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宗次は聖騎士に転職した  作者: キササギ
第3章 無法者達の楽園
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77話 女神ルニア

 何か大変な事になっている。

自分の身体は鎧姿から、漆黒のドレスに変わっていた。


 いや、それだけではない。

ドレスの上からでも分かるほどの豊満な胸があり、

手も色白のか細い女性の手に変わってしまっていた。


 感覚のない身体は独りでに立ち上がる。

その視界は、普段よりも若干低い。


そんな自分の驚きを余所に、自分の体を乗っ取った『何か』は宣言する。


『――妾が月の女神ルニアである』




 ルニア?

マーヤ教の月の女神であり、死の女神でもある、あの『ルニア』か?


『そう言うておる。

ふむ……力を制限しているとはいえ、妾の姿すら映し出すか』


 そう言うと、ルニアは地面に突き刺した自分の聖剣『ムーンライトセイバー』に触れる。

すると、聖剣にノイズが走り、まるで最初からそうであったかのように、剣の姿が一瞬で変わる。


 聖剣『フルムーン』

聖騎士の剣の中では、最上級の片手剣。

白銀色の刀身は、より澄んだ輝きになり、

金色の装飾と紋様が剣に刻まれている。


 刀身の幅はより細く、より鋭くなったが、頼りなさは感じない。

まるで斬る事に特化したような、洗練された趣がある。


『ふん。妾の姿だけではなく、装備までもか。

これは妾の想像以上に厄介であるな』



 ッ!そうだ!

説明しろ!何で自分はルニアの姿になっている!

なぜ自分の体を乗っ取った!

いや、そもそも自分は何でこの世界に来たんだ!

知っているんだろう、今すぐ説明しろ!

あと、身体を返せ!


『落ち着くが良い。

そうさな。こうして出てきた以上、説明することはやぶさかではない。

まず、出てきた理由だが……お主のスキル『運上昇』あれは良くない』


 運上昇?

たかが運を上げるだけだろう?

確かに、運のステータスを上げるのは、まさに卑怯チートな感じはするが……

今まで何の反応も無かった女神が、わざわざ身体を乗っ取って出てくるほどか?


『筋力の上昇や回復魔法であるのなら、それはお主にのみ影響する。

だが、運上昇は違う。

運が良くなるというのは、お主に都合が良いように世界の法則が変わるということだ』


世界の法則とは、また大げさな話だ。


『大げさではない。

お主自身、実験しておっただろう。

コインを投げれば、狙った目が出る確率は50%に収束する。

どちらかに偏ることはない』


 ルニアの言うとおり、自分は運に対して実験を行っている。

試行回数は2000回程度だが、コイントスにおいて60%程度で狙った目を出せていた。


普通に考えれば、これはあり得ないことだ。


『そう、あり得ない事だし、あってはならないことだ。

なぜなら、お主の方に傾いた運のしわ寄せは他者が行うことになる。

お主にとって都合の良い世界とは、他者にとって都合の悪い世界なのだ』


 それはそうだ。

仮にコイントスで賭けを行えば、何もせずとも自分が有利なのだ。

短期的に負けることはあるかもしれないが、長期的に見れば絶対に負けることはない。


『そういう事だ。

運上昇レベル1でも使い方次第では、大きな利益を上げられる。

さらに上のレベルでは、文字通り『お主を中心に世界が回る』。

……妾はそれを認めない』


 それは確かに認められないし、自分も要らない。

そんな自分のための、自分だけの世界なんて気持ち悪いだけだろう。

だが……それでも使わなければ死ぬというのなら、使うしかない。


 自分が失敗した結果、自分が死ぬのは構わない。

しかし、リゼットやアンナ達を巻き込みたくはない。

だったら、自分にできることは何でもする。

その結果、お前が自分を殺すというなら、好きにすれば良いさ。


『なるほど……人が邪教に堕ちる理由は、ソレか。

愛すればこそ、大切にすればこそ……ソレ以外を、自分すらも切り捨てる』


 勝手に自分をその他大勢の『人』にまとめるな!

自分がそうだというだけで、他の人間は知らん。


 お前はまるで、自分がアリスや他の邪教徒と同じだと言うが……

実際、同じなのかもしれないが……非常に不愉快だ。



「な、何でアンタが出てくるのよ!

お母様が死んだときも、弟のアランが死んだときも、私は何度も祈ったのに!

何で、助けてくれなかったのよ!!

私を助けてくれなかったくせに、その聖騎士は助けるの!!」


 自分とルニアが会話をしていた時間は、実際にはほんの僅かな時間だったようだ。

アリスは全身を怒りに震わせ叫ぶ。


その魂を震わせるような慟哭に、しかし神はきょとんとした声で答える。


『……?

それは違うぞ、邪教徒よ。

神は人を救わない』


「人を、救わない……ですって?」


『人は神が全知全能だと思っているようだが、それは違う。

妾も、太陽の女神サニアも、主神マーヤが創造した世界を滞りなく運営するための管理者に過ぎん。

例えば、我々が人に呪文を授けるのもその一環に過ぎぬ。

我々が直接人の生き死にを左右することはないのだ』


 ルニアはあくまでも自分は、この世界の管理者であり、

人の生き死にには関係ないという。

しかし、その言葉にはおかしい点がある。


 この世界はゲームであるフラグメントワールドの影響が大きい。

ステータスやアイテム、街の名前、さらに言語が日本語であること等等……

ここまで一致するはずがない。


これがまったくの偶然で、神の介入が無かったとは言えないはずだ。


『この世界はお主が言うところの『フラグメントワールド』を元にデザインされておる。

妾もサニアもフラグメントワールドに出てくる神だから、そういう役割で創造されたに過ぎん。

さらに言えば、この世界を作ったという主神マーヤすらな。

故に、お主が拠点にしておるアウインという街が出来ることは確定していた』


「じゃあ、何、私達の一生は神々に決められているというの?

お母様もアランも死ぬのが決まっていたと!!」


 それだけではない。

ゲームには開拓村なんてなかったのだ。

第1から第5までの開拓村が失敗していることも決定していたと言うのか!

さらに、今開拓している第6開拓村も!!


『半分正解であり、半分間違いである。

なぜならば、主神マーヤのデザインは、この世界で言うところの200年前に既に終わっておる。

主神マーヤは役目を終え、この世界にはもう居ない。

この世界がどの様な歴史を辿るのかは、もはや神ですら分からぬ』


 つまり、神の介入があったのは最初だけで、

フラグメントワールドの再現が終わった段階で、神の手を離れたと言うことか。

なんと言うか、微妙だな。


 神がラスボスのゲームはあるが、仮にルニアを倒したところで、

今を生きている自分達には意味がない。


『お主も一応、神官の端くれだろうに……意味はあるぞ。

この世界において魂の総量は決まっておる。

サニアが祝福しこの世界に生まれた魂は、

死後、妾が浄化を行い、サニアに渡す。

故に妾が死ねば、いずれ生まれてくる魂はなくなり、この世界は終わる』


 つまり、この世界において、魂は輪廻転生を繰り返しているというのだ。

これでは、むしろ殺してはならない。

少々モヤモヤしたものが残るが、今を生きている自分達が神に縛られている訳でないなら、

それで納得するしかなさそうだ。


しかし、目の前のアリスは納得できない。


「じゃあ、何でよ!

お母様もアランも何で死んだのよ!!」


 アリスの言葉を聞いたルニアは何もない空間をタップする。

すると、光で出来た半透明のディスプレイが現れる。


『アラン・ゴーン……ふむ。

享年6ヶ月。

風邪をこじらせた結果の病死だな。

安心するが良い。この結果に神の介入はない』


「何が安心しろよ!!

分かってない。やっぱり神様には私達の苦しみなんて分からないんだわ!」


アリスは憎悪を瞳に宿し、激昂する。


「もういい!私達はもう神々に祈らない!!

アウインに攻め込み、お母様も弟も取り返す。

そして、エミール様に蘇生してもらう!!」


 なるほど、それがアリスの目的か。

しかし、アリスの叫びに対して、ルニアは首を振る。


『それは無理だぞ、邪教徒よ。

なぜなら、2人の魂は妾が責任を持って浄化を行い、既にサニアに渡しておる。

安心するがよい。

詳細は話せぬが、既に転生し、新しい一生を送っておるよ』


「なん、です、って……」


 つまり、リザレクションの魔法でも蘇生は叶わないという事だ。

それは同時に、アリスの目的が潰えたと言うことでもある。

ふん、ざまあみろ。


「嘘よ、嘘よ、嘘よ!!

だってエミール様は言ってくれたわ!

必ず蘇らせてくれるって!!

また、家族みんなで生活できるって!!」


アリスはその事実を受け入れることが出来ず、耳を塞ぎ、首を振る。


「認めない!!私は絶対に認めない!!

殺せ!殺しなさい!」


 半狂乱に陥ったアリスは、アンデッド軍団に再び進軍の指示を飛ばす。

そうだった、未だ自分達は窮地にいたのだ。



 おい、どうするんだルニア!

敵が来るぞ。

こっちの起死回生の策を邪魔したんだ。

何か手助けしてくれるんだろうな!!


助けてくれないなら、運上昇のチートを使うぞ!!



『ふむ、力を貸すことはやぶさかではないが……

1つ、お主に質問がある』


何だ、こんな時に!


『なぜお主は邪教徒と戦うのだ?』


は?


『妾は一度たりとも、お主に邪教徒を殺せと命じたことはない。

お主は我らの信徒でもないだろう。

だのに、なぜ邪教徒と戦うのだ?』


 今更、それを言うのか。

この世界に来たときから、聖印の奥に気配があることは知っていた。

ならば、お前は知っているはずだ。


『妾がお主を監視していたことは事実だが、それは違う。

妾は全知全能ではない。

妾が知っているのは、お主が何を見て、何を成したかに過ぎない。

しかし、お主が何を思っていたのかは分からぬ』


分からない?


『そうだ、分からぬ。

無論、予想は出来る。

しかし言葉に出さねば、人の心の内は分からぬのだ』


それでは、人間と変わらない。


『そうだとも。

妾はブルード鉱山にソウルイーターが居た事も知らなかった。

アウインの街の下にアンデッドスライムが潜んでいることも知らなかった。

もちろん、第5開拓村の現状もな……』


えぇ……


『全てはお主がやったことだ。

お主がやったからこそ、妾も敵を知ることが出来た。

お主には感謝しておるし、多少の違反行為チートは目を瞑ろう。

しかし、理由が分からぬのだ。

お主にとって、邪教徒は本来、何の関係もないはずだろう?』


 関係ないだと……あるに決まっているだろうが!

ソウルイーターはトマを殺し、身体を乗っ取った。

第6開拓村の輸送路では、何の罪もない商人の一家と冒険者が無残に殺された。

アウインでは、34名の人間がアンデッドスライムによって殺された。

そして、第5開拓村ではブラックファングの団員を含む開拓民が、全てアンデッドにされた。


 邪教徒は普通じゃない。

奴等は、あっけないほど簡単に人を殺す。

奴らを放置しておいたら、どうなるか分かったもんじゃない。


ルニアが知っているかは知らないが、こちらの世界のとある牧師がこんな言葉を残している。



 ナチスが最初に共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった。

なぜなら、私は共産主義者ではなかったから。


 ナチスが社会民主主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった。

なぜなら、私は社会民主主義ではなかったから。


 ナチスが労働組合員たちを攻撃したとき、私は声をあげなかった。

なぜなら、私は労働組合員ではなかったから。


 ナチスが教会を攻撃したとき、私は初めて声をあげた。

なぜなら、私は牧師だったから。

しかし、それはあまりにも遅すぎた。



 自分も同じだ。

関係ないと高をくくっていると、リゼットやアンナ達が知らぬ間に犠牲になるかもしれない。

誰かが邪教徒を自分の代わりに殺してくれるなら、それで構わないが、

そんな都合のいい人間なんていないだろう。


 だったら自分でやるしかない。

やられる前にやる。

自分には、戦うチートがあるのだ。

戦わない理由がどこにある。


『ふむ……であるならば、我らの目的は一致する訳だ』


つまり、手助けしてくれるのか?


『勘違いをするでない。

決着をつけるのは、あくまでお主達だ。

妾は、ただ少し力を貸すだけに過ぎん。

……努々忘れぬことだ。

妾の目的は、この世界を滞りなく運営すること。

お主がその障害となるならば、その時には妾がお主を殺すことになる』



 その言葉を最後に、ルニアの気配が消え、姿も元の姿に戻る。

手足も自分の意志で動く、その事に安心した瞬間。


「ガッ!!ハァ!!」


 MP減少による頭痛は消えた。

しかし、体が燃えるように熱い。

いや、爆発しそうだ。


---------------------------------------

Lv7X

名X:ソッぺーゲjrジ

種K:ヒuーマ+

s業:聖#士

mイn職業:<士

サM職業:神?


HP:2BE

MP:50C8

----------------------------------------


 ステータスがバグってるじゃねーか!!

何をしやがった、あのクソ女神!!


心の中で叫びを上げると、ステータスが元に戻る。


---------------------------------------

Lv75

名前:ソージ

種族:ヒューマン

職業:聖騎士

メイン職業:戦士

サブ職業:神官


HP:702

MP:20680

----------------------------------------


 MP『20680』だって!!

道理で身体が爆発しそうになるはずだ。

自分の元々のMPは『316』、実に65倍以上のMPが、この身体の中に無理やり詰め込まれたのだから。


「これ、が、神の、手助け、ガァ!」


 MPが増えれば出来る事は増えるが、これはまずい。

風船に空気を入れ続ければ、破裂するのと同様。

自分の身体に入りきれないMPで身体が弾けそうだ。


 そうなれば、この膨大な魔力が周囲を飲み込むだろう。

自分はもちろん死んでしまうが、被害はそれだけで収まらない。

アリスもアンデッド軍団も、何よりもリゼットまで吹き飛ばしてしまうことになる。


 「く、そが……

それ、だけは、何と、しても、防がな、ければ……」


 崩れそうな身体が、地面に突き刺してある聖剣に触れる。

その聖剣は『ムーンライトセイバー』ではなく、ルニアが変えた最上級の聖剣『フルムーン』のままだった。

装備が良くなったことは喜ぶべきなんだろうが、今はそれどころではない。


「ソージさん!敵が来ます!!」


「GAAAAAAAAAAAAA!!」


 爆発的な魔力によって動けない自分とは関係なしに、敵は確実に距離を詰める。

999体のアンデッドの軍団が、砂煙を上げながら距離を詰める。

残り100メートル。


 リゼットはロングボウからクレセントムーンに持ち替え、矢を打ち出すが、

如何せん敵の数が多すぎる。

リゼットの矢が一瞬で10体のアンデッドを倒したが、

アンデッドの軍団は仲間の死体を踏み越え、迫る。


「ガ、クそ、が!!」


 何とかしないといけないのは分かっているが、動けない。

MPが回復したのなら、六重聖域を再び展開すればよいのだが、

あれは、6個の正確な魔法陣を作り出す必要がある。

今はそのイメージすらままならない。


 どうすればいい。

とにかく戦う体制を整えようと聖剣を握ったとき、ソウルイーターの事を思い出す。


確か、あいつは膨大な魔力を使って、剣先から魔法の刃を光線の様に出していたはずだ。


「それ、だ!」


 無我夢中で、聖剣『フルムーン』を握りしめ、身体からあふれそうになる魔力を全て聖剣に叩き込む。

イメージもクソもない、とにかく聖剣に魔力を流して、特大の魔法の刃を作るのだ。


「がああああああ!!!!」


 膨大な魔力が体の中をのた打ち回りながら、聖剣に向かって移動する。

狙い通り、膨大な魔力は剣に収まりきれず、爆発的に膨れ上がる。


 敵はアリスを含めて、半径200メートル。

剣から伸びる光線の長さは、それを軽く上回る。


これなら、いけるはずだ。


「リゼット!伏せろ!!

――極光よ、全てを飲み込め!!バニシング・レイ!!」


頭に閃いた呪文と共に、その暴力的な光線を水平に振り抜いた。



という訳で、女神ルニアの回。

本当はソージがこの世界に来た理由とか、

もう少し説明したいこともあったけど、

敵と相対している状況だとこの程度が限界ですね。


その辺りの事情は4章で改めて説明します。


アリス戦は、次話で決着です。

散々人が死んでる私の小説では、今更な話ですが、

一応、次話は『残酷な描写あり』になります。

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