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第12話:真昼が雪

「中間テスト終わったねー」

「ひどかったけどね。でも詩音ちゃんとカオルはいつもどおり優秀ねえ」

「それは恐縮なのですが」

 みんなは、華子を見た。

 それなのに、華子は気が付かない。

「あんな赤点とってるのに、なんで華子、あんな幸せそうなんだろう」

「体軽そうにしてるし」

「えっ、それ、まさか」

「そのまさかであるな」

 総裁がiPhoneから曲を流しながら入ってくる。

「それは、『Credens justitiam』!」

「今日という今日は、一気に片付けるわよ! 体が軽い……もう何も怖くない! なのだ」

「それダメ! マミられちゃう!」

「一気に決めさせて!」

「ええっ、アニメ『まどか☆マギカ』? 華子が魔法少女?」

「もうワケガワカラナイヨ!」

 そうやってみんながワイワイしているのに、華子は相変わらず気づかないかのように、何かを考えながら、ニヤニヤしている。

 それに、みんなが目を見合わせる。

「そういや、部誌の冬号と、冬旅行の計画立てなきゃ」

「華子ちゃん、どうする?」

 華子は気づかない。

「華子!」

 まだ気づかない。

「華子さん」

「ほんと、バカの子なんだから」

「バカってゆーな! って、えっ?」

「ほら、やっと気付いた。華子、バカって呼ばれた反応でないと気づかないんだもんなあ」

「華子ちゃん、部誌と冬の旅行どうするの?」

「え、なんも考えてなかった」

「だって、その話、前から話してたでしょ」

「え、そうだっけ」

「華子さん、私がいうのもすまないのですが、どうなさったんですか? 華子さんらしくないですわ」

「い、いやー。なんでもなくて」

「なんでもあるでしょ? 授業中も上の空だし、そのくせ身だしなみは前はちょっと雑だったのに丁寧になってるし」

「え、そうかなー? あはは」

「それに、そのかばんのお守り。縁結びじゃない」

「ケータイならないかって常に気にして、ほかのことにぜんぜん集中してないし」

「睡眠不足でいつも授業の時昼寝してるし」

「私服もいつもよりおしゃれになった」

「総裁もなんとか言ってくださいよー」

「うぬ、女子としてはよいことであるからよいのだな」

「でも、華子ちゃん明らかに変ですよ」

「正直、心配になりますわ」

「む、華子の反応は、シンプルで、そして当然なのだ」

 総裁がiPadで『恋の病の症状』というページを見せる。

「華子は、恋をしておるのだ」

「え、えええええ!」

 みんな、驚く。

「『教科書がボーイフレンド』なはずは、ねいのだ。健康な女子なのであるから、当然恋をすることもあろうぞ」

「華子ちゃん、本当?」

 華子はまた惚けている。

「本当なの?」

 まだ気づかない。

「バカなんだからそうなのかなあ」

「バカじゃないです! って、あれ?」

 華子はようやく気付いた。

「あれ? じゃないわよ。これはかなりな」

「恋の病であるな。それも重篤な」

「華子ちゃん、大丈夫?」

「あ、いや。あれ、なに、ま、大丈夫です」

 ツバメがついに口を開いた。

「はい、第1取調室!」

 御波も言う。

「カツ丼の出前もお願いします」

「あと、女性の容疑者なんで、女性の立会人も」「いや、みんな私達女の子だから」

「ええっ、ぼく、取り調べられちゃうの?」

「さふなり。せめて友達なのだから、事情は聞かせて欲しいのであるな」


「蕨駅で、寝台特急カシオペアのお見送り撮影していたんです」

「え、私達とは別に?」

「はい。その日は偶然」

「蕨駅は確かにいいS字がある撮影地なり。駅のホームから列車がカッコよく見える」

「でも、そのときでした。場所取り争いが起きて」

「またクズなテツがいたの?」

「はい。それで、黙ってようかと思ったんですけど、どうにも気持ちが止められなくて」

「また熱血しちゃったの? 1人で? あぶないなあ」

「マミられちゃいますよ」「そういうとマミさんが可哀想過ぎます!」

「それが、そうしようとおもったら隣の子が、『これじゃ撮られるカシオペアが可哀想だよ!』って」

「えっ」

「男の子なんですけど、すごく勇敢で、みんなをそれで静かにさせて。

 それで、みんなでちゃんとカシオペアをお見送りできたんです」

「それで」

「で、いつもの名刺渡して、蕨駅を降りて、駅の脇のドトールでお茶しながらはなしして。

 撮り鉄だけど模型鉄で。話がすごく弾んで。

 そこで、昼間もっと早くだったら蕨の『蕨鉄道』さんって言うバーの昼間の営業で、鉄道模型見ながらお茶できたのに、って残念がって」

「ほほう、それはヨイことだ。

 でも、それで、恋に落ちたんだな! もうわかってるんだ。自白しろ!」

「まあまあ、ツバメ刑事、そんなきつく言っちゃダメだ。

 なあ、華子。こいつひどいよなあ。

 でも、大丈夫だ、俺にだけ話してくれ」

「御波刑事! そりゃないですよ!」

「俺にだけ、な?」

「って、なんで二人で『踊る大捜査線』みたいな刑事ゴッコしてるんですか!」

 カオルが呆れる。

「さあ、自白しろ! 話せば楽になるぞ!」

「って、ぼく、自白も何も、その子とLINEのアドレス交換して、恋に落ちちゃったんです」

 あっさり華子は言ってしまった。

「えええええ!」

「ほんとなんだ!」

「どんな子よ!」

「それが、その子の写真は撮り忘れてて」

「うむ、華子のカメラは撮り鉄として鉄道車両を撮るためのものであるからの」

「そういうことじゃないと思うけど……」

「でも、この鉄研、恋愛禁止でしたっけ」

「そのような馬鹿げた規則は、ねいのであるな」

「ですよねえ」

「でも、そっかー。そういうのに疎そうな華子に、彼ができたのかー」

「いいですわねえ。素敵ですわ。ドトールで話し込むなんて、まるでラノベのようですわ。ああ、模型でそういうシーンが作りたくなってきましたわ」

「ああああ、また詩音ちゃんが妄想が捗ってるー」

「うむ、華子くん、人を恋するのも大事だが、本分を忘れぬよう、わきまえて恋を楽しみたまへ」

「そういう総裁って、恋愛は」

「ノーコメントであるのだ」

「えっ、『死して屍拾う者なし』じゃなくて?」

「うむ、ノーコメントである」

「そんな、総裁」

「ノー・コメント、であるのだ」

 強い視線で総裁は繰り返す。

「なんか、ホワイトハウスの報道官みたいな拒絶」

「でも、華子ちゃん、素敵な恋になってるみたい。いいなあ」

「そうね。素敵よね」

「うむ、テーマはアイマスの『魔法をかけて』であるのだな」

「歌いたいけど、歌っちゃったらJASRACに申請しなくちゃいけないわね」

「まあ、読まれても数がたかが知れてるから、許諾料は安いでしょう」

「許諾、取れるの?」

「ええ。ホームページ行ってフォームに入力すればよいのですわ。私も薄い本を作るときにお世話になりました」

「薄い本?」

 みんな、詩音の言葉に、しばらく黙って、怖い考えになってしまった。

「まず、華子くんの恋の成就を、友人として願うのであるな」

「そうですわ」

 秋の放課後の傾いた日が、まだ暖かかった。


 しかし、それは数日もかからなかった。

「あれ、華子ちゃん、またおかしいわねえ」

「華子がおかしいのは前からじゃない」

「いや、そういう意味じゃなくて。何かをぐっとこらえてる顔してる」

「ほんと? って、ホントだ」

「どうしちゃったんでしょう」

「うむ」

 総裁はその片目のカラーコンタクトをとり、もともとのオッドアイになった。

「さて、華子くん、こちらへ来たまへ」

「えっ」

「そして、ワタクシに事情を聞かせたまへ」

「……はい」

 華子は無抵抗に、話し始めた。

「彼、お父さんとうまく行ってないらしいんです。それで、辛くて学校も休みがちだ、って」

「メンヘラさんなのか?」

「そういう感じはします。でも、私も同じぐらい苦しい時があるから」

「具体的に?」

「お父さんと一緒の仕事したくても、お父さんに認められなかったりして、すごく悲しかったり」

「なるほど。同じことが彼にもあると思ったのであるか?」

「そうです」

 総裁は考え込んでいる。

「それで、連絡がとぎれとぎれになっちゃって。心配しても、心配しかしてあげられなくて」

 華子は話しだして止まらなくなった。

「ああ、ぼくにはなんにも出来ないな、って思って。

 オトーサンのお手伝いもうまくできないし、彼も助けられない。

 ぼくって、なんなんだろうって。

 すごく悲しくなって」

「うむ、よくわかったのである」

 そう言うと、総裁はカラーコンタクトをはめて、オッドアイの眼を普通の目にした。

「こうせねば安いラノベのキャラクタになってしまうでの。片目に入れて両目の色を揃えておる。

 そしてこれを外すと、催眠効果を発揮して、私の前では皆、自白してしまうのだ」

「……総裁、またそんな怖い能力を」

「恐ろしい子!」

 ツバメがそう言って白目になる。

「そして、その彼はどこにいるのであるか?」

「わかんなかったんです。LINEのアドレスしかないから」

「じゃあ、どうにもできませんわ」

「それが、昨日わかって」

「どこ?」

「信濃大町です」

「えっ、信濃大町って、大糸線の?!」

「遠いじゃない!」

「だから、余計なにもできなくて……」

 華子は悲痛に泣いた。

 号泣になった。

「うぬ!」

 総裁は立ち上がった。

「御波くん! キミは学校をサボることができるか?」

「ええっ!」

「華子とワタクシと御波で、その彼に会いに行くのであるな」

「えええええ! ズル休みして!?」

「ひどすぎます!」

「でも」

 御波は言った。

「行きたいです。だって、このままじゃ、華子ちゃんが可哀想。

 せっかく素敵な恋だったのに、中途半端で終わるなんて」

「さふなり。ワタクシもそう思うのである」

「でも、旅費は?」

「我らの強い味方、高速バスがあるではないか」

「でも」

 カオルが暗算する。

「高速バス料金と鉄道運賃、東京圏対信濃大町では、ほぼ同額ですよ。特急料金を足せば、鉄道のほうがずっと楽そうですね」

「うむ、それに、信濃大町方面には、直通のあずさに、スーパーあずさが松本まで走っておる」

「E351系ですね」

「しかし! E353系が導入され、近いうちにE351系のスーパーあずさはなくなってしまうのだ」

「総裁、それは、乗っておきたいってことですね」

「さふなり。正式に発表が出る前から、お別れに行っておきたいのであるな。

 E351の力走を今のうちに堪能しておきたくもある。

 廃止が決まってからの葬式鉄では行動として凡庸な上に、迷惑を起こしかねぬ。

 我々も長野に行く理由がまたできたのであるな。

 華子くんを信濃大町へ連れて行くのだ。

 そして、華子も彼に一度あって、その思いを伝えるがよいのだ。

 ワタクシと御波もついていく。

 他のみんなは、この海老名でその支援よろしくなのだ」

「え、支援って?」

「ズル休みするための口裏合わせ、言い訳の用意などである」

「ひ、ヒドイ! もろに犯罪じゃないですか!」

「しかし、これは華子の一生がかかっておるでの。行かずにはおられんのだ」

「わかりますわ」

 詩音が口を開いた。

「私も、そういう気持ちになりますもの。ツバメさん、カオルさん、そしてアヤ・マナ・カナさん、3人が信濃大町に行けるように、工夫しましょう」

「詩音ちゃんがそんな。成績優秀のお嬢様風味なのにこんなことの指揮をとるなんて」

「でも、私も、女ですのよ」

「ああっ、また癒やしオーラが!」

「御波ちゃん、充電禁止!」

「それはさておき、さっそくわが水雷戦隊選抜隊による信濃大町への鼠輸送ならぬモグラ輸送なのであるな,」

「なぜに艦これになっちゃうの……」

「む、華子くん、早速LINEで、信濃大町に行くので、都合のいい日を教えてと打つのだ」

「でも、平日に?」

「さふなり。ことは急を要する」

「みんな……」

 華子は、立ち上がった。

「ぼくのために、みんな、ごめん!」

「いいのよー!」

「私もなんか、気持ちわかるし」

「それに、彼のことも心配ですわ」

 詩音は、言った。

「いってらっしゃい」

「そうね。私からも」

「私達からも」

 みんな、声が揃った。

 華子は、ぼろぼろとないていた。

「バカじゃないけど、ぼく、バカみたいだ!」

「そんなことないよー」



*


「というわけで、厚木バスセンターに集合なのである。

 今日は雨ではあるけれど、厚木の街を、ブラ総裁!」

「ブラタモリじゃないんですから。 それにブラ総裁なんて、詩音ちゃんとかが聞いたら妄想捗らせすぎますよ」

「でも、詩音ちゃん、留守番だもんね」

「うむ。世を忍びの3人での信濃大町行きである。

 覚悟は良いか?」

「決めてきました」

「ぼくのために…ほんと、ありがとう」

「では、あれをやろう」

 3人は、手を合わせた。

「ゼロ災で行こう、ヨシ!」


*


「でも、バスで原当麻に行って、そこから相模線、横浜線で八王子なんて」

「うむ、海老名駅をこの時間に我々がおると、ずる休みがバレかねぬからの」

「総裁、悪知恵も総裁らしいですね」

「カオルであれば『それほどでもー』というところであるな」

「ヒドイッ! っていうのはツバメの役割ですね」

「華子、あれが見えるか」

 華子は車窓を見た。

「雨が晴れてきて、ゴッドレイになっておるのだ。

 前途は明るいぞ」

「だといいんだけど……」

 総裁は、改めて言った。

「華子、ありがとう。

 君のおかげで、我々は鉄研を始動させることができたのだ。

 そして、この2年間、テツ道を歩めた。

 君はここで卒業するかもしれないが、だとしたら。我々は暖かく送り出す。

 だが、ママ鉄という選択肢もある時代だ。

 気負う必要なく、華子は華子のテツ道を歩むのだ。

 人の気持ちを解さずに押し付けてしまうテツ道など、テツ道の値打ちはない。

 故に、ここでどちらを選ぼうとも、君は、大事なテツ道の仲間だ」

「そうですよ」

 総裁と御波はそう華子に言った。

「そうだね。本当の友達だもんね」

「そうなのであるな」


*


 橋本駅でみんな、といっても3人は横浜線に乗り換える。

「うむ、私服をちょっと大人びた感じにしたので、高校生とは簡単にばれないであろう。善き哉」

「橋本駅、地味に綺麗になってるわね」


 そして八王子駅についた。

「あ、奥にタンク車タキを連ねた貨物が!」

「先頭に立つのはハイブリッドディーゼル機関車であるな。

 八王子は観察の見どころが多い素敵な駅の一つなのだ」

「でも、ちょっと待って」

 みんな、切符を見た。

「これ、あと2時間30分後のスーパーあずさじゃない! 駅の見学が捗り過ぎますよ!」

「さふであるな」

 総裁は考えた。

「うぬ、華子が手配してくれた切符であるが、ここは1本前のスーパーあずさに変更しよう。華子、よいか?」

「すいません……なんで指定切符間違えてとっちゃったんだろう」

「それが、恋なのであるな」

 総裁は微笑んだ。

「さて、その切符の変更はどうすればよいのか」

 御波が聞きにいく。

「機械で出来るんだそうです」

「おお、そうなのか。時代の進歩であるな。では、昼ごはんは駅のお蕎麦にしよう。食べ終わればちょうど列車の出発にいい時間になる」

「そうですね」


*


「立ち食いだけど、しかたがないのである。華子くん、すまないが」

「いいえ、飲食という仕事の大変さ、食堂やってるオトーサンみててわかりますから」

「華子はえらいのう」

「そんな……いつもバカって言われ慣れちゃってるから、なんてリアクションしたらいいかわかんない」

「そこがバカだよねえ」

「バカってゆーな! って、あれっ?」

 3人は笑った。


*


「そしてスーパーあずさE351系への乗車なのである。

 うむ、さすがJR初期の雰囲気の車内なり。グローブ灯と間接照明がバブル期の感じであるな」

「あれ?」

 御波がいう。

「これ、リクライニングのストッパがきかない。ペターン、ふらふら、ってなっちゃう!」

「うむ、ここは車掌さんにお願いして、指定席を変えてもらうのだ。

 これでは座って姿勢が安定せず、すっかり疲れてしまうのだ」


「代わった席は、こんどはそのテーブルはテープで補修してある」

「うむ、JRももう、このE351を長く使うつもりがなくなっているのであろう。

 今のうちにお別れに来ててよかったのである」


「モハに乗ってるせいか、モーターサウンドもあって、凄いスピード感ですね」

「振り子もすごく効いてるー!」

「うむ、コーナーを攻めまくりの圧巻のヒルクライムであるな」

「風景も、やっぱり中央東線は違いますね」

「なんか、高低差があっても、東海道線とか日本海岸と違う気がする」

「うむ、おそらく植生が違うのであろう。これは詩音くんの専門であったな」

「そうですよねー」

「そしてこのE351の力走ぶり。魂の走りであるな」

「ほんと。これがなくなるのは寂しいですね」

「でも、今のこのまま引退なら、まさに堂々の花道であろう」


「あ、お城が見える!」

「甲府の舞鶴城であるな」

「結構来ましたね」

「しかし! 諸君はちゃんと寒さへの備えをしてきたのか! 向こうは標高が高いぞよ!」

「あ、そういえば」

「そんな装備で大丈夫か、ですよね」

「少し暖かくしてきたんだけど」

「うむ、でも相手は高山であるぞ」

「ちょっと不安になってきました……」


「上諏訪を過ぎた。もうすぐ諏訪湖が見えるのであるな」

「もうすぐ……あ、きた!」

「綺麗!」

「でも、ここらへん、単線なんですね」

「うむ、対向列車の遅れでこちらも5分遅れておるからの」


「長いトンネルを抜けたら、そこは松本だった」

「雪国じゃなかったわね」

「ほんと、雪降るまえでよかった」

「松本駅は、まーつもとー、って音を伸ばして放送するのが汽車旅の感覚ですね」

「そうであるの。そして、いよいよ大糸線である」

「空気が、少し涼しいですね」

「……ってことは、信濃大町はもっと寒い?」


「長野色の211系だ!」

「ロングシート、長っ!」

「それになに、このトイレの脇の小さなシート。クロスシートにしてはすごく小さい」

「ううむ、なぞである」

「しかし、凄い西日。……って、ロールカーテンがしめられない! レールに軸が引っかかっちゃう」

「ううむ、これもすごしガタが来てるのであるな」

 3人は、座った。

「ところで、信濃大町に宿を取ったのである」

「女性3人でとれました?」

「なかなか背中に汗をかいた」

「すっかり私達、非行少女になっちゃいましたもんね」

「さふなり」


「おおー、途中駅に構内踏切がある!」

「箱根登山もどんどんなくしてますもんね。貴重です!」


「この川を渡れば、信濃大町であるな。彼に連絡はついたか? 華子」

「それが……なかなかこなくて」

「心配ですね」

「余計、周りが暗いから、不安になるわ」

「でも」

 雲間から日が覗く。

「こういうとき、この山間の風景すべてが金色になって、息を吹き返したように見えるのが、とても荘厳で素敵」

「彼は、こういう土地で育ったのであろう」

「そうです」

「近づく山々が紅葉に染まってて、暗いけど、独特の美しさがありますね」

「雪のかぶってる山もある」

「かつて、こういうところに169系急行などが来ていたのを思うと、また風情のある土地であるな」

「長野って、ほんと、素敵なところですね」


著作 北急電鉄


協力 追兎電鉄


協力 山岸技研


協賛 奇車会社尼崎


協賛 奇車会社筑波


協賛 神堡重工


協賛 神尾電鉄


制作 鉄研でいず制作委員会


「なんですかこれ」

「クレジットごっこらしいわ。懲りないわねえ、著者」

「まあ、今回、著者ともさらに強い縁になってしまいましたね」

「ほんとねえ」

 華子は、ケータイを見る。

 そして、言った。

「明日会いましょう」

「そうであるのか」

 総裁は、うなずいた。

「そうしようであるな」


*


「ついた。信濃大町」

「反対から入線してきたあの列車は何であろうか?」

「リゾートハイブリッドとありますね」

「ここをああいうのが走っているのであるか」

「興味わきますね」

 跨線橋で駅舎に渡る。

「あ、リゾート行っちゃった」

「さふである。で、宿は素泊であるから、食事をせねば」


「凄いシャッター街」

「ここもそうなんですね。17時寸前までは人がいたのに」

「うむ、でも一見開いている店があった。カツ丼らしい」

「食べます?」

「うむ、補給は大事。それに、ここは長野であるぞ」

「あ、ソースかつ丼!!」

「うむ、所望するのであるな」

「総裁はさすが食をハズさないですね」


「この街も、大きな深夜営業スーパーと巨大病院と市役所だけが元気ですね」

「イオン公国化である。大洗に行った時に途中の街で見たのと同じである」

「もう、日本中、こうなんでしょうね」

「そして、おそらく、誰もこれで困っていないのだ。

 困っていないと言いつつ、皆のクビは着実に締まりつつある。

 かといって、その処方箋は、まだ誰も持ってはおらんのであろう」


*


「さて、宿につきましたよー」

「でも、華子ちゃん、どうしたの?」

「彼、明日の17時に来てくれ、って」

「ええっ、あしたほぼ一日暇潰さなくちゃいけないの?」

「彼は気使って、黒部ダム行ってきたらっていうんですけど」

「ふむ。気を使うならまだ今日も17時であるから、顔ぐらい見せてほしいものなのだが、仕方ないであろう。その事情は斟酌すべきであるな。

 とはいえ、黒部ダムなど、普通の観光地に過ぎぬ。

 なにか、我々として意義があり、リーズナブルな暇つぶしをしたいのであるな」

「どうしたらいいんでしょう?」

「こういう時こそ、いんたーねっとの活用であるな」


*


 そして朝になった。

「うむ、みな、お風呂もすませておいたので、早めに出発である。

 7時発の南小谷行きに乗るのだな。

 テツの朝は早いのである」

「昨日の211系じゃない、E127系の2連ですね」

「JR東のローカル電車の標準的スタイルであるな。

 2連といえど、ロングシート、クロスシート、車椅子スペース、そしてトイレと設備が充実しておる。

 模型で再現するにはこういうのも渋いと思われるのだな」

「そうですね。HOとかで再現して、人形乗せると楽しそうですね」

 そう言いながら、総裁も御波も、華子を気にしている。

「大丈夫? 信濃大町で待っててもいいのよ」

「いや、行きます。みんなで」

「これから行くところは、遠いよ」

「遠くても、行くと決めたんです」

 総裁は頷いた。

「さふであるな。ここまでもそうだし、決めたのだから、そのとおりであるな」


「どこか、高校があるんでしょうね。高校生がいっぱい乗ってきた」

「私達も高校生ですけど」

「うぬ、でも、そこはぐっとこらえて大人のふりなのである」

「山深くても、ケータイの電波は届いてますね」

「通信キャリアのみなさんの努力の成果なのである」

「TPPとか、私達と同じ勉強してる……」

「学校をサボるとは、こういうことなり」

「良い子は真似しちゃダメだよ、ですね」


「すごい、こんな大きな湖の畔を列車で通るなんて」

「模型にしたらリアリティに欠けると言われそうなほどの風景である」

「美しすぎて現実感がないー」

「でも、現実で、しかもそれを通学で見る人々もいるんですね」

「大糸線って、すごいところですね」


「白馬でみんな降りちゃいましたね」

「うむ、学校がここにあるのであろう」

「ほぼ私達の貸し切りです」


「南小谷駅って何もないって言われてますけど」

「こんなお店があったんですね」

「うむ。まさに奇跡の蕎麦屋さんである」


「そしてここからは……えっ、ディーゼル1両?」

「しかも、私達の貸し切り?」

「さふであるな」


「運転士さん以外いないので、少しみんなで歌おうとぞ思いけるのであるな」

「何を歌うの?」

「アイマスの『魔法をかけて』であるのだ」

「ええっ、難しいようー」

「でも、歌うと楽しいぞ」

「そうですか?」

「では。歌詞はJASRAC申請してないので省略である」

 そう行って、総裁はiPhoneで曲を流した。

「高低差が過激で、模型にしたらすごく楽しそうですね」

「ほんと、詩音ちゃんが気絶しちゃうレベルですね~」

「さふなり。あの雪覆いも」

「なんか、要塞地帯って感じの堅固な感じですね」


「あ、お客さんが乗る」

「貸し切りはここで終了であるな」


「突然風景が穏やかになりましたね」

「それに、あれは」

「北陸新幹線!」

「さふである」


「で、糸魚川に、着いたー!」

「つきましたね」

「じゃ、行きましょう」

「保存されてるキハ52の中を通ると、奥には」

「NゲージとHOゲージの巨大レイアウト!」

「すごーい!」

「こんなことなら、自作車両持ってくればよかった」

「これは要リベンジであるな」


「うむ、すっかり展示スタッフの方と模型談義をしてしまったのである」

「でも、ここにああいうのがあるのって、素敵」

「長く展示が続くといいわね」

「昼食どうする?」

 華子は、言った。

「コンビニおにぎりでいい」

「え、華子、あれ、うまくあのラップ剥けないのに?」

「剥けるようになる!」

「でも、どうして?」

「だって…彼の家で、ちゃんとしたもの食べるためには、ここで満腹になる訳にはいかないから」

「でも、会えるの?」

「わかんない。わかんないけど」

「御波、察してやるのだ。我々もコンビニおにぎりですまそう」

「……そうですね」


「みんな1両のディーゼルカーばっかりですね。

 せっかく架線あるのに」

「交流のヘルツ数違いや直流などで、電源の変換装備が高く付くのだろう」

「逆戻りですね」

「それが北陸新幹線の並行在来線の現実なり」

「電車みたいな顔してディーゼルですもんね」

「そして、次の列車は」

 総裁が煽る。

「また来た大糸線のディーゼルカーなのである。

 来た線路をそのまま戻る! 時間に追われる現代社会で、乗りたいから乗るという、まさにこれこそ至福の贅沢といえよう!」

「それ、孤独のグルメ……」

「うぬ? 案外諸君もテレビを見ておるではないか。ワタクシをテレビっ子とバカにしながら」

「はいはい、わかりました」


「上りは、ほんとディーゼルカー、つらそうですね」

「ノッチを戻して入れ、戻して入れ」

「ギアを使い分けておるのだな」

「そのなか、こうしてると、さっきカメラで撮りそびれたものを撮れますね」

「最高の贅沢なり」


「帰るんだったら、このままこの特急で新宿に帰れるわよ」

 南小谷駅。E257系あずさが、出発を待っている。

「いいえ、乗りません」

「そうか」


「行っちゃった」


「華子、そんなに彼が好きか」

「ええ。好きです。

 でも、彼と私が一緒になれないのはわかっているんです。

 彼が幸せになってほしい。

 私と出会ったことで、不幸になってほしくない」

「わかってるのか」

「わかってます。でも……なんでこんなに胸が苦しいんだろう」

「うむ、それが恋というものなのだ」

 

「きた」

 列車が来た。

「リゾートふるさと、観光用ハイブリッド気動車なのであるな。

 運転日注意なのだが、たまたま今日は運転日であることを調べておいた。

 そして車内に入るのだな」

「すごーい、シートピッチ広い! 窓も大きい!」

「前には展望スペースもある」


「いよいよ出発である」

「あ、村の人が手を降って見送ってくれてる!」

「こうしてみんな、一生懸命やってるのに、なんで首が締まってくるんだろうね」

 総裁は言った。

「経済の変化なのである。

 テロも経済の変化が背景にあり、本質なのであるな」


「帰りはさすが快速、早いのである」

「このハイブリッド気動車の運転士モニタ装置を見ると、なかなか複雑な動きをしておる」

「興味深いねー」


*


「信濃大町に着いたのである」

「いよいよ、だね」

「あ、駅員さんが総出で列車を見送ってる!」

「やれることはなんでもやるんだねえ」


「で、このお店?」

「多分」

「でも、看板が出てるのに、準備中の札になってるよ」

「なんでだろう?」

「まず、時間まで待とう」


「時間だけど札が変わんないー」

 華子は、そう言いながらも、涙をこらえている。

「拭きたまへ」

 総裁がE5系新幹線のハンカチを渡す。

 1年前、御波の涙にも渡されたものだ。

「大事な彼に会うのであろう?

 だったら、斯様な涙は見せてはならぬ」

「……ですね」

「時間であるから、思い切って扉を開けるのだ」

「……はい」


 華子は2度ためらった。

 でも、開けた。

 華子を先頭に店の中に入る。

「こんにちはー!」

 カウンターの向こうに、イナセなベテランらしき板前さんが立っていた。

 彼のお父さんだ。

「あ、鉄研のみんな?」

「はい!」


*


 3人は、カウンターに座った。

 しかし、店を手伝っているはずの彼が来ない。

 とはいえ、板長である彼のお父さんに直接彼のことを聞くことは、できない。

 でも華子は、彼がいかに勇敢か、いかに自分と話が合うかを話す。

 それを、御波と、総裁は見守っていた。

 それでも、しだいに、もう話すことがなくなっていく。


 つけっぱなしのテレビで、相撲放送が流れている。

 そして、天気の放送が流れる。

 そのとき、


 男の子が現れた。

「彼です」

 しかし、お父さんと彼の間に、言葉が少ない。

 でも、御波はわかった。

 華子は、もう、すでに嬉しくて泣こうとしているのだった。

 それほど、華子の視線は、彼のしぐさ、一挙手一投足に集中していた。


 声はかけない。

 そして、食事を黙々としていると。

「華子ちゃん!」

 宴会の給仕の合間に、彼が声をかけてくれた。

「総裁ってもしかすると」と聞く彼。

「ワタクシなり」

「御波ちゃんって」

「はい!」

 彼は、満面の笑みで言った。

「ありがとう、来てくれて!」


 それから、彼は、料理の仕事の合間に、すこしでも話をしようとしてくれた。

 華子も、一生懸命、彼のじゃまにならないように、それでいて彼の喜びそうな大糸線の写真を見せた。

 鹿肉のジビエ、煮込みなど、やはり彼と彼のお父さんらしい、腕をふるった立派な料理が続く。

 その立派さを、華子が解説する。

「さすが食堂『サハシ』だ」

 場がどんどん和んでいく。

 そして、終わりごろだった。

「うち、女系家族だからさ、大丈夫だから、お客さんいなくなった宴会場片付けて、布団3つ用意してあるんだ。泊まっていきなよ」

「ええっ、いいの!?」

「せっかく来てくれたんだもん。宿代もったいないし」

 そのあと、彼は言った。

「ごめんな」

 それで、華子はついに、泣き出してしまった。

「いや、全然、ごめんくない、ごめんくないから…」

 みんな、やわらかな気持ちで、笑った。

「お腹、いっぱいかい?」

 お父さんが聞く。

「え、あの」

「信州牛のたたきがあるんだけど」

「恐縮です。せっかくここまで来たんですから、いただきます!」


 そして、3人はお風呂を借りて、宴会場の布団に入った。

「ほっとした。

 これでいい。

 帰りましょう」

「いいの?」

「いいの。私も、飲食の娘だもの。わかる」

 華子はそう言った。

「華子が惚れるだけのものがある男子である」

「だから、離れなくちゃいけないんだね」

「うん」

 華子は言った。

「でも、気持ちは、これで、晴れました」


*


 朝がきた。

 御波は宴会場で目覚めた。

 彼の家、料理店の前の道路を行く車の音が静かに聞こえる。

 静かな朝。

 雪の日はさらに静かだろうな。

 彼は、どんな気持ちで、毎日この音を聞いていたんだろう。


「じゃあ、帰りますか」

 そのとき、声がかかった。

「見ていきなよ」

 彼が、自分の鉄道模型を見せてくれたのだ。


 素晴らしい作品の数々に、みんな、息を呑んだ。

 この信濃大町にあるのが不思議なほど、素敵なものだった。


 みんな、深く感謝した。


*


「高速バスは?」

「キャンセルしたのであるな。

 帰りも、鉄道で帰ろう。

 こういう時は、鉄道に限る」


「信濃大町、さようならなのだ」

 走りだした大糸線の電車の中で、華子が、眠そうにしている。 

「松本から寝ていいよ。八王子で起こすから」

 でも、その言葉より先に、すでに華子は眠っていた。

「一杯一杯だったのであろう」

「ほんと、華子ちゃん、いろんなことに『マミられる』こと覚悟してたのね」

「さふなり。実は、すべての女子は、思春期を魔法少女のように、内なる心で戦って過ごすものなのであるな。

 そして、女として耐え、堪えることを学んでいく」

「男の子は?」

「男子も別の、とはいえ似た戦いのさなかにある。

 思春期とは、発育する体と発育が遅れた心のせめぎあい、心の戦争の季節なのだ。

 そして、華子もまた、そこで逃げなかった」

「総裁、総裁も戦いを?」

「それはノーコメントであるのだ」


 そして、帰りのスーパーあずさは、恐ろしいほどのスピード感で、カーブを攻めながら、山を下っていった。


*


 3人は、そこから何度かの乗り換えの後、海老名に着いた。


 駅でみんなが待っていた。

「大変だったのよ。いろいろ言い訳とか口裏合わせとか」

「これでみんな、めでたく不良少女です」

「ぜんぜんめでたくない、ヒドイッ」

「1年生の私達も共犯ですよー」

 でも、詩音は言った。

「でも、華子ちゃんが納得するなら。

 華子ちゃんの、初恋が素敵になるなら、と思って」

 華子は、みんなに、頭を下げた。

「みんな、ほんとうに、ありがとう!」


「じゃあ、帰り道、みんなであそこ歩こうか?」

「え、エビーロード?」

「そう。アビーロードじゃなくて。ららぽーとの裏」

「じゃあ、私、写真係!」

「ちゃんとビートルズのアレみたいに撮れるかな」

「怒られない?」「いや、私達、もうすっかり怒られる存在だから」

「がんばって撮るー!」

「みんなの記録係の華子ちゃんなんだもの。撮れるわよ」


 そして、そのららぽーと海老名裏の横断歩道で、みんなで写真を撮った。


 これで、華子と、少女たちの旅は、またひとつ、終わったのである。


 そして、次の旅の準備は、すでに始まっている。


<了> 


「ふー、最終回終わったねー」

「本当はこの後、13話特別編「アスタリスクは止められない」になるんだけど……。それとその後、著者、どうするんだろう?」

「うむ、そこはわからぬ」

「え、総裁もわかんないの?」

「さふなり。ここからは著者次第であるな。

 幸い、取材の結果、ここ数ヶ月のスランプは抜けられそうであるからの」

「本当?」

「抜けてもらわねば困るのである。とはいえ、予定もまた未定であるのだ。まあ、著者のことであるから、3期もあると思われなのだ」

「え、ほんと?」

「うむ。時期はズレるかもしれぬが、そうなるはずなのだな」

「著者の考えていることなどお見通しなのだよ」

「キャラに内心見通されてる著者って一体……」

「うむ、というわけで、そのときを楽しみに」

「そうですわね」

「じゃあ、またね!」


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