表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最果ての主人公  作者: 錦乃 神矢
第1章 勇者ウィアレル育成計画
27/29

"元"天才勇者、 力を欲す。

「......懐かしい、ですね」

「ああ」


戻ってきた、音叉山。

旅に出たばかりの頃はこんな場所でも随分と苦戦したものだが、今では剣を雑に一振するだけで10匹は葬れるようになった。



__白銀先生は、意外にタフだった。

初めは俺らも、白銀先生のペースに合わせて行こうと思っていたものの、それに気付いた白銀先生が「いつものペースでいいですよ」と言ったので、ウィアレルの出せるMAXのスピードを出してみた。俺らが、疲弊せずに長距離を早く移動するのに使う時速だ。

初めはついて行くだけで精一杯だった彼も、次第に慣れたようで、今では平然と付いてきている。

特に、登山は早かった。


「亡くなった弟と、よく近くの山に登ったものです」


と彼は悲しげに笑った。


白銀先生は戦闘に参加出来ず、フォローこそしなくてはならないものの、ウィアレルが白銀先生のカバーをし、その間に俺が剣を振るえばいいだけだ。敵も弱いから、問題は無い。


行きはあんなに時間の掛かった道のりも、今では半日で山の反対に着いてしまった。それだけ、ウィアレルが成長したということ。師匠として、嬉しくもあったりする。


「音叉山を過ぎれば、集落へはあと少しですよね!」

「そうだな。これから決戦になるかもしれないし、少し早いがここで野宿しておこう。出陣は明日の朝だ」

「了解です!」


「......冒険者って、すごいんですね」


ふと、白銀先生がそう呟いた。


「どういうことですか?」

「いやあ、今日だけじゃなくて明日のことも考えて、効率良く体を休めて。戦うだけじゃなくて、頭も使うんですね」


すごいなあ、と白銀先生は感心したように言う。

ウィアレルが照れたように笑うのを見、俺もふっと口角をあげた。






随分と日が暮れてきた。矢張り、ここで止まっていて正解だったな。

夕日に目を痛めながら白銀先生と体を休めていると、風読みをしていたウィアレルが丁度戻ってきた。


「ティさん。......なんか、変」

「変?」

「うん。風がなんかいつもと違うんです」


そう言って頭を捻るウィアレル。俺は立ち上がると、高台の方へ足を伸ばした。


「風読みをするんですか?」

「天候は冒険者にとって重要ですからね。1部の冒険者は日課にしてます」


白銀先生の問に答えつつ、指先を口に含んで湿らせ、高く掲げる。指先を冬の冷たい風が掠めていった。

......待てよ。


「風向が......なにかおかしいか?」


それに、いつもより風が生ぬるい。こんな風、今まで感じたことがない。


「冬ですし、前線の影響とかですかね?」

「それもあるとは思いますが......それとは何か別の、何かがある気がします」


背筋に走った悪寒は、気の所為だと思いたかった。

最悪の事態が頭をよぎり、それが杞憂だと願う。










その願いも虚しく。












翌朝、集落へたどり着いた俺らが目にしたのは、焼け爛れた大地だった。









「ーーっ」


声にならない叫び声が喉から漏れる。

間違いであって欲しいと、方位磁針と地図を見直すも、その結果は変わらず。

恐る恐る、1歩踏み出す。焼き払われてから随分日が経った後なのだろう、地面は黒く固まっていて、以前のような柔らかな土はもうどこにも残っていなかった。


「ティさん......」

「セルティア、くん」


心配そうに声をかけてくる2人に目もくれず、俺はふらり、ととある場所を目指す。

家の残骸を乗り越えて、元は井戸であった場所の穴を通り越し、ただただ一線を目指して歩き続ける。




「ーーぁ、っ」


限界だった。



「......おっ、さん...........っ!!」



俺が、『セルティア』が、絶対に生きていて欲しいと願った人物。

俺の店の通り沿いに店を構え、この集落で1番発展していて、郊外からも買いに来る人がいるほど繁盛していた、防具屋。

__兄達に捨てられた俺の、育ての親。



肌は火傷に爛れ、首が切断され、四股も切り刻まれ、その胸からは血が溢れだしている。

彼の死に顔を、まともに見てはいられなかった。









__「おめぇが、セルティアの兄ちゃんだな?」


地下牢から抜け出してすぐ、今にも倒れそうな俺を見つけたのは彼だった。


「うちに来な」


彼は手招きして彼の家に俺を入れると、血塗れの俺の体を何も言わずに拭い、暖かいスープを出してくれた。戸惑う俺に、彼は自分の分のスープを黙って啜った。それを見て、俺が恐る恐るスープを口にすると、彼は今までの険しい顔から一変、嬉しそうに笑ったのだ。


「これから、暫く俺ん家に居ていいぞ。1人で大丈夫になっても、時々俺んとこ遊びに来るといい。おめぇは、俺が守ってやる」


その言葉は、フィウスの記憶が戻りたてで不安だった心を、また、兄達に裏切られて傷ついた心を、優しく、癒していった。




そんな彼が、もう、いない。





__旅!そらぁめでてえ!ってことは、セルティアも遂にこの村出てくんだな。寂しくなるもんだなあ......

__結構優秀な奴らは、こぞって冒険者になるもんな。領主様には申し訳ないことだ

__安心しろ。俺はいつまでも、ここで防具屋やってるぜ

__ってことは、いつかはこの店も客足が途絶えるってことだな

__おいおい、冗談に聞こえねえからやめろって


__また来いよ!


そう言って、旅立つ俺らを力強く見送ってくれた、あの笑顔。

今、その脂ぎった顔は苦悶に歪み、血がへばりついている。



「すまん、おっさん......約束、守れなかった......っ」



意図せず、涙が溢れ出てくる。

血の繋がる兄より、顔も知らぬ両親より、深く深く俺を愛してくれた、おっさん。

知らずのうちに、俺はローブの裾で目を押さえ付け、肩を震わせていた。


「......ティさん。思いっきり、泣いてもいいんだよ?」


ウィアレルが俺の肩を抱き、そっとしゃがみこむ。

後ろで魔法を展開する音が聞こえ、おっさんの怪我がみるみるうちに治り、首が繋がった。


「形だけ、だけど。これで、いいかな」


グレイが心配げに俺の方へ近づいてくる。

そんなグレイの頭を少し乱雑に撫でてやり、ウィアレルのこともそっと拒む。

同情なんて、いらない。


おっさんの防具屋の跡地。家の骨組みに使われていた柱を掻き分け、鉄の扉を見つけ出す。

地下室への入口。ここは残っていると、信じていた。


錆び付いた鉄の扉を思いっきり引っ張れば、そこは真っ暗闇だった。気を利かせたグレイが点灯魔法を展開する。その明かりを頼りに、地下室への梯子を降りた。


「ティさん、俺らも行っていいかな」

「......好きにすればいい」


そう言えば、恐る恐る、といった様子でウィアレル達が梯子に足をかけた。


防具屋の地下室。ここは倉庫として使われており、これから商品になる予定だった鎧や盾などが整理されて置かれている。

どこか埃臭いその部屋の空気を、思いっきり吸い込む。僅かながらにおっさんの匂いが鼻をついたような気がして、噎せこんだ。


ふと中央に置かれている机に目をやって、思わずあっと声が出る。

机の上に丁寧に置かれた、2つの封筒。


「......遺書のつもりかよ」


そこには、乱雑で、しかし元は美しいのが分かる字で宛名が書いてある。

しかも、俺の名と、ウィアレルの名だ。


黙ってそれを手に取り、ウィアレル宛の手紙を御本人に投げつける。


「えっ、......え?」


困惑しながら、ウィアレルは封筒をキャッチする。俺も、自分宛の手紙の封を恐る恐る切った。





【セルティアへ

字が汚いのは、急いでいるので許して欲しい。

まずは、この集落に戻ってきてくれて、ありがとな!

お前もなんだかんだ言ってこの集落が好きなんだよな、わかってるぜ。


時間が無いので、端的に要点だけを書き残そうと思う。

この集落に火が放たれた。俺は咄嗟に地下室に逃げ込んだからいいものの、恐らくもう上は焼き払われていることだろう。地下室への扉は鉄で作られているから、焼き払われることは無いだろう。だが、扉の上に柱とかが倒れてきて扉が開かなくなったらそれはもう笑うしかないな。まあ、セルティアがこの手紙を読んでいるということは、扉は運良く開いたということだ。

火を放った奴が誰かかは分からん。だが、放った奴の目的は、恐らく俺らの命じゃねえ。この集落の壊滅だ。その証拠に、俺は火が放たれるのに気づくのが随分と遅くて、火を放ったであろう張本人に遭遇した。だが、仮面を被ったその男は、俺を一瞥して、そのまま去っていったんだ。殺そうともせず、な。

だが、あまりにも一瞬の出来事だった。逃げ遅れて死んでしまった人もいるだろう。今は、領主様2人が必死に消火してくれてるが、それでも多分間に合わない。というのも、その男たちは連続して火を放ち続けているんだ。コウ様もまだ修行から帰ってないし、恐らくもうここは駄目だ。


なあセルティア。確かにな、ここにずっと居たら俺は生き残れると思う。だがな、おっさんは防具屋なんだ。この中にある最高級の防具を使えば、多分火の中も15分は大丈夫だ。それに、お前から買った剣の斬れ味も確かめてみたい。お前がどれだけ器用だったのか、最期に痛感してから死にてえ。

直接、おかえりって言ってやれなくてすまない。集落を守りきれなくて、すまない。


お前が『父さんだと思っていいですか』って言ってくれた時、本当に嬉しかったんだ。俺には息子がいねえから、俺にとってもお前は息子のようなものだったからな。お前は子供の頃に辛い目に逢いすぎた。そしてまた、辛い目に合わせることになってしまって、申し訳なく思う。集落の後始末も、お前に任せっきりになっちまうな。でもな、もうどうでもいいんだ。集落の後始末も、住民の埋葬も、しなくたっていい。放っておいて、俺らのことなんて忘れてしまっていい。なかったことにしてもらっていい。お前には、幸せになる権利がある。


自分でもびっくりするぐらい、短い時間で長い文章を書けたものだ。実際には30分くらい経ってるのかもしれんが、体感は5分だ。文章を書くのはあんまり得意じゃないが、お前のこととなるとスラスラ書けるな。


じゃあな、セルティア。今まで、俺の息子でいてくれてありがとな。

幸せになれよ!


お前の父さんより】



だんっ、と、拳を強く机に打ち付ける。

跳ね返ってきた痛みに顔を顰めながら、何度も何度も、力強く打ち付ける。


「ティさんっ!!」

「セルティアくん、っ!」


白銀先生に後ろから羽交い締めにされ、体制を崩される。そのまま地面に2人して倒れ込んだ。


「辛いですよね。気持ちすっごくよく分かります。でも、自分を傷つけるのは違うでしょ?落ち着いて、冷静になりましょう?大丈夫だから、ね?」

「......自殺、した......っ、助かったのに、このままだったら、助かったのに!」

「...........そうだよね。でもね、セルティアくん。人は、よっぽどの理由がなきゃ、自殺なんてしないんです。本能的にストッパーがかかっちゃって、自殺直前に怯んじゃうんだ。それでも彼は、戦って死んでいった。......よっぽど、セルティアくんのことを想ってたんじゃないかなあ」


白銀先生はゆったりとした声で、俺の頭を撫でながら言う。凹凸の少ない綺麗な手は、マメばかりだったおっさんの手とは似ても似つかなくて。それがかえって、俺の心を冷静にしていった。


「だからね、自分を責めるんじゃなくて、その人の想いを背負って、生きていくことが大事なんじゃないかな。彼も、セルティアくんに自分を責めて欲しいとは思ってないと思いますよ」


顔の火照りが、すぅっと冷めていく。ふう、と息を1つ吐けば、目の前の景色が戻ってきた。


「......ありがとうございます。冷静さを欠いていました」

「良かった。戻ってくれたんですね」

「ティさんには俺らがいるんだから、だいじょーぶ!」


白銀先生がそっと俺の体を離す。ウィアレルに手を引かれて立ち上がれば、2人はふっと笑った。


「......出ましょうか。ここは幾分か、空気が悪い」


そう言えば、2人は同時に頷いた。










____「親子の感動ストーリーモード、完結〜」


「なっ、!?!?」




俺らの目の前に降り立った影は、仮面をそっと3本の指で支えながら、篭った声で笑いながら言った。



「じゃ、ここからは、第2章!殺人ゲームの、はじまりはじまり〜」




その声はあまりにも異質に、爛れた大地に響き渡った。





To Be Continued!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ