世界観は一気にガラリと変わった。

今までは、私情や友情などは戦いに於いて邪念になると、一切を切り捨ててきた。しかし、そんなずっと独りだった俺に、彼らは何の躊躇いもなく手を伸ばしてきたのだ。俺がどんなに戸惑っても、それを全部無くすように、俺のことを引っ張りあげてくれたのだ。俺が、人として変わらないはずがなかった。

......みんな、良い奴なのだ。


でも、それだからこそ。


「......なあ、グレイ」


俺が、守ってやらねばならない。



「ここを......ウィアレルたちのもとを、去ろうと思う」







ついてきて、くれるか。







その問いに、グレイは一瞬の躊躇いもなく、強く頷いた。
















第1章 勇者ウィアレル育成計画


Fin.







次回


第2章 強き光と願い星


To Be Continued!!




本当はティさんが埋葬のために送りの舞を舞う予定だったんですが、文字数の関係上カットしました。

うん、書きたかった!!!


これにて第1章は終了です。

次回からは第2章。全ての人を救うにはあまりにも時間が無さすぎることを悟ったセルティアは、グレイと共に、とある男女の元へ修行をしに訪れる。リンクの野望を阻止する間に、彼らはある重大なことに気づいてしまい......!?

第2章では、フィウスが転生に失敗した訳は何かに迫ります。

そして、ウィアレルとその男女が出会うことによって、新たな摩擦も発生して__


そして遂に、セルティアに魔力が戻る......!!


不器用な"元"勇者の波乱万丈な人生を描く。

第2章もどうぞ、よろしくお願い致します!!

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