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最果ての主人公  作者: 錦乃 神矢
第1章 勇者ウィアレル育成計画
24/29

"元"天才勇者、その正体。

翌朝。

俺はリズとグレイを連れて、鍛冶場の前に来ていた。

鍛冶場の鍵と、ボンベ5つ分の医療用魔力を貰い、それをグレイの収納魔法の中にしまっている。流石に1人じゃ持ちきれないからな。


鍛冶場の鍵を貸してもらうにあたって、約束事項が4つあった。

・他人に渡さないこと

・破棄しないこと

・鍵を持たない人を鍛冶場に入れないこと

・外へ持ち歩かないこと。フレイムハイを出る時は必ず鍵を衛兵に返すこと


鍵を無くすと罰金だそうだ。恐ろしい。

因みに、モンスターは出入り可能だそうだ。だそうだ、というよりかは、出入り可能に俺がした。前世の俺がな。


錆び付いたドアノブに軽く油を挿してから、鍵穴に長い鍵を差し込む。かたん、という子気味の良い音が響き、ほんの少し扉が開いた。


「グレイ、点灯魔法の発動準備を」


グレイは頷いて、魔法の展開を始める。いくら朝早いとはいえ、中は恐らく真っ暗だ。電灯だって何年も交換していないだろうから、切れていてもおかしくはない。


「ほら、リズも起きろ」

「ん......まだ朝だよ......?ハムスターは夜行性なんだよ......」

「昨日あれだけ明日は朝から働けと言っただろうが。ほら、起きろ」


強引にポケットから引き摺り出すと、リズは寒そうに身を震わせた。


「冬だよ......冬眠の時期だよ......?」

「人に飼われたハムスターは冬眠などする必要はない。ほら、行くぞ」


ドアは、嫌な音を立てながらゆっくりと開いていく。

グレイは準備していた点灯魔法"L-1"を発動した。


案の定、中は恐ろしく暗い。グレイの明かりを頼りに、電灯のスイッチを入れると。







「だんなぁあああああ!!!!!」

「フィウスのだんなぁああああ!!!!」


明るくなると同時に、飛びついてきた影が2つ。


「一体今の今までどこいってたんすかぁ!!!おら、心配で心配で仕方なかったっすよぉお!!」

「ほ、本当にフィウスの旦那か......?お、おら、夢でも見とるんやなかろか......」


前世の知人、いや、知ハムスターの2匹。やはり残っていたのはこいつらだったか。

鍛冶場ハムスターは視力がとても低い。そのため、人を見分ける時は魔力波で感知する。フィウスとセルティアの魔力波はとても似ているどころか、ほぼ同じだ。よくよく調べれば多少は異なるものの、鍛冶場ハムスターにその違いを見分けるだけの能力はないため、迷いなく俺をフィウスだと認識したわけだ。


「久しいな、センヤ、メルド。残っているのはお前らだけだったか」

「そうっすよぉ!フィウスの旦那がこっちに来なくなって20年くらい経って、だんだん来る人が減ってったっす!それに伴ってハムスターたちも皆死んでって......おらたちの目の前で......みんな......」

「結局残ったのはおらたちだけで、衛兵も来ねくなっちまって、機械整備もおらたちだけでやっただ。でも、旦那の資料はちゃんと2人で誰にもバレないように守り切っただ!」

「そうか、それは苦労をかけたな」


目の前で誰かが死ぬのは、自らの死よりも恐ろしい。同族だと尚更だ。200匹のハムスターが目の前で次々に死んでいくのを見て、相当辛かっただろう。


「俺の用事が済んだら、また新たなハムスターを用意するよう王に言っておく。鍛冶場の利用者も増えるよう、こっちから手回ししておく」

「ほんとっすか!?さっすがフィウスの旦那ぁ!」


「フィウス......?」


終始話を聞いていたリズが、ここで初めて声をあげた。

グレイも、不審げに俺と2匹のハムスターを見ている。


「ねえセルティア、フィウスの旦那ってどういうことよ?あんた達は元々知り合いだったの?それに、この薄汚いハムスターとフィウス様に何か関係があるわけ?」


グレイも同意するように頭を激しく上下にふる。

グレイも、リズでさえ、俺がフィウスの転生体であることは知らない。

ここは1つ、すっとぼけてみようか。


「何を言ってるんだ、リズ。俺は前勇者、フィリア・ウラルリース・グレンの転生体だぞ?昔に言わなかったか?まさか忘れたとか言わないよな?」

「......はっ?」


言ったことなどない。

俺の正体を明かしたことなど、この世界では1度もない。

さあ、どう出る?


「ひっ、人違いよ!あたしじゃないわ!聞いたのなんて、今が初だわ!冗談もほどほどにしてよね!」


おっ。

流石だな。騙されないか。


「っていうか、何を罰当たりなこと言ってるのよ!フィウス様の名前を冗談に使ったら、祟られるわよ!」

「じゃあ聞くが、何故今まで気づかなかった?フレイム杯でも、今まででも、俺は20000番以降の魔法を軽々唱えてきただろ。20000番以降の魔法を唱えられるのは歴代勇者だけだ。なのに何故、魔力が0のはずの俺が、一発本番で魔法を成功出来た?何故俺は、魔力が0なのに、こんなに魔法に詳しいんだ?」

「......それ、は」


言葉に詰まるリズ。

人間にバレなければ、俺の正体は誰にバレてもいい。人間は、やったら俺の事を過剰に崇拝しているから、バレたら動きにくくなって大変なことこの上ない。が、モンスターは俺を恐ろしい存在だと認識するものが多いから、知られたことで何の問題もないのだ。


「......あのお、旦那ぁ、そのハムスターは?」

「ああ、こいつはリズだ。とんでもない魔力を持つから、鍛冶の要員に連れてきた。センヤ、メルド、色々教えてやってくれ」

「了解したっす!」

「任せてくだせえ!」


リズを近くの机の上に下ろし、ついでにセンヤとメルドも一緒に置いておく。

一緒に、予め持ってきていた食パンを1切れ、そのまま机の上に置いた。


「3匹で分け合って食えよ」

「うわああ!!!流石っす、フィウスの旦那ぁあ!!」

「ほんと......ありがてえっす......ありがてえ......」


まだ固まっているリズの腹をそっとつつき、「お前も食っておけよ」と言っておく。


「内部の点検に行ってくる。リズに色々話してやれよ」

「分かってるっひゅ!」

「食いながら喋るな」


全く、食い物のことになるといっつもこうだ。

前世でも、こいつらの食べ物への恨みは凄かった。




__「セルティア!」


歩き出した俺を呼び止める声。リズだ。


「......アンタが本当にフィウスの転生体なんだとしてもさ、」


リズはいつもより低い声で、呟く。


「アンタがセルティアなことには変わりないから。落ち着いてるように見えて実は怖がりで、頼れるようで頼れない、魔法技師のセルティアであることに変わりはないから。アンタへの態度を改めるつもりはないからね?これから、フィウス様って呼ぶつもりもないからね?」


...........。

実に、リズらしい。

こういう返しの言葉を、俺は待っていた。

フィウスの人生が嫌で、決意した転生の道。なぜ、転生してまで天才勇者と呼ばれなければならない。


「......分かってる。ありがとな、リズ」

「な、何がよ?」

「何でもない」



__リズ、ありがとう。

いつも、文句を言いながらも傍にいてくれて。

俺のことを、良く分かっててくれて。











再び歩き出した俺の耳に、魔法を展開する音が響いた。

グレイが、ひとりでに"Z-342"を展開している。テレパシーで自らの想いを他人に伝える魔法だ。モンスターは通常人間の言葉を話すことが出来ないので、この技が使われることが多い。


「......ついて行っても?」

「ああ」


恐る恐る、といったようにグレイは言葉を発した。


「あの、ティくん」

「何だ?」

「......実感が、湧かない。だから、もう一度聞く。本当に、フィウス様なの?」


モンスターらしい片言。

実感が湧かないのも頷ける。いきなり、前世で最強勇者でしたーなんて言われて、素直に受け入れられる奴はそうそういない。


「証拠を見せてやろうか?」


そう言えば、グレイは首を傾げた。


「この鍛冶場には、フィウスとその時の関係者しか知らない隠し倉庫がある。恐らく、センヤとメルドも知ってるな」


だんだんと暗くなってくる廊下に、グレイが更に光を強める。多くの機械が立ち並ぶ細い廊下を抜ければ、一段と広い大広間に出た。何も無いこの空間からは、通常8種類の倉庫に繋がるが、俺が内密に開発していた機械の設計図を封印した9つ目の隠し倉庫にも繋がっている。今回は、前世から開発していたその機械を造る。


「ウィアレルには内密にしてろよ?」


そう言ってから、持っていた小型ナイフで左指の腹を割く。燃えるような熱さが指先に走り、血が溢れ出した。


「だ、駄目です」

「ほんの少しだけだ」


指先から溢れ出した血液を、第6倉庫と第7倉庫の間の壁に押し付ける。


「"S-20009"、"S-2"」


唱えれば、指の腹から多量の血液が飛び出して壁の一角を縁取った。

そして、ここからが問題だ。


『暗唱番号を答えよ』


音声が、どこからかそう言い出す。この暗唱番号、徹底的に長くした記憶がある。しっかり覚えているだろうか。


「......188、650777814861597、......なんだっけか」


不味い。

飛んだ。しかし、ここは突っ切るしかない。


「02040298914761、......95538747」


どうだ。

いけたような気もするが。


『暗唱番号が違います。排除モードに入ります』

「ま、待て!本人認証モードに切り替えろ!」


排除モードも、俺が考えたからくりだ。超ハイレベルなモンスターを何体も召喚し、殺す勢いでその場を追い出す。そこまでして守りたい資料だ。


『本人認証モードに切り替えます。名前を言ってください』

「フィリア・ウラルリース・グレンだ」

『ウラルリース様の認証コード、検索中......一致しました。それでは認証を開始します』


ここからが正念場だ。ここで少しでも間違えれば、グレイ諸共生きては帰れない。


そしてここからは、言語が変わる。俺が15歳の時、完全オリジナルで作った言語で、解読出来る者は俺の他に東雲と春宮だけだ。


『Omoiho-Newagiwako?』

「......Oo」


__お前は、人間か?

__ああ。


『Newagiwa-Ta-Mawasutou-Na-Dachiro-Go-Sukeko?』

「Newagiwa-Ho-Keroedo」


__人間とモンスターのどちらが好きか?

__人間は嫌いだ。


『Hozemeta-Seeka-Shito-Mohauho?』

「"L-57"do」


__初めて成功した魔法は?

__"L-57"だ。


『Mattama-Sukeno-Mawasutouho?』

「Mawasutou-Ho-Darima-Anozedo」


__最も好きなモンスターは?

__モンスターはどれも同じだ。


我ながら雑な言語だ。ちょっと頭がキレる人なら、直ぐに現代語訳出来る。

だが、過去の回答と一語でも違えば、一瞬で奈落の底だ。

これこそ全部合っていると信じたいが。


『認識中......確認しました。おかえりなさいませ、ウラルリース様。50年以上ログインが無かった為、情報を更新します』

「いや、今はいい。それより、9番倉庫の入口を開いてくれ」

『了解致しました。しばらくお待ちください』


どうやら合っていたようだ。不安な部分もあったので、少しの安心。


「どうだ、グレイ。実感が湧いたか?」

「暗唱番号、間違えた」

「言うなよ......」


仕方ないだろう。あんな長いの、覚えられる方がおかしい。


「あの言語って、フィウス様が作った、あの伝説のフィウス語?」

「伝説のフィウス語って何だよ。まあ、俺が作ったことには違いないな」

「みんな、言ってる。伝説のフィウス語って。情報を仲間と共有する時に使った、伝説の言語だって」


ダサすぎる。

フィウス語ならまだしも、その前に『伝説の』がついているのが邪魔すぎる。


「フィウス語、初めて聞いた。感激。やっぱり、フィウス様なんだね」


目を輝かせたグレイは、俺の足元に頭を擦りつけてきた。


「フィウス様、憧れ。かっこいい。会えた、嬉しい。一緒に旅してる、嬉しい」


モンスターの片言でストレートに言われると、ちょっと照れくさい。


「過去にお前の同族を殺して回ってたんだぞ?」

「関係ない。フィウス様、伝説の勇者。凄い」

「これから、ウィアレルと一緒にお前の仲間を殺すかもしれないのに?」

「いい。フィウス様、ウィアレルくんを支えてる。自分の仕事、終わったのに、子孫の手助けしてる。優しい。偉い。凄い」


片言度が増した。

人間に褒められるのと、モンスターに褒められるのだったら、断然モンスターだな。人間は、本心かどうか分からないことまで言ってくるからな。素直なこいつらに言われると、断然嬉しい。


『第9倉庫を開きました。どうぞ、お進みください』


音声が聞こえてきて、かたん、と鍵の外れた音がした。指から溢れた血を軽く吸って吐き出してから、床のタイルの1面を叩く。

この叩く位置が少しでもずれていれば、モンスターに襲撃される。それほど、厳重に保管しているのだ。


位置は見事に正解していたようで、叩いた部分が轟音を立てながら開いていく。


「第9倉庫は地下だ。行くぞ」

「......うん!」


グレイが意気揚々と俺の頭の上に飛び乗ったのを確認し、俺は現れた泥沼に飛び込んだ。

......何故過去の俺は、こんなに汚い仕掛けにしてしまったのだろう。









To Be Continued!

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