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宗次は聖騎士に転職した  作者: キササギ
第3章 無法者達の楽園
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78話 喪失

今回は2話にわけて投稿します。

今回の話は、残酷な描写ありです。

 膨大な魔力が体の中をのた打ち回りながら、聖剣に向かって移動する。

狙い通り、膨大な魔力は剣に収まりきれず、爆発的に膨れ上がる。


 敵はアリスを含めて、半径200メートル。

剣から伸びる光線の長さは、それを軽く上回る。


これなら、いけるはずだ。


「リゼット!伏せろ!!

――極光よ、全てを飲み込め!!バニシング・レイ!!」


頭に閃いた呪文と共に、その暴力的な光線を水平に振り抜いた。





 聖剣『フルムーン』から放たれた白銀の閃光は全てを飲み込んだ。

水平に振り抜いた光線は白銀の軌跡を残し消滅する。


 極光が通り過ぎたあとには、アンデッドは下半身だけが残り、

上半身は最初から存在していなかったように、綺麗に無くなっていた。


そして、わずかに遅れて下半身も灰になって消滅する。


『バニシング・レイ』

レベル99の『聖騎士』が習得することの出来るスキル。

強力な光属性の攻撃系スキルであり、さらにアンデッドに対しては2倍の追加ダメージを与えるアンデッド特攻を持つ。


ちなみに、聖騎士は戦士と神官の複合職業のため、その組み合わせによって攻撃のタイプが異なる。


 メイン『戦士』、サブ『神官』の前衛型の聖騎士は、

武器にバニシングレイを付与しての連続攻撃を行う体術系スキルとなり、

メイン『神官』、サブ『戦士』の後衛型の聖騎士の場合は、

バニシングレイを光線として打ち出す魔法系スキルとなる。


 自分は前衛型の聖騎士だが、今の攻撃は明らかに魔法攻撃。

自分は意識して使ったつもりは無かったが、これもルニアの『手助け』なのか……


「まあ、いいか……これで、自分達の勝……」


「ヒ、ヒィッ!」


 その声に視線を向けると、腰を抜かし、尻餅をついたアリスが居た。

アリスは満身創痍ではるが、生きている。

どうやらバニシングレイの光は、腰を抜かしたアリスの頭上を通り抜けたらしい。


「はぁ、はぁ……ったく、往生際が、悪い」


 バニシングレイを使用したことで、自分のMPは再びゼロになってしまった。

再び頭を万力で押し潰すような頭痛に襲われるが、アリスを守る者はもういない。

アリスの手品チートの種も、もう残ってはいまい。

あとはリゼットにアリスの頭を打ち抜いてもらえば、

今度こそ、この戦いもお仕舞いだ。


 そこまで考えたところで、身体がぐらりと傾く。

慌てて聖剣を杖にして体を支えようとするが――




――右腕が無かった。


「ガハッ……あ?……え?」


 バランスを崩した身体は頭から地面に叩きつけられた。

痛みと混乱した頭のまま、何とか顔を動かして状況を確認する。

自分の目の前には、聖剣フルムーンと、その柄を握り締めたまま黒く炭化した『何か』。

自分の右肩を見ると、肩から先は何も無く、パラパラと炭化した皮膚が剥がれ落ちた。


「は……あ……あ……」


 アウイン水場での戦いを思い出す。

あの戦いにおいて、腕を失った女性に何度もヒールをかけたが、失った腕は治らなかった。


「あ……は……」


 アンナに『シャイニング・エッジ』の魔法を教えてもらったことを思い出す。

魔法を失敗した時、自分の手のひらは裂けて血が流れた。

攻撃魔法の失敗は、自分自身にもダメージを受ける。


「ひ……あ……」


 落ち着け!

崩れそうになる理性を叱咤する。


 落ち着いて考えろ!

敵はまだ目の前にいる。

理性を放棄していい状況じゃない。


 それに、自分もリゼットも生きている。

そうだ、生きている。

運上昇のスキルを使用することなく、生きているのだ。

自分の右腕1つで、2人分の命が無事なのだ。


 大丈夫だ、問題ない。

損はしていないはずだ。

だから、納得しろ。


納得しろ、納得しろ、納得しろ、納得しろ、納得しろ、

納得しろ、納得しろ、納得しろ、納得しろ、納得しろ、

納得しろ、納得しろ、納得しろ、納得しろ、納得しろ、



「納得できるか、くそがぁ!!」


 怒りをぶちまけ、盾を投げ捨て、炭化した右腕から聖剣をむしり取り、立ち上がる。

冷静な自分がまだ落ち着けと言っているが、知ったことか!


「……お前のせいだ! 全部、お前のせいだ!!

楽に死ねると思うなよ、邪教徒!!!!」


 頭の血管がぶち切れそうだが、知ったことか!!

悲鳴を上げる身体を無視して走る。



「あ、いや、くるな、こないで!!――や、闇の力よ、我が敵を飲み……」


「させるかぁ!!」


魔法を詠唱しようとするアリスに向かって、左手の聖剣を投げつける。


「ヒィッ!!」


 利き腕ではない左手で投げた聖剣はアリスに当らず明後日の方向に飛んでいった。

しかし、それに驚いたアリスの詠唱は止まった。


たかが剣を投げつけられたぐらいでビビリやがって、ど素人が!!


「うおおおおおおおおお!!」


「いや、来ないで!!」


「うるせぇ!!」


アリスのところまで走り、体当たりをぶちかます。


「キャア!!」


そのままマウントポジションを取り、拳を握り締め、アリスの顔面に叩きつける。


「痛い! 止めて! 止めてよ!

何で、私はまた家族と、お父様と、お母様と、弟と、一緒に、過ごしたかった、だけなのに!」


「てめぇの家族の事なんか、知ったことか!!」


アリスは抵抗するが、構わずに拳を何度も、何度も叩きつける。


「何が家族だ! 何が父だ! 何が母だ! 何が弟だ!!

被害者気取りか!! 悲劇のヒロイン気取りか!! クソが!!」


 頭を粉砕するつもりで拳を打ち続ける。

アリスの鼻は折れ、歯が砕け、顔中に青あざができるが、それだけだ。

致命傷には程遠い。


これがレベル99の防御力か、くそ、手間をかけさせる!


「だったら、これでどうだ!」


 腰のベルトからナイフを引き抜く。

ナイフを握った瞬間から剣スキルの効果発動。

利き手ではない左腕だが、これならば。


「や、やめてぇ!」


ナイフを振り上げる自分に対して、アリスは必死で腕を伸ばして抵抗する。


「邪魔をするな!!」


その腕を振り払い、ナイフで斬りつける。


「いたぁああいいいい!!」


 浅い。

剣スキルは発動しているはずだが、利き腕ではないせいか、

普段通りに腕が振れていない。

ナイフはわずかにアリスの肌を裂いただけで、これもまた致命傷には程遠い。


「チッ!だったら、こうだ!」


左腕のナイフをくるりと回転させ、逆手に持ち替える。


「ひぃ!!や、やめ!!」


 制止しようとするアリスの声を無視して、

左手のナイフをアリスの右目に突き刺した。


「いやぁあああああああああああああああ!!」


「クリティカルならば、刃は通る」


「私の目が、痛い、止めて、抜いてぇ!」


「……ほう」


ぐりり、とアリスの右目に突き刺したナイフを捻る。


「ヒギィ、ア、ヤダ、ヤメッ」


「御望み通り、抜いてやるよ」


ずぼり、と粘つく音を響かせながら、アリスの眼球ごとナイフを引き抜く。


「ひぎぃああああああああああああ!!」


 アリスの視神経がブチブチと音をたて、空洞になった眼窩からは、

血の涙が溢れ出す。


「……アンデッドらしい良い顔になったな。

お化け屋敷に行けば、人気者になれるぞ?」


アリスの眼球が刺さった穢れたナイフは投げ捨てる。


「こんな、酷い、酷いよ……

私の……願いは……そんなに……いけないことなの……」


アリスのずれた反論に、頭の血が一瞬で沸騰する。


「まだ被害者気分か! 化け物め!!

お前が第5開拓村の住人に何をしたか、忘れたとは言わせんぞ!!」


 死者の復活を願うことは、別に構わない。

だが、そのために他人を犠牲にしたのなら、もうこいつは被害者ではない。

こいつは加害者であり、薄汚い邪教徒だ。


アイテムコマンドを展開し、炎属性の片手剣『フランベルジュ』を選択する。


『フランベルジュ』

炎属性の片手剣。

真紅の刀身は炎のように波打ち、その複雑な形状の刃は相手の皮膚をずたずたに引き裂く。

さらに、この剣には付与エンチャント『発火』の特殊能力がある。

『発火』は相手にバッドステータス火傷を付与させる。


空中に現れたフランベルジュを左手で握り締める。


「お、お願い、もう止めて、謝るから……」


「俺はな……

別にお前に謝罪して欲しいわけでも、更生して欲しい訳でもないんだよ。

ただ死ね!それがお前が出来る唯一の贖罪だ!」


 仮に生前のアリスが家族思いの善良な少女だったとしよう。

でも関係ない、死ね!


 空になった眼窩に向けて、フランベルジュの切っ先を突き刺す。

頭の中は急所クリティカルだろう。

剣はそのまま眼窩を通り、脳に至る。


ぐちゃり、と脳を貫く手ごたえ。


「いやぁあああああああああああああああ!!

助けてぇええええ、お父様ぁ、お母様ぁ!!」


「……これで、終わりだ」


 突き刺したフランベルジュが真紅に輝く。

その刀身に刻まれた『発火』の付与エンチャントが発動し、アリスの頭の中で燃え上がる。


「あ、わたしは、また、家族と、やり直し、たかった、だけなの……に……」


 ボンッと言う音と共にアリスの目や耳から煙が昇り、アリスの頭がごとりと落ちる。

遅れて、落ちた頭と体が灰になり崩れていく。


「はぁ、はぁ、くっ!」


 アリスが死んだことで、暗黒に包まれた異界にみしみしと亀裂が入る。

そして、異界はガラスの様に砕け、一瞬にして世界は光に包まれる。


 どこまでも澄んだ青い空に、暖かい太陽の光、、頬に触れる優しい風。

それとは反対に、アリスの返り血で汚れ、右腕を喪失したボロボロの自分。

たった今、血みどろの戦いをしたばかりだと言うのに、

外の世界は気が抜けるほどにのどかであった。


自分の目の前に広がる美しい自然が、いっそ憎憎しい。



「はぁ、はぁ……何が家族だ……」


 アリスは最後まで被害者気分で逝った。

邪教徒に対して何の期待もしていなかったが、それはあまりにも虚しい。


 自分は右腕を喪失したのに、アリスにそれだけの価値はあったのか?

どうせ右腕を失うなら、相手は一本筋の通った『悪』であれば良かった。

それならば、まだ納得できた。


「はぁ、はぁ、はぁ……何が邪教徒だ!

何が不老不死だ!

何が死者蘇生だ!!

邪教徒だっつうならな、蘇ってみせろ!!

俺はまだ殺したりないぞ、邪教徒が!!!」


アリスの残骸に拳を叩きつけるが、ただ灰が空に舞うだけだった。


という訳で、3章ボス

アリス戦は終了。


アリスはルニアに心を折られ、ソージに嬲り殺しにされて死ぬことに。

まあ、チート持ちでも元は貴族のお嬢さんでしかないので、仕方がないですね。


次話は、喪失したソージの右腕の話をして、3章は終了です。

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