88話 月からの使者
まあ、殺し合いをしているのだ。
別に正義のヒーローという訳でもないし、格好良く勝つ必要も無い。
ゾンビアタックでも自爆特攻でも、使える手段は何でも使う。
そう決意を固めたところで、ふと我に返る。
「まあ、それはそれとして……これ、どうしよう……」
辺りを見回す。
作業場は血に染まり、作業台の上には血がべったりと付着した布とナイフ、そして手斧。
さらに、切断された指が2本……
その様は、まるで猟奇殺人が行われたかのようだった。
「おーい!ソージ!帰ったぞー!開けろー!」
ドンドンドンと自室のドアが叩かれる。
「むぅ……朝か……ふぁ~」
欠伸をかきつつ、寝不足の回っていない頭をがりがりとかく。
あの実験の後、後片付けに時間がかかってしまい、あまり寝ていない。
正直言ってもう少し寝ていたいが、戦いの準備がある。
のんびりと寝ていられない。
まあ、物理的もアンナがドアを叩きまくっているから寝れないけどな!
「起きろー!むぐぅ!!」
「ソージさん……お騒がせしてすみません。
まだ寝ていても大丈夫ですよ」
ドア越しにどんなやり取りがあったのかは分からないが、アンナは沈黙した。
「いや、起きるよ」
そうして、ドアを開ける。
「おはよう、リゼット、アンナ、エル」
「……」
「……」
「……」
しかし、彼女達は返事をすることもなく固まっている。
まるで、何か見てはいけないものを見たかのような……
「……どうかしたか皆?」
「あの……ソージさん……
その子は誰なんです?」
そう言うと、リゼットは自分の後ろの方に指を向ける。
「その子?」
彼女の指差す方向に振り返る。
そこには、ごしごしと眠そうに目を擦る少女がいた。
身長はちょうど120センチぐらい。
だいたい小学生の低学年くらいの大きさだろうか。
その少女は自分と同じ黒い髪をしており、その艶やかな髪は長く床まで届く。
眠そうな瞳は、これもまた同じ黒色。
そう、黒色。
この街では見かけない、日本人特有の色だ。
しかし、肌は自分に比べて白く、黄色人種というよりは、どちらかと言えば白人に近い。
その白い肌と黒髪黒目のコントラストは、まるで日本人形を思わせる。
実際、彼女の顔は人形の様に精巧な整った顔をしており、
それは同じ黒髪、黒目の自分とは、とても似ても似つかない。
しかし、それでも、もし自分に妹か娘がいるとしたら、彼女に違いないとそう思わせる確信があった。
うん、まあ、それは良い。
良くはないが、まあよしとする。
問題はそんなことよりも、なぜか彼女は聖布を一枚だけ、身体に巻いただけの全裸だということだ。
その少女は聖布1枚というきわどい服装にもかかわらず、特に気にした様子はない。
彼女と自分の目線が合う。
すると、少女は両手を合わせてお辞儀をする。
「どーも、お父さん。
月の女神ルニアの使者です」
「どーも、月の女神ルニアの使者さん。
聖騎士のソージですって、お父さんだと……」
その挨拶の方法、月の女神の使者、そして、いきなりのお父さん発言に困惑する。
いや、たしかに彼女が自分の娘だというのなら、納得しそうな容姿ではある。
しかし、当然ながら自分に心当たりはない。
自分はリゼットとアンナ以外に手は出していないし、日本にいたときには彼女すら居なかった。
「ええ、まあ、うん……いえ、分かるんですよ。
いきなりこんなこと言われても困るってことは。
でも認知をして頂けないと、自分も困ると言いますか……」
困惑する自分に対して、目の前の彼女も、居心地が悪そうに答える。
そんな自分達に関係なく動いたのは、エルだった。
「小さい女の子のご主人様です!!
うわぁ、かわいい!
髪の毛さらさらで、お肌すべすべです!
あ、下の毛も生えていませんよ!」
「そんな報告はしなくていい!!」
エルは女神の使者を名乗る少女に飛びつくと、少女の体を撫で回す。
「ね、ね、私と気持ちのいいことしませんか?
大丈夫です。女性の扱いも心得ています。
痛くしませんし、処女のままでも出来ますから!!」
そう言うと、エルはポケットから見覚えのある小瓶を取り出す。
「おい、馬鹿、止めろ!!
そのピンクの小瓶をしまえ!!」
「きゃん!!」
慌てて幼女からエルを引き剥がし、部屋の外に放り投げる。
「まったく……未だにエルのことが良く分からん。
やっぱり、ただのストーカーじゃないのか」
「はぁ……はぁ……くそ……酷い目に合った。
……そうか、自分、俺、私……ううん、ボクは女の子なんだ……
なんでこんなことで、自分の性を実感しなきゃいけないんだ……」
ショックを受けたように、少女はがっくりとうなだれる。
「あー、そのなんだね。
うちのエルが迷惑をかけた。大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です……たぶん、きっと……
すみませんが、服を用意して貰えないでしょうか……」
「ああ、分かった。
リゼット、すまないが彼女に服を用意してやってくれ。
確か教会の倉庫にサイズの小さい修道服もあったはずだから」
「分かりました」
そうして、少女はリゼットに連れられて出ていった。
自分達も移動しようとしたところ、アンナはぺたりと力なく座り込んでいた。
「アンナ?」
「やべぇよ、やべぇよ……あの神気……
あれ本物、本物の神の使者だよ……」
そう言うと、アンナはガタガタと震える。
「ああ、アレはやっぱりそうなのか……」
アンナの言う神気。
文字通り神から発せられる気。
この世界に来てから殺気やら魔力の流れやらを感じ取れるようになったが、
あの少女から感じた力は、ルニアから感じた力と同じものだった。
見る者が見れば、彼女から後光が射すかのように感じることだろう。
やはり、彼女がルニアの使者ということで間違いないらしい。
アンナは何だかんだ言っても、神官としてはかなり優秀だ。
少女の神気を敏感に捉えてしまうのだろう。
アンナはようやく落ち着くと、エルに向かって口を開く。
「つーか、エル。神の使者相手に何やってんだよ!
罰が下っても知らないからな!」
「可愛いかったので、つい」
「つい、じゃねーよ!」
部屋の外に放り出されたエルは何食わぬ顔で、復活していた。
「はあ、やれやれ……」
ようやく現れた女神の使者に対して、初手セクハラとか……これは切腹案件では無いのだろうか。
まあ、それはそれとして。彼女のあの思わせぶりな黒髪黒目は何なんだ。
しかも、なぜ彼女は自分のことを父と呼ぶのか……
「やはり、あの右腕が怪しいよな……」
あの右腕はアイテムフォルダ内に入れたので、アンナやエルがいる前では確認できない。
まあ、後で本人に聞けばよいだろう。
教会内の宿舎にある食堂で待っていると、
子供用の修道服を着た神の使いの少女が戻ってきた。
少女は今度は胸に手をてるマーヤ教の挨拶を行う。
「こほん、では改めまして。
ボクは月の女神ルニアの使者です。
……名前はまだない」
そう言うと、彼女はステータスを表示する。
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Lv76
名前:???
種族:ハーフ・ゴッド
職業:聖騎士
メイン職業:戦士
サブ職業:神官
HP:711
MP:320
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同じく自分もステータスを表示する。
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Lv76
名前:ソージ
種族:ヒューマン
職業:聖騎士
メイン職業:戦士
サブ職業:神官
HP:711
MP:320
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レベル76。自分と同じレベル。
いや、職業、HP、MPも同じだ。
ただし、名前と種族だけが違う。
種族ハーフ・ゴッド?、そんな種族はフラグメントワールドにはなかったはずだ。
それに名前が『???』?
「名前『???』……これは?」
「何だソージ、知らねーの?
名前をつける前は、みんな名前は『???』なんだぜ。
だから、赤ちゃんはみんなこんな感じだよ」
そうアンナは解説する。
ただし、普通は生まれてすぐに名前をつけるから、この歳まで名無しはまず無いらしい。
仮に親に名前を貰わなくても、自分で名乗ったり、周りからの愛称等で名前が確定するそうだ。
「そういうことです。
ボクは月の女神の使者としてお母さんから役目を授かっています。
ですが、まず何をするにも名前です。
名前があって初めてボクという存在は、この世界に定義される」
「そうか……では、☆流星……」
「てめぇ、変な名前付けたら、ぶっ殺すぞ!!
こほん……えっと、分かってると思うけど、この世界では一度つけた名前を変更するのは、すっごい大変なんだよ。
だから変な名前はやめてね! フリじゃないよ!マジだよ!!」
目の前の少女は、マジの殺気を飛ばしつつ、必死で訴える。
いや、もちろんさっきのは冗談なのだが。
さて、名前か……正直言って名付けのセンスはないぞ。
「うーん……えーと……そうだな……
じゃあ、月の女神の使者だから、『カグヤ』でどうだ」
「カグヤ……ですか?
どのような意味があるのですか?」
リゼットが不思議そうに尋ねる。
「うん、意味というよりも、俺の国の御伽噺のお姫様の名前だよ。
今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり……」
と、竹取物語の冒頭を語ってみるが、当然のようにリゼット達は知らないので首を傾げる。
しかし、目の前の少女だけは頷くと、自分に続けて朗読する。
「……名をば、さぬきのみやつことなむ言ひける。
まあ、良いのではないですか?
辺に中二病の痛々しい名前をつけられるよりは」
まあ、『カグヤ』が痛々しい名前かどうかと言われれば、微妙なところだけどな。
そんな自分の考えとは別に、彼女のステータスが変化する。
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Lv76
名前:カグヤ
種族:ハーフ・ゴッド
職業:聖騎士
メイン職業:戦士
サブ職業:神官
HP:711
MP:320
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「なるほど、そうなるのか」
「はい、こうなります。
名前を付けていただき、ありがとうございます。
では早速ですが、ボクの本分を果たすとしましょう」
カグヤは恭しく礼をすると、チラリと自分に目配せする。
先程、彼女は竹取物語の一節を語って見せた。
ということは、彼女も現代知識を持っており、おそらくチートも持っているはずだ。
だとすると、リゼット達には彼女の話は聞かせられない。
「わかった。すまないがリゼット達は席を外してくれないか。
神の使いとの大事な話がある。
一応、言っておくが盗み聞きはするなよ。フリじゃないからな」
「分かってるって。というよりも、恐れ多くて盗み聞きなんてできねぇよ」
「そういうもんか。ではすまないが、アンナ。
教会の者が来た時は対応を頼む。もちろん、ここには絶対に通すな。
エル、リゼットも一般人だろうが、不審者だろうが、俺がこの建物から出るまで誰も近づけるな。
最悪、武器の使用も許可する」
「おう、分かったぜ!」
「はい」
「任せてくださいご主人様!!」
3人は頷き、そのまま食堂を出て行く。
そうして、室内は2人だけになる。
「まあ、とりあえず飲み物でも入れるか……何を飲む?」
「では、コーヒーをお願いします」
ちょうどここは教会内の食堂だ。
手早く湯を沸かすと、二人分のコーヒーを淹れる。
さっそくコーヒーを一口飲む。
コーヒーの香ばしい香りと苦味が朝の眠気を吹き飛ばす。
これなら、話の途中で寝落ちすることもないだろう。
目の前の少女も、自分と同じようにコーヒーに口をつける。
「にが!!」
「ああ、ブラックで飲むから……ほら、砂糖とミルク」
「うう……こんなはずでは……味覚も違ってる……」
カグヤはまたがっくりとうなだれる。
「……」
先程の様子と合わせ、どうにも彼女の言動が気になる。
その予感を確かめるように、アイテムメニューを展開してみると、
確かにアイテムフォルダに入れていた自分の右腕が消えていた。
「……さっきから気になっているから聞くけど、君はまさか、俺なのか?」
状況から考えれば、この子の身体は自分の右腕だと思われる。
ということは、彼女は自分のクローン的な存在なのか?
「半分、正解といったところかな。
お父さんの推測通り、ボクの身体はお父さんの右腕から作られている。
そして、僕の頭の中には、お父さんのデータとお母さんのデータが入っている。
つまり、お父さんとお母さんを足して、2で割った存在がボクという訳だね」
そう言うと、カグヤはコーヒーに砂糖とミルクを入れてかき混ぜる。
なるほど、彼女が自分の事を父と言い、ルニアの事を母と言っているのは、そういうことか。
「では、もう1つ。
君は俺とルニアどちらの味方だ?
どちらか一方を取るとしたら、どちらに付く?」
これは重要だ。
もし彼女がルニアの側に付くというのなら、会話の内容に注意する必要がある。
ルニアとは協力関係を築くことは出来たが、それはあくまでも彼女と自分の目的が邪教徒の討伐で一致したからに過ぎない。
チートを使わないと生きていけない自分と、世界の秩序を守るルニアとでは、本質的には相容れないのだ。
「……お父さん。
『パパとママ離婚するけど、お前はどっちと一緒に居たい?』みたいな究極の選択を迫るのは止めてくれないか。
ボクがこうしてまともに受け答えが出来ているように見えるのは、
ボクがお父さんの記憶を引き継いでいるからであって、ボクそのものは生後1時間も経ってないんだ」
そう語るカグヤの姿は、先程までとは異なり、年相応の子供のように見える。
その瞳は不安そうに揺れ動き、まるで迷子になった子供のようだ。
「ボクにはお父さん程の確固たる意志は持っていない。
だから、ボクがまだ子供だということに配慮して欲しい。
……ボクには、お父さんとお母さんのどちらか一方を選ぶなんて出来ない」
それでも彼女から発せられる言葉は、幼子のそれではない。
おそらく彼女の中にある自分の記憶が、年相応の発言をさせることを許さないのだろう。
「そうか……うん、確かに配慮が足りなかった。すまない」
カグヤに向かって、頭を下げる。
今のやり取りで分かったが、カグヤの状態は非常に良くない。
彼女の中には自分のデータとルニアのデータがあると言った。
しかし、自分とルニアの相性はかなり悪い。
言ってみれば水と油のようなもので、決して交じり合わないものなのだ。
男性である自分と、女性であるルニア。
人である自分と、神であるルニア。
チートを容認する自分と、チートを排除するルニア。
本当に一致しているのは、邪教徒の討伐という1点でしかない。
いや、それ以前に頭の中に自分以外の意識があるというのは、どういったものだろうか?
しかも、自覚はあるが、自分は相当に捻くれた人間だ。
こんなクソ野郎の人格がプレインストールされているとか、何の罰ゲームだよ。
「それにしても、自分は大概不幸な人間だと思っていたけど、君ほどではないな。
キングオブ不幸の称号を君に送ろう。
しかし、大丈夫か?
ルニアの使者としての役目なんて後回しでも良い。休んだほうが良いんじゃないか?」
「そんな不名誉な称号いらないよ!!
それに休んではいられない。実際、休んだからどうという話でもないしね。
これは時間をかけて折り合いをつけるしかないと思うよ。
だから、今は粛々と役目を果たすさ」
彼女は居住まいを正すと、こちらに問いかける。
「さて、ボクの役目はお父さんの疑問に答えることだ。
そのために、ボクはここに来た。
お父さんは色々と聞きたいことがあるんだろう?
女神ルニアに代わり何でも答えるよ」
カグヤのその短い言葉には、並々ならぬ覚悟が見て取れた。
その言葉に対するように、自分も姿勢を正し、彼女に質問する。
「ふむ……では、まずは異世界転移について。
いや、自分自身についてになるか……
……単刀直入に聞こう。
俺は人間ではないんだろう。ついでに異世界転移もしていない」
その言葉にカグヤはただ頷く。
「うん、そうなるね。
お父さんの身体は元々は邪教徒が用意したもの。
彼らはドッペルゲンガーの能力を抽出し、人間の体に埋め込んだ。
その上で異世界に居るお父さんをコピーした。
まあ、彼らがどうやってフラグメントワールドを観測したのかは分からないけどね」
『ドッペルゲンガー』
プレイヤーキャラクターとまったく同じ姿、ステータス、スキルに変化するモンスター。
それが自分の正体だ。
これに気がついたのは、ルニアに身体を乗っ取られたときだ。
あの時、彼女は『力を制限しているとはいえ、妾の姿すら映し出すか』と言っていた。
そして、実際自分の体はルニアの姿になっていた。
いくら女神に乗っ取られたとは言え、姿形まで変化するのはおかしいし、
ルニアの言い方では、姿が変わったのは彼女の力ではないらしい。
そこまで分かれば、あとは推理を重ねていけば良い。
元々、疑問だったのだ。
この世界はフラグメントワールドを元にした世界。
だが、フラグメントワールドには、異世界転移を可能にする魔法なんて無い。
ワープが可能な設備と言えば、街にあるトランスポーターや、ダンジョン内になるワープ装置くらいしかない。
しかし、それでも異世界にワープできるかと言えば、そんな仕様はないだろう。
だが、ドッペルゲンガーなら観測さえ出来れば、実際に異世界に転移する必要はない。
まあ、どうやってフラグメントワールドを観測したのかという謎はあるが、
この世界はフラグメントワールドを元にした世界だというのなら、
フラグメントワールドを観測できないはずがない。
きっと、どこかに覗き穴でもあるのだろう。
「それで予想が当たっていたのは良いが、
この身体は大丈夫なのか、突然モンスターの姿なったりしないのか?」
「それは問題ありません。
お母さんが既に対処しましたので、実際、元の姿に戻ったでしょう。
仮にもう一度お母さんがお父さんの身体に乗り移っても、今度は姿は変わらないはずです」
「ふむ……それなら、安心かな」
自分がドッペルゲンガーという事実が明らかになったが、
自分にはいつ自分がソージになったのかの記憶はない。
だから、この姿が別の何かに変わってしまわないか気になったが、それは大丈夫そうだ。
「……」
安堵する自分に対して、カグヤは何かを言いたそうに自分の方を見る。
「どうした?」
「いえ、自分が人間ではないことに何も感じないのですか?」
彼女は不思議そうに問いかける。
「日常生活に問題がなければ、特に何も。
まあ、漫画やゲームでは自分が人間じゃないと知ってショックを受けるキャラクターとか居るけど、
この歳でそういうのはなぁ……
『我思う故に我あり』だ。自分の存在意義の証明なんてガキの時に済ませておくもんだろう」
まあ、前向きに考えるなら異世界転移してしまった不幸な『武井宗次』は居なかったというわけで、
自分は自分で聖騎士のソージとしてこの世界で生きていけば良いのだ。
ならば、今までと変わらない。
「そう……ですか」
カグヤはショックを受けたように、がっくりとうなだれる。
「おっと、しまった。
もちろん君は良いんだよ。子供だから」
カグヤは子供、配慮が必要。
「むぅ……先程、子供だから配慮をしてくれと言いましたが……
それはそれとして、子供扱いされるのはムカつきますね」
カグヤはムスッと拗ねる。
「面倒臭いなぁ……
まあ、自分が人間ではないのは良いとしてだ。
なぜ『秋月レイ』や『量産型救世主1号』は邪教徒に乗っ取られているのに、
自分だけがこうして自由に動けているんだ?」
子供の癇癪に付き合うのも面倒臭いので、強引に話題を元に戻す。
自分の話題転換に、カグヤは溜息をつくと説明を続ける。
「……神は全知全能ではありませんので、推測も混じりますが宜しいですか?」
「ああ、構わない」
「まず、邪教徒の狙いはお父さんの推測通り、
フラグメントワールドから死者蘇生の能力をコピーすることにあったのは間違いありません。
しかし、それは容易なことではないはずです。
事実、お母さんが記録している限り、このような事態は初めてなのです。
ですので、敵にとっても今回の事は初めての試みであったのは間違いありません……」
そこまで言うと、カグヤの言葉が途切れる。
「……なぜ、そこで言いよどむ」
「いえ……お父さんはおそらく最初の被害者なのでしょう。
率直に言えば、レベル的にも中途半端で、リザレクションも使えないお父さんがこの世界に呼ばれたのは……
単純に邪教徒の失敗だったと言わざるを得ません」
「ああ!!くそ!!
そんな気はしてたんだよ!!」
秋月レイはレベル99の医者で、死者蘇生の出来る『復活のポーション』が作れる。
量産型救世主1号はレベル99の神官で、死者蘇生の魔法『リザレクション』が出来る。
そこから考えると、レベルも半端で、死者蘇生も出来ない自分はどう考えても失敗なのだ。
「……でも、それが不幸中の幸いだったのだと思います」
カグヤはフォローするように付け加える。
「……幸い?」
「お父さんはこちらの記録によれば、突如としてアウインに出現しています。
トランスポーターのワープでもなく、本当に何の前触れもなく、です。
これは推測なのですが……ドッペルゲンガーはお父さんをコピーする際に、
お父さんの姿形や能力以外に、お父さんの位置情報もコピーしてしまったのではないかと思います」
「位置情報だと……
うーん……そういえば、最後にセーブしたのはアウインだったような……」
何分、3ヶ月近く前の話なので自信はない。
しかし、少なくともゲームのフラグメントワールドでは、自分はアウインを拠点として利用していたのは間違いない。
「後の二人は、お父さんの失敗を改善した結果だと考えています。
彼らはドッペルゲンガーに姿をコピーされた後、すぐに身体を乗っ取られているはずです。
つまり、彼らは異世界に転移したことに気づくこともなく、邪教徒に殺されたことになります」
「その失敗のせいで、俺は邪教徒に捕まらず、逆に邪教徒をぶっ殺しているわけだ。
それは、ざまあみろ、だが……
うーん……それでも納得行かねぇ……」
どちらにしても、あれもこれも全部、邪教徒のせいじゃないか。
自分は完全にとばっちりだ。
「やっぱり、キングオブ不幸の称号はお父さんの方が相応しいのでは?」
「……そんな不名誉な称号はいらないよ」
皮肉げに語るカグヤに対して、そう悪態をついた。
長くなったので、ここまで。
もう1話ほど、カグヤの説明は続きます。




