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宗次は聖騎士に転職した  作者: キササギ
第4章 異端の使い手
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80話 帰り道


 第5開拓村での戦いから3日が経過した。

現在は、第5開拓村からアウインへの帰還中である。


 第5開拓村では、それはもう本当に酷い目にあったが、

結果的には自分達にもブラックファングの団員にも被害は無かったのが幸いだった。


 アウインの大貴族でありながら、邪教徒に組していたジェローム・ゴーン。

その彼が10年前に主導していた開拓村が、今回赴いた第5開拓村であり、

そこでは、全滅したとされる開拓民達がアンデッドになったまま生活していた。


 その開拓民のアンデッドの中には、エルの父親であるジンの姿もあり、

当然の流れとして彼と戦闘をすることになった。

戦闘の顛末は後から聞いたが、彼との戦闘はやはり熾烈を極めたようで、

アンナ、エリック、エル、エンの4人がかりでギリギリ。

特にエンは右腕を深く切られていたが、自分がヒールの魔法を使ったら後遺症も無く完全に回復した。


やはり、自分のチートによる魔法は、この世界の詠唱式の魔法とは異なるらしい。


 アンナ達がジンと戦っている間、自分とリゼットはジェローム・ゴーンの娘であるアリスと戦った。

彼女は自分と同じ転移者であるレベル99の『秋月レイ』の体を乗っ取っていた。


 レベル99、自分よりも高いレベル。

それは本来は大変な脅威であるが、レベル99といっても秋月レイの職業ジョブは、

生産系の『医者』であったし、その中身のアリスは、所詮は貴族のお嬢さんだ。

殴り合いに持ち込みさえすれば、どうと言うことはない。


 彼女の真の脅威は、武装したアンデッドをモンスタークリスタルに封じ込め、

その軍団を携帯し、瞬時に展開し、組織的に運用したことだ。


 アンデッドの大群を目にした時には、死を覚悟したが、

劣化版の『六重聖域セクステッド・サンクチュアリ』と、

女神『ルニア』の協力でどうにか倒すことが出来た。



そう……女神『ルニア』だ。


 聖印の奥に感じていた、大きな存在。

今まで一切出てこなかった神と出会うことが出来た。

まあ正確に言えば、自分は体を乗っ取られただけなので、対面してはいないのだが。


 それはさておき、

彼女の言葉から、この世界がゲーム『フラグメントワールド』を模して作られた世界であるとが分かった。

しかし、逆に言えば、それぐらいしか分からなかった。


 自分がこの世界に来た理由だとか、邪教徒の目的だとか、

聞きたいことがあったのだが、アリスと戦闘になったため会話は中断。

その後、何度か聖印に向けて話しかけるが、『妾は今忙しい。使いの者を送る故、詳細はその者に尋ねよ』と、それきり応答がない。


 直接出てきて説明しろよ、とは思うが、自分にはどうしようもない。

『使いの者』とやらに期待するしかないだろう。


 女神ルニアについては興味は尽きないが、

そればかりに気を取られているわけにはいかない。

アリスの言葉を信じるなら、邪教徒がアウインを攻め滅ぼすつもりであるらしい。

実際、アンデッドの軍団はそのための戦力だったのだろう。


 アリスと彼女のアンデッド軍団、約3000体はどうにか倒したが、

今回の黒幕だと思われる『邪竜使いエミール』は未だ健在であり、現在の所在は不明である。


 そのため、こちらも急ぎアウインに戻る必要がある。

そんな訳で、当初の目的であった第5開拓村の被害者達の遺品の回収や、

邪教徒のアジトの探索は早々に打ち切り、アウインへの帰路に着いたのだった。


 そんなこんなで、アウインまで残り1日。

時刻はちょうど昼の15時。水辺で休憩中だ。

帰りの行程は順調で、本来はここへの到着は夕方ごろを予定していたが、

それよりも速く到着した。

もう少し距離をかせぐか迷ったが、いくら順調とは言っても長旅の疲れもあるので、

今日はこのまま、しっかりと休息を取り、あとの一日は休憩少なめで一気にアウインまで帰る予定だ。


 ブラックファングの団員達は、半数を周辺の警戒、

残りの半数が水の補給や食事の仕度を行った。


 自分達も地面にシートを敷いて、食事を取る。

今日の食事は、ジャガイモと干し肉を適当に鍋に入れて煮込んだスープだ。

正直に言って、ちょっと物足りない。


 せめて、これに味噌を投入すれば、味噌汁と言い張れないこともないのだが、

周囲から全力でお断りされてしまった。

やはり、この地域の住人は味噌はだめらしい。


「……しかし、あれだな。

遺品の回収もアジトの探索も、結果は芳しくなかったな……」


自分用のスープに味噌を溶かしながら、何となく呟く。


 第5開拓村の住民達は邪教徒によって、アンデッドに変えられていた。

その数はざっと100名以上。

まともに戦うのは、困難であったため焼き討ちにしたのだが……


「開拓村の遺品については、年月の経過もありますし、

何より第5開拓村に攻め入る時に焼けてしまいました……

あ!もちろんご主人様を責めている訳ではありませんよ!

大事の前の小事、仕方のない犠牲というやつです!!」


エルは慌ててフォロー入れる。


「あそこで消耗するわけにも行かなかったからなぁ……

全て燃えなかっただけ、良しとするしかない」

 

 一応、幾らかの遺品は回収できたのだ。

使い込まれたナイフや剣、黒ずんだ指輪、首飾り、ボロボロの皮の鎧などなど。

遺体は異界の消滅と同時に灰になってしまったので、せめて遺品ぐらいは持ち帰りたい。

時間があれば、もう少し探索できたのだが、アウインに危機が迫っている以上、

探索は切り上げざえるを得なかった。


 冒険者ギルドから請けた『第5開拓村の遺品回収』の依頼は、

100点とは言えないが、せめて及第点は確保できたと思いたい。


「そうですとも。ソージ様が回収しようと言わなければ、もともとゼロだったのです。

文句を言われる所以はありません。

それに、『狼牙』は無事に回収できました」


 エルの父親の形見であり、ブラックファングのリーダーの証でもある刀『狼牙』。

この狼牙の回収がブラックファングからの依頼だった。


「……親父さんのことは残念だったな」


 狼牙はエルの父親が所持していた。

それはつまり、彼女は自身の手で父を殺すことになったということだ。


「……大丈夫です。父の最後の言葉は受け取りました。

私は父の分も生きていきます。

そして……父を、同胞を、弄んだ邪教徒は殺してやります」


 一瞬、むき出しの刃物のような殺意がエルの瞳に宿るが、

瞬きを1つすると、普段のエルに戻っている。

この切り替えの速さは、彼女の戦闘員としての訓練の賜物だろうか。


「……そうだな」


 少女が平然と殺すと主張する。

こんな世の中は間違っていると思うが、それを彼女に言っても仕方がない。


 特にエルの場合、自分の父親を殺され、アンデッドにされ、さらに人体改造に、ペット呼ばわり。

自分の肉親がこんな扱いを受けて、正気でいられる方が難しい。

むしろ彼女はよく自制していると賞賛されるぐらいだろう。


「……で、邪教徒のアジトの方は収穫はなかったんだよな」


スープを啜りながら、エリックとアンナの方に話題を向ける。


「はい。それらしいものは見つけましたが、

破棄された後でした」


「おしかったよな……たぶん、本当に直前まで使われてたぜ」


エリックとアンナは、残念そうに語る。

敵の研究資料から目的を調べようと思ったが、空振りになったわけだ。


「まあ、エリックやアンナのせいじゃないし、無い物は気にしても仕方がない。

幸い、敵の目的はルニア様が教えてくれた」


 アリスやルニアとの会話で得た情報をそのまま話すと自分のチートもばれてしまう。

そのため、適当に嘘を交えて、全てルニア様のおかげということにしている。


「邪教徒は死者蘇生の魔法『リザレクション』を習得するために、

神官の体を手に入れ、さらに人体改造によって、無理やりレベルを99まで引き上げるとは……

何と非道なことを!」


深い憤りに顔を歪めるエリックに対して、真顔で頷きつつ付け加える。


「それに加えて、奴等はアウインにまで攻め込むつもりだ。

絶対に阻止しなければならない。

でなければ第5開拓村で見た光景が、アウインでも起きることになる」


「……」


 皆、重い沈黙が流れる。

それはそうだ。誰だって、あんなものは見たくない。


「……ソージ様、あれからルニア様のお言葉はありましたか?」


重い沈黙を切り替えるように、エリックが口を開く。


「いや、前に伝えた通り、『使いの者を送るから、詳細はその者に尋ねろ』だけだ。

ああ、あともう1つ」


ごそごそと自分の鞄の中から、聖布で包まれた自分の右腕を取り出す。


「これを大事に持っておけ、と。

正直言って、気味が悪いから速く処分したいんだよなぁ……」


 アンデッド軍団との戦いにおいて、習得した聖騎士の最上級魔法『バニシング・レイ』。

ルニアの後押しもあり、膨大な魔力を注ぎ込んだその一撃は、敵の軍団を消滅させた。


 それで終われば、めでたしめでたし、だったのだが、

バニシング・レイの極光は、自分の右腕まで焼き切った。


 その後、右腕はヒールで元通りになったが、

炭化した右腕はそのまま消えることはなく、今も残っている。


「ですが、それが神のお言葉です。

宜しければ私がお預かりしましょうか?」


エリックはおそらく裏のない善意でそう言ってくれる。


「いや、いいよ。

エリックの事を信用していない訳ではないが、これは自分が持っておくべきものだと思う」


 この発言には嘘はない。

自分は『異端審問官』であるエリックの事を信用している。

だからこそ、この右腕から自分のチートがばれかねない。



「さて……このまま行けば、明日の午前中にはアウインにつくかな。

まあ、いろいろ合ったが、皆が無事で何よりさ。

とは言え、帰るまでが遠征だ」


「でも、帰りは順調だよなー。

行きはそこそこモンスターとの戦闘がけっこうあったけど、

帰りはこれまで一度もモンスターと遭遇してないぜ。

これは、神のご加護ってやつかもね」


アンナは、さすがソージは神に愛されていると、茶化してくる。


「加護かどうかは知らないが、まあ、戦闘があるよりはずっと良い。

最悪、邪教徒との遭遇も覚悟していたんだが……」


 遠征の帰り道、疲労の蓄積、もうすぐゴールだと思う油断。

もし自分が邪教徒ならば、仕掛けるなら、ここである。


 しかし、実際には邪教徒どころか、通常のモンスターさえ見かけない。

周囲は見晴らしの良い平原である以上、奇襲も考えずらい。

考えすぎだろうか。


「……いいえ、モンスターだけではありません。

野生の動物すら見ていません」


警戒を緩めかけた自分に、リゼットの言葉が突き刺さる。


「そういえば……」


 確かにリゼットの言う通りだった。

確かに、記憶を振り返ってみても、帰りでは自分達以外の生き物は見ていない。


 この世界はゲームではない。

いくらここが人間の領域ではなく、モンスターの領域だとは言っても、

必ずモンスターと遭遇するわけではない。

この世界ではモンスターも生態系の一員であり、

どこからとも無くポップしてくる存在ではないのだ。


 だから、モンスターと運良く出会わないことは、あり得ない事ではない。

しかし、それ以外の動物にすら出会わないのは、不自然だ。


 この状況、幸運と思っていたが、途端に薄ら寒い感覚に襲われる。

この静けさは幸運ではなく、ただの嵐の前の静けさなのではないか。



 やはり、ここは無理をしてでも急いでアウインに戻るべきか?

そう思考した時、周囲に大きな声が響く。


「おーい、ソージはいるか!!お客さんだ!!」


「……客?一体誰だ?

ここはサフィア河の西側、モンスターの領域だぞ」


 この遠征の詳細はシモンしか知らないはずだ。

しかし、そのシモンでも自分達の正確な位置を知るのは難しい。

なぜなら、大まかなルートは事前に決めているとはいっても、

モンスターや天候、地形の荒れ具合でルートは微調整するからだ。


 それ以外にも、例えばこの世界には探知魔法はあるが、範囲はせいぜい自分を中心に半径500メートル程度。

ゲーム風に言えば、フィールドの1区画ぐらいだ。

広大な平原のすべてをカバーするものではなく、どこに何がいるかなんて、普通は分からない。


「……まあ、悩んでいても仕方がない。分かった、通してくれ」


そして現れたのは馬に騎乗した2人の聖騎士であった。



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