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最果ての主人公  作者: 錦乃 神矢
第1章 勇者ウィアレル育成計画
23/29

"元"天才勇者、答えを導く。

あけましておめでとうございます。

この世界線では、まだまだ12月。

本年も、頼りない"元"勇者と純粋おバカな"現"勇者をよろしくお願いします。

随分賑やかになったことだ。

戻ってきたウィアレルは、吸血ピジョンのサワーの他に、更にモンスターを増やして帰ってきた。鋼鉄ウルフのライヴァン、跳躍ラビットのエスタとムギヤ。どれもが子供であるが、どの奴らも元々の種族値が高い為、今回の旅路では相当な戦力になった筈だ。どれもが、一撃で成人男性を仕留めるだけの火力を持つ危険なモンスターだからな。


「いや、なんか子供ってどうしても殺しにくくて。可哀想になっちゃうんですよね」


そういうウィアレルの気持ちも分からなくはない。モンスターは子供の頃、人間に対して強い恐怖心を抱いているが、大人になるとその恐怖心を捨て去り、我が身を顧みず襲ってくる。向こうからいきなり襲ってくる分にはこちらも倒しやすいが、俺らの姿を見て震えているような奴らだと、どうも殺しにくい。

ただ、モンスターの子供と呼ばれる時期はとても短く、生まれてから1週間でもう大人と呼ばれる体にまで成長するので、モンスターの子供を見かける機会というのはそう多くない。今回のウィアレルのように、一定の種族のモンスターを殺す目的でも持たなければ、そう遭遇することは無いだろう。


そしてウィアレルは、しっかりと心臓メタルを集め切っていた。

俺が提示した個数より、どれもが1〜2個多くなっている。良く分かっている勇者様だ。

提示した期限は2週間以内であったが、俺は心の中ではもう1〜2日はかかるだろうと踏んでいた。それでもウィアレルにしては相当頑張ったと褒めてやるつもりでもいた。

しかし、ウィアレルは想像を超える1週間という速さで集め切った。全盛期の俺より1日だけ長いだけだ。

こいつは、俺の思っている以上に勇者としての素質があるのかもしれない。怒られすぎて自信を失い、自らの真の力を体の奥底に封じ込めていた過去を振り切り、今、自分自身でモンスター討伐への力を着々とつけている。


「......流石だな」

「え?何がですか?」


言ったらきっとこいつは調子に乗る。ここは黙っておこう。







相当疲れ切っていたウィアレルとモンスターたちを、この街の銭湯へ行かせると、俺は家で東雲に貰った資料を見返した。因みに、白銀先生もウィアレルと一緒に行かせた。しつこくウィアレルに「ティさんも一緒に行きましょ!」と誘われたが、今すぐにでも解ききってしまいたかった為、断った。求まった答えによっては、夜にでも行こう。


すっかり短くなってしまった鉛筆を手に取り、残り少なくなった計算用紙の新たな紙を用意する。今まで計算した中の必要な部分だけを纏めた紙を見返しつつ、方程式を立てていく。


「...........36、の2条、......が、」


長かった。

長かった戦いが、今、終わろうとしていた。


「X=......602380993√2......出た......」


Xの億の位は、6。

つまりは、南南東だ。


達成感に浸りそうになる心を必死に押さえつけ、浅野先生から貰った地図を広げる。

前世に比べてだいぶ地域区分が変わっていたり、街の区切り方が変わっている為、俺の記憶だけを頼りにする訳にはいかない。

中央にある『ゼロの柱』から、16方位に赤ペンで線を引く。そして、その中で南南東にあたる範囲を斜線で示す。


「当てはまるのは......」


カンネルの町、ドッソレーヌ港、海底のダンジョン、アゼリオンの村、アーセヌ族の集落のうちの1つ、そして、海と光の集落だ。

1番怪しいのは......海底のダンジョンか?ダンジョン系は、モンスターの巣窟であるが、地下へ進めば進むほど強大な魔力波が壁から放たれるようになる。その空間で自らの魔力を一気に放出でもすれば、一気に城下町1つを吹き飛ばす爆発を起こすのだ。

カンネルもドッソレーヌもアゼリオンも、奴には無関係の街だ。少なくとも俺があの組織にいた頃には、その村々出身の奴隷は1人も居なかった。

だとしたら、次に怪しいのはアーセヌの集落か。確かにアーセヌ族は高い知能を持つため、支配下に置いてもおかしくはないが。

......海と光の集落?あんな小さな村、支配下に置いたとことで奴隷に出来る人なんて30人も居ない。子供も少ないから、襲っても何の価値もない。得られるものと言ったら、真珠の採れる洞窟だけだ。

ただ、この集落は俺、セルティアの出身地でもある。心配じゃないといえば嘘になる。


すぐにでも、ウィアレルが集めてくれた材料を元に作業に取り掛からないとな。














「......鍛冶場を使うのに、王様の許可が要るのか?」

「そうだ。フレイム杯の優勝者であるお前ならすぐに許可は出るだろうが、一応決まりなものでな。もう何年も使われていないから、王様が許可を出さない限りは俺らですらも入らせてもらえないんだ」


そう言って衛兵は、申し訳無さそうに眉を下げた。

もう何年も使われていないのか。だとしたら、魔力供給用のハムスター族ももう皆死んでいるだろうか。だとしたら少し不味いが。

心臓メタルの加工には、魔力を流し込んで溶かす以外の方法がない。どんなに高い温度の熱を加えても、溶けるどころか変形もしない。だが、魔力を物凄いスピードで流し込めば、みるみるうちに溶けだしていくのだ。

鍛冶場には通常、魔力供給用のハムスター族が100〜200匹ほどいる。うちのリズをはじめ、ハムスター族は皆とてつもない魔力量を持つ。それ故に、心臓メタルを加工する時は、最低70匹のハムスター族が使われるのだ。


「王様の許可はどうしたら貰える?」

「規定の戦術試験を合格するか、フレイム杯のCランク以上での優勝経験があり、かつ王様との面接で許可が出ればだな。この試験に合格すれば、鍛冶場の利用権利だけじゃなく、図書館の古文書を借りる権利も得られる。権利がなければ古文書は貸し出しできない決まりなんだ。お前は1度Cランクで優勝してるから、王様の面接だけだな。今すぐにでも受けられるが、どうする?」

「今すぐにでも受けられるのか?」

「ああ。今は行事も少なくて、比較的落ち着いた時期だからな。むしろ、これから年明けに向けてどんどん忙しくなっていくから、受けるなら今しかないぞ」

「そうか。では、今すぐ頼む」

「分かった。王様にお伝えするから、城の中へ入って待っていてくれ」


衛兵はそう言い、軽く頭を下げて去っていった。

......しかし、言葉遣いの使い分けにも慣れたものだな。衛兵に対しては敬語を外す。じゃないと、まず冒険者として見てもらえない。敬語を使うと、自分に自信がないように見られ、舐められる。だが、医者や年上の人など、自分より身分が上の人に対しては好青年を演じる。すると好かれる。馬鹿げたものだ。

無論、同年代の人や年下の前では、居たい自分で居られるから1番気楽だ。その分、好かれるか嫌われるかは自分次第だが。


ふと、ウィアレルの顔が頭の中に浮かんだ。

最終的には、ああいう子犬タイプが1番好かれるんだが、俺には到底無理だな。

















「久しいな、セルティア殿」

「ご無沙汰しております、王」


フレイムハイ王は、そう言って懐かしそうに目を細めた。


「またここ、フレイムハイに戻ってきてくれて、感謝する。もう体調は大丈夫か?」

「はい。もう腕も完治しまして、何ともありません」

「それは良かった。そういや最近、うちの白銀たちがやたら貴殿の家に出入りしているようだが、迷惑ではないか?」

「迷惑なんてそんな。沢山のことを助けて頂いて、感謝の言葉もありません」

「そうか」


王様は満足そうに伸び切った無精ひげを触る。


「して、今日は鍛冶場の使用許可を得たいと。そういう人が来るのは、私の代では初めてだ」

「そうなのですか?」

「ああ。父上の代も数える程しか来なかったそうだ。鍛冶場で、何を作るつもりだね?」

「心臓メタルを使った......精密機械の製作を。同時に、鍛冶場ハムスターの使用許可もいただければと思っているのですが」


ストレートには言い切れない。一般には出回るどころか知られてさえいない超秘密道具であるのだ。


「ふむ、鍛冶場ハムスターか......実はだな、最近はあの鍛冶場を使う人間が居なくてな、武器や防具などはドワーフの集落からの輸入がメインとなっておるのだ。だから、職人も殆どいないし、鍛冶場ハムスターももう2匹しか残っておらんのだ」


矢張りか。

必ず優秀な2匹は残すように、と前世で念を押したため、今ではその2匹だけが残っているのか。恐らく、残っている2匹は前世の知り合いだ。鍛冶場が全盛期であった頃、俺が選抜して残すべきだと判断したハムスターで、とても高い魔力と加工技術を持つ。


「して、必要な魔力量は?」

「......削りに削って、最低50,000くらいは必要です。うちのハムスターが10,000の魔力を持っていますが、出来れば多くのハムスターを動員して1匹あたりの負担を減らしたかったのですが」

「10,000!?とことん規格外なハムスターだなそいつは......」

「ちょっと訳ありでして」


通常のハムスター族の魔力は大体2,000〜3,000、多くて5,000くらいだ。ただ、リズは10,000と少しの魔力を持つ。

リズがただのハムスターでないことは薄々気づいていたが、敢えて俺も触れないようにしていた。


「残っている鍛冶場ハムスターの魔力量は6,000くらいだと言っていたな。それが2匹だから合計12,000か。それにお主のハムスターを足して22,000。......あと28,000足りんな」

「3匹のハムスターで鍛冶を行うには、1匹に対する負担が大きすぎます。......下手すると死ぬ個体も現れると思います。しかし、成る可く早く仕上げたいので、個体を増やしている時間はないかと。そこでお願いしたいのですが、医療用の魔力を少し分けて頂きたいのです」

「医療用の魔力を?」


最終手段だ。最低2匹は残しておけとは言ったが、本当に2匹しか残っていないとは。


「医療用の魔力をそのまま鍛冶に使う訳ではありません。ハムスターに魔力を供給しつつ、ハムスターの魔力を使いたいのです。ハムスターの体力、魔力を回復しながら、魔物の体を通した魔力を使うことで、エネルギーの変換効率も上がりますし、ハムスターへの負担もかなり減ります。効率が上がれば必要魔力量も半分になるので、医療用魔力を3,000ほど買わせて頂きたいです」


医療用魔力は、鍛冶には向かない。そこで、半永久的にその魔力をハムスターに供給しつつ、ハムスターの体力を温存する。今までやったことのない荒業だが、リズと他2匹の高いスペックがあれば、なんとかなるはずだ。


「......セルティア殿は、鍛冶にも詳しいのだな。分かった。鍛冶場の使用許可、鍛冶場ハムスターの使用許可を出そう。同時に、医療用魔力を5,000、差しあげようじゃないか」

「5,000?3,000あれば足りますが......」

「遠慮するでない。大会の直後、お主へ寄付金が大量に集まったと言っただろう。その金を使っておる。多少多くて、困ることはないだろう」

「......有り難き幸せ」


深く深く、頭を下げる。

頭上で、王がはっはっは、と声をあげて笑っていた。



フレイムハイ、愛情と情熱の街。

やはりここは、良い街だ。









To Be Continued!

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