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宗次は聖騎士に転職した  作者: キササギ
第4章 異端の使い手
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93話 トレビュシェット


「邪教徒を倒せば、それなり以上の名声は手に入りましょう。

その名声でもって、開拓村の支援を募ることも出来るでしょう」


 レンさんから提案された第5開拓村の復興。

突然のことで戸惑ったが、これはこれで良い目標ができた。


 邪教徒を倒すことは、ゴールではない。

あくまで通過点に過ぎないのだ。

ならば……せいぜい邪教徒どもには良い踏み台になって貰うとしよう。





 1日後、教会の斥候がアウインに迫るアンデッドの大軍を発見。

このままのペースで行けば、予想通り5日後に決戦となりそうだ。

アンデッドの大軍の来襲に、街は一気に臨戦態勢へと移行した。


 アンナとリゼットを伴い、西部地区を目指して移動する。

その道すがら、街の中心部にあるトランスポーターでは、

避難のために街から出て行く人、あるいは今が商売時だとこの街にやって来た商人や、冒険者で混雑していた。


 そこには教会の神官も配置されており、

トランスポーターを通して邪教徒が進入してこないように警備している。


そんな彼らの様子を見ながら、疑問を口にする。


「意外と非難する人は少ないんだな」


見た限り、この街から去ろうとする人間よりも、この街に来た人間の方が多いように見える。


「そりゃそうだよ。この街に住んでる人間のほとんどはこの街の生まれなんだぜ。

今更、どこに行こうって話だよ」


「まあ、俺とリゼットはこの街の生まれじゃないけどな。

だが……なるほど、そういうものか」


 シモンやレオンの話では、教会が発した義勇兵の募集に対しても多くの住民が参加しているらしい。

もちろん、彼らが本当に義勇でもって戦いに参加しているかは分からない。

もしかしたらこの戦いに参加しないことで、肩身が狭くなるから、というのもあるのかもしれない。


 それでもこうして戦いに参加してくれるというのは、うれしく思う。

数は力だ。

万の敵を相手にするには、一騎当千の兵が10人いれば良いと言う話ではない。

実際、自分の作戦では例えレベルが低くても1人でも人は多いほうが良い。


「で、どうなんだ?

その『トレビュシェット』は?」


「どうもこうも、役に立って貰わないと困る」


 アンナの質問に答える。

今、西部地区に向かっているのは、西部教会の司教であるグレゴワールから、

トレビュシェットが完成したとの報告を貰ったからであった。



 アウイン西部地区、城壁。

敵はアウインの西、サフィア平原から向かってくる関係上、

この西部地区が主戦場となる。

城壁にはこの街の兵士達が多数展開し、急ピッチで城壁の強化を行っている。


 その中の一区画に巨大な木造の人工物が鎮座していた。

城壁の上に設置されたトレビュシェット、

その大きさは約5メートル。

巨大なシーソーを思わせる形状で、腕木の片側は錘を入れる木箱が取り付けられており、

反対側は石弾を飛ばすための釣り紐が取り付けられている。


「やあ、お待ちしておりました。

貴方の指示通りの物が出来たと思いますが、どうでしょうか?」


こちらの姿を見たグレゴワールはトレビュシェットを見上げながら挨拶する。


「素晴らしい出来です。よく1日で作ったものだと思いますよ」


 彼にはトレビュシェットの原理の説明と図面は渡していたが、

出来上がりはこちらの注文以上のものであった。

というのも、自分が指定していなかった腕木や土台部分に金属の補強がしてあり、

彼らなりの工夫がなされていたのだ。


「ちょうど今から試射を行う予定です。

ご覧になられますか?」


「ええ、もちろん」


 グレゴワールの指示で神官や職人が動き出す。

トレビュシェットは錘の重さを調整することで飛距離を調整できる。

錘を入れる木箱の中に錘となる石をいれ、反対側の釣り紐に重さが100キロはある石弾を数人がかりでセットする。


「では行きますよ……放て!!」


 グレゴワールの号令で、トレビュシェットの腕木を固定していたロープが切られる。

木とロープが擦り合う、重々しい音を発しながら、錘は下がり、逆側の腕木が勢いよく跳ね上がる。


そこから、放たれる石弾は放物線を描き、100メートルほど飛んで地面に落ちる。


「おお、成功だ!!」


そう声を上げる横では、実際に作成や運用を行った職人や市民達も歓声を上げる。


「簡単な仕組みなのに、『ストーンブラスト』の魔法に匹敵するとは……」


「いや、それ以上の威力があるだろ?」


「あの石って100キロはあったよな」


「見てみろ、地面が凹んでるぜ!」


一通りの歓声が上がると、職人達はさっそく問題点の洗い出しを始める。


「錘はもう少し重くしても良いんじゃないか?」


「でも、重くしすぎると運用が難しくなるぞ。

実践では一般市民の義勇兵が使うんだから」


「耐久性の問題もある」


「だったら、錘を入れる木箱も補強するか?」


 ああでもない、こうでもないと議論を始める職人達の意見はもっともなもので、

後は彼らに任せておけばよいだろう。


「グレゴワールさん。あと5日で何機のトレビュシェットが用意できますか?」


「そうですね。基本的な構造は簡単ですので、

あと10機は用意できると思います」


「良し、それだけあれば戦力として計算できる」


 グッとガッツポーズをする自分に対して、

グレゴワールさんは、嬉しそうな顔をしつつ、悩ましい顔をするという器用な真似をする。


「……何か問題がありますか?」


「いえ、このトレビュシェットは素直にすごい武器だと思います。

しかし、この武器があれば、レベルの低いものでも戦場で活躍できる。

……いや、出来てしまう。

もちろん、今はそんなことを言っている場合ではないとは思いますが、

これは戦いの歴史を変えますよ」


 もしかしたら、私は目先の困難に立ち向かうために、

取り返しの付かないことをしてしまったのではないかと、グレゴワールさんは言う。


 この世界においては、レベルはイコール戦力だ。

戦いは数と言っても、最低限のレベルは必要で、レベルが低い者は戦場にいても邪魔になるだけだった。


 だから、この世界では一般の市民を戦場に出すという概念はないし、

このレベルによって、自然と兵農分離が出来ていた。


 しかし、トレビュシェット等の兵器の存在は、その原則をひっくり返す。

例えレベルが低くても、魔法が使えなくても、高度な剣技が使えなくても、

それを覆すほどの兵器があれば良い。


 戦いが個人の武勇から、多数の凡人が運用する兵器へと移り変わる。

英雄の時代の終わりである。


 だから、グレゴワールさんの懸念はもっともであるし、

彼の問いには『うん、そうだね』としか言いようがない。


ただし、それはまだ先の話である。


「それでも、レベルが高いことが有利であることに変わりはないし、

魔法やスキルについても同じです。

それに、トレビュシェットは、拠点防衛や攻城戦には使えても、

機動力がないので野戦では使い難い。

これには、まだ戦争を変えるほどの力はありませんよ」


 第2次世界大戦ぐらいまで兵器が進歩アップグレードすれば、

魔法もスキルもほとんど無意味になるだろうが、

それまでは平行して運用されていくのだろうと自分は思う。


「道具は所詮どこまで言っても、道具でしかない。

それをどう運用するかは、その時の人間が決めるものです。

だから自分達が考えないといけないのは、今、目の前に迫る脅威にどう立ち向かうかであり、

自分が出した答えは『これ』です。

まあ、総大将は自分なので、責任は自分が持ちますよ」


「……そうですね。まずはこの戦いに勝たねばいけません。

このトレビュシェットが、その一助になれば良いのですか……」


グレゴワールは右手を胸に当て、神に祈りをささげる。


 その姿を見ながら考える。

自分は神であるルニアから送られたチート。つまり、カグヤの人間爆弾は使わないと決めた。

まあ、元々考えていた作戦でも使う予定はなかったから、それはいい。


 自分が出した作戦は、今までは守られる立場であった一般市民を戦力として組み込むこと。

この戦いでどんなにうまく行ったとしても、彼らの何人かは死ぬのだろう。

そうだとしても、出来る限りチートを使わず、万の敵を倒すためには、この戦法を取るしかない。


 犠牲は必ず出る。

大を生かすために、小を殺すなんて嫌いな考え方だが、

やらなきゃならないなら、徹底的にやる。

それが一番勝率が高いと思うなら、やるのだ。


 それに自分が生かされる『大』の方に入れるかは、戦ってみないと分からない。

アンデッド軍団の対処に一般市民まで使う以上、邪教徒が出てきた時に相手をするのは自分だ。

敵のレベルは99。対してこちらのレベルは76。

さらに相手もチートを使ってくることを考えると、厳しい戦いになるだろう。

さて、自分はこの戦いを生き残ることが出来るだろうか?


「……まあ、何とかするしかないよなぁ」


 そう結論付けると、トレビュシェットの作成をグレゴワールに任せ、この場を後にした。

戦いは5日後、やるべきことはまだあるのだから。


少し短いですが、戦闘準備回の2回目終了。

本当は王族との謁見もやろうかと思ってましたが、

今まで名前さえでてない王族を出す意味もあまりないので、

王族との調整はシモンが全部やってくれたということで、次回から決戦となります。

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