"元"天才勇者、血が足りない。
前提として。
モンスター同士は、普通に会話が出来ます。モンスターと人間での会話は、1部の知能が高いモンスターでなくては出来ません(リズのような)。
セルティアさんが、倒れた。
ソウルは、今までの中で1番と言う程、焦っていた。
軽く頬を叩いてみるも、反応がない。揺さぶってみても、苦しげに呻くだけだ。
__誰か......ッ
ソウルは誰かに助けを求める為、駆け出そうとするも。
「待って」
誰かの声が、ソウルを引き止めた。
__......リズさん?
「大丈夫、ただの貧血よ。セルティア、無理すると起こしちゃうの」
__で、でも、貧血にしても酷そうです。ウィアレルを呼び戻して......
「それだけは駄目」
__え?
「......とにかく、処置しないとね。あたし1人だと、体が小さいから出来ないことも多いし。手伝ってよね」
__......分かりました
セルティアの胸ポケットから這い出たリズはそう、冷静に言った。
「いい返事。じゃ、まずセルティアの体制整えてあげて。倒れたままの姿勢じゃ休みにくいでしょ?引き摺ってでもいいから、木の下に移動させましょう」
__雑すぎないですか!?
「いーのいーの。セルティアにはそんなもんで充分。限界越えて倒れる方が悪いんだから」
__わ、分かりました
ソウルは返事をすると、セルティアの服の襟を口に咥え、ずるずると引きずった。フェレット族も鼠族よりは多少大きいにしても、体の小さなモンスターだ。流石に小さな手ではセルティアを支えることも出来ない。
「おっけー。そしたら、セルティアの足の位置を頭より高くしてあげて。そうねえ......さっきセルティアが発生させた岩でも砕いて、下に置けばいいんじゃないかしら」
__それは流石に、痛くないですかね?
「案外細かいこと気にするのね。わかったわ。だったらあたしがそれなりに加工するから、とりあえず、適当に岩砕いて持ってきてよ」
__細かいことじゃない気がするんですが......
ソウルはそう言いながらも、駆け足で岩の所まで戻った。セルティアの修行の効果は絶大だった。足も体も、軽くなっている。大分、走りやすい。
ソウルはセルティアが最後に発生させた5m級の岩へ駆け寄り、その岩へ助走をつけてかけ登ると、先端部分に打撃を加え、1部分を砕いた。
砕いた岩が地面に転げ落ちる。それを追いかけてソウルも飛び降りた。
__あれ?
魔法陣の跡が、残っている。
普通、魔法陣は魔法が発動すると同時に消えるというのに。
残っているなんて、有り得ない。
恐る恐る、魔法陣に近づく。
その魔法陣は、ウィアレルが発生させるのとは明らかに色が違った。
赤黒く、とても濁った色をしていて。
その魔法陣に鼻を近付け、恐る恐る臭いを嗅いだソウルは、すぐに岩を抱え、リズの元へと戻った。
__リズさん。
「あら、遅かったわね。でも岩の質はまあまあじゃない」
リズはソウルから岩を受け取ると、瞬時に魔法を岩に流し、加工を始めた。岩がみるみるうちに原型を無くし、セルティアの足の形に変形されていく。凹凸は全て削られてなくなり、岩にツヤが生まれた。
「ま、こんなもんかしら。ソウル、セルティアの足上げて」
__......はい。
ソウルはセルティアと地面との間に自らの体を滑り込ませ、思いっきり押し上げた。その間に、リズが岩を押し入れる。
「よし、ひとまずこんなもんかしらね。ったく、人騒がせなんだから。......で、ソウル。何か言いたいことがあるなら、言えば?」
__え?
「バレバレなのよ。アンタ、何か腑に落ちない顔ばっかしてる」
__...........
残っていた魔法陣から漂う刺激臭。
それは紛れもなく、鉄の臭いだった。
__リズさん。
「ん?」
__セルティアさんの貧血、疲れたから起きたってわけじゃないですよね?
「......どういう意味?」
__セルティアさんが魔法を唱えた位置に、魔法陣の跡が残されていました。そこから、鮮烈な鉄の臭いがしたんです。しかも、乾いてない最近の臭い。セルティアさんの左手の中指を見て、確信に変わりました。セルティアさんは、魔法を唱える時に、血を使っているのですか?
リズは目を伏せ、しばらく答えなかった。
リズとソウルの間を、静かに風が通り過ぎ、木々を優しく揺らした。
時々混ざる、セルティアの呻き声。一段と苦しそうな声に、ソウルは思わず尻尾で血の気のない顔を撫でた。
「......そうね」
__え?
「セルティアは、魔力の代わりに血を使っているわ」
__...........。
「セルティアには、魔力が無いのよ」
__......魔力が、無い?
「どんなに休んでも、魔力回復薬を飲んでも、彼の魔力は0のまま。セルティアは必死になって魔力を取り戻そうと奮闘していたわ。でも、どんな方法を使っても駄目だったのね。そのせいで彼は実の兄達に裏切られて、集落で1人残されたまま、武器屋をやっていたの」
__そうならそうって言ってくれれば......!!
「彼のプライドがそれを許さなかったのよ。セルティアは今、アンタたちの師匠っていう立場にある。師匠がこんなんじゃ、見限られるとでも思ったんじゃないかしら」
__ぼ、僕は、見限ったりしません!
「そうでしょうね。恐らく、ウィアレルもグレイも、そんなことは思わないでしょう。でも、彼は恐れているのよ。兄たちのように、また裏切られるんじゃないかって。それで、魔法技師であるセルティアが生み出したのが、血を魔力代わりに使うことが出来る魔法。ソウルの特訓が出来るって知って、ちょっと張り切っちゃったんだと思うわ。普段だって、こんなになるまで魔法は使わないもの」
リズはそこまで言って、ソウルの反応を待った。
ソウルは無言でセルティアを見つめ、その真っ白で血の気のない顔を尻尾で撫でる。
__僕、強くなります。
「え?」
__強くなって、セルティアさんをカバーします。もう二度と、セルティアさんの血を無駄にしたくはないです!
リズは一瞬、呆気にとられたようにソウルを見つめた。
「......子は親に似るって、本当のことなのね」
__はい?
「ううん、なんでもないわ。あたしもこれからセルティアのことしっかり支えていくつもりだし、もちろんアンタにも支えて貰わなきゃならない。しっかり頼んだよ、ソウル?」
__もちろんです!
「いい返事。じゃ、このことは秘密にお願いね。このこと知ってるのは、集落の1部の人達とあたしとソウルだけだから。ウィアレルにも言っちゃダメよ?セルティアは今まで知られないように努力してきたんだから、その努力を尊重してあげないと。それに、言うなら本人の口から言いたいだろうし」
__なんか、すみません。
「いいのよ。さ、じゃあ魔法陣の処理に行きましょ。ウィアレルが帰ってくるまでにあと30分も無いわ、急がないと」
__はい!
ウィアレルもソウルも、とんだ素っ頓狂な言葉を口に出す。
でも、それだから面白いのだと、リズはふっと笑った。
ねえ、もう仮面外してもいいんじゃないの?
1人で抱え込まないで、あたし達にも抱えさせてよ。
ねぇ、セルティア。
To Be Continued!