"元"天才勇者、人生を悲観する。
転生、という言葉を知っているだろうか。
死ぬ、というのとはちょっと違うな。タイムスリップ?もっと違う。
転生というのは、『今の記憶を持ったまま、生まれ変わる』ってことだ。
よく分からない?だろうな。俺も詳しいことはよくわかってない。取り敢えずは、自分の人生に飽きた奴らが別の人生を楽しむ制度って思ってくれ。もっとよく分からない?そもそも、説明がそんな上手くない俺に説明を求めたお前が間違ってんだ。別に俺のせいじゃない。
そんな転生は、誰にだって出来るってわけじゃない。
この世には、魔法レベルというものが存在する。魔法レベルを上げるには、モンスターを倒すのが1番手っ取り早いが、自分で魔法を生み出したり、威力の高い魔法を成功させることでも上げることが出来る。そのレベルが100を越えた者のみが、『転生魔法』を使うことが出来るのだ。それ以下のレベルの人が使うと、魔法の力が大き過ぎる故にその力に押しつぶされ、自分の存在自体が消滅してしまう。
ただ、魔法レベルを上げるのは、そんなに簡単なことではない。普通の人はせいぜい80が限界だし、100なんて夢のまた夢だと思われていた。事実、俺は転生に成功した人間の名前は聞いたことがない。
そんな俺のレベルを知りたいか?
__1499だ。
ああ、こいつ頭おかしいんだなっていう目線だな。
冗談じゃない、事実だ。
生まれた瞬間に「お前は勇者だ」って言われた俺は、玩具の代わりに短剣を握り、絵本の代わりに魔導書を読み耽り、離乳食は魔力向上効果のあるレンディス葉の摩り下ろしだった。無論、不味い。今でもあの頃は鮮明に思い出せる。1歳にもなってない頃だったのにな。
5歳で初めて魔物と戦って、その弱さに愕然とし、もっと強いのと戦いたい!と父に言った時に戦わせてもらったモンスター。今でもなかなかいい戦いが出来たと思っている。後々知ったのだが、そのモンスターは、レベル80の人達が束になって戦っても勝てなかった、その地域一帯のボス的存在だったのだという。
7歳にして一人旅。俺の心が騒ぐまま、俺は剣を振るい、魔法陣を描いた。気づいたら目の前にモンスターのボスが居て、3発で殺した。正直、物凄く物足りなかった。なぜ他の奴らはこんなのにも勝てないんだって思ったのが9歳。
ボスを倒してからも生き残っていた雑魚どもを全員殲滅させる目的で出発した第2の旅。わずか1年で終了し、11歳。
この世からモンスターが消えてしまったことを、人類は喜んだ。だが、俺は全く嬉しくない。__強いモンスターともっと戦いたい。もっと、もっと。
その結果、俺は山奥に篭もり、自分でモンスターを創ってはそれを倒す日々に明け暮れた。始めは俺のことを「さすが勇者フィウス様だ」とか騒いでた奴らも、俺の狂った姿にビビってみんな消えてった。13歳。俺の狂いようは自分でも自覚済だ。
なんとか27まで生きてみたはいいものの、流石にもう飽きてきた。もう一度、弱い状態から始めてみるのも良いだろう。そう思って決意した、転生。
もう1回勇者になって、やり直してみるのも楽しそうだ。俺にとってなんの色も持たない、真っ白な世界に居続けるのももう嫌だ。
レベルが1500になったら、転生しよう。そう思い、俺は山奥に自作の武器や魔法陣などを埋め、あと1レベルを上げるため、モンスターを召喚する。
「……ホワイトドラゴンか」
真っ白な毛で包まれた大きな体。光を受けて銀色に輝く翼をはためかせ、ホワイトドラゴンは大きく雄叫びをあげた。
俺はそのモンスターに向かって、問答無用で切りかかる。
接近戦に身構え、ホワイトドラゴンは大きく翼を振りかぶったが。
「甘ぇよ」
ホワイトドラゴンの面前に透明な壁を創り出し、その壁を蹴って高く飛び上がる。いきなり距離をとられたことにホワイトドラゴンが困惑する。その瞬間に、俺は剣を横に構えて魔力を流し込んだ。
「……"F-17958"」
呪文を唱えた瞬間、目の前に複雑な魔法陣が組まれ、そこから青い炎が放たれる。目の前が真っ青に染まり、熱さが一気に身体中を駆け巡った。
「"G-708"から"E-20004"!」
防御魔法と電撃魔法を同時に展開し、自らの生み出した炎の中に突っ込む。人間を一瞬で骨まで溶かしきるほどの温度がある筈の炎は、高度な防御魔法を纏った俺の前では風に等しい。
電撃が体から溢れ出し、そのままホワイトドラゴンへ向かって体当たり。
1部の優秀な魔法戦士のみが使える、人間スパークだ。
致死量の電撃を、炎を受けて弱った体で受けられるはずもなく。
呆気なく、ホワイトドラゴンは地面に落下した。
「……無傷か」
自分が無傷でモンスターと戦うのは、あまり楽しいことではない。自分も傷を負って、極限の状態で戦うことが1番楽しい。かといって、向こうの攻撃を黙って受けてやるほど、生憎俺は暇じゃないんでね。
まあ、この身体での最後の戦いは、サクッと終わらせたかったからな。丁度いい。
手元の腕時計式の機械を見ると、ちゃんとレベルが1500に上がったとある。
この機械は、俺が作ったものだ。自分のレベルは本来、『光源の神殿』に祈りを捧げることでしか確かめる手段が無いが、そんなのは面倒すぎる。そんな所へ行っている暇があったら、モンスター100匹は殺せる。
「準備は整ったな」
俺は剣に一気に魔力を流し込んだ。流れ込む魔力のスピードと量に耐えきれず、剣はパキッと音を立てて砕け散った。
それを乱雑に放り投げると、自らの家の中へ戻る。
家の地下へ続く封印扉を魔紋で認証させ、開け放った。
魔紋とは、人間一人ひとり違う、魔力の波動……要は、第2の指紋だな。
地下への階段を下ると、そこは魔力で満ち満ちた空間。
俺が普段、魔法を造ったり実験をしたりする部屋だ。封印扉の影響で、俺以外は誰も受け付けない。
内密に実験を繰り返していた、『転生魔法』。
そのまま使うのにも危険がある程、強力な魔力を必要とするこの魔法だが、俺が使うともなると話は別だ。
俺は密かに実験を繰り返し、魔法の構造を組み替えていた。
生まれた時から最強、という今回の人生は、あまりにもつまらなすぎた。だから、スタートは限りなく弱い勇者にしよう。成長がかなり感じられるくらい。
光を浴びると黒々と輝く特性を持つこの液体も、俺が開発したものだ。この中に『元』となる魔法陣を描いた特殊な和紙を漬け込むと、自分の良いように魔法を改造できる。
7年間漬け込み、殆ど原型を留めていない和紙を取り出すと、描いてあった筈の円形魔法陣は、3×3の正方形の方眼に変わっていた。
__よし、ここまでは完璧だ。
その魔法陣にありったけの自分の魔力を流し込むと、その方眼は真っ赤に輝き、『入力可能』という文字が浮かび上がった。
__いける、俺の新たな世界に……!!
紙を床にゆっくりと置き、その上に俺は魔法を刻んだ。
右、右上、中央、中央、右上、左下、右。
タ、タタン、タン、タ、タタン。
リズムよく、テンポよく。
自分自身の足先が、魔法を刻んでいく。
この後は本来の転生魔法なら、右上、左上、左、中央、下、上と続いて、最後に中央でフィニッシュだ。だが、そんなのはつまらない。俺は、とことん改造する__!!
左下、右下、右、中央、上、下、右上、左上、左、中央、下、上、中央__!!
タタンタ、タンタ、タン、タタン、タンタタタン、ターン__!!
刹那、俺の身体を真っ赤な光が包み込んだ。
__成功だ。
俺の口角が、自然に持ち上がる。
ふっと、体が重くなる。意識が消えたら最後、この身体とはお別れだ。
興奮に、意識が消えゆくのに身を委ねようとした__
その時。
「……え」
真っ赤な光は、突如として真っ黒な光に変わった。
その原因を確かめるより早く、俺は意識を手放した。
最後に見えた、【警告】の文字。
その下に、黒々と、『転生失敗』の文字が浮かび上がっていた。
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pixivからこんにちは、白狼でございます。
pixivで主に活動していた私ですが、今回、何を思ったか、
こっちに転生してきました。
まだまだ新参者ですが、どうぞよしなに。
亀更新でも許してくれる方、気長に次回をお待ちいただけると幸いです。
ではでは。
白狼 神矢