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宗次は聖騎士に転職した  作者: キササギ
第3章 無法者達の楽園
72/115

69話 第5開拓村へ

設定変更のお知らせ

第8話、第9話でフラグメントワールドでは、

蘇生魔法の習得には、レベル70が必要としていましたが、

レベル99に変更します。


レベル70程度では、ソージの性格だと習得しようとしてしまうので、

蘇生魔法習得のハードルを上げました。

「教会の聖騎士団は動かせませんが、

ソージだけに危険を負わせるつもりはありません。

……エリック」


「は!」


シモンに声をかけられたエリックは、立ち上がり右手を胸に当てる。


「南部教会司教ソージと共に第5開拓村に赴き、邪教徒を調査せよ!」


「了解しました!」


こうして、なぜか異端審問官のエリックと第5開拓村に行くことになったのだ。




 教会から許可が出た後、準備はスムーズに進み、

3日後には第5開拓村へ出発した。


 第5開拓村はアウインから西に馬車で5日。

馬車は3台、ブラックファングの精鋭30名が護衛を勤める。

今回の遠征では、ブラックファングのリーダーであるレンさんは同行せず、

レンさんの息子である『レノ』が統率を行う。


 また、馬車の護衛の中には、エルの兄であるエンの姿もあったが、

彼との仲は微妙なままだ。


 一応、前回のアレで反省はしたのか、

挨拶をすれば、ぶっきらぼうに挨拶を返しはする。

ただし、それ以上の会話は続かない。


 まあ、自分も会話が得意な方でもないので、

馬車の護衛をきちんとやってくれるなら、それで文句はない。




 今回、3台の馬車の内、1台は自分達に割り当てられおり、

道中の護衛は全てブラックファングが請け負ってくれる。

今、自分の乗っている馬車の中には、リゼット、アンナ、エル……

そして異端審問官のエリックが居る、居るのだ。


 そのエリックは馬車の隅で静かに聖書を読んでいる。

今回の遠征では、彼と四六時中一緒に居なければならない。

本当にどうしてこうなった。


 自分のチートもそうだが、ブラックファングはそれ以上に問題が多い。

ブラックファング自体が非合法組織であり、怪しい薬や物品のやり取りをしている。

さらに、教会に馴染めずドロップアウトした不良神官も所属している。


 それらは、異端審問官の処罰対象という訳ではないが、

教会の秩序を守ることを職務とする彼にとって、好ましい存在ではないはずだ。


 エリックは事情は察していますと言っているが、どうにも不安だ。

彼は職務に忠実で、融通が利かないところがある。

今まで見えないところに居たブラックファングの人間と、

これからしばらく共同生活を行うことになるのだ。

実際に、彼らを目の当たりにして、本当に問題は起きないのだろうか?


 仮に問題が起きたとしたら、自分が仲裁を行わないといけないんだから、

まったく頭の痛い話だ。


 ちなみに、ブラックファングの人間には、エリックが異端審問官ということは言っていない。

教会から出向した第5開拓村の調査員ということにしている。




 3台の馬車はアウインの西に進む。

アウインの西にはアウインの水源である大河、サフィア河が流れる。

川幅は200メートルを超えており、水深も深い。

ここを渡るには船で渡るか、サファイ河にかかるサフィア大橋を通るしかない。


 今回はサフィア大橋を通る。

この橋は石を積み上げて作られているが、叩いて渡らずとも崩れそうにない。

道幅も馬車が余裕を持って通れる程あり、路面も綺麗に整えられている。

橋の入り口には大きな石碑が立っており、この橋を建てるために多くの犠牲を出したことが伺える。


 こうして犠牲を出してまで橋をかけたのは、新天地を目指すためだ。

この世界では、人間の勢力は決して大きくはない。

凶暴なモンスターから身を守りつつ、食料や資源の確保をすることが出来き、

さらに、多くの人が住むのに十分な広い土地は中々見つからない。


 そして、そういった土地はモンスターにとっても住みやすい土地なのだ。

だから、その土地を人間の物にしたければモンスターを駆逐し、奪い取るしかない。


 橋を警備する国の衛兵に、教会からの許可証を提示して橋を塞ぐ門を開けてもらう。

いよいよ、河を越える。

ここからは人間の領域ではなく、モンスターの領域だ。





 と言っても、橋を越えたらいきなりモンスターに襲われるわけではない。

橋を抜けた先は見渡す限りの平原が広がっている。

最近は寒くなってきたが、今日は天気が良いので、それほど寒くはない。

のどかな田舎に来たようで、のんびりと散策でもしていたい陽気だ。


 そんなことを思いつつ、馬車の中から外を眺める。

護衛はブラックファングのお仕事なので、しばらくは暇だ。

今の内に、情報の整理をしておこう。



 第5開拓村は10年前に開拓が始まったが、モンスターの襲撃を受けて文字通り全滅した。

当時開拓村に参加していたレンさんの兄である『ジン』も、死亡したと考えられている。

このジンの遺品の刀『狼牙』の回収がブラックファングからの依頼である。


 さらに、冒険者ギルドからも他の犠牲者の遺品回収依頼を請け負ったため、

こちらも平行して行う。

これはブラックファングの人間達も承知しており、彼らの方から快く手伝いを申し出てくれた。


 ただ……口に出しては言わないが、今回の遠征において遺品回収はオマケである。

今回のメインはやはり、邪教徒の調査であろう。


 第5開拓村を主導した大貴族ジェローム・ゴーンは裏で邪教徒と繋がっており、

第5開拓村の全滅も彼が意図した結果である可能性が非常に高い。

ジェロームが残した資料からは、彼が妻と幼い息子を亡くした事が邪教徒となった原因と考えられ、

彼の目的は妻と息子の復活だと推測されている。


 彼の研究資料からは、彼が『死者の蘇生』と『モンスターの研究』を行っていたことが分かっている。

彼の目的から死者の蘇生の研究は分る。

だが、気になるのがモンスターの研究だ。

彼はモンスターの特性を抽出して、人間に埋め込む研究を行っていたらしい。


 一体、何のために……?

その研究の結果の1つが、あのアンデッドスライムなのだ。

最悪、アンデッドスライムのようなものとまた戦うかもしれないのだから、

気になって仕方がない。



 モンスターの特性の抽出。

ゲームのフラグメントワールドには多くのモンスターが存在していたし、

この世界にも同様に、様々なモンスターが存在している。

それらの中には、人間の能力を超越した存在も含まれていた。


 例えば、アウインの水場を襲撃したデーモンのような魔人系のモンスター。

あれらは、ヒューマンにはない大きな鍵爪と巨大な肉体を持っている。

この特性を人間に埋め込めば、かなり強い人間が出来上がるだろう。


 ただし、それでは『ただ普通に強い』だけでしかない。

わざわざそんな手間をかけてまで作らなくても、いくらでも代用可能だ。

それでは、かけた手間に対して得られる成果が見合わない。


 だとすると、素材となるのは真っ当に強いモンスターではなくて、

特殊能力持ちのモンスターだろう。


 特殊能力持ちのモンスターは、ミレーユさんの因縁の地である『アスラの古代遺跡』に色々といたのを覚えている。

その中でも厄介な特殊能力持ちのモンスターというと、思い浮かべるのは3種類。


 1つ、『グローススライム』。

このスライムは一撃で仕留めないと、2つに分裂する。

分裂したグローススライムはオリジナルと同等の能力を持ち、

こちらも一撃で倒せないと2つに分裂する。

このため、攻撃力の低いキャラクターが下手に攻撃を加えると、

どんどん増殖をして行ってしまう。

まあ、無限に増えるわけではない。

ゲームの仕様上、フィールド上に最大100体までで増殖は止まる。


 このスライムは攻撃力が低いため脅威ではないが、

倒しても得られる経験値は低く、レアドロップも無いため、単純に邪魔になる。

さらに、スペックの低いパソコンでは、処理落ちしたり、最悪パソコンがフリーズしてしまう。

『リアルPC殺し』の異名を持つ、嫌なモンスターだった。


 このモンスターの力を持った人間と戦う場合は、ものすごく嫌な光景が広がるだろう。

何しろ、叩けば叩くほどその人間が増殖していくのだ。

それに数の力は脅威だ。

この世界ではいくらレベルが高かろうと、急所に攻撃を受ければクリティカルヒットで致命傷を受ける。

数の暴力で囲まれれば、抵抗も出来ずに殺されてしまうだろう。



 2つ、『インビジブル』

文字通り不可視のモンスターで、斥候の探査系スキルでも探知できない。

倒すためには、カウンター系のスキルを使用するか、挑発系のスキルで誘き寄せるか、

範囲系の魔法でなぎ払うしかない。


 だが、逆に言えば対処法はあるので面倒だが、それほど脅威ではない。

ゲームではいきなりダメージを受けるので、

運悪くHPが低いときに遭遇すると、唐突に死んだりするから驚くだけだ。


 ただ、これとリアルに戦わなければならないとすると、相当に厄介だ。

見えないのだから、備えようが無い。

初手で急所攻撃を喰らえば、何の抵抗も出来ずに殺されてしまうだろう。



 3つ、『ドッペルゲンガー』

プレイヤーキャラクターとまったく同じ姿、ステータス、スキルに変化するモンスターだ。

プレイヤーと同じと言うと、かなり強いように思うが、実際には大したことのないモンスターである。

AIはプレイヤーのように連携したり、スキルを上手に使えない。

何よりドッペルゲンガーは、HPもプレイヤーキャラクターと同じになる。


 MMORPGのボスキャラは数万、数十万のHPを持つのが当たり前であるのに対して、

プレイヤーのHPなんて数千が良いところなのだ。

はっきり言って弱い。


 ただ、これとリアルに戦わなければならないとなると、相当に厄介だ。

ドッペルゲンガーがどの程度戦えるかどうかは分からないので、戦闘力は分らないが、

仮に自分の姿に化けて、街の住人を虐殺なんてされたら、自分が社会的に死んでしまう。


「……」


 あれ……?

考えてみると思った以上に、ヤバイ気がしてきたぞ。

これ以外にも、自分が忘れているモンスターが居るかもしれないし、

この世界独自のモンスターも居るかもしれないし……

これは、まずいかもしれない。


 ただ、これらは敵として戦うとやばいのは間違いないが、

ジェロームの目的である死者蘇生からは外れている。

自分の知っている限りでは死者蘇生の魔法である『リザレクション』を使うモンスターは居なかったはずなのだ。

どんなに厄介な特殊能力を持ったモンスターを揃えた所で、彼の望みは果たされることはない。


「やっぱり、今ある情報で考えても、謎は深まるばかりだな」


エリックやアンナとも意見を出し合ってみたが、結局、敵の狙いを絞り込むことは出来なかった。



「敵発見!敵発見!!

2時の方向!オーク4!ゴブリン20!!」


 突然、ブラックファングのエルフの斥候から、警告の声が響く。

瞬間、周囲は一気に緊張感が増す。

思考を打ち切り、馬車の荷台の屋根によじ登ると、敵の姿を確認する。


「居た!」


 体長3メートルほどの巨体に、豚の顔をくっつけた醜悪なモンスターであるオーク。

そのオークに率いられた子供ほどの背丈のゴブリン。

手にはそれぞれ、ハンマーや剣、槍等を装備している。


 彼我の距離はまだ、1キロは離れている。

さすがエルフ、目が良い。

数は24体とブラックファングの30人とほぼ拮抗しているが、

これだけ距離が離れていれば、余裕を持って準備が行える。


 まずは、魔法使いや弓兵の遠距離攻撃で敵を削り、

その後、タンク役の戦士が守備を固めて、敵の足止めを行う。

後は、流れで適当に敵を倒せば、それで片付くはずだ。


ところが……


「ヒャッハー!!敵だー!!」

『ウオォオオオオオ!!!』


「ちょっ!待っ!!」


 ブラックファングの主力であるワーウルフの戦士たちは、

各々自分の武器を取ると、敵目掛けて一目散に走っていく。

その数は12人、敵のちょうど半分だ。


 ワーウルフの俊足では、1キロの距離なんて無いようなもの。

数十秒で敵との距離を詰め肉薄する。


 敵との距離が近すぎる!

これでは援護射撃も出来ない!

戦闘の段取りもくそもないじゃないか、無茶苦茶だ!



 一方、風のように疾走するブラックファングの戦士たちは、

その速度を落とすことなく、真っ直ぐに敵の群れに突っ込んだ。

彼らは足を止めることなく、すれ違い様に敵の手足を切り裂いていく。

それは致命傷とは言えないが、動きを阻害するには十分だった。


 敵もブラックファングの戦士達を迎え撃つため、手に持ったハンマーや剣を振り回すが、遅い。

彼らは速度を落とすことなく、敵の脇をすり抜ける。

いやそれだけではない。

ある者は跳躍し敵を飛び越え、ある者は敵の股下を潜り抜けてみせる。

ブラックファングの戦士達は、まるで敵をあざ笑うかのように縦横無尽に駆け抜けた。



 そのまま、敵の群れを正面突破した戦士達は、

速度を落とさないまま円を描くように軌道を修正。

敵を包囲すると、再度の突撃を行う。


 モンスターは最初の襲撃で混乱状態であり、ブラックファングの戦士達を見失っていた。

仮に補足できたところで、手足に傷を負った状態では、満足に撃激もできない。


「ヒャア!!止めだァ!!」


 2度目の襲撃は、言葉の通り、命を刈り取る一撃だ。

戦士達の剣は鋭く、一撃でモンスターの首が宙を舞う。

彼らが走り抜けた後には、ただ首のないモンスターの死体があるだけだった。


結局、戦闘開始から1分もしない内に、モンスターは全滅した。



「うわぁ……」


 どちらがモンスターなのか分らないほどの、圧倒的な蛮族感!

だが、戦いとは勝った方が偉いのだ。

彼らは24体のモンスターに対して、半数の12人で、1分以内に、無傷で仕留めて見せた。

この結果が全てなのである。


「どうですか、我がブラックファングの精鋭たちは!!」


ひょこっと、隣からエルが顔を出す。


「ああ……うん、すごいね。

ヒューマンの戦い方とは根本的に違う。

攻撃は最大の防御、を体現したような戦い方だ」


「そうなのです!

ヒューマンは壁役が敵の足止めをしてから敵を叩きますが、

ワーウルフには壁役は不要!

敵の攻撃は受けるものではなく、避けるもの!

いえ、そもそも攻撃をさせません!

圧倒的な速度と力で敵を切り崩すのが、我らが戦闘教義であります!」


ワーウルフは好戦的な種族なのか、エルも興奮したように力強く解説する。


 実際にあの思い切りの良さは、脅威だ。

仮にブラックファングと戦闘になった場合、

まずは陣形を整えようと、悠長なことをやってると、

一気に流れを持っていかれてしまうだろう。


 それに、見た目に惑わされそうになるが、

初撃で手足を狙い、第2撃でトドメという戦闘教義は、徹底されていた。

あの戦法は、ワーウルフの速度と力を活かした戦い方であり、

考えてないようでいて、しっかりと考えられている。


 あの速度と力に任せたパワープレイは、ヒューマンの発想からは出てこないものだ。

覚えておいた方が良いだろう。



 その後も、こうした襲撃に何度も襲われたが、

ブラックファングはその全てを撃退し続けた。

端から見ている自分には非常にハラハラする戦い方だが、

彼らは大きな怪我もなく、自分の出番は最後まで無かった。


 この世界では、ステータス画面からパーティーを組むためのコマンドは消えていたが、

一緒に行動しているとパーティーと見なされるのか、

自分は何もしていないのに、経験値が入ってくる。


 レベル70を超える自分にとって、それは微々たるものだが、

自分以外の者には馬鹿にはならない。

戦闘で矢面に立ったブラックファングは当然として、

リゼットはレベルが38から39へ、エルもレベルが36から37へ上がっていた。


 そして、五日後。

特に問題も無く、第5開拓村に到着した。


しかし……


「なんだよ……これ……」


ぞわりと、身体に悪寒が走る。

第5開拓村は、村を取り囲むように黒い結界に覆われていた。


「……『異界』か」


 第6開拓村の輸送路にあった異界よりも、規模も密度も高い。

どす黒い結界に阻まれ、外からでは中の様子は分らない。

第5開拓村は完全に異界に飲み込まれてしまっていた。


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