"元"天才勇者、試合に出たい。
正直、予想以上だった。
何がって、そりゃあ移動にかかる時間だよ。
海と光の集落から、平野を抜け、音叉山を越えた先、フレイムハイ城下町。
ウィアレルという冒険初心者がいるから、長く見積もっても3日もあれば着く予定だった。俺一人だったら、1日もあれば着く。前世の俺なら1時間だな。無論、瞬間移動魔法を使えば一瞬だ。
だが。だがしかし。かかった時間は1週間。
これ、武闘大会のエントリーに間に合うか?と心配になるレベルで遅い。
というのも。ウィアレルの戦いっぷりを見て思ったことが1つあるのだ。
『庶民的勇者』
それがコイツの2つ名に相応しい。
こいつは、俺が鍛えてやったお陰で魔力もそこそこあるというのに、魔力消費の大きい技を使いたがらない。こいつは、勇者じゃなくても使えるような低魔力の技......庶民的魔法を使いたがる。どんなにレベルの高いモンスターにでも、庶民的魔法を駆使して戦いたがるのだ。それで何度死にかけても、何故かこいつは何度も庶民的魔法を使って立ち向かっていく。その度に俺が仕方なしに助太刀してやるのだが、本人はそれでも高威力の技を使いたくないらしい。
1度、聞いたことがある。本人に。
「だって、俺だったら嫌ですもん。出会っていきなり高威力の魔法ぶっぱなされて訳もわからないまま死ぬなんて。接戦して、ぎりぎりの際どいところで力が足りなかった!っていう方が、頑張った感あって良いじゃないですか!」
ということらしい。正直俺には理解出来ない。それで死にかけてるのはどっちだよ。
こういうこともあり、人一倍ながったるーい戦闘にずっと付き合っていた挙句、こんなに時間がかかってしまっていたのだ。まあ、そのお陰でこの庶民的勇者はかなりトリッキーな戦い方が出来るようになったのには違いないが。
「ティさんティさん!!ここがフレイムハイ城下町ですか!?!?」
「ああ。この地域一帯では一番発展してるな」
「凄いです!!活気に溢れてて、なんか街全体が輝いて見えますよ!!」
驚くべき興奮っぷりだ。
まあ、今の時期は武闘大会が開かれていることもあって、街全体が熱気に包まれているのは確かだ。人々が忙しなく走り回り、笑顔が溢れている。
「どっかの誰かさんがのーんびり移動してきちまったから、だいぶ時間が無い。武闘大会が終わったら、ゆっくり見て回ればいいだろ」
「返す言葉がございません」
「とりあえずエントリーだな。会場はこっちだ」
ウィアレルが人混みの中に着いてきていることを確認しながら、人を掻き分けて進んでいく。大会時期は多くの人がこの城下町に訪れるから、混むのも無理は無い。
城の近くまで近づいたところで、急にウィアレルが騒ぎ始めた。
「えっ、ティさんティさん!会場って、こんなに城に近いんですか?」
「近いも何も、城の中だぞ」
「えええええええ!?!?じゃ、じゃあ、王様も見られるんですか!?」
「そうだな」
「ええええええ......めっちゃ緊張する......」
「フレイムハイの王は、今まで沢山ハイレベルな戦いを見てきた筈だ。中途半端な戦いはできないぞ」
「ちょっ、プレッシャーかけないでくださいよ......」
急に声が弱々しくなるウィアレル。こんなに感情に振り回されてるようでは、コイツも今後厳しくなるな。後々教育しておくか。
そうこう話している間に、城の前に着いた。城の前にはもう人だかりが出来ている。
その中に受付嬢を探し出すと、受付嬢は貼り付けた満面の笑みを浮かべた。
「フレイムハイへようこそ!観戦ですか?それとも本日参戦の方でしょうか?」
「いや、もう大会のエントリーは出来ないだろうか」
「エントリーですか?ランクE、ランクDの大会はもう終わってしまっていて、本日はランクCの大会が開かれるのですが、飛び入り参加は厳しいかと。明日にはランクB、ランクAの大会が開かれるので、そちらならまだエントリーは出来ますが......」
やはり終わってしまっていたか。俺が狙っていたのはランクD。ウィアレルがそこそこの戦いが出来れば優勝が目指せたレベルだ。となると、ランクBは流石に厳しいものがある。シングルバトルとして俺が単独で出ればまだ大丈夫そうだが、ダブルバトルとなるとウィアレルが足を引っ張りそうだ。ランクBとなると相手もかなり強くなるから、魔法が使えない今の俺じゃどこまで引っ張れるか分からない。
「あっ、そういえば!今日、ランクCで突然出れなくなったチームが1組ありますので、ダブルバトルならランクCの出場も可能です!ただ、試合はすぐ始まってしまうので、今すぐ待機していただかないと間に合わないと思いますが......」
「それでいい。エントリーさせてくれ」
「えええ!?いきなり!?」
「分かりました。ではお名前をこの用紙にご記入頂いて...........はい、ありがとうございます!そしたら、右側の扉から入った先の40番待機室にてお待ちください!ご健闘をお祈り致します!」
受付嬢の満面の笑みに見送られ、俺はウィアレルを連れて猛ダッシュで城内を駆け抜けた。
「えええ、まだ心の準備が出来てないし、それにいきなりCランクですか!?」
「うるさい、お前にBランクは無理だろうが。そもそもお前がちんたら歩いてるのが悪いんだ」
「俺のせい!?」
ひたすらまっすぐな廊下を駆け抜けると、40と書かれた扉へと辿りつく。その扉を開けると、中は長机が1つと、椅子が4脚、そして金庫があるだけの少し寂しい空間だった。
金庫の中に俺とウィアレルの荷物を突っ込み、暗証番号に『1234』と設定。ウィアレルに「適当すぎる!!」と言われたが、わかり易いのが一番だ。
「リズ、グレイ、ソウル。悪いが今回は観戦しててくれ。後で、戦いの欠点とかを教えて欲しい」
「分かってるわよ。せいぜい頑張りなさいよ?優勝しないと許さないからねっ!」
「は、はい!頑張ります!」
ウィアレルは妙な肩の力が入っているようだが、リラックスしないとこの戦いは勝ち抜けない。体が固まっていたら、策も出てこないし、何しろ相手に隙を見せることになる。
「で、ティさん、どんな作戦でいくんですか?」
「作戦もなにもあるか。その場その場で最善の行動を取ればいいだけだ」
「ええっ!?作戦なしですか!?」
「作戦もなにも、モンスターとの戦いでお前に教えたことを使えば勝てるような相手だ。俺はお前に、そういう指導をしてきたつもりだが?」
そこまで言ったところで、扉がトントン、とノックされる。うわ、トイレノックだ。教育がなってないな。
「レンシア様、グレン様、そろそろスタンバイをお願いします!」
「分かった。悪いが、このモンスター達を観戦席に連れて行ってくれ」
「はっ、モンスター......ですか?」
「人は襲わないよう教育してある。問題ない」
「わ、分かりました」
モンスター達が各々俺たちに声援を送り、扉の外へ消えていく。
「本当にいきなりだが......真面目にやれば勝てる相手だ。......行くぞ」
「はい!!」
そして俺達も、舞台への階段を、踏みしめながら登っていった。
To Be Continued!