表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

天海勇人の嘲笑

「知らん」

 勇人さんは考える振りすらすることなく、本当に即答した。

「俺は絵描きだ。俺は絵を描くだけだ。表現者であって、創造主じゃあない。価値を創るのは芸術家の仕事じゃあない。それは偉そうに物知り顔をした金持ちの仕事だ。贋金作りの連中の仕事だ。勝手に価値なんてものをでっちあげて、需要を煽って供給を制限して価格を操る詐欺師の仕事だ。俺はそんなものに興味ないね」

 後から知ったのだが、勇人さんは双子の兄と幼馴染に売買は全て任せているらしかった。絵の値段は画材の値段と言っていたが、多分彼は、自分の使っている鉛筆の値段も知らないだろう。

「極論を言えば、作品に個性なんて物も無駄だ。本のあとがきを読んでいると、俺はイライラする。作者なんて作品製造機であって、作品のおまけであって、そいつの価値観なんて知ったこっちゃじゃあない。極限まで個を排除して、表現しろって言うんだ」

「なんか、そこまで行くと病的じゃあないですか?」

 私の突っ込みに、

「『病的じゃあないですか?』か、ふん。それは俺の価値観じゃあないな」

勇人さんは皮肉気に言葉を返すだけだった。

「まあ、俺の意見だって、お前にとっては一円の値もつかない戯言だろうがな」

 まったくもってその通りだ。

 私はそんな風に考えることはできない。

 いや、きっと勇人さんだって本質的には変わらないはずだ。誰にも認められたいと思わないなんて、そんな考え方は気持ち悪い。人間的じゃあ無さ過ぎる。認めて貰いたいからこそ、表現者じゃあないのだろうか?

「じゃあ、勇人さんは何の為に描くんですか?」

「ん? 俺はもう描く意味を失ったからな。余生みたいなもんだ」

 何が愉快なのか、くっくっくと笑う勇人さん。余生、早すぎないか?

「意味がないのに描くんですか?」

「ああ。訳知り顔の評論家気取りの振りをするよりは、よっぽど楽しい。お前だってそうだろう?」

「…………」

 私は、答えられない。

 私は、そうじゃあない。

 私は、評価が欲しい。

 私は、自分の声を認めて欲しい。

「ふん。俗物が」

 と、勇人さんは私の内心を見透かしたように吐き出した。

「お前は、表現者として失格だよ。絵が売れなくて自殺する画家みたいな奴だ。自分の作品の評価を、自分の評価と思っているようじゃあ、三流も良い所だ。なんで死んだ画家の絵の価値が高くなるか分かるか? お前は需要と供給と言ったが、俺の意見は違う。作者がいないからだ。才能ある人間を、凡愚は褒めない。あの贋金作り達はプライドばかりは立派だからな。作者が死んで、初めて個人ではなく作品として芸術を評価できる。死人を褒めるのに抵抗はない。喜ぶ相手もいないし、生きている自分の方が偉いと思っているからな。嗚呼。馬鹿馬鹿しい」

「…………」

「白金深空。お前は表現者として不完全だ。精々、芸術家を気取れ。それがお前に取って一番良い選択だ。長い物に巻かれろ。お前には才があっても、芯がない。大丈夫。歴史に残る程度の歌手にはなれるさ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ