"元"天才勇者、激怒する。
結果だけ言おう。
正直予想以上だった。
なんと、次はトーナメント決勝戦である。
しかも、俺は手出し1つしてない。
ウィアレルがどうしてもやばそうだった時に手助けするつもりであったが、ウィアレルは1vs2の状態でもガンガン勝ち上がっていくのだ。王様がご覧になられている、という状況下において、適度な緊張でかえって集中出来ているのかもしれない。
俺へ飛んだ攻撃を打ち返し、自分に向けられた攻撃を躱し、相手のバランスを崩して一気に決める。モンスター戦の時には決してやらなかった荒業だが、俺が攻撃しないのを見て、これは不味いぞと思ったのかもしれない。なかなか良いプレーが出来ている。
「ねえティさん!いつになったらティさんも参戦してくれるんですか!?」
「お前1人でも充分戦えてるだろ」
「俺だけじゃギリギリですよ!次が決勝戦ですよ!?」
「気が向いたらな」
「ちょっと!」
ウィアレルの言葉を適当に受け流すと、待機室の外から「スタンバイお願いします!」の声。
「いくか」
「はいはい。またどーせ参戦しないんでしょ......」
舞台裏へ足を進めつつ、ウィアレルは面倒くさそうに呟いた。
「フレイム杯ランクC!いよいよ決勝戦となりました!!数ある強敵を退け、勝ち残ったのはこのチームだぁっ!!入場ッ!!」
言い忘れていたが、この大会の正式名称はフレイム杯だ。実に良いネーミングセンスをしていると思う。
「フレイム杯初出場にしていきなり優勝か!?期待が高まる若き2人組!!セルアス・ティーア・レンシア&ウィア・アレンドール・グレン__!!!」
わあああっという物凄い歓声が響き渡り、俺たちに眩しすぎるくらいのスポットライトが当てられる。決勝戦ということもあり、会場のボルテージはMAXだ。
「このチーム、なんと言っても注目は、今大会でまだ1度も攻撃していないセルティアさんの実力ですね!」
「そうですねー。ウィアレルさんは今まで1対2の状況で圧勝してきましたから、彼の実力は本物です。しかしですねー、手元の紙によりますと、このチームのリーダーはウィアレルさんではなくセルティアさんらしいですからねー、底知れぬ実力なのかも知れませんよー?」
「その実力、決勝戦で見れるのでしょうかっ!?対する相手チーム、入場ですッッ!!!」
何故か俺への注目度が高くなっている。ただ単に面倒くさくて攻撃していないだけなんだが。
ウィアレルが「ティさん......」と恨めしそうに見てくるが、気にしない。
「フレイム杯優勝の常連!!遂にランクCの王者になるのか!?セルアス・レオンハルト・レンシア&セルアス・オーガ・レンシア___!!!」
「なっ」
聞き間違いであって欲しい。もしくは同姓同名の誰か。
そんな期待も軽々裏切られ、女子達の黄色い歓声に包まれて現れたのは、俺の兄たちであった。
「ティさん......?」
「ああ、その通りだ」
ウィアレルを庇うように、前に足を進める。ウィアレルは驚いたようだったが、俺がウィアレルの方へ庇うかのように横に手を伸ばしたのを見、唇を噛んだ。
「あれ、もしかして、レンシアさん......ご兄弟なのでは?」
実況者の、無責任な質問。思わず眉間に皺が寄る。
「ああそうだ!!こいつは我らがレンシア家の恥!!!ろくに魔法も使えないクズ野郎だ!!!」
答えたのは、次男のオーガだ。
相変わらず、重心を前に置いている。猿みたいなスタイルしてんじゃねーよ。
「なっ、!?ティさんはっ」
「いい。ウィアレル、黙っていろ」
「はっ!やっぱり言い返せないじゃねーか。まだお前の魔力は戻らねえかあ?あぁん?」
「...........」
「なななんと!!ここで兄弟対決となりました!!!ということは、知られざるセルティアさんの実力もここで見れるのではないでしょうか!!」
「ああ見れるだろうよ!!!こいつがいかに最弱かっていうことをな!!!」
オーガの言葉に、会場がザワつく。
またも喋り出しそうなウィアレルを手だけで押しとどめ、俺は口を開いた。
「キーキーうるせえのはいつまで経っても変わんねえな。猿の声は耳に響くんだよ。さっさとその口を閉じろ、猿」
「さささ、猿ッッ......っ!?!?」
ほら、こういう奴ほど挑発に乗りやすい。
「ティーア。いくら兄弟だからって、そんなこと言っていいと思ってる?」
「言わせてもらうが、なぜ俺がオーガ兄さんに猿って言うのが駄目で、レオン兄さんとオーガ兄さんが俺のことを一家の恥だっていうのがありなんだ?」
「なっ......」
ほら、理不尽な世の中だ。
いくら女子にモテモテで生真面目なレオンハルトだって、実際俺のことを見下しているんだから恐ろしい。
「ティさんっ」
「ウィアレル。今回の戦いばかりは俺も参戦する。ウィアレルもいつも以上に本気でかかれ。確かにこいつらが言う通り、俺対アイツらじゃ勝てない可能性の方が高い。ただ、ウィアレルと一緒だったら......行ける気がしてる」
「ティさん......!!」
「こいつらの言葉に耳を貸す必要は無い。遠慮なく叩き潰せ!」
「はい!!」
「おぉおぉ、なんだぁ、正義の味方ごっこかぁ?歴代最弱の勇者が俺らに対して何が出来るってんだよ、あぁん?思い知らせてやるよ、お前らがいかに最弱かっていうのをな!!」
オーガはそう言って、剣を抜いて左右にステップを踏んだ。猫背相まって、猿にしか見えない。
「......確かに俺は歴代最弱です。9歳で世界を救われたフィウス様には到底及びません。でも、それでも!そんな俺を見捨てずに、ティさんは指導して下さった!そんな師匠のことは、ご兄弟であるあなたたちよりずっと分かってるつもりです。......ティさんを馬鹿にするような奴らに、ティさんのことが分かってたまるか......!!」
そう言ってウィアレルは、剣を抜き放つ。
正直、有難かった。ウィアレルは、『ろくに魔法も使えないクズ野郎』という言葉を聞いて、なにか思うことはあっただろうか。俺はウィアレルに対して、俺が魔法を使うところを見せていない。魔法も使えない、という言葉に、感じることはあるだろう。
「......悪い、ウィアレル。試合が終わったら、全部話してやる」
「いいんです、ティさんが言いたく無いのなら無理に話さなくても。だって、ティさんはティさん、俺のただ1人の師匠ですから!」
そう言ってウィアレルは笑ってみせる。
その笑顔は、俺には眩しすぎた。
「随分好かれているようだね、ティーア。でも、さっきの会話を聞くようだと、まだ彼に自分のことを話していないようだね?そんなんで、勇者の師匠を名乗っていいと思ってる?」
「弟の責任は兄が背負うものではないのか、レオン兄さん?一向に魔力が回復しない弟を長男のお前は可哀想だとは思わないのか?黙って聞いてれば、言いたい放題のオーガ兄さんを止めもせずに、俺がそれに対して反論したら俺を注意するだと?そんなんで長男の自覚はあるのか?」
レオンハルトは黙って魔導書を開いて構えた。それに対して俺も銃剣を抜いて構える。
「な、なんだか色々あるようですが......両者とも、準備は出来ましたか?」
「...........」
「...........」
「沈黙は肯定と受け取りますよ?それでは、フレイム杯ランクC決勝戦!!セルティアチーム対セルレオチーム!!開幕です!!!......Fight!!」
その言葉と共に、高々とゴングが鳴り響いた。
To Be Continued!