表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/12

肉屋?

レベリングします。

  


15才になって魔術師ギルドを兼用にし、晴れて許可証持ちとなり、いよいよ本格的に……先にレベルを上げようと思ったのさ。

折角の魔力なんだし、有効活用しようかとな。

そこで思い付いたのがあるモンスター。

そいつは魔法を使ってくるんだけど、魔法反射をしてやれば自滅するんだ。


この世界の魔法は確かにスクロールがメインだが、無くても使えるって話はしたよな。

そして、レベルに見合わない魔法も使う事だけは可能なんだ。

ただ、何倍もの魔力を使うから実用的じゃないだけだ。

つまりな、あり得ない魔力のあるオレなら、レベルの差も振り切って魔法が使えると。


そんな訳でやって来ました街道脇の森の中。

ここに居るのは熊みたいな敵。

まあ、はっきり言って熊には違いないんだけど、2頭身か3頭身のコミカルな熊でさ、まるで着ぐるみのような……

耳はまるで煎餅せんべいかじってくっ付けたような耳でさ、どうにもコアラの耳のようで……

名前も熊だか猫だかはっきりしないんだ。


「クマネコ」


魔法反射の魔法はレベル45で覚えるんだけど、45倍の魔力を注ぎ込めばレベル1でも使える事は分かっている。

それで今8だから、37倍の魔力を注いで……減った気がしねぇ……ヤバいな、マジで上げ過ぎた予感だ。


「ゴァァァァ」


来た来た……

軽く挑発してやると、モゴモゴやって身体に見えない何かが当たる。

そしてそれはそっくり反射してクマネコに当たる。

見えない何か?それは睡眠魔法だ。

餌を眠らせて食うって習性を持ったモンスターなのさ。


後は殺すんだけど、これがまた難しい。

そっと足を縛って、木の枝で逆さ吊りにして首をはねる。

どうしてこんな事をするのかと言うと、そのまま殺すと石になっちまうんだ。

正確には魔鉱石な。

クマネコの場合、5~6個の握りこぶし大の魔鉱石になるのが普通だ。

だけど素材が欲しい場合は天地を逆にしてから殺せばいい。

こんな裏技、誰が考えたんだと思うだろ。

実はオレなんだ。


いやな、何とか素材が取れないかと思ってさ、逆さ吊りにして生きたまま……うっく。

つ、つまりですな。素材が欲しかったんだ、欲しかったんだよぅぅぅ……

でまぁ、結果的にクマネコは死んだんだけど、石にならなくてな。

あれっと思ってもう1匹、眠らせて逆さで殺してみたんだよ。

あくまでもゲーム内での話な。


んで、その肉がまた高く売れたんだよ。

誰も知らない素材の取り方なのに、肉が売れるって変な話だったんだけどさ。

だもんでしばらくの間、モンスター肉はオレが独占して売ってたんだ、バレたけど。

まあ、この世界じゃまだ知られてないようだし、しばらく独占になりそうで、くくくっ。


ともかく、反射狩りで素材集めを張り切っているうちに、そこら中のクマネコが消えちまったと。

レベルもやたら上がったと。

でまぁ、ホクホクで帰ったんだけど、解体するのに1ヶ月掛かったんだ。


なんせ皮をなるべく完全な形で取ろうと思ってさ、中に潜ってゴソゴソと……

裏返してなめして干してって大変だったんだ。

何でそんな事をしたって?

そりゃクマネコ袋はゲーム内で人気だったからだよ。

確かにゲーム内じゃ袋化するのにボタン1つのお手軽加工だったけどな。


もっとも、お貴族様には毛皮のほうが売れてたけどな。

ともかく、オレ達プレイヤーは、いざと言う時には寝袋にもなるクマネコ袋を愛用していたんだ。

あれってさ、中にちょっとした細工をすれば、自立する袋になるんだよ。

だから荷車にクマネコの胴体が並んで……シュールだよな、くくくっ。

けど、丈夫で長持ち、自立してたくさん入り、いざって時には寝袋にもなり、雑魚モンスターが寄り付かない袋だったんだ。


まさに行商人御用達だろ。

実際、ゲーム内のNPCの行商人は最低1袋は持ってたし、だから魔物避けはそれがやってたんだ。

自立して倒れなければ水がめなどと変わらない。

割れない水がめのようなものでさ、綺麗にされたクマネコ袋には飲料水を入れた行商人も居たぐらいさ。

それはともかく、オレはクマネコ袋を74作り、肉を7400キロ手に入れたと。

んで、肉を売りに行ったんだけど、試しに焼いてみて良いかと言われてさ、焼いて食わせてやったのさ。

そうしたら……こんな旨い肉は初めて食ったと言われて焦ったよ。

結局、見知らぬ行商人から手に入れたと答えたんだけど、あるだけ買うと言われてさ。

手持ちの50キロが全部売れたのさ。


しかもその価格がキロ単価、銀貨50枚とかあり得ない価格。

銅貨が10円って話したよな。銀貨は1000円なんだ、つまり1キロ5万円な。

まるで国産和牛のプレミア肉のような価格とかさ、そんなのヤバ過ぎだろ。


だからさ、変装魔法を多量魔力で使ってさ、裏社会に流したのさ……軽く5トン程な。

食わせてやれば絶賛し、金貨1枚と言えば銀貨60枚ならと答え、5トン提案で80枚になったと。

拡張カバンと思わせて、偽カバンを50個用意してさ、ボックスから次々と出してやったのさ。

キロ単価銀貨80枚……5トンで金貨4000枚、白金貨なら40枚だ。


そんな訳で今、オレは食うに困らなくなっている。

もちろんまだまだクマネコの肉はあるし、食えば確かに美味だ。

それをどう表現すれば良いかな。

黒いブタのほっぺたの肉のような、国産和牛の肉のような……

食生活の貧しかったオレには表現出来ねぇよ。


それはともかく、巷で地味に売る方法も考えたんだ。

それが串肉なんだけど、小さな串肉だ。

よくある串肉はやたらでかくてさ。

長さが50センチもあるような串にさ、肉がずらりと並んでんだ。

あんなの1本食ったら満腹になっちまうぞ。


なのでオレはそいつを3等分にして、17センチぐらいの串での販売をしようと思った。

なんか魔導具とは関係の無い話になってるような……

まあ、個人でやってる店だし、小回復のスクロールしか置いてないし。

今日は店を閉めて色々やっているんだし。

今、表には張り紙がしてある。


オレの仇名から取ったんだけど、数字の8を横にしたマークを付けた張り紙だ。

ヨコハチ……オレが寝ている姿が数字の8を横にしたみたいだからと、誰かが付けて広まった……ハンスさんだろうけど。


∞都合により休業します∞


こんな感じだな。

んで、ひたすらクマネコの串肉を作ってたと。

ちなみに、肉を焼く時には三種混合調味料ってのが便利だ。

これは商業ギルドで売られているんだけど、塩胡椒ゴマの三種の混ざった調味料。

そして焼くのはフライパンだ。


しかしこの世界、ゲームの内容を踏襲とうしゅうしていながら、何かと足りない世界になっている。

魔導具もどきのフライパンも無いようで、これもオレの独占になったらどうしよう。

羊皮紙に魔法陣を描いて発動したら燃えてしまう。

ならば、燃えない材料に描けばどうなるか。

魔鉱石を精錬して作られる金属……ミスリルな。

そいつでフライパンを作り、裏面に魔法陣を描いたらどうなるか。

オレ達は裏面に3種の魔法陣を描き、弱火、中火、強火って使ってたんだ。

なのにそれも無い。


いや、ミスリル製の調理器具はあるんだ。

魔導コンロとの相性が良いから、高級調理器具としては売られているんだけど、魔導具もどきにはなってないんだ。

んで、買って帰って裏面に刻んだら、その日から使えるもどきになりましたって訳。

野宿でも何でも、火を興さずに焼けるってのが人気だったのに……

まあ、ヤバそうだからミスリルの薄板を張っ付けて、刻印は隠しているけどね。


てな訳で肉を焼きまくって串に挿してまとめてボックスってのをひたすらやったんだ。

2300キロの肉から57500本の串肉が作れるんだけど、さすがに串が足りない。

手持ちは500本しか無かったので、それだけ作って持って明日は広場に売りに行ったんだ。

いくらで売ろうか迷ったんだけどさ、裏で100グラム8000円相当だったからさ。


1キロから串は25本作れ、1本当たり40グラム。

10グラムの小さな肉が4つ挿してあるだけの小さな串だからなぁ……

もう殆ど焼き鳥って感じだよな。

もっとも、肉の細切れを作るのはそう手間ではなかったんだ。

格子こうし型の包丁のようなものを作ってあり、薄いステーキ状の肉にペタンと……

紙の裁断機風の道具に乗せてペタン、乗せてペタンと……


いや、たまたま魔導具作る時に使う、羊皮紙の欠片のようなアイテム作りの道具なのよね。

でまぁ、その羊皮紙の欠片を何に使うかと言うと、発動片と呼ぶんだけど、高級羊皮紙の焼失対策のアイテムだ。

つまり、行使すると燃えるんだけど、もったいないから発動片だけにしようって試みな。

もっとも、描いた威力は出ないけど、1割ぐらいの行使なら発動片だけで済むからお得ってアイテムになる。

国同士のホットラインなんかには利用されている技術なんだけど、そんな欠片で1割もの力を出そうと思えば、羊皮紙の質も悪くちゃ話にならないと。

だもんで、一般にはその発動片すらも高いアイテムになっていたと。

だけどこれもよく売れてたんだ……裏技だったから独占だったけど。

みんな真似するから、今じゃ誰が始めたのか分からない状態で……


翌日、500本の串肉を広場で販売開始。

結局、価格は1本銀貨3枚。

広場の管理役人に、価格提示が高過ぎて売れんぞと忠告を受けるぐらいだ。

ここに帰りに売り上げの1割を収めて帰らなければ次は無い。

もっとも、次どころか捕縛されるんだけどな。

分かりっこ無いから少なく申告すれば良いって?

それがさぁ、不思議とバレちまうんだよな。

まあ、発覚すれば元の世界みたいな追徴金で終わったりはしない。

軽くてもムチ打ち……それも20回とかさ。

酷かったら……さて、どうなるんだろうね、くっくっくっ……


鉱山に送られるだけでした。


ただ、戻った人の話は聞いた事が無いらしいけど。

それはともかく、高い肉を売るにあたり、サクラを使う事にする。

呼んだのはハンスさん。

2本食わせるから、買った振りして旨い旨いと食ってくれって……


「たったこんだけで銀貨3枚はあり得ないだろ」

「だからのお芝居。頼むよ、2本あげるからさ」

「どうにも気が咎めるな。そんな騙すような事はよ」

「いやいや、本当にこれは高い肉なんだよ」

「まあ、世話になってるからな。今回だけだぞ」

「ありがとね」


そんな事を言っていたハンスさんだったが、2本とは別に自腹で3本も買った。


「とんでもねぇもん食わせてくれたな」

「どうかな、お味は」

「追加で3本だ」

「あれあれ、高いとか言ってなかった?」

「こんな旨い肉、生まれて初めて食ったぞ」


なんかさ、そんなに必死に食わなくても良いと思うんだけどな。

そんなの見ると試してみたくなる奴はいるもので……


「おいおい、たったこんだけで銀貨3枚?あり得ないだろ」

「お前、知らないからそんな事を」

「こいつに頼まれてんだろ」

「実際な、最初はそうだったさ。けどな、追加でこれ、買っちまったんだよ」

「そこまで言うなら1本買ってやる。しかし、不味かったら覚悟しろよ」

「まいどあり」

「ふん、こんなの……もご」


1欠片抜いてもぐもぐと、妙に味わって食った後、サイフと相談を始める。


「金貨3枚分売ってくれ」

「え、高いとか言って「良いから売れってんだ」

「は、はい」


(おいおい、あいつ、美食のマランツじゃねぇか……何か夢中で食ってねぇか……あいつが旨そうに食うとか、久しぶりに見たぜ……あれ、旨いのかな……そりゃ旨いんだろ……食ってみたい、まだあるかな……どうだろ……オレも)


100本も1人で買ってどうするんだろうと思っていたが、さっきからひたすら脇で食ってるんだよな。

足元に串がパラリパラリと落ちていくんだけど……まあ、広場の掃除はしなくて良いのさ。

税金払ってんだから、それぐらいはやってくれないとな。

それはともかく、そこら中の奴が高い高いと文句を言いながら1本ずつ買った後、ラッシュが起きた。


「おい、5本寄こせ。おら、銀貨15枚だ」

「こっちもだ、10本、おら、銀貨30枚だ」

「てめえら、そんなに買うなよ、オレが買えなくなるだろ」

「知るかよ、早い者勝ちだろ」

「あんだと、この野郎」

「おっと、喧嘩は他でやってくれ。ほい、銀貨60枚、20本な」

「おい、そんなに買うなぁぁ」


いやはや、冒険者達はお金持ちですなぁ。

20キロ分、500本の串肉はすぐに売り切れた。

試食用の自前肉から作った、8本の串肉を残して。

ハンスさんに2本渡したからな。


また作ったら持ってくるからと、そう言わないと離してくれなくて。

これは休みを延長して作らないといけないと思っていたんだけどな。

串を雑貨屋で……500本入りの17センチ串を在庫全部売ってくれと言うと、そのタイプはあんまり売れないから、買ってくれるなら負けてやると。

ごっそり持って来やがった。それ、仕入れミスだろ。


500本の串の箱が128箱もあったらしく、小僧さん何度も往復して……64000本はさすがに余るが、割引に釣られて買いました。

通常価格、1箱銀貨1枚のところ、2箱で銀貨1枚、半額だ。

しかも、120箱分の価格で8箱おまけに付けるとまで言うんだ。

相当不良在庫になっていたんだなと、つくづく思った。

なので実質、60箱分、銀貨60枚で買占め成功。


そうしたら22センチの串も買ってくれとせがまれ、安くするからって……主流の50センチ以外はサッパリ売れないらしく、次から仕入れないらしい。

となると、もう買えないかも知れないと、22センチ串92箱、35センチ箱95箱、後は何に使うのか7センチ箱98箱、12センチ箱95箱も買う羽目になった。

だって抱き合わせで総額とか言うんだもんな。


泣く泣く払ったよ……金貨1枚分……銀貨100枚をさ。

雑貨屋のあるじは在庫一掃で10万円分儲かっただろうけどな。

どのみち場所取りだろうから、きっと捨てる前に買わされたんだ。

ダミーカバンを4つも背負っているから、持てると思われたんだな。

てかさ、100箱ずつ仕入れて、それぞれ90箱以上あるって、殆どそれ売れてないだろ。


まあ、7センチは試食用にでも使おうかね……つまようじみたいだし。

後は細々とした買い物を済ませ、最後に広場の出口で税金を支払うと。

実は広場には商業ギルドの出先機関があり、そこで色々買えるのだ。

もちろん買いました、三種混合調味料。

握りこぶしぐらいの皮袋で、銀貨10枚だけど長持ちするんだよな。

それもあるだけ買おうかなと……在庫を聞いて諦めました。

拡張カバンを見せられて、100袋ずつのカバンが15あるけどって。

1500袋とか、銀貨15000枚とか、買い占められるかよ。


今日の売り上げが銀貨1500枚で、串に560枚使って残りが940枚。

なので44袋購入で残り500枚。

税金50枚払えば目立たないだろうと思って……


「値下げしたのか、正解だな」

「ではこれで」

「うむ、また来るがよい」


やれやれ、儲け目減り作戦、成功だよ。

そして帰りに肉屋の親父にばったり出会い、催促されたと。

どうやら隣町で裏に流したのが派手に流通したらしく、かなりの人気になっているとか。

あちこちのお貴族様が欲しがり、ちょっとしたプレミアが付いているとの事。

仲介手数料を少し出せば、手持ちは全部売ってやるって言われてもな。

確かに今回の20キロ分しか細切れにしてないが、串肉売りの楽しみがぁぁ……


今回は自前に残した50キロの内、20キロを使ったテストのようなもの。

残り2300キロを全て捌けると、自信満々に言いやがったよ。

ちなみにと単価を聞くと、キロ単価金貨1枚って……またやけに上がったな。

どの道また狩りに行けば良いだけなので、白金貨23枚で売却契約締結。


自前の肉は30キロになったけど、どのみち1匹で100キロは取れるんだしな。

それにそろそろ魔導具を売らないと、魔導具屋じゃないって言われそうだし。

さてと、帰りに寄り道するのは仕方が無いよな。金さえ出せば問題無いのがこの界隈。

ところがオレは金は出さなくていい、そんな相手が居るのである。


「あら、キルちゃん」


10才の頃からの馴染みの姐さんだ。


「姐さん、またお願い」

「うんうん、若いんだもんね」


寝所に入れば姐さんの独壇場。

さすがの手練手管ですっかり満足。

ショタの姐さんはお馴染みさんだ。

だから金は要らないのだ。


「ふう、サッパリしたな」

「くすくす、また溜めてらっしゃい」

「来年からは有料かぁ」

「あら、キルちゃんはタダよ」

「ほえっ」

「君さ、とても15に見えないって」

「はうっ」

「くすくす、最初10才って聞いて嘘だと思ったもの」

「うえっ、じゃあ」

「どう見ても5才ぐらいに見えてね、今でも10才ぐらいにしか見えないわよ」

「ううう……」

「くすくす、だから当分問題ないわよ」

「ありがたいような、悲しいような」


実に複雑である。


まさか小学生と呼ばれたリアルを、ここでも引きずるとは。

待てよ、リアルと言えば、オレは、確か、小学4年の頃に……

幼稚園のバスに乗せられそうになって……うぐぐぐぅぅ……

違う違うと何度も言うのに、サボりだと思われて……くそぅ……

リアル準拠かぁぁ、冗談じゃねぇぞぉぉ、くそぅぅぅ……


ま、まあ、物は考えようだ。

タダでずっと発散になると言うのはお得じゃないか。

うんうん、お得だ、お得だ。


     ☆


酷い夢を見た。

最悪の夢だ。

あんなの……


幼稚園バスに無理矢理乗せられて、大学前で降ろされるんだ。

そして講義を受けようと思ったら、みんなしてオレの事を幼稚園児って……うわぁぁぁぁ……


はぁはぁはぁ……


汗びっしょりになって目が覚めて、この世界に居ると気付いてホッとした。

まさか、昨日の姐さんとの会話と、その後に思い出した事でそんな夢を見るとはな。

はぁぁ、参ったな。なんか店を開ける気力が一気に尽きたな。


魔導具でも作って過ごそう。


そんな訳で今、オリジナル魔導具作りにはまってます。

この世界では激レアな錬金術師。

父さんはその才があったものの、騒がれてそれで逃げたとか言っていた。

なのでこの立地は、父さんの隠れ家だったのかも知れないな。

そんな父さんの才を受け継ぎ、オレも使える錬金術。

誰にも喋るなと固く言われ、だから母さんにも言えなかった。

だから母さんも知らなかったんじゃないかな、父さんの錬金術。


仕事場でふと見たんだ。

青いオーラのようなものを。

その事を父さんに告げると真剣な顔をして、仕事場にカギを閉めた。

そして母さんにも言うなと、錬金術の事を教わったんだ。


錬金術に才があると、物質に対する干渉で青いオーラが見えるとか。

その色の濃さで才が変わると言われ、父さんは淡い空色のオーラと言っていた。

オレもそれに合わせたが、実際は濃い青のオーラだったんだ。

父さんの話によると、淡い空色のオーラが見えるのが世界でも10人程度。

青い色がはっきり見えたと文献に残されているのが650年前の偉人とか。

じゃあ濃い青はどうなんだよと思ったが、そんな事は言えるはずもない。

そのまま父さんと同じ色が見える事にして、色々と教わったんだ。


確かに色の濃さの優位性は、実際にやれば明らかだ。

父さんはミスリルから剣にするのに5分ぐらいは掛かってた。

けどオレは殆ど瞬間なのだ。

もちろんそれは集中しての話だけどな。

だから父さんの前でやる時は、集中した振りをして視線は余所見状態だった。

それでも筋が良いと言われるぐらいだったので、誰にも言えないのは確かだろう。

まあそんな訳で、そのミスリルを使った魔導具を作ろうと思ったのだ。


15才になった事だし、そろそろハントをやりたいけど、武器が問題になる。

見た目10才じゃ、まともな武器は意味が無いようだしな。

そうなると変わった武器が必要になる訳で、それを作ろうと思っている。

構想は既にあるが、果たして使い物になるかどうかが問題だ。


ああ、この世界の魔法の話をしてなかったな。


ファイ   火魔法

ウォル   水魔法

クール   氷魔法

ソール   土魔法

ウィン   風魔法

ライド   雷魔法

ライツ   光魔法

ダーク   闇魔法

ナッス   回復魔法


後は強さと範囲だけど。


効果 弱・レイ 小・ミン 中・セン 大・ビグ 最上・オバ 

範囲 個・レン 小・オン 中・ワイ 大・エリ  広・グラ


これと魔法の組み合わせで発動する。

なので……


ファイ・セン・ワイ 火の中級中範囲魔法

ウィン・オバ・グラ 風の最上級広範囲魔法


こんな感じの表記なんだけど、これを魔法文字に転換させて魔法陣の所定の位置に記述する訳だ。

そいつは飯のタネだから言えないけどさ。

もっとも、そのまま唱えても発動は可能ってのは前にも言ったよね。

だからMPに余裕があれば、直接唱えたほうが遥かに早くて経済的なのだ。

そうしてオレはMPに余裕がある。

その為に嫌な思いをしてまで増やしたのだから。


もっとも、そいつを人前で見せる訳にはいかない。

なので偽装武器というか、ちょいと派手目の武器を持とうと思ってる。

例えば魔力強奪の武器とかさ。

魔力強奪の魔法はレベル99で覚える魔法だけど、使用MPは0なんだ。

まあそうだよね、魔力が欲しいのに必要魔力とか本末転倒だ。

しかしこれがレベルが足りないとなると、その本末転倒になっちまう。

だから誰も使わない魔法になるんだけど。


そしてこれを活用したのがオレの武器候補になる。

マキャチのバットを作る為に、ルビーをひたすら集めたんだ。

マキャチと言うのが魔力強奪魔法になる。

とっても安易な名前だとは思うけど、使えるなら何でもいい。


後はMPを入れておく為の容器の話をしよう。

この世界でMPを貯留出来る容器は3つある。

1つはミスリル……これは1キロに対してMP100可能だ。

そして水晶……これは直径1センチに対してMP100

後はルビー……これが1ミリに対してMP100になっている。

え?ルビー以外はあんまり入らないって?うん、そうなんだ。


だけど普通の魔術師の魔力はレベル×50なんだよね。

だから1ミリのルビーのMP100はかなり有用なんだ。

今の主流はその1ミリルビーを周囲に100個散りばめたネックレス型になっている。

そしてその中央に5センチの水晶を半分に切ったものを入れた品なんだけど、その水晶を制御に用いるんだよな。

それでMP1万の魔力容量って事になり、中堅から先の魔術師御用達になっている。


レベルも50ぐらいになると、MP2500にもなる。

すると4回分の容量になり、これぐらいあると楽なのだ。

その代わりお値段も凄いけど。

1ミリのルビーで金貨5枚、100個で金貨500枚。

ルビー代だけで白金貨5枚となり、水晶その他で白金貨8枚は必要になり、総額で白金貨10枚で、これに税金がプラスされて白金貨15枚の品になる。

贅沢品扱いされて税金5割って酷いんだけど、しかもこれが卸価格だ。なので販売価格は白金貨20枚が相場だ……2億円ですな。


オレはそのネックレスそっくりで、容量のやたら多い品を作った。

直径5センチの質の悪い濁った水晶を半分に切った中に直径2センチのルビーを埋め込んでみると、40倍の容量になった。

その質の悪い濁った水晶と言うのが曲者で、中のルビーが見えない工夫だ。

そして外側のルビーをガラスで構築し、あたかも粗悪品に見せかけたのだ。

水晶の中にルビーがあるなどと思わない税吏はその製品を粗悪品と定め、銀貨1枚と言われたので100個分を支払っておいた。

粗悪品の税金は、これはまたかなり安いんだけど、これで手持ちの100個は課税済みになった。

だからメーガミの税金とか、殆どタダに等しいぐらいだ。

だけど、こういうのはきっちりしておかないと、後で国から煩い事を言われるのだ。

全ての商品の裏面に、支払い済みの刻印がされる。

これの偽造は極刑だから、あんまりやる人は居ないよね。


なんにせよ冒険者がまともな稼ぎになるのはレベル25ぐらいから。

なのでルビーネックレスもそれ以上の冒険者向きの品になる。

ちょうどセノリア連合とケイドロスの境、それの南端ぐらいにオークの森がある。

そこからちょっとケイドロス寄りの場所に洞窟があるんだけど、これが問題だ。

この中には回復薬の原料になるコケが生えていて、敵は主にコウモリだ。

こいつがまた風の魔法、それもレベル25で覚える範囲魔法じゃないと役に立たない。


洞窟内だから下手に燃やす訳にはいかないのは分かるだろう。

コウモリのフンはとてもよく燃えるから、燃料に使われるぐらいだ。

そんなのが地面に落ちている状態で火の魔法とか、焼身自殺は他でやれと言われるだけだ。

後は水の魔法もダメだ。そんな魔法を使ったら、フン集めの奴らに殺されちまうぞ。

しかも折角、地面に落ちて乾いて匂いが無くなってるのに、わざわざ濡らして臭くするとかあり得ない。

フン集めの奴らとか、他の冒険者に袋叩きに遭いたいなら好きに使うといいだろう。


同様の理由で土魔法もダメだ。コケは壁面に生えているからまだ良いけど、フンはどうする。

土と混ざったら粗悪品になって、またしてもフン集めの奴らの餌食になる。

あいつらヤバいんだぞ、だってまともな仕事に就けないからフン集めてんだし。

元犯罪者か夜逃げの連中か、とにかく正業に就けない奴らの生きる術なのだ。

下手に冒険者になろうとしても、ギルドには入れないしな。


入れないとアイテムとかは裏で買う羽目になって、色々と物入りで赤字になって……それはともかく。


となると後は同じ理由で氷魔法もダメって事になる……溶けたら水だしな。

後は光魔法と闇魔法だけど、洞窟の中はそれなりに暗いんだ。

そんな中で強烈な光とか、しばらく何も見えんぞ。

んで、暗いのにもっと暗くしてどうすんだ。

雷?洞窟内で稲光でフラッシュとか、光魔法と同じだ。


ああ、そうなると嫌でも風魔法しかないよなってそういう話。

しかもさ、風魔法を使えば、壁のコケのホコリも取れるしさ。

戦闘の後はホコリが取れて、キレイなコケが取れるお得魔法。

まあ冒険者がうろうろするからホコリも凄いんだ、洞窟内。

そしてまたコケのホコリは生えている時じゃないと取れない。

コケを採取するとすぐに乾燥してパリパリになるんだ。

洗えば成分が抜けてゴミになるし、その時点で風を使えば飛散しちまう。

なので生えている時にいかにホコリを除去するか……


風魔法万能。


もっとも、洞窟以外じゃダメ魔法呼ばわりされてるけど。

隣が火魔法やってんのに風魔法使うとヤバいよな。

しかも、仲間の目にゴミが入ったりしてさ。

それは洞窟も同じだと言われそうだが、洞窟内は布で口を覆っている。

目も薄布で覆うとか、あくまでもあれは採取なのだから。

それに上に向かって撃つから、下のフンが舞い上がったりしない。

そりゃ多少はあるけど、防ぐから問題ない。


なので風魔法は洞窟専用みたいに思われているけど本当は違うのだ。

どうしてこの世界の奴は気付かないんだ。

風魔法と言えば、空を飛ぶ魔法じゃないか。

いや、確かに高レベル魔術師に聞いた事はあるんだ。

だけどその人はこう言ったんだ。


『僕も昔はそう思ってね、唱えてみたんだけどこれがもう、危うく死に掛けたよ』


そうなのである。空を飛ぶ魔法は存在しているのに、それで空を飛んだって奴が居ないんだ。

確かに大昔の偉人は空を飛べたらしいけど、その方法は現存していないらしい。

それでもスクロールに描いて試した奴は居るんだけど、スクロールが飛んでいったって話だ。

それで可能性を感じて、服に縫い付けて試した人なんだけど、唱えたらそのまま服が上にずれて……

それが例の高レベル魔術師の人ね。

首吊り状態になって、しかも羊皮紙が燃えて、それで死に掛けたらしいから。


だからオレが飛べるのは内緒にしなくてはならない。

あれは単純に唱える魔法じゃないんだよ。


手足にそれぞれリング状の魔導具を着けて、更には身体のあちこちにも着けて、それで飛ぶんだよ。

なんて事は言えないしな……目立つのは嫌だ。

今のオレは両手両足にそれぞれ、腕輪と足輪を着けている。

後は腰の辺りにベルトのような腹巻のような、そんな物を巻いていて、それが魔導具だ。

他にも首にチョーカー型とか、額に鉢金型とかの魔導具を身に着けている。

そして唱えるとそれらが連動するのだ。


これぐらいの技術、ゲームの頃なら……


あれ、何の話してたっけ。

ああ、貯留の素材の話だった。

ルビーが高いって話だったよな。

どうにも脱線するのがオレの悪い癖だ。

それはともかく、そのルビーなんだけど、作れるんだよ、錬金術で。

だからオレは2センチのルビーは自作して100個のネックレスにしたと。


他の宝石も作れるんだよ、もちろん貴金属も、そして上級金属もな。

だから国に知られると拙いどころか、捕らえられて飼育されるだろう。

どんな物でも作ってくれる便利な動物として、死ぬまでな。


誰も気付かないけど、文献にある『神の家畜』ってさ、大昔の錬金術師の姿と思う訳よ。

神の家畜は全ての物を創造し、人々に富と栄華を与えましたってさ。

哀れな錬金術師は全ての物を創造させられ、為政者に富と栄華を与えましただよな。

穿ちすぎと思うならそれでもいいけど、オレは錬金術の才の事は誰にも言いたくない。


そう言う訳で、いよいよ魔導具のお時間です。

え?やっと?済みません。


ミスリルを構築してバットの形にして半分に割って、中身をルビーにしてまた閉じる。

んでそれを融着してやれば、容量のド派手なMP貯留魔導具になるって訳だ。

直径1ミリでMP100なのに、バットの中身とか何万倍にもなると思うよな。

ところがどっこい、300万倍になっちゃいまして、MP3億は貯留可能に……

ちょっとバットの大きさが大き過ぎたのかも知れません。


とりあえず5本作ったバットですが、ボックスの中に死蔵中になってます。

1人平均MP3000だとしても、10万人分回収出来るからです。

はい、あれは対人専用の魔力強奪武器なのです。


いかん、売り物になりそうな魔導具が作れない。

気を取り直して、飛翔箱を作ります。

普通の箱に飛翔の……あ、ダメだこれ。

これの制御とか表にバレたら、それこそ国が……

だってこの制御方法、空を飛ぶ為のだし。


となると、転送手紙にするか。

転移魔法というのもあり、これは使えるから更に飛翔魔法の需要が無い。

飛んで行かなくても転移すれば良いんだしね。

ただこの転移魔法も厄介なんだけど、初見の場所に飛べないという。

だから現地まで移動して後、往復は転移でやれるだけなのだ。


「おーい、あ、今日は起きてるな」

「うぃ、ハンスさん、何が欲しいの」

「何がって、お前、何か作れるようになったのか」

「ファイ・セン・レンの槍とかどう?安くしとくよ」

「それってどんなんだ」

「火の中級小範囲魔法の宿った槍でね、魔力注いで投げると効果」

「それがいくらだって」

「特別価格、白金貨50枚」

「あるかよっ、てか、やたら高ぇじゃねぇかよ」

「ううむ、ハンスさんだから半額にしたのに」

「それで半額かよ」

「お得だと思うんだけどね」

「今の手持ちは銀貨26枚だ」

「貧乏だねぇ……」

「しみじみと言わないでくれ」


1生物の槍なのに高いと言われても困るんだよな。

魔力を注げば半永久的に……あ、ダメだこれ。

いかんいかん、こんなの売ったらまた国が……

弱ったな、売れる品が無いぞ。


「小回復のスク2枚くれ」

「何するの?」

「金稼ぎにウマネズミ狩りだ」

「ウマネズミに回復が要るの?」

「用心だ」

「ほい、銀貨10枚」

「これで何とか……」


どうにもおかしいな……何か隠してないかな。

ウマネズミとか、レベル1桁が対象にするような雑魚だぞ。

今レベル26とか言ってたのに、まあ良いけどさ。

さて、暇だから店を閉めてハントに行くぞ……


どうにも魔導具屋じゃないですね。


安易な魔法の説明ですね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ