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宗次は聖騎士に転職した  作者: キササギ
第4章 異端の使い手
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84話 死の軍団

そこまで考えたとき、目の前の視界に黒いノイズが走る。


「……ッ!!」


ザ、ザ、と壊れたテレビのように、視界の景色が乱れ、

視界が黒く染まっていく。


そして……


「クッ!!」


乱れた視界がもとに戻る。


「何だ?ここは?」


 目の前に広がるのは、真夜中の平原。

夜の風は肌寒い。

空は暗く、明かりは月と星の光しか無い。


いや……それだけでは無かった。


 地面には、聖域サンクチュアリの魔法陣が輝いており、

聖域の外には……


1000を超えるモンスターが今まさに襲いかからんと、聖域の周りを取り囲んでいた。





「なんだ!何だこの状況は!!」


 先程までアウインの教会内で作戦会議をしていたはずだ!

それが何で室外に居るだけでなく、モンスターの群れに囲まれてるんだ!


いや、落ち着け、まずは状況の整理をするんだ。


「……?」


 そこで始めて気付く。

状況を整理しようと、改めて周囲を見回そうとしたが視線が動かない。

それどころか瞬きすらも出来ない。


「……手足も動かない。

いや、これは……自分の体ではないのか?」


 

 落ち着いて観察すれば目線の高さが普段よりも高いし、

暗闇であるにもかかわらず普段よりも良く見える。


 この自分の身体が自分の物ではない感覚。

それはつい最近、体験したばかりの感覚だった。


――ルニアによる身体の乗っ取り。


 どうやら今回は自分の感覚を乗っ取られたらしい。

この目に映る景色は、恐らく自分以外の誰かの視界なのだろう。


「おい!ルニア居るんだろう!

説明しろ!この状況を!!」


 ルニアは『妾は忙しい』と言ったきり、だんまりを決め込んでいた。

それが、いきなりこの状況である。

理不尽も大概にしろ。


「いかにも、妾が月の女神ルニアである」


ルニアの姿は見えないが、頭の中に彼女の声が響く。


「知ってるっつーの!

そんなことより状況の説明をしろ! 状況の説明を!!」


 目の前の状況は、依然逼迫している。

前方には1000を超えるモンスターの群れ。

ゴブリンに、トロール、人食い狼……

しかも良く見れば周りのモンスター達は、ある者は片腕は無く、ある者は頭が割れ、

中身が零れ落ちている。


……アンデッド化している。


 そうであれば、この状況も納得できる。

足元には聖域の光。それはアンデッドに対する不可侵の結界だ。

実際、1000を超えるアンデッドの群れは、聖域の光に突入を躊躇している。


 だが、安心は出来ない。

周囲を包み込む聖域の光は徐々に薄らいでいた。


 術者の魔力切れか、集中力が切れ掛かっているのか……

いずれにしても、そう時間をかけずに目の前のアンデッドは突撃してくるだろう


「お主が見ている視界は、アウインの中央教会に所属している『フェルナン』という男の視界だ。

お主の身体は今も教会内にある」


 とりあえず、自分の体は安全。

だが、この視界の持ち主であるフェルナンは……


「アウイン中央教会所属『フェルナン』、年齢は28歳。既婚者。

子供は9歳の長男と7歳の次男、そして3歳の長女の3人。

仕事はそつなくこなし、着実に成果を挙げ、1年前に中央教会に配属された。

文武両道で、礼儀正しく、仲間の聖騎士からの信頼も篤い。

模範的な聖騎士と言えるであろう」


「そういうプライベートな情報はどうでもいい!!

この状況を説明しろ!!」


「……シモンから話は聞いておるだろう?

この男ともう1人、既に事切れているが……

彼らは4日前に偵察としてサフィア河の西に偵察に出た。

彼らはモンスターの目を避け、極力戦闘を控え、偵察を行っていた」


 モンスターの目を避け?

自分達が第5開拓村から戻る時は、モンスターは見なかったはずだが……


「そして、つい先程、アンデッドの奇襲を受けた。

既にペアを組んでいた同僚はアンデッドに倒され死亡。

しかも、倒された瞬間にアンデッドにされた」


「倒された、瞬間に、だと……」


 通常、アンデッドは供養されずに放置された遺体がなるものだ。

速ければ1週間程度でアンデッドになることもあるらしいが、

いくらなんでも死んだ瞬間にアンデッドになることはない。


 だとすれば、死霊術ネクロマンシーしかない。

つまり、近くに邪教徒がいるということだ。


「クッ!!」


 そうこうしている内に、聖域の光が消えた。

同時にアンデッドの群れが飛び込んでくる。

その中には、確かにアンデッド化した聖騎士も含まれていた。


 フェルナンは必死に剣を振るが、あまりにも多勢に無勢。

群がるアンデッドに押し倒される。

感覚を共有している自分にまで肩や腕に痛みが走る。


「がぁああ!!くそが!!

何とかならないのかルニア!!

女神なんだろう!!

奇跡でもチートでも何でもいいから、フェルナンを助けろ!!」


「お主も聞いていたはずだろう。

妾は人は救わない。

妾は魂を回収し浄化を行うだけの機構システムであると」


「そういう設定はどうでもいい!!

お前はアンデッドスライムの時も、アリスとの戦いの時も俺に呪文を授けたはずだ!!」


「そうであったな。訂正しよう。

月の女神の役割には呪文の付与も含まれる」


「だったら、今すぐにやれ!

っぐぁああ!!」


 体を走る激痛に思わず声が出る。

今こうして話している間にも、アンデッドの爪がフェルナンの手足を切り裂き、

思い切り身体を踏みつけられる。


 本当に、マジで死ぬ前の30秒な、この状況。

アンデッドに良いようにやられて、ただで死ねるか!!

というか、何で自分まで痛みを感じなければならないんだ、おかしいだろ!!


そんな自分の思いを、ルニアは一蹴する。


「無駄である。我々が教えるのは、あくまで呪文スペルであり、

呪文が成功するかどうかは彼の実力次第。

そして、現状の彼が行使できる魔法では、この状況を抜け出すことは不可能だ」


 それは、そうなのかもしれない。

フェルナンのレベルがどれだけあるかは知らないが、

仮にレベル99でも、ここまで追い詰められては挽回は難しいだろう。

しかし……


「しかし、やってみなければ分からない。

仮に無理でも、一矢は報いてやる!

――『バニシング・レイ』

あの魔法ならば、あるいは……」


 第5開拓村で、1000体のアンデッドを薙ぎ払った聖騎士の最上級魔法。

あれを使えば、このアンデッド共をまとめて倒すことが出来る。


「無理である。

仮にバニシング・レイが成功したとしても、

彼の魔力量では、周囲のアンデッドを倒しきるだけの出力が得られない」


「だったら、魔力も一緒にあげれば良いだろう!」


 第5開拓村の時は、魔力を使い果たした自分に対して、

呪文と共に、莫大な魔力を与えてくれたはずだ。


「あれは、お主が行ったチートを、妾が巻き戻したリピートしただけである。

……いや、この状況ならば、やれるかもしれん。

しかし……やはり不可能である」


「あ? 

不可能でもやるんだよ!!」


「フェルナンはお主とは違い普通の人間である。

よって、お主の様に大量の魔力を注いでは、彼の身体は耐えられない」


「だから!! やってみなければ分からないと言ってるだろうが!!

このまま何もしなけりゃ、死ぬんだよ!!

だったら、一か八かに賭けた方がいいに決まっているだろうが!!」


 本当に、本当に、もう猶予はない。

群がるアンデッドに殴られ、蹴られ、引き裂かれ……

フェルナンという名前しか知らない聖騎士は、

もうどうにもならない死が迫っていた。


「そうか……ではやってみよう」



 ルニアの言葉が終わった瞬間。

フェルナンの身体は輝き出し……



……爆発した。

そう、一言で言うならば、それは人間爆弾であった。



 フェルナンの身体に注ぎ込まれた莫大な魔力は、彼の体内を散々に暴れまわり、

焼き尽くし、ついにその身体を突き破り、溢れ出す。

暴力的に荒れ狂う魔力は、彼の身体を引きちぎり、周囲を巻き込み破裂する。

手足はもちろんの事、衝撃で頭も吹き飛んだ。


 ぐるりと、ジェットコースターのように回転する視界。


 その視界に写るのは、もはや肉片しか残らぬ彼の身体。

同じく、彼を取り囲んでいたアンデッドの群れも、跡形も無く消滅していた。

その衝撃は凄まじく、爆発によって地面がえぐれ、数百メートル規模のクレーターが出来ていた。


「ッ!!」


 だが、そのクレーターの外には、まだ無数のアンデッドがひしめいていた。

その数は、千か万か……暗い視界からは分からない。


 ただ、少なくとも目に見える範囲は、大地を埋め尽くす程のアンデッドが居た。

つまり、彼の命を犠牲にした爆発は、敵の一部を削ったに過ぎなかったのだ。



 ぐしゃり、という音と共に吹き飛んだ頭が地面に叩きつけられる。

感覚を共有している自分にも頭をハンマーで殴られたような痛みが走る。


 だが、それは大したことではない。

自分の身体は既に、身体を爆弾で吹き飛ばされたような……

いや、事実、身体を跡形も無く吹き飛ばされた、そのものの痛みが襲っていたのだから。

それに比べれば、この程度の痛みは誤差の範囲でしかない。


 強烈な痛みと共に視界が徐々に暗く落ちていく。

それは、フェルナンが死んだからか、それともこの痛みのせいか。


朦朧とする意識の中、ルニアの声が頭に響く。


「だから、言ったであろう。

妾の力は、奇跡でもチートでもないと。

ただの人間に2万ものMPを注入すれば、耐え切れずに破裂する。

それが、当前の結論である」


 それは、逆に言えば、『お前は人間ではない』と言っているかのようで……

しかし、それは別にどうということではない。

自分の身体がこの世界の人間達とは異なることは、最初から分かっていたことだ。


 自分とこの世界の住人との違いはチートの有無であるが……

それは決定的な違いである。


 本来、長い時間をかけて習得する技能や知識を、ポイントを割り振るだけで瞬時に習得し、

身体に負った傷は、ただ座っているだけで治ってしまう。

それどころか、欠損した腕でさえ、魔法で復元できる。


その違いの前にはヒューマンやエルフといった種族間の違いなんて、ささいな違いである。


 だが、それは今重要なことじゃない。

そんな事よりも、今考えないといけないのは、未だにサフィア河の西に居るリゼット達だ。

まだアンデッドは残っている。

あんなものに遭遇しては、生きて帰るのは絶望的だ。


「安心するがいい。リゼットの周囲にはアンデッドはおらぬ。

アンデッドの大群が居るのは、平原の北部。

対して、リゼット達は、平原の中央部におる。

仮に今から動いたところで、彼女達がアウインに戻る方が速かろう」


「それなら……一応は安心か……

いや……ルニア、リゼット達に今すぐアウインに戻るように伝えてくれ……

あと……平原にいる他の斥候達にも……」


敵の手は見た、であるならば、これ以上の被害は必要ない。


「承知した」


「良し……」


 そこまで考えたところで、意識は暗闇に落ちていった。



少し短いですがキリがいいのでここまで。


それと、どこかで書いたかもしれない補足。

ルニアは教会のシンボルである聖印を通して、この世界を観測しています。

では、すべての神官の行動を把握しているかというと、そんなことはありません。


例えるなら何千、何万とある監視モニターを見ているようなもので、

その中から、ルニアが注視しているものしか認識できません。

まあ、ログは残っているので注視してなかったものも、後から確認は出来るのですが……


ちなみに、ソージのチートの様に、重大な違反行為を行えば、特に注視してなくても分かりますし、

邪教徒はその辺りを経験則的に知っているので、うまく隠匿しています。


今回の話では、教会の斥候に注視していたので発見できましたが、

もし見てなかったら、普通に今回の事も分からなかったりします。

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