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宗次は聖騎士に転職した  作者: キササギ
プロローグ
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8話 戦いを終えて

 教会からの応援も到着し、事態は収束に向かっていた。

バリケード内にも神官達が到着し治療や負傷者の輸送が始められていた。

プロの神官達が動き始めると、回復魔法が使えるだけの聖騎士もどきに出来ることは無くなくなってしまう。


 精神的にボロボロの体を引きずり、神官達の邪魔にならないようにバリケードの隅で回復の体勢を取る。


 今回の騒動において、自分が治療を担当した人々は全員助けることが出来た。

ただし、手足の欠損などに目を瞑れば、という条件が付くのだが……

それでもバリケードまでたどり着けた人は運が良かったのだ。


 バリケードの外を見ると、死体の埋葬の準備が進められていた。

その光景を見て思う。

モンスターに襲われた後に残る死体は、本当に無残だと。


 手足が欠けている者、

体が真っ二つに切断されている者、

酷いものは原形をとどめず潰された肉塊になってしまった者もいた。


 本来なら発狂ものの光景だと思うが、

大量のMP消費により、疲れきった頭では特に何も感じなかった。


「しかし、誰も蘇生魔法を使わないんだな……

いや、使えないのか。」


 ゲームだった時のフラグメントワールドにおいて、

死者の蘇生はハードルが高かった。

蘇生魔法『リザレクション』を覚えることが出来るのは『神官×神官』の純粋な神官のみ。

しかも、習得にはレベル99が必要であり、さらに特殊クエストもクリアしなければならなかった。


 もうひとつの蘇生手段として『復活のポーション』があるが、

このポーションを作成できるのは『神官×商人』の組み合わせの職業である医者(メディック)だけだ。

こちらもスキルを覚えるためにはレベル99が必要で、さらに希少な素材を集める必要がある。


 結局のところ、フラグメントワールドでは死んだら素直にデスペナ受けて死に戻れ、ということなのだ。

実際、デスペナは経験値の5%がロストするだけなので大した事は無い。


 では、異世界となったフラグメントワールドではどうだろうか?

蘇生の術はおそらくゲームだった時と同様にあると思う。

しかし、30人近い神官団の誰一人として蘇生魔法を使わないところを見ると、

蘇生魔法の使い手はほとんどおらず、死んだら終わりと考えたほうが良さそうだ。


 教会の神官達は文句も言わず、淡々と死体を処理していく。

彼らは散らばった死体を集め、聖水を撒き、

聖布とよばれる布で死体を包む。


 この世界にはアンデッドが存在している。

死体は聖水で清め、聖布で包み、祈りを捧げ、きちんと埋葬しなければアンデッドとして蘇り、生者を襲う。


 その為、現実世界以上に神官の役目は重要であり高い権威を持つ。

まあ、自分は葬式の手順までは知らないので、

バリケードの隅で彼らの作業を見ていることしか出来ないのだが。



 神官達の作業をぼんやり眺めていると、

バリケード内で言い争う声が聞こえてきた。


「おい、わしのパスカルを助けてくれ!」


「残念ですが、我々ではこの倒れた荷台を動かすことは出来ません。

 せめて、苦しみから救うために介錯をしてあげるべきでしょう。」


「ふざけるな!死ぬことが救いだと!

 そんなことがあってたまるか!」


必死の形相で神官に食ってかかる男は先程の商人だ。


商人は馬のパスカルの助けを求めているが……

まあ無理だろう。


 ここにいる神官たちは見た目、体の線が細い。

おそらく普段の彼らの仕事は、神殿で祈りを捧げることだと思われる。

そんな彼らに見た目1トンぐらいありそうな馬車の荷台を動かせというのは、

さすがに酷だろう。


「……どっこいしょ……」

文字通り、重い腰を上げて立ち上がる。


「……自分がやりますよ。」


 先程まですっかり忘れていたが、自分はこの馬を助けると言ったのだ。

ならば、自分がやらねばならないだろう。

幸いMPは40%程度回復している。

まだ、頭痛は残っているが、まあ何とかなるだろう。



商人の前を通り、荷台の前に立つ。


「でかいな……」


 横倒しになってなお自分の身長よりも高い。

ざっと3メートルぐらいか。

輸送時のモンスターの襲撃を想定してか、箱のような荷台の造りはしっかりとしており、所々鉄の板で補強がされている。

そのため、荷台は横倒しになっていても壊れず、原形を保っている。


 仮に、これを壊すなら本気で打ち込む必要があるだろう。

壊れた馬車を撤去するだけならそれもいいだろうが、

荷台の下にいる馬を傷つけずに助けるのは無理そうだ。


「ならば、ここは素直に持ち上げるか」


 頭の中でスキルメニューを展開。

攻撃力増加魔法『ブレイブ』を選択する。

体の中から熱があふれ出し力がみなぎる。


「ふっ―――。いくぞ!!」


馬車の近くに人がいないことを確認すると腰を落とし、荷台の縁を掴む。


「ふん―――!!」


 この手の重量物を持つときに重要なのは腰と膝だ。

大学生のころに引越しのバイトをしていた時に教わったのだが、

腕の力だけで持ち上げようとしても持ち上がらない。

しかし、全身の力をうまく使えれば以外と持ち上がるのだ。


 まして今の自分は常人とはかけ離れた身体能力を持つLv70以上の前衛職。

回復では少ないMPと魔力に苦戦したが、力仕事はこちらの領分だ。

さらにパッシブスキル『筋力上昇』とブレイブの魔法による底上げによって強化したこの身体。

今までの経験から1トンぐらい行ける筈だ。


「ぬぉおおおおおおお!!!」

渾身の力を込め、馬車を押し上げる。


 ずしんと、いう地響きと共に横倒しになっていた馬車は、

勢い余って反対側にひっくり返る。

「はぁ、はぁ……よし!成功!」


 大きくガッツポーズを決めるが、緊張が緩んだせいでMP不足による頭痛が再発し、ふらりと倒れそうになる。


「ちょっと、大丈夫ですか?」


「あー、頭痛い……

 自分は大丈夫です。すみませんが馬の回復お願いします。」


 倒れそうな体は自力で持ち直したが、回復までは正直きついため、

教会の神官に回復を依頼する。


「わかりました……ヒール!」


 神官の回復魔法により、パスカルの周りを光が包み折れた足が元に戻っていく。

回復が終わるとそれまで、大人しくじっとしていたパスカルが立ち上がる。

倒れていた時には気付かなかったが、その大きさは3メートル近くあり、

こちらの世界の馬とはまったく異なっていた。

そういえば、魔物使い(モンスターテイマー)の操る乗り物にこんな馬がいたなと、今更思い出す。


「おお!!

 良かった、良かった……」

起き上がったパスカルを見て、商人は泣きながら抱きついた。



 しばらく、そうしていると商人は咳払いをひとつして、

こちらに向き直る。


「聖騎士殿。

パスカルを助けて頂き、ありがとうございます。

わしの名はダニエル・カント。

王都でカント商会の長をしている。

名を教えて頂けないだろうか。」


 商人『ダニエル』はステータスを表示し自己紹介を行う。

その様は先程まで、喚き散らしていた人間とは思えない。


 それはそれとして、カント商会か……

まずいな、知らない名だ。

そもそも、ゲームだった時は道具屋、武器屋といったように個別の名前は付いていなかった。

彼の商会がどの程度の規模か分からないが、

もしかして、とても偉い人なのではないのだろうか?

しかし、なんでこんなお偉いさんがここにいるんだ?


とりあえず、こちらもステータスを表示する。


「ソージです。失礼ですが、商会の主がなぜこんなところに?」


「わしは商会の中でじっとしているのは性に合わんでな。

駆け出しのころから、パスカルと一緒に直に市場を見て回っているのだよ」


なんと言うか、アグレッシブなおっさんだなぁ。


「なるほど……

ダニエルさんは、これからどうするですか?」


 荷馬車に積んであった荷物は地面に投げ出されており、

商品としては、とても使えるような状態ではない。

さらに、馬は回復魔法によって回復したが馬車は車輪が外れており、

動かすことは出来ないだろう。


「心配には及ばんよ。ここアウインにも商会の支部がある。

しばらくはそこに滞在するとしよう。

ソージ殿、改めて礼を言う。今は手持ちが無いが必ず礼をしよう。」


「いえ、いいですよ。

神官の務めというやつです」


「ふむ、そうか。

では、困った時はカント商会に来るといい。

出来る限り手を貸そうではないか。」


「そうですね。

その時はよろしくお願いします。」


「では、さらばだ。」


そうして、ダニエルさんはパスカルと共に城門の中に入っていった。


「悪い人では無いんだろうけど、

ナチュラルに上から目線だったなぁ……」


 まあ、実際偉い人なんだろう。

今度カント商会について調べておこう。




 商人が去った後、バリケード内に人は居なくなり、

城の守備隊がバリケードの撤去を開始した。

自分は作業の邪魔にならないように、水場の隅に移動し再び回復の体制をとる。


 魔人との戦いも既に終わっており、

死体となった魔人が荷馬車に乗せられ、城壁内に輸送される。

ゲームだった時、魔人のドロップ品は爪と牙だったが、

残りの身体も研究等に使われるのだろうか。


「おう、ひでぇ顔だな大丈夫か?」

そこへアルフレッドが現れる。


「お互いな。

あれ、腕治ってる?」


アルフレッドの折れていた腕は、元通りになっていた。


「ああ、さっき姐御に直してもらったから大丈夫だぜ」


 彼にも後で治療すると言っていたのだが、忘れていた。

いかんな、先程から物忘れがひどい。

MP消費のせいなのか、慣れない緊急事態で頭の働きが鈍っているのか、

何にせよ、約束をすっぽかすのは良くない。


「そうか、悪いな。すっかり忘れてた。」


「別にあんたが謝る事はないさ。

世話になったのはこちらのほうだからな。

依頼人が言ってたぜ、あんたが居なけりゃ、今頃死んでたってな」


 彼の依頼人が誰かは分からないが、

自分が役に立ったのなら良かったと思う。


「本当にありがとうよ。

……今回の依頼は失敗ですんだが、

護衛の依頼で依頼人を死なせちまったら冒険者失格だからな。」


「まあ、困った時はお互い様ということでいいさ。

今度、またギルドで分からないことがあった時は教えてくれ」


「お、おう……」

露骨にいやそうな顔をされたが、まあいいだろう。


「さてと、気は進まねぇが、俺はギルドに報告に行かなきゃならんからな。

ソージ、酒は飲めるほうか?今度一杯おごるぜ、じゃあな。」

そうしてアルフレッドは城門へ向かった。


 それにしても冒険者は大変だな。

イレギュラーなモンスターの襲撃に対して、

自分自身も大怪我を負いながら戦ったのに、依頼は失敗扱い。

怪我の治療はミレーユさんが行ったようだが、

違約金や武器や防具の整備代を考えると完全に赤字だろう。


 そういえば、ミレーユさんの姿が見えない。

神官団が治療に来たとき、神官団の団長に何やら話している姿を見たが、

それ以来見ていない。


「ああ、ここにいた!お疲れ様。」


噂をすればなんとやら、ミレーユさんから声がかかる。


「ごめんなさいね。

 私もあそこまで状況が悪いとは思わなくてさ。」


ミレーユさんは自分の隣に腰を下ろすと、謝罪の言葉を口にする。


「まあ、それはいいですよ。

不謹慎ですけど、いい経験になりましたし。」


「そっか……」


「……」


 そのまま、言葉が途切れる。

思えばミレーユさんとは情報収集のためにギルドに行ったときに何度か話をしただけで、実は彼女のことはよく知らない。


 なんと言葉をかければよいか悩んでいると、

ミレーユさんはタバコのようなものを取り出し、火をつける。


「……ん、吸う?」


「ミレーユさん、それタバコですか?」


 自分も一応喫煙者だが、会社での付き合いで吸っている程度だ。

積極的にタバコを吸う人間ではない。

というか、タバコがあるんだな、この世界。


「んー、ただのタバコじゃないわ。

まあ、説明するよりも試してみるといいよ。」


 そう言うと、吸っていたたばこをそのまま渡してくる。

えっと、これ、吸うのか?


「って、何意識してんのよ~。この、この~」


 バシバシと背中を叩かれる。

まあ、確かに間接キスがどうとか気にするような歳でもないか。

そう考えなおして吸ってみる。


「んぅ、これは……」


 吸った瞬間、口の中に広がるのはミントのような清涼感。

鈍っていた頭からもやが晴れていくようだ。

実際、ステータス画面のMPが回復していた。

おそらく、たばこの葉の代わりに薬草などを使っているのだろう。


「うん、すごい。

……しかし、知らなかったな。こんなアイテムがあったなんて」


「そりゃそうよ。非売品だし、知り合いの錬金術士に作ってもらったのよ」


ミレーユさんは新しい薬草タバコを取り出すと火をつけて吸う。

フラグメントワールドには無かったアイテムか……

ふむ、これは工夫次第でいろいろ出来そうだ。


しばらく無言で吸っていると、ぽつりとミレーユさんが口にする。


「……それにしても、貴方もよくやるわね。

報酬は出ないのに」


「まあ、そうですよね……

でも、それはミレーユさんも同じでしょう?」


 勢いで手伝ったが、確かに俺が助ける義理は無い。

とは言え、目の前に死にそうな人がいて、報酬が無いからと見捨てることはさすがに出来ない。


「私はいいのよ。私は冒険者側では無くてギルド側の人間だもの。

でも、あなたは違う。あなたは一応冒険者側の人間でしょう。

……なぜ、あそこまで無理をしたの?

下手をすれば、あなたも死んでいたかもしれないのに。」


「……?

ああ、魔人やワイバーンですか?

自分はレベル70以上あるんで死ぬほどの危険はないですよ。」


あの時、一撃で殺しそこねたが、普通に戦えばまず負けることは無いはずだ。


「そうじゃない。

あなた、MPが10%になるまで回復魔法を使っていたでしょ。

私はそこまで無理をして欲しいとは思って無かったわ」


「まあ、頭痛は酷かったですけど、でも目の前に助けを求める人がいて、

頭痛がするからちょっと待ってくれとは言えんでしょう」


 自分の言葉を聞いたミレーユさんの顔が強張る。

なぜだろう、何か話が噛み合っていない気がする。


「……そう、いうこと。

もしかして……あなた、記憶が無いでしょう」


ミレーユさんは断言した。


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