"元"天才勇者、指導に励む。
「ティさん、まずあれの何が悪かった?」
皆で輪になって座り込む。
なんかこうしていると、幼児たちのピクニックのようだ。
......なんて、そんなことはどうでもいい。
「まず1つ。戦闘中にも言ったが、陣形をしっかり整えろ。陣形が悪いと、味方に被害が及ぶぞ。2つ。俺はお前に、魔法名を改名しろ、と言ったはずだな?」
「そ、そんな直ぐには変えられないよ!!!第一、ティさんと会ってまだ1日も経ってないわけだし!!」
「もう今までの名は忘れろ。後で徹底的に叩き込む」
「ひぇっ!?」
「3つ。液状モンスターは防御が低い種族だな。魔剣を軽く振っただけで絶命させることも可能だ。しかし、なぜ魔法を使った?」
「い、いや、折角隙が出来たから、確実に倒さなきゃと思って......」
「魔剣の威力を知ってるか?人間の腕くらいは何の抵抗もなく切り落とすんだぞ?そんな威力で、打ち漏れがあると思うか?」
「......思いません」
「もし打ち漏れがあったとしても、ソウルの打撃でトドメはさせたはずだな。今の戦いはほぼほぼお前一人で戦っていただろ。ソウルがいる意味が無い」
ソウルは不満そうな目付きで俺を見上げる。
......なぜ俺を見る。そこは主人を睨めよ。
「まあ、戦いは慣れだ。ちょっとずつ慣れていけばいい。モンスターを弱いと過信してリラックスするから、お前は戦いに集中出来ていなかっただけだ。常に気を張れ。そうすれば、お前の最大の悩みは解消されるだろ。現に、L-120は高速展開出来ていた」
「え......本当だ!!」
無自覚かよ。
本当に俺の子孫か?
と思った瞬間、ウィアレルに手首をガシッと掴まれる。
「ティさん!俺、ティさんに一生付いていきます!!もっといろんなこと、教えてください!!!」
「じゃあ今日の課題。自分一人で液状モンスターをあと50匹倒すこと。以上」
「......えぇええ!?!?日が落ちるまで、あと2時間もありませんよ!?」
「2時間もありゃ充分。ソウルはこっちで俺と特訓だ。ウィアレルは50匹倒し終わったら証拠品を持ってこっちに来い。証拠品は......そうだな、心臓メタル」
「心臓メタル!?ってことは、心臓傷つけないで倒さなきゃいけないじゃないですか!!難易度高っ!!」
「グレイも念の為ウィアレルについててやれ。いいな」
「無視!?」
心臓メタルとは、モンスターのみが持つ、心臓を覆う金属のことだ。
彼等は、心臓メタルの近くにある『核』を潰すことで絶命する。
ウィアレルの乱れた剣筋を整えるには、そのくらい難易度の高い方が良い。
「......よし、じゃあソウル。さっきの戦いでの動き、悪くなかった」
そう言ってやると、ソウルは驚いたように目を見開く。
「相手を撹乱させるような動きで、モンスターを翻弄出来ていた。まあ、トドメはウィアレルが刺してしまったがな。だから、お前はその動きをもっと鍛えた方がいい。......と、いうことで」
俺はそう言って、ソウルから距離をとった。
その距離、50mほど。
「......仕方ない」
ちょっと、俺の血を削るか。
前世で開発した魔法を、ソウルから見えないようにそっと展開する。
「......"S-20009"」
その呪文と共に、体がぐっと重くなる。
この魔法は、俺にとっては秘技だ。前世では魔力が尽きた時に使っていた、自分の血液を魔力代わりに使えるようになる呪文である。
これは、前世でもどうしようもない時しか使わなかった魔法。強大な魔法を展開しようと思えば貧血でぶっ倒れるし、滅多に使うことのなかった、というか使いたくなかった技だ。しかし、ソウルの練習相手には俺の魔法が必須だ。
「ソウル!俺はここからお前に向かってどんどん魔法を展開していく!お前はそれをかわしたり避けたりして俺を追いかけろ!」
ソウルが頷いたのを確認して、俺は自分の銃剣を取り出し、左手の中指の先端を少し切った。指先が一気に熱くなり、自分の血液がじわりと溢れ出す。
「"Lo-608"からの"S-45"!!」
呪文を唱えると同時に、指先から物凄い量の血液が溢れだす。それをそのまま地面に叩きつけると、溢れた血液が魔法陣を形成した。
呪文の展開速度は遅くなっているが、まだ無事に呪文を展開できそうだ。
ソウルと俺の間に幾つもの岩の柱が形成される。岩と岩の間には、至る所に落とし穴を用意した。
ソウルはいきなり目の前に現れた岩の柱に驚きつつも、軽く助走をつけると、俺に向かって走り出した。
1個目の岩を軽々飛び越える。しかし、その下には落とし穴が。
ソウルは落とし穴にまんまと落ち、砂煙が立ち上る。落とし穴の深さは魔力レベルに依存するため、魔力レベル1の落とし穴はそこまでの深さではないはずだが、高い岩を乗り越えてきたあとだから、結構なダメージかもしれない。
俺の心配をよそに、ソウルはすぐにジャンプして落とし穴から脱出した。
__いいぞ。
次の岩も乗り越え、そのすぐ下にあった落とし穴は、岩を蹴って勢いをつけることで回避。ふむ。なかなか悪くないじゃないか。
俺は再びソウルと距離を取りつつ、再び地面に中指を打ち付けた。再び物凄い量の血液が溢れ出し、ソウルの目の前に岩を形成した。ソウルはいきなり現れても動揺せず、ダッシュで駆け上がってクリアする。
その後も俺のトラップを避け続け、フェイントで入れた電気網も初見で回避した。
そして、勢いに乗ったソウルはどんどん加速していく。
対する俺は、血液を流しすぎて頭痛と冷や汗が止まらなくなってきていた。
もともと栄養失調な体だ。いきなりこんなに大量の血液がなくなったら、そりゃあ貧血にもなるだろう。
吐き気が俺の体を襲い、目の前が真っ白になってくる。もう目の前にソウルが迫っていた。
俺は最後の力を振り絞り、中指を地面に叩きつけた。今までで1番高い岩柱が形成される。
それをソウルは勢いでジャンプして乗り越え、俺の体に__触れた。
その途端、俺の意識はシャットアウトした。
To Be Continued!