逃亡?
情報省から何処まで逃げおおせるかは分からんが、禍根は消しておくべきだろう。
砂漠のピラミッドの頂点に立ち、遥か彼方の雑魚達の群れに、最上級火炎魔法を広範囲で放つ。
ごっそり抜かれたはずのMPは、派手な勢いで回復していく。
小が1なら中は25、大が50で最大は99。
範囲も同じで不足分はそのまま倍数になる。
レベル30のオレの場合、威力で69足りずに範囲でも同数足りない。
双方で138足りないから138倍の魔力を消費する。
更に消費魔力は魔法レベルに比例、つまりMP99×138が普通の威力。
これに破壊力を足そうと思えば、倍数で威力が上がっていく。
さっき雑魚達に撃ったのはそんな攻撃。
かなりの遠距離だから減衰を考えて、13662必要な魔力を10倍で撃った。
しかし、13万チョイの魔力など、数秒で回復してしまう。
つくづく化け物になっちまってんな。
もう出す事も無いと思ってたクマネコバスを出し、中に潜ってのんびりする。
中は空調とまでは言わないが、それ相応の魔法を適度に使用しているので快適だ。
しかし、ここに載せるとまるで、スフィンクスみたいな感じになるな。
砂漠のピラミッドの上に、クマネコの像とか言われるかな、くくくっ。
魔物避け効果のあるクマネコ姿なので、のんびりしていてもモンスターは来ない。
不死系はピラミッドから出ては来ないが、砂漠のモンスターは他にもいる。
巨大アリのアントン、砂の中から攻撃する砂蛇、硬い表皮の鉄サソリ、そしてハゲワシ。
特にハゲワシは人の味を覚えると、クマネコ以上に厄介だ。
殆ど空中待機型のモンスターなので、地上に降りてくる期待は出来ない。
しかも、目を付けられるとそいつが死ぬか街に入るまで執拗に追いかけてくる。
そして街から出ようとする人間を、新たにターゲットにしてしまうのだ。
そんな訳で、ハゲワシが街の近くに来た時は、そのままギルドの討伐依頼になっちまう。
串肉を食べながらそんな事をのんびりと思いつつ、これからの事を考えていた。
ふと見ると、冗談で付けたマナレーダーに反応が出ている。
これは大気中のマナの乱れを探知するもので、近くで魔法が使用されて減ったマナを探知するものだ。
見ると北西の方向のマナに乱れがあり、魔法が使用されたのだと分かる。
うむ、成功だな。探知能力に不安があったが、かなり遠くまで探知出来ている。
やはり複合魔法はかなり有効だな……表に出せないけど。
ゲーム時代、某アニメに影響された奴が開発に成功した手法。
右手に何とか、左手に何とか、合わせて何とか……こういうのをやってみたいと思ったらしい。
でも実際にそんな事はやれず、思い余って魔法陣で複合させたのだ。
その結果、反対属性は無理だったけど、複合魔法自体は成功した。
ただ、効果はイマイチで消費魔力も多く、流行らずに廃れた手法。
後、反対属性で消える……これに注目した奴がいた。
消滅魔法になるとでも思ったのが、かなり真剣に研究したらしい。
それが単に魔法の打ち消し合いに過ぎなかったと判明した。
なまじ過疎だからそういうとんがった奴が多かったあのゲーム。
一般人は新しいゲームに移ったけど、とんがった奴らは残ったんだ。
それから考えると、オレもそのひとりだったのかも知れないけどね。
とにかく、あいつらのせいで数多くの裏技が出来たんだけど、それが大勢に愛用されるといった、日の目を見る事は無かった悲しい裏技達。
まあそのお陰でオレはいきなりでもこの世界に馴染めたんだけど、これがもし一般人なら裏技とか知る事もなく……
その点だけは有利だったかな。
ただ、ゲームの時には無かった余計な効果が付属しちまったけど。
ああ……姐さん……はふうっ……やれやれ、参ったな。
こんな副作用とか想定外だよ。
クマネコバスの中に小さな花壇がある。
縦50センチ、横20センチ、深さも20センチしかないんだけど。
ここに闇沼を使うと無限ゴミ箱になる訳で、何でも消えてくれる便利な……トイレ。
車内に毛布を敷いてゴロゴロと……そういえば、オレって目的が無いんだよな。
流されるままにこの世界に来て、そのまま両親の子になって……そのままならそれで良かったんだけど、それがあんな事になって。
姐さんとなら所帯を持っても……くくく、良いかもな、そういう生活も……ああ、姐さん。
そしていきなりバスが揺れる。
うお、何だ何だ……慌てて操縦席に座ると、マナレーダーに大きな反応。
これ、撃たれたのか。
うわ、防護マナの消耗が酷いな。
防御系のルビーの残量がかなり少ない。
早速、水晶経由で充填……はふうっ……
何を撃ちやがった、派手に減ってるぞ。
うお、なんだあいつ、空中に浮かんで? いかん。
反射魔法シールドスイッチオン……
と言うか、これ、喋る必要無いんだよな。
指定の水晶を押し込むだけで発動するんだし。
お、跳ね返したな……くくく、驚いてる驚いて……あれっ?
音声拡大装置……まあ、拡声器か。
【何してんの? 姐さん】
そうなんだよ。街に居るはずの姐さんが空中に浮かんで、今こっちを攻撃してんの。
あれ、降りてきたな……こっちに近付いて……窓から……
「やっぱり姐さんだ」
「キル……ちゃ……嘘……」
「姐さんって魔族だったんだね」
「うっ……そ、それはね」
「まあ、入りなよ」
「え……でも……」
「いいからいいから」
「う……うん」
中でお茶を淹れてやる。
逃亡生活もやれるようにと、ありとあらゆる設備を組み込んでんだ。
まさかこれが本当に役立つ日が来るとは、思いたくもなかったが……
「それで、これをどうして攻撃したの? 」
「モンスターだと思ったから……まさか、乗り物だなんて、それもキルちゃんの」
「魔族って単に、魔力が多いだけの人間じゃなかったの? 」
「魔族はね、空を飛べるのよ」
「それは人間もやれるよね。ちゃんと飛翔魔法だってあるんだし」
「あれはね、人間が真似して……でも、今では誰も飛べないから」
「ちょっと頼みがあるんだけど」
「何でも言って……その代わり……」
「ちょっとそこに寝てくれるかな」
「え……まさか」
「さっきも姐さん思い出しながら転がってたし」
「ぶはっ、くくくく……あ、ゴホン……ごめんなさい」
そして至福の時は瞬く間に過ぎ……
「ああ、サッパリした」
「最近、キルちゃんが来ないから」
「うえっ、オレが何か関係あるの? 」
「キルちゃんも魔族なんでしょ? 」
「うえっ? オレは人間だよ」
「またまた、そんな膨大な魔力持った人間なんて、聞いた事ないわよ」
分かるのかぁぁぁ、そんなぁぁ……
「い、いや、これはちょっと事情があって」
「くすくす、いいからいいから」
「そうじゃなくて、単に……」
「単に? 」
いや、待てよ。ここはそのまま押し通したほうが……そうだよな、姐さんも魔族なんだし、うんうん、きっとそのほうが……
「はぁぁ、参ったな」
「あはは、観念したようね」
「潜伏してどれぐらい経ったかな」
「そうなんだ、アタシはまだ5年だけどね」
「国の調子はどうだ」
「ああ、あそこは相変わらずよ。だから抜けたんだけどさ」
「変わらんか、相変わらず」
「それより、どうしてこんなところで? 」
「ああ、人間に所在がバレちまってな、今は逃亡中だ」
「あはは、それでこんなところで」
「さっきもそいつら殺したんだが、隊長だけは殺せなくてな」
「まさか、情報省とか」
「そのまさかさ」
「うわ、それは災難ね」
寝物語にしては物騒な話は続いていく。
「それでこれからどうするの? 」
「そうだな、姐さんに養ってもらう手もあるな」
「あら、そうしなさいよ。歓迎するわ」
「そうか、ふむ、それも良いか」
「決まりね。じゃあこれ、どうにかするんでしょ。街で待ってるからさ」
そして服を着てそそくさと……
はうっ、何とかなったような、ならなかったような。
魔族ってマナを吸うのな。
行為の最中、ずっと吸われてたけど、元が膨大だから微々たる量で。
しかも今回は多かったから気付いたぐらい、微細な量抜いてんのな。
恐らくあれだ……これをでかいモンスターだと思って、魔法で瀕死にしてマナを奪おうと思ったんだろう。
それにしても、空を当たり前に飛んでたな。
という事は、全身のあの傷跡に見えたのは……幼い頃の折檻の跡ではなく……飛翔魔法の白粉彫りか。
これはゲームの設定だけど、魔族ってのは元々人間から分かたれた種族なんだ。
魔導に魂を売った一族ってなっていて、小さな頃に全身刺青にされちまうんだ。
まあ、普通の刺青じゃないから痛かったり熱が出たりはしないけど、表社会には出られんわな。
当然、一族以外へは嫁にも行けないし。
とにかく、人体にあらゆる刺青を施し、魔導兵器化しようって……
当然、そんな一族は人間社会からはじかれ、今では辺境に追いやられている。
この世界にもあるのかな、グライエス……魔族の国と呼ばれるあの国は。
大陸がアヒルみたいな形と言うのは前にも言ったと思うけど、そのちょうど胸辺り。
その先に茶碗を伏せたような形の海中山脈というのがある。
それは海底からそのまま山になって連なっている島の事を言うんだけど、その先にトランプのダイヤの形をした島があり、そこがグラエスとなっていた。
そしてそこに行く方法なんだけど、確かダークスネルの先のストーンサークルが関係していたような……
オレはあんまりそういうのに興味が無かったから、はっきりとは覚えていないんだよな。
しかし、何だってそこからアラネイなんだ。
あそこからだと、もしストーンサークルを使ったのなら、アークスネルじゃないのかよ。
それとも出身ってグライエスじゃないのか?
☆
「あれから長いからもう、国の名前ぐらいは変わったと思ったが」
「サンドロスはサンドロスよ」
サンドロス? そんな国、知らないぞ。
あれ、サンドロス……サンドロース……サン=ドロース……スアン=ドゥロズ……あれ?
孤島の爺さん、確かそんな名前だったよな。
まさかとは思うけど、姐さんもあの手法……だからなのか?
「姐さんは何回したの、あれ呑むやつ」
「え、何回って、あんなの一生に1度じゃない。14才になったら呑むとか言われてさ、アタシはもうあれが嫌でさ、嫌だと言うのに無理矢理よ。そりゃマナは増えたけどさ」
1生に1回ってどういう事だ。確かあの爺さんは毎月1年って言ってたから……
「オレは毎月呑まされたよ」
「うわぁ、災難ね……あれ、という事は王族なの? 」
おいおい、王族はそんな宿命背負ってるのかよ。
「いや、親が染まっちまってな」
「ああ、それは災難ね。身分じゃ届かないから、せめて子供に似た事をやらせようって親かぁ、それで捨てたのね」
「あれの副作用は知ってるか? 」
「詳しくは知らないけど、強くなるとは聞いたのよね」
「ああ、強くなるぞ、物凄くな」
「じゃあ、キルちゃんは」
「ああ、物凄く強くなった……性欲が」
「あははははは、それで、なのね」
「呑み始めて気づいて止めたが、強くなったものは弱くはならん」
「なら、たっぷりと」
「ああ、今日から好きなだけ抜いてくれ」
「助かるわ。キルちゃんはもしかしてと思ってたけど、そんな事は言えないしさ」
「早速、今夜から良いぞ」
「ああ、もう、最近、得られなくて……」
ああ、こういう感覚も良いな。
マナの抜ける感覚は、大量だとめまいになったりもするが、こうも微量だと心地良さしか感じんな。
いわば、微細な気だるさと言うか……これは……病み付きになりそうな……
(ねぇ、マリーナ、それ、どういう事かしら……あら、分かっちゃったのね……アタシは言ったはずよ。目立たないようにってね……そうだったわね……そんな、充足する程に吸うなんて、発覚したら終わりってのを忘れたようね……くすくす……反省も無いようね……違うのよ、くすくす……覚悟は良いかしら……ねぇ、違うんだって、サンドラも知ってるでしょ、キルちゃんよ……あの子がどうしたの、確かにアンタのお気に入りだけど……あの子ね、今アタシの部屋にいるのよ……まさか、連れ込んだの? ……今、居候になっててね、それで毎晩なの……アンタね、欲望のままにとか、その子供殺すつもりなの? ……凄いのよ、あんな莫大な魔力、感じたの始めてなんだから……そ、そんな、事が……もう毎日毎日、お腹一杯に……ゴクリ……あはは、ならさ、全員にどうかな……さすがにそれは無理よ……あら、そんな事は無いわよ。キルちゃんならきっと余裕よ……分かってないようね。総勢は無理だと言ってんの……え、総勢って? ……ああ、マリーナにはまだ言ってなかったわね。うちらレジスタンスの事は……え、打倒するの? ……第2王子がこっちに付いたの……それって革命じゃない……うん、彼は言ったわ。古い体制を潰して新しくするって……どんな体制になるの? ……身分の無い平等な国になるのよ)
☆
今日、姐さんから眉唾な話を聞かされた。
まるで夢物語のような淡い話。
到底あり得ない、泡沫の夢のような話。
そしてそれが本当なら、破滅願望としか思えない夢……
「え、どうしてよ」
「周囲が全て同じ理想を抱くなら問題無いが、他国は中央集権をやっている。すなわち、王を戴いての政治だ」
「でも、他国は関係ないでしょ」
「平等になるって事はな、全員が戦いもしなくちゃならんし、全員が食糧生産もしなくちゃならん」
「そんなの分担すれば良いじゃない」
「それは平等じゃない。戦いは嫌だ、殺しは嫌だと、楽なほうに走られたら誰がそいつをやる。それが王族であり貴族だろうが」
「あ……そっか、元々はそうなのよね」
「そうさ、民が食糧生産を担当し、貴族がそれを守る。そしてそれ全体を王族が守る。これが本来の姿だろ。そういう体制にすると言うのなら手を貸しても構わんが、平等な国などと絵空事、誰が乗ると思ってんだ」
「じゃあこれはどういう事なのかしら」
「恐らく現体制からの刺客だな。もうその集まりに行くのはよせ、良くて捕縛、悪くすれば殺されちまうぞ」
「え、大変じゃない。凄く多いって言ってたのよ」
「だからこそそんな搦め手を出してきたんだ。敵の数が多い場合、罠を仕掛けるのは当然の事だろうが」
「ねぇ、どうすればいいの? あの子、のめり込んで、多分言っても聞いてくれないと思うけど」
「他の王族はどうなんだ。全員、体制側なら無理だが」
「アタシが知っているのはひとつだけよ。第3王子は出来損ないで、人間の町に捨てられたってぐらいね」
「何時の話だ」
「えっとね、20年ぐらい前かしら。当時、10才とか言ってたような」
「10才で出来損ない? そんなの分かるかよ。陰謀だな、確実に」
「やっぱりそう思うのね」
「恐らく親の立場が弱かったんだろう。だから勢力争いに負けちまったと」
「許婚も居たのに一緒に放逐されたって、酷い話よね」
「オレはその手の話に疎いんだが、許婚ってどんな奴だ」
「あのね、クリス=カリテスって娘だったんだけど……」
クリス=カリテス? 偶然だよな。
キルト=カーティスと似てるのは。
「その娘、何か才があったのか」
「あのね、珍しい事に、精神系と無属性魔法が得意でね」
オレは魔導具作りと錬金術は父さんから、精神系と無属性魔法は母さんから教わった。
もちろん、ゲーム知識があったから、不足の知識を足して覚えたんだけど。
だから一般的じゃない転送や、精神防御とかも母さんから教わった。
いや、偶然だよな。隠れるような立地、見た目が若かった両親、錬金術の才、珍しい精神系に無属性魔法の才。
偶然だろ……そんな偶然が、重なるものなのか?
「どうしたの、キルちゃん」
「いや、ちょっと昔の事を思い出していた」
「でも変ね」
「うん? 何がだ」
「キレイな身体だと思ってね」
そろそろ頃合か。
「ああ、そうだろうな。オレは魔族なんかじゃないし」
「え……それはどういう事かしら」
「オレは単に魔力が多いだけの人間さ」
「アタシを騙したのね。まさかキルちゃんが……アタシを……騙すなんて」
「おいおい、今更逃げられると思うなよ。お前はオレのもんだ」
「やっぱり人間だわ、アンタ。良いわ、好きにして」
依存は困るからな。
これで何かあれば、アッサリとオレを切ってくれるだろう。
宵闇の裏組織、情報省の事をどれだけ知っているのかは知らんが、そんなに甘い部署じゃないんだよ、あそこはな。
まだ隊長を殺ってないから良いが、あれで隊長クラスを殺めてたら、今頃は情報省と戦争になってたろう。
雑魚は砂漠で殺したが、あれで隠蔽になったかどうか。
まあ、疑惑は当然、あるだろうがな。
そろそろきな臭くなっていた事だし、消える前の愛想尽かし作戦は成功ってか。
数日後、遂にその兆候を見つける。
後ろに飛んで殺気と暗示ですっかり判明。
あいつ、降格されるかと思えば昇格?
あの発案者、他の隊長の子飼いだと。
頼まれて計画の監査中、トラブルでああなったと。
昇格試験とかさ、そんなもんの為にオレを利用しやがったのかよ、情報省。
ざけんなよ、くそが……ボキッ……あ……
うっかり殺っちまったな……ボックスに突っ込んどこう。
首根っ子掴んで尋問していたの、すっかり忘れてたな。
頚動脈圧迫してやれば、本人の意識は落ちて……
だから尋問と言っても読み取りになる技能。
これはステータスオープンの変形と言うか……
しかしよくこんな裏技まで設定したもんだよ。
どんなつもりで設定したのかは知らんが、尋問スキルとして確立してたもんな。
【マインドオープン】って名前が付けられていて、本人の意識が無い時以外は効果が無いんだ。
だから寝ている時に使える事が発覚して、これも消されたスキルになる。
だけどこの世界では消されてないらしい。
だから姐さんからの情報も詳しく知れたんだけど、本人は喋った記憶も無いんだろうね。
さて、今夜で終わりになるんだし、今までの研究成果を試してやろうな。
吸うというのが単なる吸収魔法なら、こうやって送り込んでやれば……
「あああ……これは……も、もう」
近年になく感じているか。
たっぷり食ってくれ、くくくっ……
僅か数分で気絶とか、マナ食いにこれは強烈過ぎたか。
大洪水な姐さんを置いて、服を着て外に出る。
さて、次は何処に行こうかねぇ。
サンドロスか……もしかしたら両親の故郷だったかも知れない国か、面白い。
次はそこを観光してみるか。
どうせ目的なんて無いんだし、ぶらり観光も悪くない。
行く前の情報収集は必然とあって、何でも買える街セノリアールを訪れる。
裏の情報屋の伝手を探り、サンドロスの情報収集。
やはり第3王子の放逐の話は出たが、そもそもサンドロスという国の場所が問題だった。
孤島の爺さんの島なのである。
孤島と言ってもでかい島の一角に住んでいたんだけど、今ではそこが国になっているとか。
王子の名前がキール=マグラス=サンドロスで、その許婚がクリス=カリテスってのは合ってたな。
しかし妙に詳しいなこいつ……今度は殺さないようにしないとな、くくく……さて、次は国内情勢について……
オレが情報を得ようと思った対象は、マナの多い奴だ。
魔族と言っても、マナの多い人間だと思っているからの事。
マナ……魔力を抜かれると意識不明になる反面、供給してやると快感ってのも実証済み。
だから裏技を使いながら軽く供給してやると、快楽の中で全てを話してくれる。
これはここに来てからオレが開発した、裏オリジナルになるのかな。
恐らくこいつは女との寝物語なんかのつもりで、答えてやっている感じになっているはず。
決して抗えないが、それを不快に思わせない手法ってか。
これも有用なスキルになってくれたものだ。
必要な事は大体聞けたと、最後にちょっと多めに魔力を送り込む。
身体が硬直して崩れ落ちる……やはりこいつも魔族か。
秋の味覚の花の香りの部屋を出て、次の目的地へと向かう。
さて、裏市場にいきますかね。