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最果ての主人公  作者: 錦乃 神矢
第1章 勇者ウィアレル育成計画
26/29

"元"天才勇者、過去を知る。

「......旦那、リズは」


センヤの問に、静かに首を振って答える。

2匹は明らかに落胆したように、「そうですか」と言った。


「まあ、兎にも角にも、助かった。お前らのおかげだ」

「いや、おらたちは別にいいだが......」

「旦那の役に立てたなら、それでおらたちは幸せっすけど......」


今までの威勢は何処へやら。2匹とも肩を落とし、悔しそうに俯いていた。


「......リズのことなら、お前らのせいじゃないんだから気にすることないだろ」

「気にするっすよ!!おらたちはずっとリズの傍にいたっす。それでも気づけなかった自分が情けない.....っ!!リズは、リズは、こんなおら達にも優しくて......おら達に優しくしてくれるハムスターなんて、少ないのに......」


鍛冶場ハムスターは、他のハムスターより差別されることがある。戦場に立たず、主と一緒に旅もしない、ただ使われるだけの存在。そう思われ、虐げられることも少なくない。




「...........おらは、気づいてただ」


「......なっ?」


メルドが突如上げた言葉に、耳を疑う。


「リズ、途中から、息を切らしてただ......でも、おらが声をかけたら『馬鹿、集中しなさい』って......」

「おまっ、!?なんでそれを早く言わなかったっす!!!」

「言えるわけがないだ!!!」


メルドは、空気が震えるほどの大声をあげた。

俺もセンヤも、思わず目を見開く。


「最初はおらだって言おうとしただ。でも、リズがおらの手を引っ張って、静かに首を振っただよ。言葉こそなかっただが、あれは明らかな覚悟だっただ。旦那のために最期を尽くそうっていう覚悟を、おらが勝手に破るわけにはいかないだ!」

「だからって言ったって、今この状況を見るっすよ!!このままだと、リズは死んじゃうかもしれないっすよ!?」


「ほらほらお前ら、その辺にしておけ」


そのまま魔力でも飛ばしそうな雰囲気のある2匹の間に、手で壁を立ててやる。


「リズは老衰だ。別に気づけなかったセンヤの所為でも、リズを想って言えなかったメルドの所為でもない。強いていえば、老体の体に無理をさせた俺の責任だ」

「旦那......」

「お前らが不死だからハムスターの特性を忘れていたが、ハムスターの寿命は元々2年なんだ。それを通り越して頑張ってくれていたリズには、申し訳なさと、溢れるほどの感謝を感じている」


前世で俺は、この2匹に不死魔法をかけた。そのお陰でこの2匹は何年間も生き続けることが出来るし、食べなくても死なないのだ。

しかし、リズはいくら転生者とはいえ、ハムスターなのだ。2年経てば、やがて体は弱っていく。


「だからほら、お前らはお互いを責めるんじゃなくて、リズに精一杯の感謝と、応援の念を送ってやれ。リズはまだ死んだわけじゃない、まだ生きているんだ。......俺の相棒を、勝手に殺すな」


怒気を含めて言えば、センヤとメルドは体を震わせた。


「も、申し訳ないっす......」

「すまないだ......」



__これからもよろしくね、相棒


出会うべくして出会った2人。

リズは、そう言っていた。


リズたちの魔力のお陰で、鈍い音を立てながら動き出した機械。

リズにも、宣言したのだ。

俺が世界を救うと、宣言したのだ。

その手前、情に流され、トラウマに縛られ、震えているのでは話にならない。



「......待ってろ、リズ。再び世界を救って、戻ってきてやる」


その時には、お前の前世についても、教えて欲しい___













機械を抱えながらマンションに戻れば、ウィアレルが直ぐに出迎えてくれた。


「お帰りなさい、ティさん!遂に出来たんですね!?」

「......ああ」

「相変わらず器用ですよねぇ......」


何も知らないウィアレルの純真な笑顔。

俺は何も言わずに、機械を机の上に置いた。



「ウィアレル。これから戦いになる。装備の手入れは済んでいるか?」

「勿論ですけど......今日これから行くんですか?」

「当たり前だ」

「だっ、駄目ですよ!せめて明日にしません!?じゃないとティさんの体が」

「黙れ!!!!!」


後ろでウィアレルが、ひゅっと息を飲んだのが分かった。

少し気の毒だが、この戦場では一日の遅れが命取りなのだ。ウィアレルだって、物凄い努力をして心臓メタルを集め切った。その努力も、無駄には出来ない__!


ボーリング資料の土を全てバットに移し、その中から魔力の含まれている部分だけを取り出す。集中して目を凝らせば、見るだけで気分が悪くなるほどの赤黒い魔力が、土の中に染み付いているのがよく分かった。

時折その魔力の色に目を炒めながら、充分な量の魔力土を1本の試験管に採取し切り、そこに1滴、水を垂らす。


「リズ、ここに......」


言いかけて、口を噤む。


「......ウィアレル、ここに魔力を込めてくれないか」

「...........え、俺ですか?リズじゃなくて?」


不思議そうに聞き返すウィアレルに、目線で訴える。ウィアレルは戸惑いの表情を浮かべた後、「......分かりました」と頷いた。


「ほんの少しでいい。この土を覆いかぶせるように魔力を流してくれ」

「はい......"S-2"!」


ウィアレルは試験管を包み込むように持った後、魔力を流した。ふわりとした、7色の魔力がウィアレルの手の平から溢れる。

確かにウィアレルの魔力の色も綺麗だが、リズのは矢張り美しかった。


「......こんな感じですか?」

「ああ、助かる」


試験管の中の土は化学反応を起こし、一気に固まり、色がおぞましいほどに変化していく。

その状態を保ったまま、試験管を機械に押し込んだ。

機械にUSBメモリを差し込み、事前に作っておいた検査データを読み込ませる。機械が鈍い音を立てて動き出し、重いデータの処理を始めた。


ウィアレルとの沈黙が続く。息の音がやけに耳についた。ウィアレルの目線を偶に感じ、無意識に目を逸らした。


実際には5分ほど、体感時間は30分。検査終了の合図の音が鳴り響き、俺は目線をあげた。

魔法を唱えた時のリンクの心情が、これで読み取れた筈だ。

恐る恐る、画面をのぞき込む。



【ボクハ ドンナシュダンヲ ツカッテモ ソフィチャンヲ テニイレル】



酷い吐き気と目眩に襲われ、俺は膝から崩れ落ちた。

ウィアレルが慌てて傍に寄ってくるのを感じながら、頭の中で言葉を反芻する。


ゼロの柱から南南東の地域にあり、かつ、俺に関連する場所。

カンネルの町、ドッソレーヌ港、海底のダンジョン、アゼリオンの村、アーセヌ族の集落、そして、海と光の集落。


当てはまるのは、最も最悪な答えは、ひとつしか無かった。





「海と......光の、集落......ッ!!!」


俺の、故郷。




「......いくぞ、ウィアレル。海と光の集落だ」

「え......えっ?」


剣とブルーハットを引っ掴み、俺はマンションを飛び出した。













衛兵に鍛冶場の鍵を返し、フレイムハイを出ようとすると、後ろに何者かの気配を感じた。

振り向くと、そこには私服姿の見慣れた人の姿。


「......セルティアくん、ウィアレルくん」

「白銀、先生」


白銀先生は、真面目な顔で俺らを見回すと、口を開いた。


「行くんですよね、戦いに」

「......はい」


頷くと、白銀先生は俺の目を真っ直ぐ見据えてくる。





「僕も、連れて行ってください」

「...........え?」

「へっ、?」


2人して間抜けな声をあげる。

連れて、行く?それは、つまり......


「......俺らについてきたら、人を殺すことになります。それに、死ぬかもしれないんです。そんな危険な戦いに、巻き込むことなんて出来ません」

「死ぬかもしれないのは、君たちも一緒のことじゃないんですか?僕は、自分より若い、まだまだ未来がある14、5歳の子がそんな場所で戦わなきゃいけないのはおかしいと思う。決して足でまといにはなりません、僕も君たちの役にたちたいんです!」


「......正直に言いますが」


俺はふう、と息を吐き、白銀先生と目を合わせる。

白銀先生の目は、揺るがなかった。


「殺人は犯罪です。犯していい罪じゃない。そんなことを、王の専属医師である白銀先生がして良いとでも?」

「ちょっ、ティさん!?」

「それに、殺人は人によってはトラウマに成り得ます。俺は組織にいた頃に何人もの人を殺しましたから慣れていますし、ウィアレルには勇者として、人を殺す感覚に慣れてもらわなくてはなりません。しかし、白銀先生はそんなものに慣れる必要は無いんです。俺はそんな人を......巻き込みたくない」


多少キツい言い方になってしまったが、白銀先生の平穏な未来を守るためにはこれくらい言っておかないと。

白銀先生は静かに目を伏せ、ふっと笑った。


「分かっていますよ」

「......え?」

「僕は今までに2人、人を殺しました」


悲しげな笑顔で。

白銀先生は言い切った。


「1人は僕の弟、もう1人は中学時代の同級生の女の子です。2人目の子には、組織『リンク・レイン』が関わっていました」

「なっ!?」

「僕の同級生の振りをして紛れ込んでいたある男の子が、組織の幹部だったんです。その女の子は、知らずのうちにその幹部に恋に落ちました。......そこまで計算されていたのです」


駆け落ちしよう。幹部のその一言に、女の子はすぐに頷いた。そして、連れていかれたのは組織の本部。そのまま彼女は実験に使われることとなる。


「......彼女も僕も、人間界出身です。彼女は、人間界出身だというのに、特殊な能力を使うことが出来ました。ただ、この魔界の人間のように、様々な魔法を使うことは出来ませんでしたが」


__この世には、5つの『惑星世界』があるということはもう話しただろうか。

ひとつはここ『魔界』、そして『人間界』、『真界』、『神崇界』、最後の1つは未知の世界だ。

白銀先生の話に出てきた人間界の人間は魔力を持たず、魔法を使うことが出来ない。俺と同じように魔力が0、というわけではなく、そもそも内臓に魔力回路が無いのだ。


「彼女は散々実験台にさせられました。しかし、その幹部も次第に彼女のことを好くようになっていったのです。彼女の命も危険になってしまうような壮大な実験を企画されていることを知った彼は、彼女を連れて組織を抜け出し、2人で海に飛び込んだ。......幹部は助かり、彼女は助かりませんでした」


白銀先生は俯きつつ、悔しそうに言った。


その後その幹部はリンクに再び捕らえられ、それから連絡がつかないという。

そして、驚くべきことに、彼女の能力は、その周りにいた人物に継承されたらしい。


「僕は彼女から、『人の痛みを分かち合う能力』を継承しました。その名の通り、僕の手に触れた人が、どこをどう病んでいるか、当てることのできる力です。その他、炎間と浅野もそれぞれ、『未来を見る力』、『過去を探る力』を継承しています。そのお陰で、魔力がない僕らでも魔界の医者としてやっていけてるわけです」


もっとも、あまり使いたくない能力ですけどね、と白銀先生は笑った。


「組織『リンク・レイン』を恨む気持ちはセルティアくんと同じです。僕は、彼女が幹部に狙われていることを知りつつ、何も言わなかった。見殺しにしたんです。過去の自分への恨みもありますが、結果的に彼女を殺したのは彼奴等です。......僕は最後まで、あの幹部が悪い奴には見えなかった。妹思いの優しい兄貴にしか見えなかった。組織に抵抗することで、彼女の無念を晴らし、あの幹部を救ってやりたい」


白銀先生は、ぐっと拳を強く握り締め、言い切った。

__それは、命を賭した覚悟の現れだった。



「......分かりました」


その幹部に、検討がついている。

確かに、彼は悪い奴では無かった。俺と同じように、組織に居るしかない人生を送っている人だ。



「一緒に行きましょう、白銀先生」

「よろしくお願いしますっ!!」


俺らが言うと、白銀先生はぱっと顔を綻ばせた。


「はい!よろしくお願いします!!」



一匹減って、一人増えた俺らの新しい旅が、今、始まる。




To Be Continued!

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