2話:勇者はチート能力でレベル上げ
扉をくぐって数十分後、景は森の中に居た。風が心地よい。季節はわからないが、それほど暑くはなかった。スタート地点とマップがランダムで決まるこのゲーム、いきなり武器や防具を所持してスタートできるクラスと出会ったり、「20秒間MP消費を0にする」などのぶっこわれスキル持ち黒魔導士と出会う可能性もあったが、とりあえず身が隠せる場所でよかった。
「武器も防具も貰えないこれじゃすぐ死ぬかもしれないからな」
人の呻き声が聞こえたが景はそこを向かず。辺りを見渡し
「んー。あ、居た」
武器が無くても楽に殺せるクローラーというゾンビ系モンスターを見つけソイツの頭を踏みつぶす。
ゾンビ系は大まかに2種類、這うタイプと歩くタイプだ。這う方は比較的楽に殺せる。
グシャリと腐ったリンゴを潰したような音をたて、クローラーはその動きを止めた。
頭の中にレベルアップの音が聞こえる。ゲームでは全体メッセージで各プレイヤーに知らされるのだが、これもそうなのだろうか。総MPSPがバレているとやりにくい。
「確かめる必要があるな……」
靴底に着いた血肉を地面でぬぐう。
「このスキル。もしかしたら当たりかも。ははは」
足元のクローラーに触れ。
「スキル発動」
と唱えた。今現在景のレベルは2総MP・SP共に20、SP残り10。どうやら1レベル上がるごとに10上がるらしい。これもゲームと同じか。
他のクラスは100以上でスタートしてるから早めに上げたほうがいいな。
ぼうっ。と手のひらが暖かくなり、先ほど潰したクローラーの頭が再生する。生き返ったのだ。
やはり。と景は口角を上げた。
ふうっ。息を吐き、
「念のため潰すか」
移動は遅いモンスターだが、万が一がある、腕を潰せばひとまずは安心だろう。
景は数秒眺め、確認した後クローラーから少し離れた場所にどかっと座る。
「ごめんね、待たせて。今、見てもらった通り、俺は殺した生物を生き返らせることができる。それがスキル、さっき使っちゃったから後1回しか使えないけど」
前方50cm、笑顔で語り掛ける景の目線の先には手足を靴紐で縛られた少女がガタガタと震えていた。
体系から見て小学生だろうか。顔にも幼さが見える。
髪や肌にはドロが着き、スカートにはシミが出来ていた。恐らく失禁したのだろう。
武器とブレスレットも取られ、離れた場所に置かれている。
「おねが……します……たす……て……」
涙を流しながら景に懇願する。
「さっきはごめんね、ちょっと確かめたいことがあったから」
「な、なんでもしますから……助けて……おねがい……」
景はハンカチで少女の顔を拭こうとしたが、ビクリとはね顔をのけぞらせる。
「君の名前は?」
「ユカ……」
「そう。ユカちゃん、何歳?」
「じゅ……15」
てっきり小学生かと。まあ、どうでもいいか。
「ありがとう。ところで、このゲームやったことは?」
歯をガチガチと鳴らしながら嗚咽を漏らす。景がやろうとしているか、理解したのだ。
「3回目は無いよ、やったことは?」
「あり……あります。お願い……お願……」
懇願するユカの口に指を当て
「しー。しー……落ち着いて。じゃあ分かるね、問題です。このゲーム、他の勇者を倒すと貰える経験値は?」
「倒した……プ……おっおえぁっ」
自分の腿の上に嘔吐しユカは震える。
「そう、倒した相手が持ってた経験値の倍」
そう、このゲーム他のプレイヤーを倒せばその分レベルが上がるのだ。もちろん、他のRPG同様に所持していたアイテムも奪える。
そう、倒せば。
「なんでもします……おねがい……殺さないで……」
頭を地面にこすりつけ、景に懇願するがははは、と笑い近くに立てかけていたユカのダガーを手に取る。
「大丈夫、生き返えしてあげる」
森の中に小さい悲鳴があがり、鳥が数羽空へ飛んだ。
「おっ一気に5になった。ちゃっかりレベル上げてたのか」
ゲーム開始1時間15分、景は暫く笑い、足元の遺体に触れた。
シラフジ ケイ
LV:5
クラス:持たざる者
ステータス
MP50/50
SP50/50
スキル:自分が殺した生物を生き返らせる(消費SP10/1回)
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