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最果ての主人公  作者: 錦乃 神矢
第1章 勇者ウィアレル育成計画
16/29

"元"天才勇者、弱りきる。

大変遅くなり申し訳ございませんでした。

受験のため、投稿ペースは更に遅くなることも見込まれますので、あしからず。

息苦しさで目が覚めた。

見慣れぬ天井と、背中に加わるやたら柔らかい感触に、一瞬で理解した。

ああ、もう駄目だったんだ、と。

この感じは、2回目だ。兄たちに裏切られた時、実験体として研究所に送りこまれた時の感じ。

魔法が使えないクズだと知った兄たちが、俺を施設に売ったのだ。レンシア家は貧乏だ。そうでもしなかったら、一家が滅んでしまう可能性があった。その時俺は4歳。まだフィウスの記憶が無い時だ。魔法が使えない、ということで珍しく思われた俺は、高く売れたらしい。兄たちの喜びの顔を見ながら、セルティアは黒服の人達に連れ去られた。

勿論、散々実験台にさせられたさ。外から無理やり魔力を引っ張りだそうとさせられたり、毒を飲まされて、体の内側から魔力を出させようとしたり。痛かったし、苦しかった。でも、フィウスの記憶がなく、小さくて幼い弱り切った体じゃ何も出来なくて。後々知ったのだが、その施設は犯罪集団の集まりだったらしい。

でも、どんなに苦しい実験をさせられても、その後にはこの柔らかいベッドが待っていた。その柔らかさだけを求めて、幼いセルティアは耐えて耐えて......ついに実験が失敗し、理性を無くした俺が暴走すると、施設の人は誰も止められなくなり、俺はそのまま脱出に成功した。勘だけを頼りに、裸足のまま駆け回って、血を流しながら、走って走って。あの集落に戻ってこれたのは奇跡だと思う。血だらけになって戻ってきた俺を真っ先に見つけたのは、運悪くレオンハルトだった。レオンハルトは俺を家に連れ込み、家の地下に入れて鍵を閉めた。

地下には貯蔵されていた食べ物や水があり、それをちょっとずつ食べながらセルティアは3年もの年月をしのいだ。その間にリズと出会い、そして出会った瞬間に、フィウスの記憶も流れ込んできた。フィウスの知識を使って鍵を中から解錠すると、そこにはもう兄の姿はなかった。

俺は1人、取り残されたのだ。



その時の記憶が、セルティアの体自身を、心の奥底を締め付ける。もう俺もここまでか。ここまで踏んばったけど、もうキツい。もう、実験に耐えられる力は残っていない。

体を縮こませると、ちょっと安心した。けど、状況は何も変わらなくて。柔らかいベッドと暖かい布団に包まれ、『セルティア』は恐怖に体を震わせた。


「......ティーア?」


聞こえてきた俺を呼ぶ声は、誰のものだろうか。聞き覚えがあるような気もするが、その声をセルティア自身が拒絶している。ということは、施設の組織の誰かだろうか。


「気がついたのかい?」


......いや、施設の誰かにしては声が柔らかすぎる。いやでも、俺を油断させるために、敢えてこんな声を出しているのかもしれない。

好奇心が勝り、布団から目だけ覗かせる。ぱっとするような赤がまず目に入り、その赤い人物は、俺を見て嬉しそうに笑った。


「良かった。......ほら、そんなに縮こまってたら苦しくなるよ?」


その人物は、笑顔を崩さないまま、俺へ手を伸ばした。咄嗟に体を硬くするも、体が思うように動かず、されるがままになってしまう。


「今、ウィアレルくんとお医者様呼ぶからね。......よしよし」


彼はそう言い、布団の上から俺の腹に手を置き、ぽんぽん、と優しく叩いた。それはまるで、子供をあやすかのように丁寧で、暖かくて。

やがて、視界が開けてくると、人物がはっきりしてきた。

ぱっとするような赤は、髪の色だったらしい。俺と近い髪を肩の上で切りそろえ、柔らかな笑みをたたえるその人物は。


「レオン......兄さん、?」

「そうだよ、ティーア。今までよく頑張ったね、もう大丈夫だからね」


胡散臭い言葉が兄の口から飛び出す。レオンハルトがそんな言葉を本心で言う筈がないのだ。散々俺を今まで馬鹿にしてきて、挙句の果てに俺を地下に閉じ込めた張本人なんだから。

一気に鳥肌が立ち、『セルティア』の体の底から警戒音が鳴り響く。冷や汗が止まらなくなり、目の前が真っ白になっていく__


「......ティーア?どうした?大丈夫かい?」


驚いたようなレオンハルトの声。やめて、嫌だ、嫌だ__!!

レオンハルトは俺の顔にそっと手を当ててきた。身をよじって抵抗するも、体に激痛が走り、思わず呻き声をあげてしまう。レオンハルトの声がどんどん焦ったものに変わっていき、俺の名を何度も呼ぶ。

ふっと意識が飛びそうになる......そんな時に、激しい扉の開閉音が響いた。











※ウィアレル視点になります!



「......どうだった?」

「戻したよ。多分あれは血を吐いたね」


病院の懇談ルームにレオンさんと戻ると、そこにはリズとオーさんがいた。

オーさんはレオンさんの言葉に露骨に顔を顰める。


「吐血か......辛そうだな」

「うん。それにウィアレルくんにべったりだよ。......僕の顔見て怯えちゃったのは悔しいけど」

「......多分俺らはしばらくビビられるだろうな」

「あったりまえじゃない、あんた達はセルティアに最低なことをしでかしたのよ」

「わかってます」


ティさんの過去は、全部リズから教えてもらった。ティさんの過去は、リズと俺とグレイとソウル、そしてレオンさんとオーさんと白銀先生が知っている。


それに、リズは、こんなことを言っていた。



「多分だけど......セルティアは、目が覚めたらここを施設だと勘違いするでしょうね。彼にとって柔らかいベッドは何者でもないトラウマだから。......それに、アイツは恐怖を感じると幼児帰りするのよ」

「たしかに、患者さんにもたまにそういう方はいらっしゃりますね」

「ううん、多分白銀先生が思ってるのとは違う幼児帰りだわ。施設にいた時の記憶と混同して、今も自分が施設にいると勘違いしちゃうのよ。多分、誰に対しても恐怖に怯えるわ。そんな時は、セルティア、あなたが対応してちょうだい」

「えぇ!?俺ですか!?」

「セルティアはあんたのことを1番信頼してるのよ。あんたが、ここは施設じゃないんだってことを繰り返し言えば、セルティアはきっと我を取り戻すはず。レオンハルトとオーガは最悪ね。とにかく、アイツの前では激甘でいなさい」

「げ、激甘......」

「オーガ。......分かってるよ。で、どんな風に接せればいい?」

「やけに素直じゃん。えっと、レオンハルト、だっけ?あんたにはそのインチキスマイルがあるじゃない、その笑顔を浮かべながら、幼児に対するような言葉遣いでゆっくり話すの。ゆーっくりね。確かめるように、『ね?』って何度も言うのもありね。んで、猿は......」

「俺のことかよ!?さ、猿じゃねーし!!」

「ほらほら病院内だから静かにして。そうねえ、猿は......セルティアと接触しないで」

「何で!?」

「まず声がでかい。それと、試合中だけでも沢山セルティアに暴言浴びせてたじゃない。信用ならないわ」

「なっ......お、俺だって、心を入れ替えてっ......!」

「それは何度も聞いたわ。でも、そういう短気な性格で騒がれても困るのよ。それはレオンハルトもだわ。絶対に暴言は駄目。なにかあったらすぐウィアレルを呼ぶこと。ウィアレルが何度も話しかければ、大抵は治まるはずだから」

「俺、精神安定剤?」

「その通りよ」


という会話があり、なんと俺はめでたくティさんの精神安定剤になっております。実際、俺が話しかけれた時にティさんは反応を返してくれた。ティさんが俺を信頼してくれている。その事に、自然に頬が緩んだ。




ティさんは腕からの出血多量で倒れ、すぐに王城の専属医師の白銀先生が呼ばれた。その後、パニックになる会場内を王様が自ら鎮められ、その間にティさんは担架で運ばれていった。

その様子を終始見ていたレオンさんとオーさんは、突如地面を叩いて悔しがったのだ。傍にいた俺は、彼らが何て言ったのか、容易に聞き取れた。


「......ごめ、んな、ティーア......ッ!!」

「俺らが、あの時、もっと別の方法が出来ていればっ......!!」


その言葉は、どう聞いても、試合に負けたことに対するものではなかった。

思わず俺は、彼らに手を差し伸べていた。


「......一緒に、ティさんのとこ、いきましょ」









彼らは、俺とリズに何度も何度もこう言った。

『俺らのせいなんだ。しっかり自覚もしてるし、許してもらおうとも思ってない。でも、謝罪がしたい』

言い訳のように聞こえるその言葉も、彼らの瞳を見れば本心なのだということがすぐに分かった。特に、レオンさんは凄かった。

『僕は......長男なのに、1番最低なことをしてしまった。組織に売った挙句、死ぬ気で帰ってきた彼を地下牢に閉じ込めて、自分はその場を立ち去る。人間として、僕は自分が許せないです。とか言っておきつつ、またティーアと再開した時に僕の口からは酷い言葉しか出てこなかった。ティーアは僕の言葉でどれだけ傷ついただろう......。僕は自分が憎い。相手が目の前にいる時に謝ることも出来ない自分が憎い。何度も何度も、死にたいって、思ってました』


震えながらそう言うレオンさんは、酷く悔しがっていて。その悔しさは、他ならぬ自分に向けたものだろう。


『じゃあ、死ねばよかったじゃない』

怒りを顕にしたリズは、レオンさんにそう言い放ったが。


『......思い留まったんです。僕が今死んだところで、根本的な解決には至らない。誰も救われない。どうせ死ぬんだったら、ティーアに殺してもらいたいんです。ティーアに今まで僕がしでかしてしまった罪を、ティーアの怒りを、せめても、全部ぜんぶ受け止めてやりたいんです。それしか、僕は思いつきません』

その言葉に、俺はハッとした。

レオンさんの想いが痛いくらいに伝わってきて、脳を激しく揺さぶる。


取り返しのつかない罪を犯した自分をしっかりと受け止めて、その上でそれを命懸けで償おうとする覚悟。

その覚悟を決めるのには、相当な勇気が要ったであろう。


俺は、レオンさんに手を差し出した。


『協力しますよ、レオンさん。確かに、あなたがしたことは人として、ティさんの兄として、最低な行為だ。でも、それだけの意志を持って......それだけの決意を持っているんだったら、きっとティさんは再び振り向くと思います。まだ数日しかティさんと一緒にいない俺が言うのもあれですが、ティさんは誰に対しても警戒心を持っています。正直、厳しいこともあるかもしれない。どうしても厳しい状況になったら、俺が入ります。別に、死ぬ必要なんてないんですよ。死んで償うよりも、自分が殺されようとするよりも、もっといい方法が、あるでしょ?』


レオンさんは暫く、呆気にとられたように俺を見つめていたが、やがて、恐る恐る、といった様子で俺に手を差し伸べてきた。俺はその手を強く掴み、レオンさんに笑いかける。レオンさんは、静かに涙を流しながら、心底嬉しそうに目を細めた。




ティさんがいつものティさんに戻るまで、あと6日。






To Be Continued!

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