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最果ての主人公  作者: 錦乃 神矢
第1章 勇者ウィアレル育成計画
15/29

"元"天才勇者、本気を出す。

今回ちょっと長いです。

「はっ!」


オーガが地面を強く蹴って飛び出す。オーガの剣をウィアレルは剣で受け止めた。


「俺の剣を受け止めるとは、流石じゃねーか」


オーガはにやりと笑って剣に力を込めた。オーガは力が強い。力のないウィアレルでは、キツい部分もあるだろう。


「くっ、"S-19"!!」


身体強化【力】。発動者の力を底上げする魔法だ。それで一気にオーガを押し切る。

オーガはその力に吹っ飛ばされるも、流石は猿、空中で体制を立て直し、着地はスライディングすることでダメージを流した。


そしてレオンハルトも魔法を展開し始める。恐らくこの術式は攻撃魔法だろう。......だが、展開が遅いっ!!


魔法陣が形成され、魔法が放たれるその瞬間、俺は銃を陣の中央に打ち込んだ。魔法陣はパリンと音を立てて崩れ去る。


「へえ、凄いじゃないか」

「そんな展開の遅い魔法陣、誰にだって壊せる」

「そうか。だが、これならどうだい?」


そう言ってレオンハルトは、新たな術式を組み始める。これは恐らく"G-707"。打撃によるダメージを一切受けなくなる代わりに、魔法によるダメージに弱くなる魔法だ。

この術式は、魔法による攻撃でしか壊すことができない。レオンハルトは、俺の顔を見てにやりと笑い、これみよがしにゆっくり魔法を展開してみせる。

__だが。


「ウィアレル!!」

「はいっ!!"I-65"!!」


ウィアレルは俺が鍛えた圧倒的スピードで魔法を展開する。その時間、0.01秒。

レオンハルトが展開した魔法陣の真下から氷の柱が発生し、魔法陣を突き刺し割った。その隙を狙ってウィアレルに襲いかかったオーガの攻撃を、銃弾で遮る。


「へえ。よく分かったね、これが打撃防御魔法だって」

「術式が大きすぎるんだよ。折角無詠唱で使えるんだからその不器用さどうにかしろよ。どこに居ても視界に入ってきて目障りで仕方ない」

「魔法の知識は一流なんだけどね?本当に勿体ないよ」


オーガはレオンハルトの傍にジャンプで戻り、俺もウィアレルの傍に戻る。

会場の歓声は、もう聞こえなくなっていた。皆が、俺らの一挙一動に注目している。


「......おおっと!!今までにこんなに早い試合展開を見たことがあるでしょうか!?もうわたくしには何が何だかさっぱりわかりません!!」

「そうですねー、やっぱりセルティアさんの実力は一流でしたねー」

「ただ、1つ気になるのが、セルティアさんはレンシア家の恥だとセルオーさんはおっしゃっていました。魔法もろくに使えないクズ野郎だ、と」

「そうですねー、セルティアさんはこの試合中もまだ一切魔法を使ってませんねー」

「それでは、やっぱり魔法が使えないというのは事実なのでしょうか!?そんな人間、本当にいるのでしょうか!?誰しもみんな魔力は持ってますから、持ってないとしたらそれはもう生物じゃないんじゃないですかね!?」


「実況者、黙れ!!!!!!!!!」



ウィアレルが、突如大声を出す。



「実況者、お前それでも人間か!?お前にはこのティさんの姿が見えないのか!?......ティさんが魔法を使えないこと、俺も今日初めて知ったよ。でもな!!!魔法が使えなかったら何なんだ!?ティさんはなぁ、ティさんはなあ!!!歴代最弱って言われた俺に手を差し伸べてくれた唯一の人物なんだよ!!!!!そんな師匠が生物じゃないように見えるか!?!?悩みを1人でずっと抱えてきたティさんを貶す権利がお前らにはあるのか!?」



会場内がしん、と静まる。

その沈黙が、その突き刺さる目線が、痛かった。


俺は、ウィアレルの頭にぽんっと手を置いた。


「ティさん......」

「ありがとな。でも良いんだ」

「えっ」

「言っておくが、この猿が言う通り、俺は魔法が使えない。どんなに休んでも、どんなに魔力回復薬を飲んでも、俺の魔力は0のまま。でも、それで死にたいって思ったことなんて1度もない。むしろ俺は、今の状況を楽しんでる」


これは事実だ。

望みとはちょっと違ったが、ある意味最弱からのスタート。

ウィアレルとも出会えて、死にたいなんて思った時は1度もない。そして、誰かから貶される理由も、無いはずだ。


「......戦いを続けるぞ。別に俺は魔法が使えないからって妥協するつもりも一切ないからな。魔法が使えなきゃ、打撃で戦えばいいんだよ」


所謂ただの脳筋。

前世で俺は剣、短刀、弓、槍、杖、斧、鎌は習得した。銃は今世からの武器だからまだ慣れないことも多いが、こんな使いやすい武器、使えない奴の方がおかしい。


無言でレオンハルトが魔法を展開し始める。これは......"E-1000"だな。目くらましとしても有能な閃光魔法。当たったらかなりのダメージ量だ。

だが。


「ウィアレル!!」

「分かってますって!」


魔法が放たれたその瞬間、ウィアレルは自らの剣を地面に突き立てた。

避雷針。雷系魔法を受け流すのに最もオーソドックスで確実な方法だ。閃光は剣に吸い込まれ、地面に流された。


「お?」


戸惑いながらオーガが剣を振りかぶる。恐らく、閃光に紛れて突っ込んでくる予定でもあったのだろう。ウィアレルが剣を地面から抜き放ち、それに軽々と対抗しようとする。

......待てよ。何かがおかしい。

__まずいっ!!!


「ウィアレルっ、後ろだ!!!」

「うえっ!?」


ウィアレルが切ったのはオーガの残像。振りかぶったオーガから感じられた違和感は、魔法反応だ。

オーガは魔力はあるものの、滅多に魔法を使わない。魔法下手なオーガが魔法を使うことなどまずありえないのだ。恐らく、レオンハルトが"E-1000"と同時に"S-5943"を展開したのだろう。これは完全に俺の読みミスだ。"S-5943"は、かけられた者の一挙一動が残像として現れる魔法だ。

無防備な状態でオーガに切りかかられる......その瞬間に、俺はウィアレルとの間に滑り込む。


「ウィアレル!!こいつは俺が相手する。お前はレオンハルトをやれ!!」

「はいっ!」


「おぉおぉ、出来損ないにこの俺の相手が出来るってのか?あぁん?」

「んなの、分かんねえだろっ、!」

「つったってお前もうギリギリじゃねえか。ただの銃剣が俺様の魔剣に勝てるわけねえだろうが!」


激しく剣同士がぶつかり合う音が響く。両者1歩も譲らず、睨み合いながらの応戦が続く。

一見拮抗した戦いだが、若干俺が押されている。技術では俺の方が上だが、何しろ武器レベルが全然違う。10段階評価でいえば、俺の銃剣は3、オーガの魔剣は7だ。技術だけで持っているが、限界は近い。

オーガが大きく振りかぶる。......段違いに早い。本格的に潰しに来たな。これは避けれない、ただ俺の銃剣が耐えられるかどうか......っ!!


キンっという音が響き、俺の剣の刃が叩き落とされる。......これは厳しいか。

オーガは口角を釣り上げ、一気に俺に攻め込んできた。刃が無い銃剣で、接近戦は無理だ。ギリギリで避け続けるものの、壁まで追い込まれた今となっては、もう無理だ。

......仕方ない。


俺の左腕を大きく突き出し、敢えてオーガの魔剣とぶつかり合わせる。何の音もなく、左腕がやすやすと切断された。


「なっ!?お前......」


オーガが戸惑いの声をあげているうちに、オーガの間をすり抜け、場の中央に飛び出す。

左手の肘から下が熱い。下からは切断されている為、勿論指先の感覚はない。

無論、痛いことには変わりないが、声はあげない。それでウィアレルの集中力を切らすわけにはいかないのだ。


「......左腕を何の躊躇いもなく犠牲にするとは、勇気の行動だな」


両手が使えなくなった今、銃剣はもう使い物にならない。

会場のあちこちから悲鳴が上がる。

その悲鳴の声に、ウィアレルはこちらに振り向いてしまい......


「なっ!?ティさん!?!?」

「ウィアレルッ、!前見ろ......っ、!!」


余所見したことにより、レオンハルトがその隙に魔法を打ち込んだ。吹っ飛ばされたウィアレルは、俺のすぐ傍まで吹っ飛ばされる。


__ふと、思い出した試合があった。

俺と、ウィアレルの始まりの試合。


俺はさり気なさを装って、地面に倒れ込んだ。

__発動者の体が全て地面に触れている時でしか発動できない、トリッキーな魔法......!!!


「はっ、あんな正義の言葉を堂々と言っておいて、もう終わりか?あっけねえなあ!!」


最後まで。最後まで、絶対に諦めない__!!!


「"S-20009"から"S-200"、そして"S-20005"!!!」


「えっ!?」


俺の左腕から血が吹き出し、高速に魔法陣を形成する。出血部が多いため、存分に、流れ落ちる限りの血液を魔法として使うことが出来るっ!

3つ同時展開。魔法専攻のレオンハルトでさえ出来ない大技だ。魔力消費がとんでもない上、展開の難度も高い。

S-200も無事に発動し、地面に飛び込む。地面深くまで、深くまで潜り込んでいく。S-20005も成功したようだ。この魔法は、サポート系の魔法を味方にも付与させることが出来るようになる、というものだ。戸惑い顔のウィアレルも地面に潜り込んでいる。


「......"S-2"」


これは囮だ。この魔法は、魔力だけを打ち出すだけの何の意味もない魔法だが、恐らく上の2人は魔力反応を探して、地上に戻った俺たちを迎え撃つつもりだ。だから、敢えて魔力を放つことで、それを目掛けてやってきた2人を、その後ろから俺達が撃つ......!!


「"S-20006"」


魔力反応の隠蔽魔法。俺ら自身の魔力反応を封じ込め、上の2人の狙いを完全に囮魔力に集中させる!

S-200の魔力が切れてきて、息がし辛くなってくる。だが、これだけの時間が稼げれば充分だ。

ウィアレルに目を向ける。ウィアレルは驚きつつも、しっかりと頷いた。この戦法は既にウィアレルにも教えてある。これなら、声に出さずとも作戦が伝わる!


2人同時に地面から飛び出し、兄たちに向かってウィアレルが剣を振り下ろす。兄たちはうまく囮に引っかかってくれたようで、無防備な状態のままウィアレルの剣がヒットした。


「なっ!?」

「ぐぁっ、ど、どういうことだ!?」


「......反撃の、狼煙だ」


俺はそう呟くと、未だに出血が止まらない左腕を押さえつつ、上に高く飛んだ。

重力に逆らって高く高く飛び、左腕を抑えていた手を離す。物凄い量の血液が溢れ出し、その血液を上手く地面にコントロールしながら落としていく。上から落とす為、物凄い大きさの魔法陣が描き上がった。


でっかい花火、打ち上げてやる......!!






「"E-20005"ッッ!!!!!!」






電撃魔法の頂点、雷花火。

物凄い大きさの電流を一気に流すことで、見る者によってはその姿が花火のようにさえ見える。

物凄い爆音が響き渡り、目の前が真っ白に染まる。そして、その中に、一際綺麗な花火の姿を、俺は見た。




重力に従って俺が地面に降りたところには、倒れ込んでいる2人の姿と、しっかり防御魔法を展開してガードしたウィアレルの姿があった。






「し、試合終了ーーーーー!!!!勝者、セルティアチーム!!!!」





割れんばかりの物凄い歓声が響き渡り、戦い終了のゴングが激しく打ち鳴らされる。

ウィアレルが肩で息をしながら、俺を見て心底嬉しそうに笑顔を浮かべた。

何か言っているようだったが、歓声にかき消されて全く聞こえない。


ウィアレルの喜びが頂点に達したと同時に、俺の限界も越えてしまい。


端の方から真っ白に染まっていく視界に恐怖を覚えた瞬間に、俺の意識は途絶えた。







To Be Continued!

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