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疑惑?

遅くなりました。

 

 

気になったので変装魔法を高倍率で使って後をつける。

手に持つのはウィン・ビグ・レンの刀。

風の大級単体魔法を刻んであるミスリルの刀になる。

普通に斬っても切れるけど、魔力を注いで振れば……風の刃がモンスターを襲うって代物だ。


そして変装でフツメンの地味な青年姿にしてある。

なのにこの目線がつくづく悲しい。

平均的な背丈の青年にしたのに、普段の自分とは全然違う目線なのだ。


それにしても、下らない変装魔法もあったものだ。

確かに顔の造作が変わるから変装だけどさ、背丈はどうやってると思う?竹馬方式だよ。

つまり、超ロングなシークレットシューズ履いてる気分。

そうやって水増しして全体的に偽装をする魔法らしいけど、なんか複雑だ。


だけどこれ、逆よりはましなんだ。

ノッポさんがチビに変装すると、その誤魔化しすらもやれない訳だ。

するとどうなるか……目線は高いのに姿が低いって変な事になるんだ。

だからまるでリモコンで動かしているみたいになっちゃって、下ばっかり見てて軒に頭をぶつけるとか、よく聞く話だった。

もっと悲惨なのがふくよかな人が痩せた人に変装した場合。

まあこれは分かるよな。

狭い場所で身動き出来なくなるぐらいだからさ。


それはともかく、ハンスさんは仲間と合流して移動を開始した。

だけどその方向がどうにも……おっかしいな。

そっちはメチカネルトークス行きの街道だぞ。

そんなところの狩場と言えば、クマネコの森ぐらいしかない。

確かにメチカネルトークスすら通り抜けて、南下すれば大森林には行けるけど、そんなところに行くはずがない。

クマネコの森ですらレベル30台の奴らがパーティで何とか狩れる狩場なのに、その先とかもっとだからさ。

そんな事を思いながら尾行していけば、やはり森のほうに入っていく。


念の為、反射魔法使っておくか。


後ろからこっそりつけて行くと、魔術師が身構えて……魔禁か。

つまり、クマネコの魔法を使えないようにさせて、そこでハンスさんの出番か。

レベル25で覚えるから、最低レベル25はあるって事か。

あれ、効いてなくないか。うお、寝ちまったぞ、ヤベェ……


【ティルト】

【ティルト】


後は風の刃を飛ばす……よし、首無しクマネコだ。


えーと、ティルトと言うのは転倒させる魔法なんだ。

でもって、裏技がさ、転倒した相手に使うと更に転倒……で、何故か倒立になるんだ。

つまり、ティルトを2回使って風の刃を飛ばせば、逆さまに吊るす必要は無い訳であり……

んじゃ何で以前は使わなかったかと言うと、今のレベル28。

でもってティルトは20で覚える。

早い話が高倍率魔法は連射が効かないんだ。

注ぎ込んで撃つって感じになるからなんだけど、その場合、転倒しても暴れるから転倒の連続にならないんだ。

横になる⇒即座に連射⇒倒立……このタイミングが難しくてさ。


おっと獲物はイタダキ……ハンスさん達、クマネコに眠らされて……弱ったな、起こすのは簡単なんだけど、まだ狩るつもりかな。

オレが居なかったら今頃、クマネコの餌になってたんだけど。

それに今の姿は変装中だから、見知らぬハンスさん達って事になる。

知らない奴を助けるとか、この世界じゃお人好しの部類だ。

そんでハンスさんもお人好しだ。

依存されたら狩りにならないんだけど、それをどうすっかな。

ええい、全員転送しちまえ。

あんまり使いたくないアイテムなんだけど仕方が無いか。


全員にお札のようなのを付けて……【ジャンプ】さよーならー……

教会の前に着くようにしてあるから問題無いだろう。

これも裏技で……はぁぁ、これぐらい公開したいんだけどな。

普通の転移スクロールは神殿で祈祷してもらうんだ。

その祈祷した神殿前に到着するから、希望の街の神殿でしてもらうんだけどさ。

それがまた1枚銀貨5枚ぐらい取るんだけど、高いから裏技だ。

つまり、まとめて祈祷してもらう方式になる。

普通は1枚ずつの祈祷だけど、箱の中に99枚入れて、箱のフタの上に1枚置く。

んで、上のスクロールに祈祷をもらえば、アラ不思議、中のスクロールも終わってると。

最大数100枚の裏技で、使えたから使ったんだけど、神殿にバレたらヤバいんだ。


普通は箱の上に載せるとかはしないんだけど、転送小包ってのを以前開発したと言って登録してある。

つまり、大義名分な訳ね。

なので転送小包のスクロールを祈祷してくださいと言うだけだ。

普通は祈祷済みのスクロールを貼り付けるものだけどね。

などと説明しながらでもクマネコは素材になっています。


【ティル・ティル・カット】


こういう短縮魔法も誰も知らないんだよな。

短縮使えば瞬間的に倒立して首が飛ぶんだ。

さしものクマネコも何も出来ない早業になる。


今日は大猟でした。

歩きながら見かけたら【ティル・ティル・カット】で【ボックス・イン】だし。

後ろから魔法を使われても反射中だし。

あの苦行の成果が出ています。


調子に乗って奥まで来てしまいました。

そうしたら目の前に大量のクマネコが……

一斉に使うんです、睡眠魔法を……

そして一斉に寝るんです。

死屍累々たるクマネコ達。


仕方が無いからティルトを広範囲魔法で使いました。

寝ているから1回で倒立するんです。

後は風の刃が始末を付けてくれました。

ボックスに収納した後……ふと見るとクマネコの生首が……キャァァァ……

キモいから早く帰ろう。


失礼しました。


だって目の前に無数の生……が。

結局、それもボックスに入れたけど。

放置しといたら絶対、騒ぎになるからさ。

素材にする方法とか、バレたら困るし。


のんびりと変装を解いて、街道を店に向かって歩いている。

すると、向こうからハンスさん達がやって来る。

どうやらまだ懲りてない様子。


「あれ、ハンスさん、今から狩り?」

「う……ま、まあな」

「こっちの方向ってクマネコしかないと思うけど」

「なんだ、お前、同業者か」

「クマネコ狩りは良いけど、魔禁は難しいよ」

「ふん、あんなのすぐ眠らせちまわぁ」

「さっきね、森の中で眠ってたパーティをさ、転送させたって人が居たんだよ」

「お、おい……テルン、その話……」

「そんなのデタラメさ。きっと誰かのイタズラさ」

「イタズラで転移スクロールを人数分使わないと思うけどな」

「ふん、そんなの知るかよ。おい、行くぞ、ハンス」

「待てよ、もし本当ならどうするんだ」

「ちっ、臆病者が。もういい、てめぇは要らん」

「帰ろう、ハンスさん」

「うっ……そう……だな」


助かった命を捨てたいならもういい。

けどさ、あんまりクマネコに人の味を覚えさせるなよな。

人食いになると厄介だからさ。


「ねぇ、ハンスさん」

「うん、何だ」

「もうじきギルドから、人食いクマネコ討伐依頼出るからさ」

「おい、人食いって」

「あいつ、食われるから」

「あの話、本当なのか」

「転送させた本人が言うんだ、間違いないよ」

「お、おい、なら、あいつ」

「可哀想だけど、ああいう人は迷惑だからさ」

「そりゃそうだけどよ」

「ハンスさんは本当ならもう死んでいるんだよ」

「うっ……」


「様子がおかしいから後を付けて正解だったよ。クマネコの前で寝るとかさ」

「済まねぇ」

「そんなに貧乏してるんだ」

「ああ、だから魔鉱石をな」

「ハンスさん、解体はやれるかな」

「羊とかか。ああ、やった事はあるぞ」

「解体の仕事があるんだけど、請けてみない?」

「どれぐらいもらえるんだ」

「1日金貨1枚」

「おいおい、それはまた多くねぇか」

「やるなら店に付いて来て」

「おう、頼むな」


24時間で金貨1枚で、睡眠時間と食事時間と食事は別料金と。

欲しい時間は1時間銀貨5枚、食事代銀貨5枚で1日分と。

つまり睡眠と食事と風呂で8時間欲しいなら、銀貨40枚と5枚支出。

だから結局、1日銀貨55枚にしかならないという罠。

そして労働時間は16時間というきつい仕事。

報酬だけで決めちゃダメだよ、ハンスさん。

旨い話には裏があるって、もう気付かない年齢じゃないはずなのに。


「はいはい、こっちこっち」

「裏庭か、初めて来るな……墓?」

「ああ、両親と馬のコマの墓な」

「病気で死んだのか」

「盗賊に殺されたんだ」

「済まねぇ」

「いいさ、もう5年も前の話だし」

「そうか……」


そして解体小屋に案内し、隣の部屋でボックスから

クマネコを出して台車に乗せて転がしていく。


「さあ、解体よろしく」

「おま、それ、何だ」

「ベアキャットって動物だ」

「そんなのが居るんだな」

「野生の動物だけど、中々旨いんだ」

「そうか、よし、解体だな」

「毛皮も売れるからな」

「お、おう」


頼むよ、ベアキャット……クマネコを。

目立つ首が無いからバレてないようだけど……

もうクマネコ袋は良いから、毛皮で売ろう。

そんな訳で時々ハンスさんに台車で転がして、オレは別室で錬金術。

てかこれ本当は錬金術じゃないよな。

もっと別のスキルだろ。


クマネコに使えば肉と骨と内臓と毛皮に分離するんだし。

んでもって内臓やら骨やらは【ダークスワンプ】で闇の底だ。

これも不思議な魔法なんだけど、毎回同じ場所で使っても前のゴミは無くなってるんだ。

これも裏技のクチだけど、容量無限のゴミ箱って技な。


さて後はこの17センチ串を置いて、横には肉のブロックを置いて。

イメージのままに……クリエイト……なんて呪文じゃないけど。

錬金術に呪文は無いから、気合でも良いけど気分の問題だ。

そんな訳で、深さ20センチの箱に、縦50、横50にずらりと並ぶ。

1箱2500入りの串肉で、こんな箱が大量に……構築済みだ。

1匹のクマネコから串が2500取れるので、1箱1匹になっている。


ハンスさんが1匹解体する間に、こっちは500匹解体になっちまう。

錬金術もどき、ヤバすぎ。

結局、初日で串を使い切り、10キロのブロック肉にしたのがわんさかだ。

後はハンスさん用に数匹残し、オレのほうの作業は終わっちまった。

あんなにあった串だけど、少し長い串も長さを揃えて使ったけど、それでも63頭分にしかならなかったんだ。

もう串で売る方式は無理だと思ったね。

てか、今まで作った分をのんびり売れたら良いんだけど、あんなに集られても困るんだよな。


それはそうと、肝心の魔導具屋をやりたいんだけど、もっと廉価版のアイテムを考えないと、今のままじゃ誰にも売れない品しか無いな。

周囲の技術レベルが低いのが問題なんだけど、下手に上げると目立つからそれをどうにかしないと……

ううむ、難問だな……あれ、寝てんのか、ハンスさん。

やれやれ、だから言ったのに。

しっかりと食ってしっかりと寝て、それからじゃないと無理だって。

また以前のように不眠不休でとか、もう気力だけじゃやれない年だろうに……


     ☆


ハンスさんは眠っている。

実は彼、最近まともに眠っておらず、飯もあんまり……

例の1時間銀貨5枚、メシ5枚を話したところ、それならって寝ないし食わないの。

即日でダウンしたね。

普段、まともに食ってればいけるだろうけど、そうじゃないハンスさんじゃ無理だって。

しかも、16時間とか更に無理ってんで、半日働いて半日休む方式に決まった。

だから結局、日当は銀貨35枚になっちまったけど、妥当な線だろ。

12時間労働で35000円とかさ、単純労働じゃ破格なぐらいだ。


話は変わるが、実は前から気になっていた事がある。


例の忌まわしい記憶を掘り返すようだけど、あれって誤植から始まったんじゃないかと思うのだ。

リアルでは動物のアレって精力が付くとか、そう言う類の話なら聞いた事がある。

で、魔力は精神力に比例ってのもよく聞く話だ。


精神力-神=精力


実はこの疑惑はゲーム時代にもあったんだ。

んで通称と言うか、あんまり連想すると、使用時に股の辺りがキューンとするからってんで、代わりの名前が付けられてたんだ。


それがカンナ……


神無月からの連想でさ、精神力から神が無くなったって感じに付いたらしいんだけどさ。

まあそれがどうしたと言われても、それまでの話なんだけど。

とにかく……その、なんだ。

あの体験って思ったより精神削ってたみたいでさ、今でも悪夢になったりしてるんだよ。

無理矢理食わされ……もう止めよう……はふうっ……


「オレ、どれぐらい眠ってた」

「うん?9時間だよ」

「うげ、そんなに寝ちまってたのかよ」

「まあまあ、ご飯にする?」

「あ、ああ……で、お前は寝てないのか」

「普段、よく寝てるからさ」


それは嘘だ。

ただの裏技だ。


しかしな、こうまでゲームの仕様が反映されるって、おかしいよな。

こんな裏技とか、普通はあり得ない部類なんだけどな。

睡眠魔法のスペルをさ、逆から読んだらどうなるかって試した奴がいるんだ。

暇人だなと思ったけど、オレも試してみたんだ。

そしたら何も起こらなかったんだけど、ゲーム内で眠気が来ないんだ。

ヴァーチャル系は脳に負担が掛かるから、何時間かやっていると眠気が来るものだ。

んで大抵はどんなに廃と呼ばれる奴でも半日でダウンする。

まあそれは安全の為にストッパーが掛かるだけで、ログアウトすれば眠気は消えるものだ。

なのにオレがその逆呪文を唱えてからハント始めて、気付いたら丸一日やってたんだよな。

んで、これってヤバいんじゃないかと思い、慌ててログアウトしたらさ、もうやたら眠くてさ。


まあそれからその逆呪文は、修正が入って使えなくなったんだけど。

どうやらこの世界に修正は入らないっぽいな。

程々にしないと健康を害しそうだ。


んでまたゲームのほうに戻るんだけど、逆スペルは新しい魔法になって登場したんだ。

目覚まし魔法になってさ。

だからやっぱりその手の魔法は用意されていて、製作陣交代か何かのゴタゴタで紛失みたいな事になっていたんじゃないかってさ。

どんな変な魔法でも、設定されてないものは効果が無いはずだし、忘れられていた効果を見つけて、運営が修正したってとこだろう。


それはさておき、ハンスさんに飯を出してやり、台の上にクマネコを出しておく。

本当はもう殆ど終わっているとか、そういうのは言わない事になっている。

しかし、絶滅してないだろうな……また沸いて出て来てくれよな。

マナの濃い場所で生まれるって話になってたから、恐らく絶滅は無いとは思うけど。


調子に乗ったオレも悪いんだけど、あんな集団が居たとは思わなかった。

あんなの放置してたらそれこそ、大暴走スタンピートになっていたかも知れない。

確かにそういう話は過去にあるけど、ここ最近は聞かない話になってはいた。

恐らく誰も奥地に行かなかったんだろう。

クマネコは奥地に行くと複数遭遇するようになるけど、魔禁魔法で対抗するにはきつい相手だ。

反射なら多くても安心だけど、誰も使わないらしい。

まあ、反射はレベル45で覚えるスキルだから、滅多に使い手が居ないせいだろうけど。


皆さん、何て言うか、レベル40越えると引退しちゃうのな。

別に年齢イコールレベルって訳でもあるまいに。

だから現役で高レベルって奴を見かけないのだ。

以前、飛行魔法で死に掛けた彼も、まだ30代ぐらいだったけど既に引退してた。

どうやらこの世界の人達にとって、冒険者ってただの金稼ぎの手段でしかないらしい。

だから稼ぎ方を見つけたり、大金を得ちまうとそのまま引退しちまうんだ。


生産職もそうだ。自分で素材集めてとかやらなくなるんだ。

若い連中が採ってきた素材を買い取り、そうして色々作って売る、なんて事を始めるのだ。

経費が高くなるのにどうしてかと聞いた事がある。

そうしたら命にはかえられないって言われたんだ。

確かにそうだけど、それじゃ面白さは半減するよな。


「終わったぞ」

「うん、もうじきこっちも終わるから」

「次はあるのか?」

「休んでて、終わったら行くから」

「あ、ああ」


ふふん、残念そうな顔をしているな。

あれから4日、彼の取り分は金貨1枚と銀貨40枚だ。

コンスタントに1ヶ月もやれば美味しい仕事になっていたろうが、もう終わりってのが残念なんだろう。

けどさ、こっちも4日で15頭ぐらいの解体量じゃ、割りに合わなくて悪いな。

さすがに即日で1683頭終わらせたとは言えないけど、それでも毎日10頭ぐらいは解体してくれないと。

まあ今回のはハンスさんに対するヘルプのような仕事だから、別にそれでも良いんだけどね。


さて、16350個の10キロブロックを何処で売るかが問題だ。

やっぱり商業ギルドの裏市場で売るしかないのかな。

あそこもなぁ、確かに大量に売るのには良いんだけど、副総長に会うとヤバいんだよな。

だから変装して売るんだけど……


今は時止まりの特別製のカバンって事になっていて、借りている事にしてある。

それプラス変装でやったうえに、売った後は物影から転移ってやって何とかなっている。

本当にもう、他人の金が気になる奴が多過ぎて困るんだよな。

もう盗賊のふぐりは要らないんだよ……増えているけどさ。


え?殺し?もうとっくに慣れたって、そんなの。

商売やってたらもう、よく来るんだよ、金を出せって輩がさ。

そういう奴はさ、店が終わったら渡すって言って、物陰でグサリと殺ってボックス・インな訳よ。

んで、アイテム取って闇の沼に消えちまうと。

だから街での行方不明のチンピラのうち、1割ぐらいはオレが犯人かもね。


え?騒がれる?そんな事無いんだよ。

ただね、雷の魔法を手に帯びさせて、オリジナル魔法【スタンガン】てなもんよ。

まあ、これも裏技になるのかな。

バチッとやってグサッと殺って、ボックスに入れて何食わぬ顔。

まあそんな事をした日は少し高ぶって、姐さんのお世話になったりするけどさ。


それはともかく……


ハンスさんには仕事完了の報告と共に、少し色を付けておいたと給与を支払う。

家に帰ってから見てくれと、袋に入れたのは金貨15枚。

1匹金貨1枚で計算してあり、時間で引くとか何とかってのはただの冗談だったんだ。

あれが教訓になってくれれば良いんだけど、そんなのがなるようならもっとましになってるよな。

彼はずっとお人好しのまま、いつか誰かに取り返しの付かない事をされるんだろう。

オレが庇護しても手からこぼれそうな存在なんだけど、何とかしてやりたいと思っての事だ。

実際もう取り返しの付かない事になりかけていたんだ。

オレが後を付いて行かなかったら、今頃はハンスさんはクマネコの腹の中だろう。

オレもさ、最長の馴染み相手をさ、つまらん相手のミスやら企みで失いたくないんだよ。


だからなるべく長く生きろよな。


     ☆


やって来ました肉市場の裏手市場。

表沙汰に出来ない肉を大量に売るにはここが一番だ。

さすがはセノリアールと言ったところか。

この商業の街で買えない品は無いと同時に、売れない品も無いのである。

確かにゴミでも売ろうと思えば売れるよ。

その代わり、代金に命を差し出すだけだ、簡単だろ。

舐めた品を売ろうとした輩は、闇から闇になるだけの事さ。


それはともかく……


オレはボックスの誤魔化しに飛翔台車というのを造った。

飛行魔法の完全制御による、空中に浮かんで意のままに動かせる台車だ。

はっきり言ってその台車にはステップが付いていて、そこに乗れば空中移動……すなわち飛行だ。

その制御システムの構築にはかなり時間を食わされたが、魔法文字でより精度が向上した事がでかい。

後は科学の知識と錬金術の存在。

これだけ揃って何とかってぐらいだから、恐らく他の誰にもやれないだろう。

もっとも、他にも科学やら錬金術やら魔法文字の使い手が居れば別だけど。


さてこの飛翔台車、耐加重5トンで拵えてある。

物品を乗せるとそれを制御水晶が察知し、対抗魔力を注ぐようになっている。

すなわち、魔力貯留部門には、直径5センチの大きさのルビーを入れてあるのだ。

1ミリルビーの容量の実に13万倍という大容量になっている。

しかもそれを4隅と中央に配し、オリハルコンラインで接続している。

1ミリでMP100ならば、13万倍が5個で65万倍、つまりはMP6500万にもなる。

しかし、5トンの物質を1時間浮かすには、MP5000が必要になる。

更にそれを動かすのにも同量必要になるとすれば、1時間に1万消費する事になる。

だから6500万のマナとは言え、フル加重なら連続6500時間……約9ヶ月で尽きてしまうのだ。


更に言うならこの移動速度は人の歩く速度、時速4キロになっている。

これを倍速にすれば倍の消費となり、10倍にすれば消費も10倍になる。

時速80キロまでの速度を出せるようにしてあるが、その場合の消費は20倍。

つまり5トン満載なら2日保たないのである……緊急避難用だけどね。


え?オリハルコンラインの話をしろ?はいはい、ただいま。


これもゲーム時代の話になるんだけど、魔力と馴染みのいい金属を電線のように使えないかと試した奴がいる。

そしてその試みが、魔導具の配線に繋がったって話だ。

従来の魔導具は専用の液体で魔力を流すルートを描いていた。

ところがそれに流せる魔力は微細なもので、だからこそ大型魔導具は作れなかった。

だけどオリハルコンラインの発明により、大型で強力な魔導具が作れるようになったんだ。

更に言うなら従来の魔導具がよりコンパクトに、そして小型化も可能になったって話だ。

そういうノウハウがあればこそ、オレの身体の飛翔魔法用魔導具は成り立っていると。


だからこれをあんまり見せたくはないけど、隠すばかりじゃオレが目立って仕方が無い。

他のレベルをそれとなく上げないと、いつまで経っても魔導具を売る訳にはいかないのだ。

近いレベルならまだ良いけど、隔絶してたらどうしようもない。

そんな訳で、宣伝する訳じゃないけど、そういう可能性を見せてやる事にした。


「おいおい、そりゃ一体なんだ」

「うん?台車だけど」

「浮かんでいるじゃねぇかよ」

「だからこんな大量の肉も運べた」

「おっと、先に肉をやらんといかんか。しかし、後でそいつの詳細、出してくれるな」

「そうはいかないよ。これは飯のタネだ」

「そう言うなよ、そいつは画期的な発明だろ。それなりの値段は出すからよ、うちに売ってくれよ」


裏を仕切るは商業ギルドの副総長。

表は総長、裏は副総長ってなっていて、本当は彼は事務仕事のはずなんだけど、今日はたまたまだろう。

はぁぁ、運が悪いな。


「けど、珍しいな。副が外に出るなんて」

「ふふん、商売の勘はまだ鈍ってなかったな。こんな発明品、見る事が出来たんだからよ」

「言っておくけどこれの原材料価格、とんでもないからな」

「ほお、売ってくれそうな雰囲気じゃねぇか。おうっ、この肉、査定に回せ」

「「は、はいっ」」


変装さまさまだよ、全く。


「で、どんくらいだ」

「億枚以上は間違いないよ」

「だろうな。で、10億には行きそうか」

「希望小売価格ならもっとだよ」

「てことは、うちの総長の船ぐらいか」

「あの船、そんなに高いんだ。確かに設備も充実してたけど」

「おう、ありゃあな、うちの総長が設計に口出しまくってよ」

「ギャレットさんも災難だね」

「そうだよな、うちの総長は凝り性だからもう、ひたすら手を加えさせられたって話だ」

「副長、大変です」

「なんだ、騒々しい」

「あの肉は例の……」

「ほお、以前もおめぇだったんだな」


ううむ、変装の種類は変えたつもりが、以前と同じ肉の量でバレちまったか。

ちなみに彼は商人なので、億とか兆とか言うのは、銅貨単位での話である。

巷では金貨何枚と銀貨何枚ってやっているのだが、帳簿にいちいちそんな事は記さないものであり、全ての数字は単位が銅貨でやっているのである。

なので、銀貨=銅貨100枚、金貨=銅貨1万枚、白金貨=銅貨100万枚となっている。


「奥地に生息している野生動物なんだが、肉が旨いだろ」


嘘じゃないぞ。クマネコの森の奥なのは確かなんだから。


「でかい声じゃ言えねぇがよ、こいつはモンスター肉じゃねぇのか」

「ははは、何をバカな事を。倒したら石になるだけだろ」

「ならない方法を見つけたんじゃねぇのか?」

「鬼勘マッシュは健在かぁ」

「ふふん、まだまだ現役だぜ」


こいつは勘働きひとつでのし上がったと言われる、通称、鬼勘と言われた奴。

もう現場離れて10年ぐらいになるはずなのに、今でもこんな勘の冴えを見せる、とんでもない奴なんだ。

まさかこいつが現場に出ているとは思わなかったが、顔を見た瞬間、ヤバいと思ったのは事実だ。

この分じゃ、思ったより情報が漏れる可能性が高い。

浮遊システムとその制御に、でかい宝石の秘密か。

制御システムは最悪、出しても構わんが、でかい宝石は無理だ。

どうやって手に入れたと聞かれれば、答える事は出来ない。


普通の商人や冒険者なら騙せても、商業ギルド総本山の副総長を掻い潜る事は出来ない。

どんなに小さな取引でも、どんなに新人の行商人でも、事が商売に関わる事なら全て耳に入れる事が可能。

だから誰から買ってとか、それが本当か嘘か、調べようと思えば調べられる存在なんだ。

だから下手な嘘は通用せず、嘘と分かればそれから対処が変わってくる。

すなわち、相手も表に拘らなくなるのだ。

そんなスパイに囲まれて暮らすなんてごめんだから、こいつらに嘘はつきたくないんだ。

遺跡からとか、数を揃えて出土なんてのは、滅多にあるもんじゃないし、それすら調査が入ればバレちまう。

だがまだオレの素性は漏れてねぇ。

今ならまだ……


「しかし、お前も隠す気があるんなら、オレのツラとか知らねぇ振りぐらいはするんだな。ええ、キル坊よ」

「な、な、な、なんの、こと」

「くっくっくっ、動揺しまくりってか。オレの事を知っていて、そんな当たり前に対話する奴と言えば総長とおめぇぐらいだと言ってんだよ」

「うげ、他に居ないのかぁ」

「どいつもこいつもオレの肩書きで萎縮しやがってよ、情けねぇ野郎共だぜ」


しまったぁぁぁ……


「つまり、あるんだな」

「うえっ?何が?」

「アイテムボックスさ」

「何でそんな話に」

「こんなとんでもねぇもん出してまで隠したいと言えば、伝説のアイテムぐれぇしかねぇだろ」

「鬼勘」

「くっくっくっ……で、何の肉だ」

「クマネコだよ」

「ほお、あれってあんなに旨いのか」

「森の奥で大暴走スタンピート寸前」

「それで大量にってか、成程な。反射狩りも意外と有効なんだな」

「人外」

「くっくっくっ、オレの仇名が今更更新されるとは思わなかったぜ」

「参ったなぁ……」

「1億か」

「さすがにそれは無いよ」

「何でだ」

「前人未到の飛翔台車が、たった1億ならオレが買うよ」

「まあそうだな」

「もっと小型で良いなら10億かな」

「よし、それ持って来い」

「ほえ?」

「そんだけ具体的な数字、出すならあるって事だよな」

「はうっ」

「くっくっくっ、待ってるからな」


飛翔台車を10億……白金貨1000枚か。

売りたくないんだけど、売らない訳にはいかなくなったか。

けどな、単純な費用に換算したら桁が違うんだぞ。

まず、ルビーの容量が6500万で65万倍だろ。

1ミリルビーが金貨5枚だから、65万倍で白金貨32500枚だ。

貯留だけで325億とか、大型ルビー獲得の利権込みになっちまうぞ。


後は飛翔魔法の制御だけど、この利権は相当にでかい。

しかしあいつは10億を提示した。

つまり、あんなでかい容量のルビーは必要無いって事だ。

となると、ブラックボックス化して操作を容易にしたシステムを売れって事だ。

システム1基白金貨1000枚ならまだましか。

5トンのこいつは、例え兆と言われても出せないが、廉価版ならまだ……

あると見せかけて何とか矛先をかわせたけど、何度も通用する手じゃない。


結局、クマネコの肉はキロ単価金貨2枚で売れ、総額白金貨300枚になった。

また値上がりしているようだけど、お貴族様にそんなにヒットしたんだろうか。

以前と同じ5トンだけど、もう値上がりしないでくれよな。

今でこそ国産高級黒毛和牛のプレミア肉みたいな価格なんだ。

そんな高級肉になっちまったら、うっかり串肉屋もやれなくなるだろ。

大量の串肉が眠ってるのに、うっかり売れないとか冗談じゃないんだからな。


水際の攻防は意外に神経をすり減らしたようで、帰りの寄り道は致し方無いところ。

またもや姐さんのお世話になり、リフレッシュして帰路についた。

小型の荷車を作ったら、後は串肉を売るだけだ。


広場で売るぞ、串肉屋もぐもぐ……え、違うって?


どうにも魔導具を売る話になりません。

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