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宗次は聖騎士に転職した  作者: キササギ
第4章 異端の使い手
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91話 異端者


「まあ、それはそれとしてです。

ソージの身体は邪教徒が用意したということですが、

その高いレベルや装備も、邪教徒が用意したという理解でよろしいのですか?」


「その認識で間違いはない。

だが……それだけではない。」


 カグヤに一度目配せをすると、席から立ち上がる。

そして、ステータス画面を表示し、そこからアイテムメニューを選択。

いつもの聖騎士装備を選択する。


すると、自分の姿は一瞬で完全武装の鎧姿となる。


「これは……?」


「俺はこの力をチートと呼んでいる。

次は、この力について説明しよう」




「チート……ですか?」


シモンは困惑したように呟く。


「そうだ。このチートで俺が出来ることは4つ」


 ステータスからスキルメニューを選択し、シモン達に見せる。

表示されたスキルリストには、聖騎士が習得可能なスキルと魔法がずらりと表示されている。


 そのリスト内の『コモンスキル』の中には、第五開拓村の戦いで習得しなかった『運上昇』のスキルもある。

思い返せば、この世界に来てからスキルポイントで習得したのは『ライト』の魔法しかない。


 うーん……ライトの魔法は下水道に潜る時にも使用したし、何だかんだで無駄ではなかったが……

しかし、もっと他に取るべき魔法はあるような気もする。

まあ、気にしても仕方がない。

気を取り直して、説明を続けよう。


「1つ目、『スキルコマンド』。

レベルアップによって手に入る『スキルポイント』を使用することで、

職業に応じたスキル・魔法を一瞬にして習得できる。

そして、一度習得したスキル・魔法は絶対に失敗しない」


 スキルメニューから、『ヒール』を選択し、シモンを対象に発動させる。

その瞬間、淡い光がシモンを包み込む。


「これは、確かにヒールの光……詠唱もなしに……」


シモンは唐突に生じた魔法の光に驚きの声を上げる。


「そうだ、このスキルメニューから使用する魔法に詠唱は必要ない」


「なるほど、この力が『チート』ですか。

このスキルメニューだけでも、非常識な能力だと分かります。

それが、あと3つもあると……この力を使えば……まさか……

いえ、まずは他のチートの説明をお願いします」


 シモンは驚きつつも、何かを察したようであった。

おそらく、この説明だけで敵が『リザレクション』の魔法を習得している可能性に思い至ったのだろう。

だが、まずは彼の要求どおり、チートの説明を続ける。


 スキルメニューを一旦閉じると、ステータスからアイテムメニューを選択する。

アイテムメニューには、現在所有しているアイテムのリストが表示される。

第五開拓村に行く前まではあったポーションや、切り札のエリクサーは無くなっていた。

……使わずに抱え落ちするよりはマシとは言え、やはり痛い。

だが、気を取り直して説明を続ける。


「2つ目、『アイテムコマンド』。

アイテムを自由に出し入れすることが出来る。

そして、アイテムコマンドから使用したアイテムは、常に100%の効果を発揮する。

ただし、アイテムのチートは自分自身にしか効果がない。

そして、このチートはポーション以外にも、装備アイテムにも使用できる。

例えばこんな風に」


 アイテムメニューから、炎属性の片手剣『フランベルジュ』を選択する。

すると手に持った聖剣が消え、入れ替わるように波打つ炎の剣が現れる。


「これは先程見せたな。

このように装備品を選択すれば、一瞬にして装備を切り替えることもできる訳だ」


「なるほど、ではカグヤ様が何もない空間から聖剣を取り出したのも……」


「ああ、それもチートだ。

ただし、カグヤ様のチートはアイテムコマンドによるチートだけではない。

彼女はアイテムメニューは出していなかっただろう?」


「確かに……ということは、それが3つ目のチートですか」


シモンは、納得したというように頷いた。


「ああ、3つ目のチートは『ショートカット』。

ショートカットに登録したスキルやアイテムは、コマンドを使用せずとも使用できる」


 ショートカットに事前に登録しておいた聖剣を選択すると、

手に持っていたフランベルジュが消えて、代わりに聖剣が現れる。


「このショートカットを使えば、戦闘中でもスキルやアイテムを簡単に使用できるし、

武装が持ち込めない場所にも、武器を持ち込めるという訳だ」


 ちなみにこの異端審問所も武装の類は禁止であるので、

一旦、武装を解除し、説明を続ける。


「最後のチートは『肉体再生』だ。

HPが0にならない限り、たとえ肉体が欠損していても魔法やアイテムで完全に再生できる。

実演は……勘弁してくれ」


 さすがに、また指を切り飛ばすのはやりたくない。

そんな事を考えていると、エリックが口を開く。


「……第5開拓村で右腕が再生したのは、ルニア様の加護ではなく、

その『チート』を使ったということですか」


エリックもシモン同様に、この力がどういったものか、

見極めようとするように真剣な表情で確認する。


「そうだ。

この4つの力……これが自分のチートだ。

エリックに問おう、この力は異端か否か?」


 エリックの真剣な表情に答えるように、こちらも彼の一挙手一投足に注意しながら質問を返す。

彼の返答しだいでは、最悪ここで戦闘もありえる。

今は武装を解除したが、いつでも取り出せるように準備だけはしておく。


しかし、エリックは苦悩の表情を示し、首を振る。


「いいえ……私には判断が付きかねます。

異端といえば、異端なのでしょう。

しかし、今までの邪教徒が使っていた、どの異端とも違う。

それにカグヤ様もソージ様と同じ異端を使用している。

カグヤ様、この力はいったい何なのですか?」


エリックは迷える子羊のように、神にすがるようにカグヤに質問する。

問われたカグヤは、きっぱりと返答する。


「私は『私の言葉』が持つ意味を理解しているつもりです。

なので、あえて私からは答えません。

その力についてはソージ自身に答えて貰いましょう。

その答えをどう判断するかは、貴方達にお任せします」


そのカグヤの言葉に、エリックに代わりにシモンが答える。


「分かりました。

その力が異端か否かは一旦、保留としましょう。

今重要なのは、チートが異端かどうかの審議ではありません。

ソージに確認します。

貴方は自身のことを、『邪教徒の実験の失敗作』だと言いました。

それは邪教徒もその力を使えるということで間違いないですか?」


「ああ」


「では、以前あなたは『邪教徒はリザレクションを習得している』と言いましたね。

それは、貴方の言うチートによる力で習得したということですか?」


「そうだ。俺はその可能性は高いと考えている。

実際に邪教徒『量産型救世主1(エミール)』のステータスを見た訳ではないが、

チートを使えば、レベル99の職業『神官』はリザレクションを習得できるんだ。

あえて習得しない理由はないだろう」


「……なんということだ」


 シモンは、頭を抱える。

それはそうだろう。

以前自分が語った邪教徒の目的。

あの時は、チートを伏せて話していたため、あくまでも可能性の話であったが、

チートの力を理解した彼にとって、それは確定情報に切り替わったのだ。


そんな中、言葉を失ったシモンに代わり、レオンが興奮したように口を開く。


「ほうほう、いいぞ、いいぞ。面白くなってきた!

ではソージ、俺からも質問だ。

その力は俺らも使えるようになるのか?」


「ちょっと、レオンさん!!

あなたは邪教徒に身を落とそうと言うのですか!!」


レオンの言葉に、シャルロットは信じられないようなものを見る目で、

彼を非難する。


「まさか、もちろん神の教えに反しない方法でだ。

実際、ソージは別に邪教徒ではないし、その可愛い神の使いもチートを使ったんだ。

つまり、ソージのチートは合法なんだろう?」


レオンの指摘に、自分は首を振る。


「いいや、残念ながら合法とは言い難い。

俺が斬られていないのは、俺が邪教徒と戦ってきたから。

その功績を認められて見逃して貰っているだけだ」


自分の言葉に続き、カグヤも口を開く。


「私からはノーコメント。

ただし、一言付け加えるなら、

私は『神の使い』であって、純粋な人間ではありません。

ですので、私が使っているからといって、別に合法ではないんですよ。

まあ、この力の是非はあなた達が決めることですが」


 カグヤはノーコメントと言いつつ、いろいろ語った後で、

こちらに視線を向ける。

その視線を受け、頷くと説明を続ける。


「この力の是非はお任せるとしてだ。

この力が習得できるかについだが……

この『チート』はどんなに努力しようとも、レオン達には絶対に使えない。

なぜなら……この力が使えるのは、『最初の世界の人間』だけだからだ」


「はぁ?最初の世界?」


これには、レオンも驚いたようだ。

それにはかまわず、言葉を失っていたシモンに会話を振る。


「シモン、この世界には、現代よりも以前に、栄えた文明があることは知られているよな」


「……はい、俗に言う古代文明というやつですね。

当時の記録の大部分は失われていますが、

古代遺跡やオートマトンの存在から古代文明が存在していたこと自体は事実ですね。

では、ソージは古代人だというのですか?」


「いいや、その古代文明よりもさらに前。

信じられないだろうが、この世界は何度か、崩壊と再生を繰り返している。

俺は……というよりもこの身体は、その最初の世界の人間の身体を模した物なんだ」


 もっともらしく語って見せたが、もちろん嘘だ。

この身体はゲームのフラグメントワールドのソージの身体である。

だが、シモン達に『フラグメントワールド』とは何か、『ゲーム』とは何かということを説明するよりも、

滅んだ世界の住人だと説明した方が分かりやすいだろう。


「この最初の世界の人間と、今を生きる人間とはルールが違う。

だから、今を生きる人間はチートは使えないし、

最初の世界の人間は誰もがチートを使えた。

そして、邪教徒は何らかの方法で、その最初の世界の人間を現代に蘇らせ、

その上で彼らの体を乗っ取った。

……まあ、俺は奴等に体を乗っ取られる前に逃げ出したわけだがな」


 嘘がいろいろと混じっているが、大まかに間違いはない。

これこそが自分がこの世界にやってきた理由であり、倒すべき敵の秘密である。



「なんとも壮大な話ではありますが……

それが真実であるというのなら納得するしかないでしょう」


シモンはとりあえず疑問を飲み込み、頷いた。


「ソージのチートの是非については、やはり、この場では保留とします。

ですが……おそらくチートは『無かった』ことになると思います。

この情報を公にするのは危険すぎる」


 それは妥当な判断だろう。

下手に公開すれば、真似をしようとするものも出かねない。

しかし……


「しかし、それでは困る。

次の戦いは大きな戦になる。

敵の邪教徒もチートを使う以上、自分だけチートを使わないなんて制限は出来ない。

チートは使う。

今回チートの事を話したのは、この力を使うための許可が欲しかったからだ。

加えて言えば、敵は自分がチートを持っていることも当然把握している。

自分が邪教徒なら、最悪のタイミングでチートの事をばらすぞ」


 そうすれば、どれだけの混乱が起きるだろうか。

自分達の総大将が邪教徒と同じ異端を使う。

それによって生じる混乱を無視することは出来ないはずだ。


「ええ、分かっています。

ですが、ソージの心配は杞憂です」


「杞憂……だと……」


自分の疑念に対して、シモンは自信を持って答える。


「ええ、まずソージのチートの使用許可について、これは許可します。

しかし、チートについては何も言わないで下さい。

実際、今までの戦闘でもそのチートを使ってきたのでしょう?

では今まで通り誤魔化してください」


「『スキルコマンド』や『アイテムメコマンド』についてもか?」


ショートカットはともなく、あの2つは誤魔化せるレベルを超えている。


「はい。チートではなく、そういうレアアイテムがあるとしておけば良いです」


 きっぱりとシモンは言い切った。

良いのか、良いのだろうか?

うーん……この男も涼しい顔をして、とんでもない事を言う。


「では、邪教徒に暴露された場合はどうする?」


「むしろソージに聞きたいのですが、邪教徒の言うことなんて誰が信じると思いますか?

というのは、少々言い過ぎですが、ソージが思うほどの混乱は生じないと思います。

仮に混乱が生じても、我々が押さえ込みます」


「そう、うまくいくもんかね」


シモンは確信を持って言うが、それが自分には納得できない。


「ええ、むしろソージは、もっと自信を持って良いと思います。

この街がアンデッドスライムによって蹂躙されずにすんだのは、貴方の働きがあってこそです。

貴方を変人と思っている人は多いでしょうが、

貴方が裏切り者だと思う人はほとんどいないでしょう」


「変人は余計だよ!」


しかも、シモンは『多い』て言った。『多い』って。

その不満をシモンはスルーすると、全員に向かって声をかける。


「まあ、だからソージは、これまで通りということで。

では皆さん、そういうことでお願いします」


『おう!!』


そういうことになった。



というわけで、今回でチートの説明は終了。

残りは、戦争準備に2話ほど使って、最後決戦となります。

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