87話 指きり
今回は若干の残酷な描写ありです。
皆の顔を見回し、宣言する。
「それでは皆さん。
それぞれの勤めを果たしてください。
クソ邪教徒には、我々に喧嘩を売ったことを後悔させてやりましょう!」
「おお!!」
こうして、アウイン防衛戦は動き出した。
「あー、しんどい……」
時刻は午前4時。
あの後も作戦の詳細を詰めたりしていて、この時間。
ようやく一時解散となり、馬車で南部教会まで戻ってきた。
自室に装備をおいて、一息つく。
その中には、自分の焼き焦げ、崩れ落ちた右腕も含まれる。
右腕は聖布で包まれ、机の上に置かれている。
「一体これは何に使うつもりなのか……?」
この右腕はルニアに持って帰るように言われたものだ。
まあ、下手にあの場所に放置して、邪教徒に素材として使われてはたまらない。
だから、回収することは良いのだが、
彼女はこれをどうするつもりなのだろうか?
「江戸時代では木乃伊を粉末にして薬として使っていたらしいが……
いや、さすがにそれはないか……ん?
今、動いたような……」
机に置かれた右腕が、かすかに動いたような……
しかし、右腕を調べてみても、特に変わったところはない。
「ふーむ……気のせいか……」
どうにも気味が悪いもの感じるが、考えても仕方がない。
右腕を机の上に放置するのもあれなので、右腕はアイテムフォルダの中に入れておく。
さて、これからどするか?
リゼット達はまだ戻っていない。
おそらく朝には戻ってくるのだろうが……今から迎えに行くべきか?
「いや、ルニアの報告を信じるならリゼット達に危険はない。
ならば、今の内にやっておかないことを済ませるか」
幸い、というのはどうかと思うが、
南部教会に居るのは、シモンが派遣してくれた臨時の神官が数名いるだけである。
リゼット達の事は大切に思っているが、
大切に思っているが故に彼女達がいるとやり難いものもある。
それはもちろん、チートについてだ。
自分の切り札であるチート、第5開拓村では新しい事実が分かったのだから、
それを確かめなければならない。
彼女達がいない、今の内に実験をしておこう。
南部教会内にある倉庫兼、作業場に移動して中から鍵をかける。
スキルメニューを展開し、『ライト』の魔法を選択する。
その瞬間、薄暗い倉庫の中に光の球があわられ、倉庫内を照らす。
倉庫内にはもちろん自分以外に人はおらず、実験を行うには最適であった。
作業台の上においてあった道具を端に寄せ、汚れても良いように防水仕様の布を敷く。
さらに、壁に備えられていたナイフと手斧を台の上に置く。
ナイフ、手斧共によく手入れがされており、刃こぼれ1つない。
これならば、仮に指を切りつけたとしても、容易に切断できるだろう。
「はぁ……やるか」
声が外に漏れないように、口に布を巻き、右腕で手斧を掴む。
作業台の上に、自身の左手の小指だけを伸ばす。
「ふー……ふー……」
全身から冷や汗が流れる。
だが、今までの戦いで傷を負うことなど初めてではない。
それに、思い出せ。
モンスターに潰され、腕を切り飛ばされ、アンデッドにされた者に比べれば……
これは、全然たいしたことでは無いはずだ。
「……っ!!」
覚悟を決め、右手の手斧を、左手小指に振り下ろした。
「ふぐぅううううう!!!!」
ザン、という鋭い音と共に、切断された小指が宙を舞う。
切り口はまるで、焼けた鉄板に指を押し付けたかのように、熱く、痛い。
切断面からは、血がドクドクと流れ出し、作業台に敷いた布を赤く染めていく。
ああ、クソクソクソクソ!!!
何で、自分がこんなことをしなけりゃいけないんだ!!
ケジメされるヤクザじゃねーんだぞ!!
ああ、クソ、痛てぇ!!
それもこれも、全部、邪教徒のせいだ!!
くそが、絶対にぶっ殺してやる!!
「ふー……ふー……ああ、くそ……マジ痛い……」
あまりの痛みに涙が出そうになるが、ぐっとこらえる。
心の中で散々悪態をつくことで、どうにか落ち着いた。
まだ痛みはあるが、痛みそのものは大したことない。
いや、大したことはあるのだが、痛みそのものはこれ以上に大きな痛みも経験している。
「痛いのはいい、いや、良くないが。
それよりもグロイ。本当にグロイ!」
痛みと出血で震える左手を見る。
血は止まらずに、手が赤く染まる。
切り飛ばされた小指を見る。
小指は力なく、ごろりと転がる。
「見てると気が萎えてくるが……ここまでやった以上、後には引けない。
気を取り直して実験開始だ」
今回の実験は、『切断した指は元に戻るのか』だ。
第5開拓村では、欠損した腕が魔法によって元に戻った。
あれを自分が常に出来るのか、それともルニアの介入による一時的な奇跡だったのか。
それを見極める必要がある。
もしも自分の魔法に、いや、自分の身体に欠損した肉体を修復できる機能があるのなら、
出来ることが増える。
つまり、漫画やゲームの中で超再生や不死身のキャラクターがやっている自身の損傷を無視した攻撃、
所謂ゾンビアタックが出来るようになるのだ。
まあ、そんな戦法は実際にはやりたくないが、出来ると出来ないを知っておくことは大事なのだ。
深呼吸をして、出来る限り精神を落ち着かせる。
「――清浄なる神の光よ、傷を癒せ――ヒール!!」
この世界で一般的に行われている魔法の形式、つまり呪文詠唱による魔法。
その呪文により、体内の魔力が淡い光に姿を変え、左手を包み込む。
「ふぅ……痛みは消えたが……」
出血は止まり、傷は塞がった。痛みもない。
しかし、切断された指は元に戻らない。
4本指になった左手をまじまじと見つめる。
小指が無いと言うのは、不思議な感覚だ。
先程まで、自由に動かせていたのに、
亡くなってみると、今までどうやって動かしていたのか分からなくなる。
「まあ、それはそれとして。
やはり、この世界の魔法では欠損した肉体は再生しない」
魔法は正しく発動した。
減少したHPは回復し、傷は塞がっているので間違いはない。
それでも、欠損した肉体は再生しないのだ。
「では、次だ」
右腕の手斧をナイフに持ち替え、左手の小指の根元に突き刺す。
「ぐっ!!」
鋭い痛みと共に、修復した傷口から再び血が流れ出す。
それは先程の再現だ。
しかし、今回は精神を集中させる必要はない。
スキルメニューから、ヒールの項目を選択し、実行する。
先程と同様に、体内の魔力が淡い光に変換され左手を包み――
――その光が消えると左手の小指は再生していた。
「ああ、良かった……再生してくれて良かった……
これで再生しなかったら、小指なしで生活することになってた……」
思わず安堵のため息が出る。
利き手ではない、左手の小指なら、最悪失っても大丈夫だろう。
そんな理由で実験を行ったが、これで指が再生しなかったら、とんだ笑いものだ。
いや、笑えないのだが。
「まあ、理屈は分からんが、チートによる魔法なら肉体の欠損も再生できる。
……だが、この世界の住人はこの方法では、失った腕は戻らなかった」
アウインの水場で救助を行った時に、自分はこの世界の住人に対して、
チートによる回復魔法をかけている。
しかし傷は治ったが、失った腕は治らなかった。
「そこから考えられるのは、やはりこの魔法よりも重要なのは、
この身体の方なのか?
だとしたら、もう一度確かめる必要がある。
……ああ、嫌だ、嫌だ。でも確かめないと」
再び布を口に含み、左手の小指に手斧を振り下ろす。
「ぐぅうう!!!」
せっかく再生した指が宙を舞い、切断面から血が噴水の様に噴出する。
血を流す左手に構わず、今度はアイテムメニューからポーションを選択し取り出す。
すると、何も無い空間から、赤い薬液の入ったポーションが出現する。
それを右腕で受け取り、口で栓を開け、ポーションを傷口にたらす。
「っつ!!」
傷口に触れたポーションは、ジュワジュワと音をたて、傷口に浸透していく。
それが傷を刺激し、刺すような痛みが走る。
しかし、それも一瞬の事で、ポーションが完全に浸透すると痛みは小さくなる。
「……とは言え、マシになっただけで、まだ痛い。
血は止まったが、傷口は完全に再生していない」
この世界のポーションは、現実世界の傷薬とそう大差があるものではない。
魔法のように一瞬で傷を塞ぐものではなく、あくまでも痛みを抑えたり、回復力を高めるためのものだ。
だから、当然の様に失った指は生えてこない。
「だからこそ、次だ」
今度はアイテムメニューから先程と同じポーションを選択する。
ただし、今回は取り出さずに、直接アイテムメニューから使用する。
すると、一瞬の内に失った左指が再生した。
「なるほど、やはりそうなるか!」
これで確定。
つまり、重要なのはこの身体の方だ。
この身体に対して、魔法やアイテムを使うことで、
損傷した身体も再生できる。
理屈は分からない。しかし、そういうものだと納得しておく。
とにかく、これで自分自身の身体の損傷はあまり考えなくても良い。
チートを使うための意識とMP、そしてアイテムさえ切らさなければ、
HPがゼロにならない限り、何度でも立ち上がることが出来るのだ。
「まあ、そんなことは本当にしたくないけど……
でもなぁ……」
邪教徒との戦いは甘くない。
奴等との戦いで楽が出来たことは一度もなく、いつもいつも死にかけている。
だからこそ、おそらくこのチートもどこかで使うことがあるだろう。
まあ、殺し合いをしているのだ。
別に正義のヒーローという訳でもないし、
格好良く勝つ必要も無い。
ゾンビアタックでも自爆特攻でも、使える手段は何でも使う。
そう決意を固めたところで、ふと我に返る。
「まあ、それはそれとして……これ、どうしよう……」
辺りを見回す。
作業場は血に染まり、作業台の上には血がべったりと付着した布とナイフ、そして手斧。
さらに、切断された指が2本……
その様は、まるで猟奇殺人が行われたかのようだった。
という訳で、ソージの最後のチートである『再生』の実験回終了。
このチート自体は最初から発動しており、
ソージがここまで戦い続けてこれた理由でもあったりします。
というのも、3章の右腕喪失もそうなのですが、
2章で子供を庇ってアンデッドスライムの攻撃の直撃を受けた時に、
ソージは脳に深刻なダメージを負っていたりするのですが、
このチートによって何事も無く戦線に復帰していたりします。
さて、年内の投稿がソージの苦行で終わるのも何なので、
後1回ぐらいは年内に投稿したいと思います。
次話は4章ヒロイン登場となります。




