89話 カグヤは語る
「やっぱり、キングオブ不幸の称号はお父さんの方が相応しいのでは?」
「……そんな不名誉な称号はいらないよ」
皮肉げに語るカグヤに対して、そう悪態をついた。
「さて……なにもかも邪教徒が悪いのは分かったが……
なぜ、この世界はフラグメントワールドを元にしているというのに、
普通の住人はチートが使えないんだ?
逆に、なぜ自分や邪教徒はチートが使える?」
この差異は何なのか?
この世界の住人が皆チートを使えれば、自分の優位性は現代知識のみになってしまうが、
隠れてこそこそチートを使うようなことをしなくて良かったのに。
「ふむ……では、順番に説明しよう。
まず、この世界の住人がチートを使えないのは、
創造神マーヤの『血の滲むようなデバッグ』の結果だね」
「デバッグ?」
カグヤから語られる単語を思わず、呟く。
『デバッグ』
コンピュータープログラムのバグ取りのことだ。
経験豊富なプログラマーでも、バグがないプログラムを作ることは難しい。
実際、市販のゲームでもバグを残したまま販売されることもあるぐらいだ。
それぐらいデバッグは難しい。
実際、プログラムを組むよりもデバッグの方が時間がかかるぐらいなのだ。
なぜならバグというのは、往々にしてプログラマーの想定外の部分で起きるものであって、
普通に使用する部分にバグが残ることは稀だ。
大抵のバグは『特定のスキルを特定の順番で使用した場合』みないな、
限られた状況で発生する。
何千、何万という選択肢のほんの一部、そんな限られた状況を想定するのは困難を極めるのだ。
そして、この世界はゲームのフラグメントワールドを元にした世界であると言う。
では、カグヤが言うデバッグとは何なのか?
「うん、この場合はバグというよりも、調整ミスに近いかな。
逆にお父さんに質問するよ。
もし、この世界の住人全員がフラグメントワールドと同じ能力を使えたとしたら、
まともに世界が回ると思うかい?」
カグヤの質問に腕を組んで考える。
「ふーむ……いや、まあ……酷いことにはなるだろうな……」
先程は皆がチートを使えれば良いと思ったが、
それは善良な市民だけではなく、邪教徒のような悪人もチートが使えるということだ。
今も邪教徒に苦労させられているのに、そこら辺のチンピラまでチートを使えるようになると考えると、
かなり面倒臭いことになる。
「そういうこと。実際、酷いことになったというか……
この世界、それが原因で何度か滅んでいるんだよね」
カグヤはさらりと、とんでもないことを言う。
「は? 滅んでるって何だよ……」
「言葉通りの意味だよ。
創造神マーヤはフラグメントワールドを元にした世界を作ろうと思った。
そこには特に意味はない。
神は世界を作るもので、ここには世界を作るだけのリソースがあった。
だから、マーヤは最初、フラグメントワールドをそのままリアルにした世界を作ったんだけど……
その世界は1000年ほどで滅んでしまった」
「それはなぜだ?」
「人類がみな勇者になったからさ」
カグヤは皮肉を込めて、そう言った。
「勇者って……冗談だろ?」
フラグメントワールドにおける職業『勇者』とは、
戦士職を極めたプレイヤーに送られる称号のようなものだ。
それがなぜ人類滅亡に繋がるのか、意味が分からない。
その疑問に対して、カグヤは口を歪めて説明する。
「それが冗談じゃあないのさ。考えてみなよ。
フラグメントワールドのキャラクターってさ、
同じ種族、同じ職業、同じレベル、同じステ振り、同じ装備なら、ステータスは同じになるよね。
それが男性でも女性でも、子供でも大人でも」
「そりゃ、そうだ。
キャラクターのアバターでステータスに差が出たら不公平だからな。
ああ、そういうことか!」
ようやく、カグヤの言っていることに理解が追いついた。
それは――
「そう、最初の世界では皆ステータスに差がなかった。
より正確に言えば、全員が勇者になれる才能を持って生まれてきたんだ。
ほら、プレイヤーキャラクターって、基本的にNPCよりも強いだろう」
「……さらに、職業やレベルのような条件さえ満たせば、
スキルポイントで誰でも確実にスキルを覚えることが出来る……」
そういうこと、とカグヤは頷く。
カグヤが言うには、この世界の住人全員がプレイヤー相当の力を手に入れた結果、
ほぼ全員が勇者……この場合は、メイン戦士、サブ戦士の純粋な戦士職になったらしい。
戦士はもっとも簡単になれる職業でありながら、戦闘系の究極でもある。
高いHP、高い攻撃力、高い防御力。
基本に忠実であるが故に、その力は場所を選ばない。
もちろん、物理無効や魔法に弱いという弱点はあるが、逆に言えばそれだけだ。
「才能の均一化というのは、なかなか厄介なものでね。
鍛えれば鍛えるほど強くなる、それが確実に保証されている。
もちろん、最終的にはステータスに現れない戦闘センスや、戦術眼みたいなもので差はつくんだけど……
でも、それは些細な事さ。
皆が才能に溢れ、落ちこぼれの居ない世界は素晴らしいと思うだろう。
……でも、そうはならなかった」
カグヤは言う。その結果、その辺の農村から勇者がポコポコ溢れ出たと。
彼らは初めは自分の村を守るため、村の近くのモンスターを狩った。
周囲のモンスターを狩り尽くすと、次はもっと村を大きくするため、近くの村を襲った。
さらに、村を大きくするため、村に税を課す王国と戦った。
その結果、待っていたのは秩序無き、弱肉強食の世界だった。
その辺のチンピラまでが伝説の勇者のような力を持つ世界。
そんな世界では、一般市民も自衛のために勇者に成らざるを得ない。
その結果、後衛職、つまり、神官やら医者やらの医療関係、
鍛冶師や錬金術師のよな職人、さらに農家や狩人のような生産職はいなくなった。
彼らのような後衛職は、まともに戦えば前衛職には敵わない。
彼らが安心して後衛職が出来るのは、まともな前衛がいればこそだ。
誰もが『力こそ正義』の時代では、自衛が難しい後衛職を続けるのは難しい。
「その結果、最初の800年で人類はモンスターを狩り尽くし、
残りの200年で人類は人類を滅ぼした。
最後はもう文明は崩壊して、ポストアポカリプスさ。
それが最初の世界の結末だよ」
本当にくだらない、とカグヤは話を締めくくる。
「ああ……やっぱり、世界平和なんてクソ食らえだよなぁ……」
「という訳で、それからマーヤは血の滲むようなデバッグを行って、
今のバランスに落ち着いたという訳さ。
人間には多少、不便なぐらいで調度良い。
一定の落ちこぼれ、弱者が居る方が上手く世界は回るのさ」
「ああ、うん……本当は神が勝手に決めるなと怒るところなんだろうけど……
まあ、人間に無制限の力を与えりゃ、そうなるわな」
人間の欲望に果てはない。
金も、地位も、名誉も、力もあればあるだけ欲しいものだ。
それが確実に手に入るなら尚更のこと。
しかし、現実世界もこの世界も、人にはそれぞれ才能があり、出来る人間も出来ない人間もいる。
そのため、欲望に果てはないが、それはそれとして、物理的に得られる範囲が自ずと定まってしまうのである。
つまり、人間はある程度で自分の分を弁えるようになる。
まったく……それがこの世界の住人がチートを使えない理由だとするなら、なんと夢のない話だろうか。
「……この世界の住人がチートを使えない理由は分かった。
では、なぜ自分や邪教徒はチートが使えるんだ?」
「それは、この世界は『フラグメントワールドを元にした最初の世界』が下地として存在しているから。
チート自体は今もこの世界に存在しているのさ。
この世界の住人は制限がかかってチートは使えないけど、お父さんにはその制限はないからチートを使える。
ただし、最初の世界にもなかった仕様……つまりセーブ&ロードやコンフィングはお父さんでも使えない」
「はぁ、なるほどな。
では、最後の質問。邪教徒についてだ。
知っていると思うが、今このアウインは邪教徒に狙われている。
奴等は何だ。なぜ邪教徒なんて存在がこの世界に居るんだ?」
以前、シモンから邪教徒の成り立ちを聞いた。
曰く、彼らは愛する者の死を受け入れられずに、その復活を願ったことが始まりだと。
それは事実なのだろう。だが、それは人間側の理屈である。
女神ルニアにとっての邪教徒とはどんな存在なのか?
「今から200年ぐらい前かな。
お父さんも聞いたと思うけど、創造神マーヤは最終的に今の世界の出来に満足して、
世界の管理を太陽の女神サニアと月の女神ルニアに任せて、別の世界に旅立った。
そして、この世界は神の干渉から外れ、人間の歴史が始まった。
それからしばらくしてだね。邪教徒なんてものが出てきたのは」
カグヤは記録を読み上げるように、そう言った。
それは以前ルニアから聞いた話と一致する。
「彼らも最初は、死んだ人とまた会いたいという純粋な願いだった。
ただ……そのために彼らは様々な実験を行い、死者の蘇生を行おうとした。
元々、フラグメントワールド自体、ヴァンパイアやゾンビといったアンデッドを許容する世界観だ。
だから、死者蘇生も不死者も仕様として存在する。
さらに悪いことに、時に彼らはこの世界に残されたバグを見つけてしまうこともあった。
それらが運悪く積み重なった結果が邪教徒という存在なのさ」
カグヤはうんざりといった表情で語る。
「なるほど、邪教徒の発生は必然のようなものか。
それに対してルニアの側から何か対処できないのか?」
しかし、カグヤは首を振る。
「対処は難しい。
サニアもお母さんもこの世界に干渉する手段は限られる。
実際、お母さんはお父さんの身体を乗っ取ったり、ボクの様な使者を送っているように、
お母さんが直接この世界に来ることはできないんだ。
マーヤが与えたお母さんの役割は、あくまで死者の魂の管理だけで、邪教徒の排除は含まれていない。
だから、邪教徒に対して後手に回ってしまうのはお母さんのせいじゃないんだよ」
「つまり、ルニアが直接、何かをしてくれるわけではないと。
まあ、それは良い。元々、自分達で何とかするつもりだしな。
とは言え、ルニアは直接ではないにしても、間接的には協力してくれるんだろう?
この戦いで彼女はどの程度協力してくれるんだ?」
彼女の力を積極的に使うつもりは無いが、保険はいくら合っても困らない。
むしろ、保険として使えるかどうか確認しておかなければならない。
「頼めばいくらでも。
だけど……ボクはお勧めしない」
しかし、カグヤは首を振り否定する。
「理由は?」
「逆に聞くけど、お父さんはボクを今回の戦いで使うつもりはあるかい?
ボクは見ての通りレベル76。身体は小さいけど、それなりにやれる。
そして何より、ボクはお母さんから必勝の策も授かっている。
つまり、ボク自身がお母さんの協力の結果でもある訳だ」
カグヤは決意を込めて、そう問いかける。
「うーん……いや、ルニアの策は気になるが、君を積極的に使うつもりはない」
「それはなぜ?
ボクの力を使えば、少ない犠牲でこの戦いを終えることも出来る」
「だったら、逆に君はこう言わないのか?
俺が1人で戦えば良いじゃないか、と。
無敵のチートで何とかしてこいと」
例えば、第5開拓村で行った『六重聖域』や『バニシング・レイ』。
あれをルニアの助力でもって、使い続ければ敵が何であろうと倒せるだろう。
いや、今の自分には、それさえも必要ない。
自分の身体はHPがゼロにならない限り幾らでも『再生』できることが分かったのだ。
ならば、回復アイテムを大量にストックした上で単騎特攻をしかければ、
時間はかかるだろうが、万の敵でも1人で倒せる。
「そんな……それは駄目だよ!
いくら身体は再生するといっても、再生するだけで、すごく痛いじゃないか!
ボクは知ってるんだよ。
お父さんが腕を亡くした時の絶望も、指を切り落とした時の痛みも!
何でお父さんだけが、そんな目に合わなくちゃいけないんだ!」
カグヤは今までの冷静な態度はどこへやら。
いきなり、悲痛な声で叫ぶ。
いや、彼女は自分の記憶も持っているのだから、当然か。
自分だって手段として出来るだけで、やりたいとは思わない。
「……そうだ。何で俺1人で頑張る必要がある。
この街は皆の街だ。皆で守るべきだろう」
「あ……」
カグヤがハッと顔を上げる。
「だから、君の力も積極的には使わない。
もし使うにしても、それは最後に取っておく。
それが答えだ。
……それで、最初の質問に戻るが、何でルニアの協力はお勧めしないんだ?
俺は積極的にルニアの力に頼る訳ではないが、必要なら頼るつもりだぞ」
カグヤは自分の言葉に、一度深く息を吸い、呼吸を落ち着けると、
また冷静な顔に戻り、ほっとしたように続ける。
「そっか、うん……これなら安心して話すことが出来る」
「?」
「お父さん、喜ぶと良い。
この戦い、絶対にお父さんが負ける事はない」
そう言うと、カグヤまるで演劇の役者の様な仕草で語る。
「それは、ルニアの策とやらか?」
「うん、ボクの体の中には、『この街1つを灰に出来るほどの魔力』が蓄えられている。
平たく言えば、人間爆弾さ」
「な……」
人間爆弾。
暴走した魔力が引き起こす爆発。
サフィアの平原において、聖騎士フェルナンが死んだ原因だ。
「そう、フェルナンが死んだアレだよ。
実際、ルニアはアレから、人間爆弾の発想を得た」
「クッ!」
それで理解した。
カグヤがルニアに頼るのをお勧めしないといった理由は、これか。
「そう、お母さんにこれ以上、
要らない知識とこの世界に介入したという実績を与えるべきではない、とボクは思うよ。
特にお父さんのチートの使い方は、かなり異端だからね」
「いや、それは分かったが……
なぜカグヤの身体にまで、そんなモノが仕掛けられている!」
「……お母さんの名誉のために言っておくけど。
お母さんは悪意が合ってこんなことをしている訳じゃない。
そもそも、お母さんはボクを人とは思っていないんだ。
ボクの役目はルニアの使者として、お父さんに情報を渡すことだけ。
そのためだけに、ボクはここにいる。
そして、その役目が終わったボクを、爆弾として処理する」
一石二鳥だろう、とカグヤは言う。
「ちょっと、まて……何だそれは……」
「これはお母さんがひどいという訳じゃない。
そもそも、お母さんは神だ。人間とは別の思想で動く。
言っただろ、僕はただの使者。
それが、たまたま敵を爆破することにも使えるってだけ。
本当にただそれだけなんだ」
カグヤが言っていることは、言葉としては理解できる。
しかし、その内容にはまったく納得できない。
いや、それよりもなぜそんな仕打ちを受けて、ルニアの事を母と呼べるのだ?
「ボクの半分……つまり、神としてのボクは納得しているからね。
お父さんに理解が出来なくても、ボクにとってはルニアはお母さんなのさ。
それに……もちろんボクだって死にたい訳じゃない」
カグヤは一瞬迷った後、目を閉じて言う。
「でも……ボクは必要ならやるよ。
ボクの半分は神様だからね。
……でも、それは神の役目だから決めたわけじゃない。
命をかけるのは、ボクの意志だ。
命の張り所は自分で決める。」
彼女はそう決意を口にする。
だが――
「……本当にそうか。おい、俺の目を見て言ってみろよ」
自分の言葉に思わず、カグヤの瞳が開く。
その顔に自身の顔を近づけ、彼女の瞳を睨みつける。
びくっと、彼女の身体が震える。
それはまるで、嘘がばれた子供のようだ。
自分と同じ黒い瞳。
実際、彼女は自分の右腕から作られた。
しかし、カグヤは自分とは違う人間だ。
それは、今までの会話で十分に分かった。
だからこそ……それは自分が戦う理由であって、彼女の戦う理由ではないはずだ。
彼女はそれを自分の記憶からトレースしているに過ぎない。
「カグヤの頭の中にいるルニアやソージに聞いているんじゃない。
君に聞いてるんだ。君の戦う理由は何だ?」
自分の言葉に、ついにカグヤの目から涙が流れる。
「ごめん……なさい……
ボクは……本当は……死にたく……ないよ……」
「だったら!」
「でも!
……それでも……お母さんに与えて貰った……役割を投げ出したくはないんだ!!」
ぐずぐずと子供の様に泣いているのに、その意志だけは頑として引く様子はない。
「ああ、もう、くそ……面倒臭い!
つまりあれだ。君の力を使わずに勝てば良いんだろ!
だったら問題ない。最初からそのつもりだ!」
「そうだよ……だからボクもお母さんに頼るのはお勧めしないって最初に言ったんだ……
ああ……くそ……お父さんに泣かされた……」
そう言うと、カグヤはムスッと拗ねる。
「それなら最初から分かりやすく、そう言ってくれ……」
ぐったりと、テーブルに突っ伏す。
なんかもう、色々疲れた。
そんな自分に対して、泣き止んだカグヤは問いかける。
「……なんで、お父さんは平気なんだよ。
お父さんだって、死にたくないはずだ」
「俺の記憶が読めるんだろう。それが答えだ」
突っ伏した状態のまま、顔だけをカグヤの方に向ける。
「分かるけど、納得できない」
カグヤはムカつきますと、頬を膨らませて怒る。
「はぁ……うん、それだ。
俺は納得できればそれでいい。
納得できる死に方なら、それで構わない」
「でも、死にたくはないんでしょ!
それで、何で納得できるんだよ!!」
「……自分が困っている時に、誰かが助けてくれるとは限らない。
逆に、困っている誰かを助けても見返りがあるとは限らない。
良いことがあるかもしれないし、悪いことがあるかもしれない。
成功するかもしれないし、失敗するかもしれない。
……今回もそれは同じ。
失敗すれば死ぬし、成功したら死なない。
でも、それは結果論でしかない。
だから、納得できるかは重要なんだ。
成功するにしろ、失敗するにしろ、そこに納得があれば報われる。
自己満足だけは絶対に自分を裏切らない」
「お父さんだって面倒臭いじゃないか!!
よし、ボクは決めたよ!
ボクがこの戦い、お父さんを勝たせてあげる。
もちろん、人間爆弾は使わずに」
カグヤはプリプリと怒りながら、そう言った。
「……カグヤも戦うのか?」
「もちろん、ボクも戦うよ!
だから、お父さんに提案。
ちょっと、転職しようと思う」
「うん?なぜだ?」
カグヤはアイテムメニュ―を表示すると、聖騎士の装備一式を選択する。
一瞬にして、カグヤは修道服から鎧姿へ変化するが……
その姿は何と言うかコスプレっぽい。
なぜなら、カグヤの身長が120センチ程度で小学生程度の高さしかないのだ。
レベル76なので成人以上の力はあるが、その見た目は背伸びをした子供にしか見えないのだ。
それに……例えば彼女の腰に挿してある聖剣フルムーン。
自分と同じ聖剣だが、しかし、チートを使って装備すると、その者の体格に合わせて大きさが最適化されるようで、
カグヤの聖剣はショートソード程度の大きさしかない。
「まあ、こういうことだね。
いくらステータスがお父さんと同じでも、タッパがないからリーチが短すぎる」
実際、エルフやワーウルフのような異種族がいる世界において、
自分の170センチの身長でも小さいと感じることが多いのだ。
「だから、聖騎士から純粋な神官に転職するよ。
アンナさんと神官と神官がダブっちゃうけど、そこはほら。
彼女はどちらかといえば攻撃担当。
ボクは純粋に回復、支援特化にすることで差別化は出来る」
カグヤはそうもっともらしい理屈を述べるが、
たぶん、それだけではないのだろう。
その顔は、何か企んでいます、と言う感情が隠しきれていない。
ふむ……メイン:神官、サブ:神官の純粋な神官……
それに、支援特化か……なら、たぶん、アレかな。
「……まあ良いだろう。
カグヤが良いと思うなら、そうすれば良いさ」
「うん、任せてよ。我に秘策ありさ!」
そう言って、カグヤはニヤリと笑った。
という訳で、4章ヒロイン人間爆弾のカグヤが登場。
次からは最終決戦に向けてのあれこれです。