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最果ての主人公  作者: 錦乃 神矢
第1章 勇者ウィアレル育成計画
18/29

"元"天才勇者、最凶の魔物に出くわす。

たまに、魔法を唱えそうになってしまうことがある。

前世で俺は魔法戦闘しかやってこなかったから、魔法を使わない戦闘というのはどうも慣れない。確かに前世でも、呪文展開を封じる音波を出すモンスターと戦ったりしたことはある為、魔法を使わない戦闘が全くできないわけではない。しかし、その音波系モンスターと戦う際にも、まずは音波を発するスピーカー部分を即座に潰し、その後魔法を自由に展開して倒すことが多く、1回の戦闘につき最低1回以上は呪文を展開していた。

その癖が、まだまだ抜けないのだ。

フィウスの記憶が戻って3年。それだけの月日を費やしても、この癖はどうも無くなってくれないようだ。


ちなみに、S-20009番は、ウィアレルに禁止されている。


「ただでさえ貧血体質だって白銀先生は仰ってたんですよ?ティさんが魔法を使わなくてもいいように、俺が頑張りますから!ティさんはS-20009はもう使っちゃ駄目!!」


俺がどんなに言っても、これだけは譲る気はないようだった。

そしてアイツは、俺が戦闘中に呪文を唱えそうになると、それを咄嗟にフォローするようになった。


「……"E-10762"」


もちろん魔力が0の体では発動するわけがない。それなのに、たまに俺の銃剣の先から電撃が放たれることがあるのだ。それがウィアレルの仕業であることは、とっくに気づいている。ウィアレルは、俺が展開しようとした呪文を、咄嗟に小声で展開し、発動場所を俺の近くに設定することで、あたかも俺自身が魔法を発動したように見せかけているのだ。

魔法が放たれた後、ウィアレルの方を見ても、ただ何もなかったかのように「どうしたんです?」と問うだけだ。

俺はアイツに、『気遣い』なんて教えた記憶は無いのだが。



俺の熱は3日間で完全に下がり、白銀先生にあと1日だけ休んでいけと有無を言わさぬ顔で言われ、合計4日後、俺たちはフレイムハイをあとにした。結局あの後、兄たちには1度も会っていない。会ったとして、レオンハルトはともかくとしてオーガとまともな会話ができるとは到底思えなかったからだ。


これからの俺らの進路としては、モンスターを討伐しながら各地を旅して回る。その際にランクが高そうなモンスターがいれば、嬉々としてぶっ倒しに行く。それだけだ。

田舎者のウィアレルにとって、見知らぬ土地を回らせるのはいい経験になるはずだ。まあ、実際『セルティア』も田舎者。この世界の状況を知っていくのは、それが1番手っ取り早い。


そんな旅を続けて8日目。俺らは、小さな村にたどり着いた。ウィアレルの持っていた地図にも載っていないような、本当に小さな村だ。

村人たちは活気に溢れ、畑仕事に励んでいる。木を使って立てられた小さな家群の前では、小さな子供たちが笑いながらしきりにフリスビーを投げていた。井戸の周りではたくさんの女性が笑いながら世間話に花を咲かせており、男たちは剣の素振りをしたり、畑の野菜の様子を確認したりと様々だ。

実に平和な、のびのびとした風景だ。


「ティさんティさん!ここ、すっごくいい場所ですね!村全体が、あったかいです!」

「あらぁ〜、お兄ちゃんたち、旅人さん?嬉しいねえ、いい場所なんて言ってくれて」

「こんな辺鄙な場所へよく来たねえ。しかも、イケメンじゃなーい!」

「あらやだ、スズさんったら、あなた幾つよ?」


早速井戸端のおばさんたちに絡まれた。まあ、人と話す機会を得るのはそんなに悪いことではない。


「こんにちは。ええ、凄く良い村ですね。活気に溢れています」

「そうでしょう?あらやだ、お兄ちゃん分かってるわねえ!」

「あなた、冒険者?年は幾つ?」

「僕は15です。で、そっちが14」

「んまあ!随分若いじゃないの!」


このくらいの年齢層と話す時は、一人称は僕にするとウケがいい。ついでに言うと、好青年タイプはおばさんたちがよく食いついてくる。

この村では、派手に驚くのが流行しているのか。おばさんたちは、面白いくらいに俺たちに食いついてきた。


「子供たちは、みんなフリスビーで遊んでいるんですね」

「そうなのよ〜、先日、フレイムハイの商人の方が安く売りに来てくださって!それ以来、どの子も夢中よ!」


なるほど、フレイムハイの息がかかった村か。

フレイムハイはいくつかの村を支援していると聞いたが、こういうことか。

道理で、小さいのに物凄く活気に溢れているわけだ。


一方でウィアレルは、子供たちに好かれているようだ。腕を両側から引っ張られ、困っているように眉を下げていたが、まんざらでも無さそうだった。



その後もおばさんたちの世間話に付き合わされ、ウィアレルは子供たちと遊ばされ、15分ほど。そろそろ愛想笑いに疲れてきた頃だった。

うなじの毛がぞわりと逆立つ。__物凄い、邪悪な魔力反応だ。それに、かなり強力な力で。


「ティさん」

「ああ、分かってる」


言わずとも寄ってきたウィアレルに、目で合図する。

ウィアレルは頷くと、すぅ、と思いっきり息を吸って。


「皆さん!!強大な魔力反応が近づいて来ています!!すぐに、家の中へ避難してください!!繰り返します!!強大な魔力反応が……」


ウィアレルの言葉に、村が一気にざわつき始める。

おばさんたちは、焦って俺たちに近づいてきた。


「どどど、どうしましょう!?私の家、魔物なんか来たら吹き飛ばされちゃうわ!!」

「あたしの家もよ!!」


どうやら、家の耐久を心配しているようだ。

だが。


「大丈夫です。家には絶対近づけさせません。一瞬で倒しきってみせましょう」


そう言って銃剣を構えると、おばさんたちは顔を見合わせた後、頷いた。

魔物の襲撃も無かったであろうこの小さな村、不安になるのも仕方がない。

それに、俺らは14、5歳。まだ冒険者としては若すぎる年齢だ。

この若さの少年たちに命を預けるには、抵抗もあるだろう。


なんとか村人を全員避難させたところで、その強大な魔力反応は目の前に現れた。


「ティさん……」

「......ああ」


正直、予想以上の図体が、目の前に立ちはだかっていた。








サウンドドラゴン。

20m級、かなり高ランクのモンスターだ。前世では生存数はそこまで多くなく、人里離れた山の奥地でしか見かけることのなかったモンスター。普通なら温厚な性格で、こちらから襲わない限りは決して襲ってこない。しかし、そのパワーと魔力の多さは他のモンスターと比較にならないほどで、挑戦しに行った冒険者は次々と殺されていった......そんな、モンスターだ。

まあ、前世の俺なら一撃だ。もっと強いモンスターは、まだまだ居るからな。


しかし、なぜここにサウンドドラゴンがいる?

ここは田舎村とはいえ、近くに山はないし、そもそもサウンドドラゴンがここまで降りてくる筈がない。それに、こちらからは何一つ攻撃していないのにも関わらず、なぜ俺らに敵意を向けている?


疑問は幾つかあるが、まずはこいつを倒してからだな。



「いくぞっ!」

「はい!」


俺とウィアレルは同時に、地面を蹴って飛び出した。

まずはサウンドドラゴンの注意を、こちらに向けさせる。村に被害を受けさせない為だ。


「おいで、グレイ、ソウル!!」


ウィアレルが叫ぶと、何も無かった空間から2匹の獣が飛び出した。

モンスターを連れ歩いていると、たまに道行く村人にビビられることがある。だから、普段は空間に溶け込ませているのだ。


グレイは地面に降り立つと、すぐに魔法陣を展開した。

補助系魔法"S-37"。体を軽くし、素早さを底上げする魔法だ。グレイは身にまとった魔力を、3つに分けて俺とウィアレルとソウルに飛ばした。一気に体が軽くなり、足が動きやすくなる。

続けざまにグレイは、"S-40"を展開した。家群を防御壁で覆い、村の防御を固める。

ここで、サウンドドラゴンも動き出す。これ以上補助を積まれると不味いと判断したのだろう、大きな口を開いて魔力妨害電波"S-870"を飛ばした。

グレイへ飛んだその電波を、格段に素早さの上がったソウルが代わりに受ける。もともと魔法があまり得意でないソウルは、魔法が使えなくなったところで何も変わらない。


「ウィアレル!!」

「はいっ!!」


2人で同時に地面を蹴って高く飛び上がると、そのまま俺は銃を構える。ウィアレルはすぐ魔法陣を展開し始めた。


「"E-18090"ッ!!」


俺が銃を発砲すると同時に、ウィアレルが魔法を放つ。銃へ電気が纏わりつき、銃弾は一瞬にして電撃爆弾に変わった。

その気配をサウンドドラゴンが見逃す筈もなく、すぐに防御の姿勢をとられるものの。


「後ろが空いてるよッ!"S-77"!!」


ウィアレルが再び魔法を展開し、銃弾の進行方向をねじ曲げた。銃弾はサウンドドラゴンの背後に回り込み、弱点である背に向かって一気に突っ込んでいく。


「ふっ」


銃弾がドラゴンに直撃する直前に、俺は上がった素早さを利用してドラゴンの背後に回り、剣の先端をドラゴンに突き刺した。そこを避雷針として、銃弾が破裂する。破裂の勢いで吹っ飛ばされるのを利用して、俺は空中で体制を整え、ダメージを最小限に抑えて着地した。


銃弾はサウンドドラゴンの体内で破裂し、相当なダメージを食らわせることに成功したようだ。怯んだ隙に、すかさずソウルが噛み付く。


「いったか?」


避雷針として利用した銃剣は、破壊されて能力を失うだろう。それを覚悟で、俺は全力でドラゴンにダメージを与えに行ったのだが。


サウンドドラゴンは、のそり、と起き上がっていた。


「なっ!?」

「化け物かよ......」


......段違いに耐久が高い。内蔵を破壊されてもなお動き続ける、だと?

こんなモンスター、前世でも見たことがない。


サウンドドラゴンは、大きく息を吸い込むと、体を反らせる。


「っ、ウィアレル、ソウル、下がれ!!!」


俺の声にウィアレルとソウルが振り返った瞬間、サウンドドラゴンは激しく雄叫びをあげた。

咄嗟に耳を抑えたものの、もう既に遅く。

物凄い爆音が一瞬聴こえた後、ぷつりと、何も聞こえなくなった。

チッ、鼓膜が逝ったか。

他の奴らは?手を耳から離し、目線をあげると。







「なっ、ウィアレルッ、ソウル!!!」


サウンドドラゴンの大きな爪で引き裂かれ、吹っ飛ばされる2人の姿。

その体から、血が溢れ出す。


グレイが咄嗟に駆け寄り、回復魔法を唱えようとする。しかし、その小さな体も、呆気なく切り裂かれた。






「ああああああああっっっっ!!!!!!!!」





叫び声が、悲鳴が、俺の喉から溢れ出る。

本当に声に出ていたのかは分からない。

耳も聞こえず、もう目の前も真っ暗になっていた。

背後に迫る、サウンドドラゴン。




























____「みぃつけた」





その声は、あまりにも不自然に、不気味に、辺りに響いた。











To Be Continued!

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