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宗次は聖騎士に転職した  作者: キササギ
第4章 異端の使い手
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81話 お告げ

「おーい、ソージはいるか!!お客さんだ!!」


「……客?一体誰だ?

ここはサフィア河の西側、モンスターの領域だぞ」


 この遠征の詳細はシモンしか知らないはずだ。

しかし、そのシモンでも自分達の正確な位置を知るのは難しい。

なぜなら、大まかなルートは事前に決めているとはいっても、

モンスターや天候、地形の荒れ具合でルートを微調整するからだ。


「……まあ、悩んでいても仕方がない。分かった、通してくれ」




 そして現れたのは白馬に乗った2人の聖騎士であった。

装備は中量級の鎧に長剣、ガチの戦闘装備というよりも動きやすさ重視の斥候か。

彼らの佇まいには隙はなく……というよりも余裕がない。

焦っているような、緊張しているような、落ち着かない雰囲気を纏っている。


 彼らは馬から下りると、右手を胸元に当て一礼する。

お互いにステータスを表示して、確認を行う。


 相手のレベルは45。

この世界の基準で言えば、十分にベテランの域だ。

少なくともただのお使いに出されるようなレベルではない。


「ッ!レベル76!!

さらに、レベルが上がっている」


「ええ、まあ、第5開拓村で色々ありましたので」


 第5開拓村の遠征によって、さらに自分のレベルは1上昇した。

ちなみに、リゼットはレベル38から48に、アンナはレベル58から60に、エルはレベル35から41になった。

ああ、そうか……リゼットは彼らよりもレベルが高くなってしまったのか……

レベルの高さは、イコール、潜った修羅場の数だ。


 つまり、リゼットにそれだけ負担をかけていると言うことであり、

実際、今回も彼女に救われている。

リゼットを危険に晒すことはしたくないが、

だからと言って自分1人で何でも出来るほど自分は強くない。

どうにかしたいが、どうにもならないのが現状だ。


「……まあ、レベルはどうでもいいのです。

それよりも私に何か用ですか?どうやって我々の正確な位置を知ったのです?」


 そう、問題は彼らは何をするためにここへやって来たのかだ。

まさかと思うが、こいつら聖騎士のふりした邪教徒ではないだろうな?


自分の質問に対し、彼らは返答の変わりに一冊の封書を自分に差し出した。


「これは?」


「大司教補佐官シモン様からの密書で御座います」


「……シモン様から?」


 疑問に思いつつも、聖騎士から封書を受け取る。

その封書には、溶かした蝋で封がしてあり、印が押されている。

ぱっと見たところ、封が開けられた形跡はない。


「大司教補佐官シモン様からの指令です。

我々と共に、急ぎアウインに戻って頂きたい」


 そう言うと聖騎士は、彼らが乗ってきた馬に視線を向ける。

彼らの馬にはロープが括りつけられており、その先にはさらに2頭の馬が繋がれていた。

つまり、あれに乗れということだろう。


「……エリック、これは本物か?」


 封書の印が、家名だか家紋だかになっているはずなのだが、

自分では判断がつかないので、エリックに封書を渡す。

実はこれが偽の封書だったり、外側の封は本物でも中身が入れ替わっていたりしてはたまらない。

だが、異端審問官のエリックなら、このような偽装工作に惑わされることはないだろう。


エリックは慎重に封書を確認してから、封を開けて手紙を読む。


「封書の印も、筆跡もシモン様のもので間違いはありません」


「なるほど、内容は?」


「ソージ様と私に対して、すぐにアウインに帰還せよと、それだけです」


「……それだけか?」


エリックから指令書を受け取るが、本当にそれだけしか書いていなかった。


「情報漏えいを恐れてだと思いますが……本当に最低限のことしか書かれていませんね。

直接会って話がしたいと、そういうことでしょう。

しかし、ここまで簡潔な書かれ方は、シモン様にしては大変珍しい」


エリックは怪訝そうな顔で答える。


「それだけ重要な案件という事か……しかしな」


 ちらりとリゼットやブラックファングの団員達に視線を向ける。

ここはモンスターの領域であるサフィア河の西側である。


 例え、現状では周りにモンスターの姿が一切無いとしても、

さらに言えば、あと1日もあればアウインに到着する距離ではあるとは言っても、

これから先もそうだとは限らないし、最悪、邪教徒との遭遇も無くはない。


 アウインに速く戻りたいのは自分も同じだ。

しかし、リゼット達やブラックファングの者達を危険地帯に残して自分だけ先に戻るのはどうなのか?


「質問があるのですが、宜しいですか?」


「何で御座いましょうソージ様?」


「まず1つ、あなた方はどうやって自分達の正確な場所を知ったのですか?

2つ、あなた方がアウインを出発した時点で、アウインに異常はありませんでしたか?

例えば……そう、アンデッドの大群が攻め込んできた、とか」


自分の質問は予想外なものだったのか、驚いたように彼らは答える。


「アンデッドの大群、ですか?

いえ、そのようなことは。

ソージ様はアウインがアンデッドの大群に攻め込まれる危険があると、

そう思われているのですか?

やはり、アウインに危機が迫っていると?」


「『やはり』、とは何だ?

お前らは何を知っている?

いや、まずは1つ目の質問に答えろ」


 強い口調で問いただす。

なぜ、こいつらはアウインが危機に晒されていると知っている?

そして、自分達の居場所についても。

この世界には、携帯電話もGPSもないんだぞ。


「……シモン様はルニア様から『お告げ』があったと、そう仰られていました。

恐らくそのお告げの中に、ソージ様の所在も含まれていたのでしょう。

我々はシモン様から直接、この場所を指定されて動いたに過ぎません。

そして……我々以外にも指令を受けて、幾つかの偵察部隊がこの平原で動いているはずです」


 神からのお告げは30年ぶりなのだ、と聖騎士は興奮を隠しきれずにそう言った。

彼らの意外な言葉に、今度は自分が驚く。


「ルニア様からのお告げ?

ああ、忙しいってそういう……」


 ルニアは自分の呼びかけに対して、

『妾は今忙しい。使いの者を送る故、詳細はその者に尋ねよ』と言っていた。


 つまり、ルニアはシモンの所に行っていたのだろう。

では、彼らがルニアの言う『使いの者』なのか?

いや、とてもそうは見えない。

彼らはその口ぶりから、ルニアのお告げを受けた訳ではないのだろう。


 しかし、これで彼らが落ち着かない感じだった理由が分かった。

彼らはシモンを仲介する形とはいえ、神からの指令で動いているわけだ。

日本人である自分に例えれば、天皇陛下から勅命を受けた感じだろうか?

つまり、彼らには相当のプレッシャーがかかっているのだ。


「……だいたいの事情は分かりました。

アウインではルニア様の助力の下、シモン様が動いており、

少なくとも一日前までは危機的な状況ではなかったと……

であるならば、私はあなた方と一緒には行けません」


自分の言葉に、彼らは食って掛かる。


「な、なぜですか?

ソージ様は、大司教補佐官であるシモン様の命、ひいてはルニア様の命に背くと言うのですか!!」


「いえ、出来るだけ急いで戻ります。

ただ、あなた方も知っての通り、ここはモンスターの領域です。

そこに私の仲間を放置し、自分だけ戻ることは出来ません。

それに、アウインは各教会の聖騎士団が守りを固めているのでしょう?

せいぜい半日程度の時間短縮を頑張る意味はあるんですか?」


 自分の返答に2人の聖騎士は一気に殺気立つ。

その様は、最初に会ったころのエリックを思い出す。


 あーもー、面倒臭せぇ……

そっちの事情は分かったが、こっちはこっちの事情がある。

自分もアウインには早く戻りたいと思っているし、アウインに危機が迫っていることも知っている。

ただし、自分の中での優先順位は、アウインよりもリゼットの方が高いのだ。


 自分でも無茶を言ってる自覚はあるが、

仮に自分が先に帰ったせいでリゼットが死んだら、こいつらはどう責任を取ってくれるんだ?

まさか、邪教徒に『リザレクション』の魔法でも使って貰うのか?

それこそ、まさかだ。


「ソージがまた無茶苦茶言ってる……

シモンが早く帰って来てくれって言ってんだろ、帰ってやればいいじゃん。

あたし達は大丈夫だからさ」


「そうです。

私達がソージ様の重石になってはなりません。

私の方からブラックファングの皆にも急がせるように言いましょう」


自分の後ろで成り行きを見守っていたアンナとエルは、そう提案する。


「しかしな」


「はぁ……相変わらず、こういう時は一切譲る気はないですね。

この状態のソージ様には、何を言っても無駄です。

……では、こうしましょう。あなた達は私とソージ様に代わり、

この者達ブラックファングを護衛し、無事にアウインに送り届けて下さい」


隣にいたエリックが大きくため息を吐きながら、そう提案する。


「で、ですが。

我々はアウインまでソージ様を護衛せよと……」


「不要です。

大司教補佐官の命令と言いましたが、この方をどなたと心得る。

ソージ様はアンデッドスライムからアウインを救った英雄です。

さらに、ソージ様もルニア様のお言葉をお聞きになり、聖剣を賜っています。

この場で優先しなければならないのは、あなた方の言い分ではなく、

ソージ様を早急にアウインに届けることです」


反論は許さん、とでも言うようにエリックは強い口調で言い切った。


「……ソージ様も、それで宜しいですね?」

 

 エリックは、ぎろりと自分のほうを向いて念押しをする。

彼はいつもの冷静で冷徹な表情のままだが、

その目は、これ以上ごねてくれるなと、そう言っている。


「うーむ……彼らが護衛を引き受けるなら、人数的には差し引きゼロ……

……まさか、リゼット達を置いて自分達だけ逃げないだろうし……

それに、自分としてもシモンの用件は気になる……

……仕方がない。それで良いよ」


 自分に自分の事情があるように、

相手にも相手の事情はあるのだから、このあたりが妥協点だろう。


「すげぇ、相手にあれだけ譲歩させたのに、まだ渋々だよ。

それにしても、エリックもソージみたいな無茶を言うんだな」


「いえ、私も本当はこんなことは言いたくないですからね。

ただ、ソージ様を説得する時間が無駄だと判断したからやっただけです」


アンナの突込みに対して、エリックはわざとらしく頭を押さえながら答える。


「何だよエリック、まだあの時の事を根に持ってるのかよ。

こっちはソウルイーター討伐の権利を放棄したんだから、それでチャラだろう」


「いえ、それ以外にもクリストフ様への聞き込みの件など色々ありますよ。

あなたは邪教徒に対する嗅覚と、それを討伐するだけの実力があるのですから、

もう少しうまくやってください」


「ああ、あの時はすまなかった。

次からは善処します」


まあ、それが出来ているなら、そもそもこんな事にはなっていない訳で。


 その後、ブラックファングの遠征部隊の隊長であるレノさんに事情を説明し、

自分とエリックはアウインに戻ることになった。




 そして、約6時間後。

場所はアウインの西側の城門前。

帰る途中に空はすっかり暗くなり、月の明かりと、魔法『ライト』の光だけが頼りの中、

最短距離で戻ってきた。


 ここまで斥候の偵察なしで平原を突っ切ってきたが、モンスターと遭遇することはなかった。

これならば、恐らくリゼット達もモンスターと遭遇することは無いだろう。


 やはり、平原からモンスターが消えている。

モンスターは居るよりは居ない方が良いとはいえ、不気味である。


 目の前のアウインからは、城壁の外から分かるほど、ピリピリとした空気が流れている。

城壁の上には、常に見張りがいるのだが、その数は平時より明らかに多い。

そして、西側の城門の前には、多数の聖騎士を従えたシモンの姿があった。


「おお、本当に帰ってきた。時間もぴったり……って、なんで走ってるんですか!!

馬は?」


「ぜぇ、ぜぇ、はぁ……ふぅ、さすがに6時間耐久マラソンは中々、厳しいな。

ああ、馬はエリックの後ろ」


驚くシモンに対して、呼吸を整えつつ、エリックの方を指差す。


「ただいま戻りました」


 エリックは馬から下りると一礼する。

彼が乗っていた馬にはロープが括られており、その先に本来自分が乗る予定だった馬が繋がれていた。


「ソージ様は馬に乗れませんでしたので、このように。

おかしいですね。聖騎士になるためには乗馬の訓練もしているはずなのですが……

見てください、この馬を。すっかり自信をなくしてますよ」


 エリックはわざとらしく、そう言ってくる。

実際、馬の瞳は悲しみを帯びていた。


「乗れないものは乗れないんだから仕方がない。

何しろ自分は記憶喪失だから。

いや、馬に対しては、すまないと思っているよ。

ただ、そうは言っても、いざ乗ったら振り落とされるし」


 残念ならが日本にいた時に乗馬の経験はない。

それでも、ゆっくり歩いてくれれば大丈夫なんだよ。

ただ、走られると落っこちるだけで。


 スキルポイントを使用して、『騎乗』のスキルを習得すれば、

乗馬も余裕でこなせるのだろうが、貴重なスキルポイントを使いたくはない。


 だから、乗れるように練習しようと思っていたのだが、

神官としての勉強だったり、魔法の練習をしたりで、結局後回しになっていた。

これは、やろう、やろうと考えるものの、結局やらないパターンだ。


「だからって、何も走らなくても」


シモンは呆れたように言う。


「いや、それが意外とすごいぞ、走るって。

自分も正直、馬と併走は無茶かと思ったが、意外に行けた。

というよりも、馬よりも体力も速力もあるかもしれない」


 恐るべきはレベル76の肉体よ。

まさに人間のレベルを超えている。


「それは、たぶんソージだけですよね。

ああ、そう言えば、迎えに出した聖騎士たちはどうしました?

姿が見えないのですが?」


シモンはキョロキョロと周りを見渡す。


「彼らにはソージ様と私の代わりに、『リゼット様』の護衛をして頂いています」


「あ、なるほど」


エリックの返答に、シモンは何かを察したように頷いた。


「いや、リゼットだけじゃなくて、ブラックファングもだけどな。

まあ、それは今はいい。

迎えに来た聖騎士に聞いたが、ルニア様からお告げがあったんだって?」


「はい。僕だけではなく大司教やミレーユにもですが」


「大司教はともかくミレーユさんもか……この異様な雰囲気もそれが原因か?」


 もしそうならば、ルニアのお告げの内容が気になる。

まさかとは思うが、シモンに自分のチートを暴露していないだろうか。

いや……この場合、むしろルニアのお墨付きが得られるのなら、その方がいいのか?


うーん、気になるが……自分の口から言及するのは薮蛇だろうか?


「はい。それらを含め、お互いの情報のすり合わせを行いましょう。

疲れているところ申し訳ありませんが、既に各教会の司教が待っています」



 そうして、シモンに案内され中央教会に移動する。

その中にある会議室には、既に大司教と各教会の司教達が待機していた。


大司教『クリストフ』、

北部教会の司教『シャルロット』、

東部教会の司教『レオン』、

西部教会の司教『グレゴワール』

そして、自分に対してひらひらと手を振る冒険者ギルド派遣聖騎士団、団長『ミレーユ』。


大司教補佐官『シモン』は大司教の隣に着席し、異端審問官『エリック』は大司教を守るように後ろに立つ。


最後に、開いている席に自分。

つまり、南部教会の司教である『ソージ』が座る。


シモンは、こほんと咳払いを1つすると、皆に聞こえるように宣言する。


「今、このアウインは未曾有の危機に晒されています。

かかる危機に対して、我々は神の代行者として、これを打ち払わなければなりません。

危機とは何か、敵は誰か、我々は何を成すべきか……

情報を整理し、共有し、策を練りましょう……すべては神官としての勤めを果たすために」


こうして、会議が始まった。


ソージの初対面の神官には、とりあえず喧嘩を売るムーブ。

しかし、これでも1章の頃よりはマシになっているという。


次話は、3章でアリスがアウインに攻め込むとかいってたけど、

実際何するつもりなのかとか、ルニアのお告げの内容とかの話し合いです。

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