俺ときー君
同性愛です。ご注意を。
真っ黒な夢を見た。何もなくて真っ黒で、しんとしている。その中に自分がただ一人漂っている夢。
恐い・・・
「・・・よー。よー。よーぅ・・・遥!」
はっと目が覚めると、おたまを持って心配そうな顔つきで俺を見つめる清隆がいた。
「きー君・・・俺、今黒い夢見た。」
とりあえず、まずさっきの夢を清隆に話したかった。
「黒い夢?」
「うん。」
そう言って俺は黙った。さっき見た夢をもう一回思い出そうと思って。
「じゃ、俺おかゆ作ってくるわ。まだ熱あるんだからちゃんと布団にいろよ。」
清隆・・・きー君はおたまを持ちながら、台所へと帰っていった。
熱がある時は何だか周りが変な感じだ。きー君を目で追うため一度体は起こしたものの、頭がくらっとし、またバンと布団に倒れてしまった。
ぱっと部屋を思い浮かべる。2DK・・・寝室が一個にキッチンと、もう一つはリビングにしている。広くはないが、俺たちにはそれで十分だ。
ふと、手を額にやると、俺の肌は結構汗ばんでいた。
腕で汗をぬぐうと、ほのかに生温かいしょっぱいような匂いがした。・・・こういうの、ちょっと好きだ。
「出来たぞー」
にこにこしながらきー君はもわもわと湯気の立つおかゆを運んできた。
「おっうまそー!」
熱があってダウンしてても、きー君の料理だけはいつでも食べたくなる。
「出来たてだから、まだ熱いぞ〜。お前この前火傷したもんあ、猫舌のくせに急いで食べようとするから。」
「だってあの時超腹減ってたんだもーん。今日はちゃんと冷まして食べますよー」
口を尖らせてそう言うと、きー君は微笑み、
「熱いからお皿にも触るなよ」
と言った。
俺は言われた通りに待つ。おかゆからたつ半透明の大量のおいしそうな湯気が鼻腔をくすぐる。
ちょっと経ち、レンゲで皿内をぐるぐるかき回してからすくい、口に入れる。
うまい。トロトロとしたほんのり甘い卵の入ったおかゆがゆっくりと喉を流れてゆく。
「どう?」
「うまい。」
俺はニッと笑ってまたおかゆを食べた。
俺ときー君は二人でこの小さなアパートに住んでいて、俺は東京で一番デカい本屋の正社員、きー君は赤坂の小さなフレンチレストランで修行をしている。
「いっけね。俺まだ休みの連絡してないわ。」
「あーなんかね、電話かかってきたから熱があるから今日は休むって言っておいたよ。」
そう言ってきー君はニコッと微笑んだ。
「サンキュー。」
「お兄さんですか?って聞かれたから、ちょっと迷ったんだけど、そうですって言っちゃった。」
「まじかー・・・;でもまさか恋人ですなんて言えないよなぁ。」
「だよねー。」
俺達は秘密を持つ共犯者のようにフフッと笑った。こういう関係が恥ずかしいなんて思っていない。むしろ極少数派で誇らしい気持ちだ。
「あれっきー君今日仕事は?」
「俺今日休みの日じゃん(^^`)」
「そっか。」
そうだ。俺の休みは週1だったが、きー君は週2日だった。俺は本屋の他に週1できー君の修行場所のレストランでピアノのBGMのアルバイトをしているのだ。
「じゃ、俺洗い物してくるわ。」
きー君は立って、また台所に行ってしまった。
俺ときー君が出会って1年・・・と1ヶ月か。
たしか、梅の花が綺麗に咲いていた気がする。
俺はまだ、大学出たてで、まだ慣れてないレジを懸命に打っていた。本屋だが、デカいだけあって客も多いのだ。
きー君は、1ヶ月に1回くらい来ていた。俺の打つレジの正面に見える料理本のコーナーで、気むずかしいような困ったようななんとも言えぬ顔をしながら色んな料理の本を読んでいた。その姿が妙におもしろくて、俺はきー君を見る事が楽しみとなった。
きー君はきー君で、俺が必死でレジを打っている姿がおもしろかったらしい。
ある時、きー君は3冊ほど重たそうな料理本を持って俺のレジに並んだ。
「あのっこれとこれとこれ・・・ください。」
でっかい本を両手で抱え込んでて、キョドりながらそんな事言って、この人大丈夫かなと俺は思った。すると案の定、
「うぉっ」
と言い料理百科みたいな分厚い本をバサバサッとレジの上で、落とした。
やっぱり・・・;
俺は苦笑しながら本を持とうとした・・・・・・その時、俺ときー君の手が見事に重なったのだ。
「え・・・?」
その瞬間、俺の心臓はいきなり鼓動を速め、顔は煙が出そうなほど真っ赤になった
・・・・・・・・・りはしなかった。
言ってしまえば、男と手が触れたって何も思わないし、まぁぶっちゃけ、俺にはその気は無かった。
ただ、俺はきー君の事を気に入っていたから
(ああ・・・この人ドジだなぁ、本当おもしろいよなぁ)
とその時思った。
「えっ」
と言ったのはきー君で、もしや自分の手から本が落ちるなんて思ってなかったらしい。きー君とは、あんな持ち方しといてこういう事を言う大ボケだ。
ともかく、俺はそんな事を思っていたのだが、きー君は違ったらしく、ふざけたような話なのだが
手が触れた瞬間
ドキッとしてしまったらしい・・・この俺に。
・・・というのが、俺ときー君のこういう関係になったきっかけみたいなもので、ぶっちゃけ、あの時の事が無かったら、仲良くはなっていたかもしれないが、恋愛には発展していなかったと思う。
恋とは突然やってくるのだ。
俺がきー君に恋したのは、というとそれから少し経った頃になる。
”きっかけ”後から、きー君が本を買う度、俺達は一言ぐらいづつ交わすようになった。
一言・・・と言っても本当に挨拶程度の事で、「元気ですか?」とか「今日はいつもより早いっすね」とかそんな事ぐらいしか話せなかった。
やはりデカい本屋なので、いつもレジには列がができているのだ。一人に時間をかけていては他の客に文句を言われてしまう。
ある日、俺の勤務時間が終わる直前にきー君は来た。
俺の勤務時間は8時までで、きー君が来たのは確か7時半すぎ。
その時間帯は会社帰りのサラリーマンが結構来るので、まだ空く時間よりは少し早い。
きー君は、俺のレジに並ぶとすぐに早口で
「今日、時間空いてますか?」
と唐突に聞いてきた。もちろん俺は一瞬びっくりはしたが、日ごろこのおもしろい人ともっと喋ってみたいと思っていたので、
「8時まで待っててくれる?」
と口早に伝えると、きー君は
「じゃあ外にいます」
と言ってレジから抜けた。
俺は急に嬉しくなって、その場でニヤッとしてしまった。
仕事が終わり、急いで制服という名の緑のエプロンを脱ぎ、ロッカーに入れて、コートを着エスカレーターに乗って走って下まで行った。
2月といえどもまだ寒くきー君は本屋の外でポケットに手を突っ込みながら、はぁ・・・と伏目がちに白い息をはいていた。
はぁはぁ、と急いでた俺は、その姿を見て止まってしまった。無音のような光景で、映画みたいで・・・きー君がとても魅力的に見え、思わず背筋がびくっとなった。
この時、俺はきー君に恋をしてしまったのだった。男にときめいた事なんて無かった、この俺が。
ガサッガサッ
横できー君が動いた。何時の間にかきー君も布団に入っていたようだった。
俺は何故か急に口走っていた。
「きー君、抱いてよ。」
またガサッと音がし、
「ほら、来い。」
ときー君が大きな両腕を広げる。
時々きー君には裏があるんじゃないかと思うことがある。わざとわからないフリをしているような。
「そういう意味じゃないのに。」
「だーってお前風邪引いて弱ってるじゃんか。もっと体調悪くなったらどうすんだ。」
ほら、やっぱり俺の言った意味わかってる。
俺はきー君の腕の中に入り
「んー!!」
と唸った。
きー君が顔を寄せてくる。
「んっ」
いきなりのキス。
「何だよ、言えよ!」
俺が怒った口調で言ったのに、またキス。
「うわっ//うー。」
舌と舌が一度ちょんとぶつかり、その後は一気に絡み合った。チュッ・・・チュッ・・・チュパ・・・。静かな部屋にこんなに音が響くのだ。それだけでとても恥ずかしい。
「んっ・・・うっ・・・わ・・・はぁ・・・」
最後にチュッといって口が離れたとき、俺はくたくたになっていた。
今日のキスは、なんかエロかった・・・//
「なんか、エロいよきー君」
顔を見ずに抱きしめられながら言うと、
「風邪で、よーの口の中が、あったかくって、だ液がトロトロしてて・・・ちょっと、夢中になった。」
「なっなんだよそれ・・・//」
赤面していたら、俺に睡魔がのしかかってきた。
きー君も風邪をひいてしまえばいい。
俺はすぐに眠りに落ちた。
(終)




