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プロローグ 前世、恋焦がれたこの世界

 ヴィグレント王家の敬虔なる一召使見習いである私ことネリ=ディーンには、前世の記憶があります。そんなことを言い出したらいよいよ頭がおかしくなったのかと周りの人々に心配されてしまうので、平凡極まる女の子を装っていますけれども。


 順を追ってお話ししましょう。


 私が現在暮らしている国は、ラフネカース王国といいます。大国とはいえないまでも、自然に愛され、豊かな作物と鉱物に恵まれている王国です。


 そして、その現ラフネカース王国を統べるのが、高貴にして高潔なるヴィグレント王家。この王家がお暮らしになっているヴィグレント城こそが、私ことネリ=ディーンが住み込みで働くことになる尊き場所だというわけなのです。


 ディーン家は代々王家と縁があり、私の母は召使長(リーダー)にして、今の王子様方の乳母もつとめております。


 このラフネカース王国には、三人の麗しき王子様方がいらっしゃいます。


 三人とも三者三様ありあまる魅力をお持ちなのですが、中でも特に私が敬愛しているのが、他ならぬこの国の第一王子、エルシオ=ラフネカース=ヴィグレント様です。私はまだお会いしたことすらないこの方のためならば、命すらも惜しくないとさえ本気で思っております。ネリ=ディーンが何故そこまで彼に全幅の信頼を置いているかといえばその答えは、先ほど申ました私の前世の記憶にあります。


 繰り返しになりますが、私にはたしかに前世の記憶があるのです。


 全てを思い出したのは、私がネリ=ディーンとしてこの世に生を受けて三年が経った頃のことでした。


 今から、二年前のことです。


 当時三歳だった私が、母の腕に抱かれて心地よいまどろみに浸っていたその時でした。突然、私たちの部屋に急いたノックの音が響き渡りました。


召使長リーダー。入ってもよろしいでしょうか?』

『ええ、お入りなさい』


 息を切らしながら部屋に入ってきた召使いの女性を、母はやや緊張した面持ちで見つめておりました。


『第三王子、リオン様がたった今、ご誕生されました……!』


 第三王子、リオン=ラフネカース=ヴィグレント。

 その名前を聞いた瞬間、脳髄を雷で打たれたかのような衝撃が頭を走りました。


 次の瞬間、走馬灯のごとく前世の記憶が私の脳裏で鮮やかに流れ出しました。


 リオン様は、この先、サラサラの漆黒の髪をなびかせて、翡翠にも劣らぬ深い緑の瞳で知らず知らずのうちに世の乙女たちの心を鷲掴みにしてしまう青年に成長します。彼は美少年であるとともに、ともすると美少女にも間違われかねないかわいらしさも兼ね備えた素敵な王子様なのです。

 性格も見た目通りに穏和でお優しく、正しく天使なのでした。


 その時に雪崩れ込んできたのは、リオン様のことだけじゃありませんでした。


 銀の髪と妖しい紫水晶の瞳で人間離れした色香をまとった美青年のお姿。

 これは、この国の第二王子、シャルロ=ラフネカース=ヴィグレント様だ。この時の私には、彼が将来には多くの女性たちを泣かせる困り者になるということまではっきりと分かりました。


 そして。


 第一王子である、エルシオ=ラフネカース=ヴィグレント様。

 まだ見ぬ彼のお姿も、このまぶたの裏にありありと思い浮かべられました。

 太陽の光を編んで作った金の髪。

 見る者を慄かせる、鮮血よりも赤く、ルビーよりも紅い切れ長の瞳。   

 この国の第一王子である彼こそ、私が前世を捧げて敬愛していた、神様にも匹敵する絶対的なお方。


 前世の私は、彼のことを知り尽くしておりました。


 それもそのはずです。


 ここ、ラフネカース王国とは、前世、日本という国の平凡極まる女子高校生であった私、小野寺 鈴子がその身を捧げて入れ込んでいた乙女ゲーム『ときめき★王国物語』の舞台であり、この三人の王子様方がその攻略対象だったのですから。


 前世、華の十八歳(高校三年生)にしてあっけなく交通事故で命を落とした私は、他でもないあの『ときめき★王国物語』の世界に、名前すら出てくることのない一国民として生を受けたというわけなのでした。



 前世の私は、それはもう燃えるように熱く『ときめき★王国物語』の世界に焦がれておりました。とりわけ、エルシオ=ラフネカース=ヴィグレント様の熱狂的な崇拝者でした。何度も彼にときめいては布団の上でのた打ち回り、果てには画面に頭を打ち付けて額にコブを作ってしまう程のキモヲタでした。


 それほどまでの病的な想いが、ついには私の魂を、『ときめき★王国物語』の世界に連れて行ってしまったようでした。


 全てを悟ったその瞬間、私は感動のあまりむせび泣いてしまいました。


 突然泣き始めた私を見て、この世界での母はぎょっとした後に、おろおろしながら私の涙を拭いました。


『ネリ……? どうしたんだい』

『リオン様のご誕生が……あまりにも嬉しくって』


 齢三歳にして、それまでとは別人のように突然流暢に喋り始めた私を、母と召使いの女性は唖然とした表情で見つめておりました。リオン様のご誕生を知らせにきた召使いの女性は、気味悪がって、震えてすらいました。


 まずい! 三歳児がしていい発言ではなかった……!

 一瞬にして失態を犯したと察知した私は、にっこりと微笑んで口を噤むことによって、二人の珍妙な生き物を見る目から逃れたのでした。

 


 リオン様が生まれなさって記憶を取り戻したあの日以降は何も分からぬ幼い子供を装い、怪しまれないように振る舞っておりますが心の内ではずっと揺らぐことのない燃える野望を秘めておりました。


 それは他でもありません。

 

 私の敬愛するエルシオ=ラフネカース=ヴィグレント様に、永遠の幸福をもたらすことです。


 この世界がゲームの世界そのものであるならば、エルシオ様の背負っている運命は、あまりにも過酷すぎる。


 一人の人間が背負いきれるものではないほどに重い運命だ。


 前世の私は、それほどまでに重い運命を背負いながらも、苦しみもがきながら最終的にゲームのヒロインであるティアと共に生きることを決意し、火のように燃えたつ激しさで彼女を愛した彼に心を奪われました。


 エルシオ様は、今から十五年後に現れるこのゲームのヒロインであるティアと恋に落ちてこそ初めてそれまでの過酷な運命を振り払い、光り輝く幸いを手にすることができる。


 ゲームの中では、エルシオと結ばれるハッピーエンドだけではなく、第二王子であるシャルロルートや第三王子のリオンルート、更にはそれぞれにバッドエンドまで用意されています。私は勿論、全てのルートを五周ずつクリア済みです。エルシオルートに限れば、ハッピーエンドもバッドエンドも二桁以上は繰り返しました。


 しかし、この熱狂的なエルシオ崇拝者である私がこの世界に生まれ落ちたからには、この世界がエルシオハッピーエンドルート以外を辿ることだけは絶対に許さない。なんとしてでも、この世界のエルシオ様には幸せを手にしていただかなければならない。


 前世より敬愛しつづけてきた彼のお力になることこそが、私がこの世界に生まれ落ちた意味なのだと思うのです。


 だって、彼が幸せになることこそが、私の幸せであり本望なのですから。

 私はそのために、全力を尽くす所存であります。


 三歳にして強い野望を抱いたあの日から、早二年が経ちました。


 ついに、この世界のエルシオ様とご対面する時がやってきました。

初めて書いた長編小説になります……!

お付き合いいただけたら幸いです(・ω・´)

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