"元"天才勇者、初夜を過ごす。
「ティさんッ......」
「おう、帰ってきたか。で、戦果はどうだ?」
「液状メタル53個と、途中で遭遇したラビットメタルが5個です......はぁ、疲れたぁ......」
課題以上の戦果。なかなかコイツも分かってるじゃないか。
「ご苦労さん。じゃ、飯にするか。俺が買い出しに行ってくるから、ウィアレルは見張りを頼む。リズ、グレイに結界テントの張り方を教えてやってくれ」
「はいはい。ったく、めんどくさいのばっかあたしに押し付けるわよね」
ウィアレルからメタルの入った袋を受け取り、近くの街に向かおうと腰をあげると、「きゅう」という小さな鳴き声が下の方から響いた。
「ソウルも来るか?」
ソウルは俺の問に小さく頷く。そして、俺の体をよじ登って俺の肩に落ち着いた。
ウィアレルが帰ってくる15分ほど前に、俺は意識を取り戻した。
まだ頭痛も吐き気も治まっていなく、もう少し休んでいたい気持ちはあったが、あと15分ほどでウィアレルが帰ってくるかもしれない、ということを聞き、仕方なく起き上がることにしたのだ。
ソウルに俺が魔法を使えないことはバレてしまったようだが、まあそれはしょうがないことだ。どうせいつかは言わなきゃならない。
前世でも出血多量で貧血になることはあったから、対処法は心得ている。ウィアレルが戻ってくる時には、しっかり喋れるようになった。
ソウルは心配げに俺を見つめる。心配すんな、という代わりにその真っ白な背を撫でてやると、嬉しそうに目を細めた。
......やばい、かわいい。
近くにあった小さな村の役所で、メタルを現金に変える。ここでの取引額は、液状メタルが1つ10G、ラビットメタルが1枚17Gだった。ということで、合計で615Gだ。
その金を使って、適当に買い物を済ませる。小さな村ということもあり、並んでいるのは農作物がメインで、肉もあるにはあったが物凄い値段がついていた。仕方なくこれもまた高い魚3匹を249Gで購入し、その他野菜等で150Gを使用。これで余ったのが216G。
「......ソウル、先に荷物持って戻ってくれ。少し、気分が悪くなった。輸血をして貰ってくる」
病院代、150G。うち、輸血もするとなると、プラス50G。
この世界では日常茶飯事に戦闘が起こるため、怪我する人が多い。そのため、どんな辺鄙な場所にある病院でも、輸血が出来るのだ。
ソウルは心配そうな表情で俺を見つめるも、大丈夫だ、と言うと、不安げな表情のまま、荷物を抱えてその場を立ち去った。
人間用の病院にモンスターは立ち入り禁止なのだ。どんなに渋っても、ソウルを連れていくわけにはいかない。
病院に着いて順番を待っている間に、俺は意識を飛ばしていたらしい。ちょっとした騒ぎになっていた。
しかし、輸血が終わると、体は今まで通り軽くなり、頭痛も吐き気も治まった。
まあ、輸血の最中に1度吐いたらしいが、記憶はない。
帰りの道中、少し思考を巡らせる。
この世界について、少し疑問があるのだ。
転生後に俺が居る地は、紛れもなく前世の未来だ。地形などもほぼ一緒だし、少し変化していると言っても文明の発展くらいだ。
だとしたら、なぜこの地にモンスターが出現する?
前世で俺は野生のモンスターは全て殲滅した。世界各国を廻り、子孫まで全部、きっっっちり殺してきたはずだ。山に篭ってからも、また野生のモンスターが現れたという話は1度も聞かなかった。
だがしかし、この地にはしっかりモンスターが出現する。しかも、出現率がかなり高い気がするのだ。
だが、そのことを聞ける相手もいなければ、今の魔法が使えない体では殲滅も厳しい。
まあ、モンスターが増えているから勇者ウィアレルが旅に出ているんだよな。少なくとも、グレン家でフィウスとウィアレルの間で冒険者になった奴はいなかった。グレン家は、モンスターが異常行動を起こさない限りは旅に出ることが許されないからな。今世でもまだフィウス様フィウス様言われてるのはそのせいだ。
そこまで考えていると、テントへ着いた。
この結界テントは、冒険者には必須となる技術だ。結界テントを張った位置には、モンスターが出現しなくなる。ただ、その効能は夜にしか機能せず、朝には解除されるので、日の出と共に起きないとならない。冒険者の死亡率が高いのは、起きれなかった奴がモンスターに攻撃を加えられるからだ。
「......ティさん!!おかえりなさい!!どこに寄り道してたんですか!?心配したんですよ!?」
「ああ、悪い、遅くなった」
「あっ、ティさんも早く食べましょ!ティさんが来るまで、みんなで待ってたんです!!」
見れば、俺の買った具材が調理されたままの状態で手を付けられずに放置されている。汁なんかは、煮込みすぎて野菜が物凄いことになっている。
「先に食って良かったのに」
「いーや!そんなこと出来ませんよ!冒険初日、みーんなで食べたいじゃないですか!ね?」
ウィアレルはどうしてもみんなで食べたいらしい。
どうも、家では常に父が忙しくしており、みんなで食べる機会はなかなか無かったのだという。だから、この機会にみんなで食べたかったとのこと。
くったくたに煮込まれた汁を美味しそうに啜るウィアレルを見て思う。
コイツも、前世の俺みたいに、これから色々な苦労を知っていくのだろう。
俺は1人だったが、こいつはひとりじゃない。グレイもソウルも、リズも......そして、先輩勇者の俺もいるのだ。
これからウィアレルが歩んでいく世界が、どうか美しくあるように。
色付いた、最高の景色であるように。
そう、願いたい。
To Be Continued!