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宗次は聖騎士に転職した  作者: キササギ
第3章 無法者達の楽園
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66話 ブラックファングの『エル』


「おう、『エル』を連れて来い」


 そう言うと、レンさんはパンパンと手を叩く。

すると部屋のドアが開き、そこには1人の少女が立っていた。


 大きな手荷物を持ったワーウルフの少女。

その少女に……自分は見覚えがあった。




 室内に通された少女は、まだ子供と言ってもいいぐらいの年齢であり、

身長は150センチ程度の小柄である。

日本で言えば、中学生ぐらいだろうか。


 その顔もまだ幼さが残るが、紫色の瞳にはしっかりとした意志が宿っており、

ただの子供ではないと分かる。

また、少女の頭にはワーウルフ特有の犬耳が生えており、その耳は緊張しているのかピンと立っている。

瞳と同色の紫の長髪は、後ろで1つにまとめていた。


 少女はブラックファングの黒い戦装束を身に纏い、

さらに黒い色の外套を羽織っている。

戦闘服を当然の様に着こなすその姿は、

彼女が小さくともブラックファングの構成員であると物語っていた。



少女は軽く一礼すると、ステータスを表示する。


---------------------------------------

Lv35

名前:エル

種族:ワーウルフ

職業:レンジャー

メイン職業:斥候

サブ職業:戦士


HP:176

MP:58

----------------------------------------


「私の名前はエル。レベルは35、年齢は14歳です。

ブラックファングではレンジャーとして、

情報収集を担当していました。

若輩の身ではありますが、粉骨砕身の覚悟で尽くさせて頂きます!」


ワーウルフの少女エルは、はっきりとよく通る声で挨拶をした。



 職業『レンジャー』

ゲームだった時のフラグメントワールドにもあった職業だ。

その特色として、敵に気付かれずに移動する隠密や、逆に敵の注意を引きつける陽動。

それ以外にも、麻痺や毒といった状態異常を引き起こすトラップを得意とする。


 戦闘以外でも、鍵の掛かった宝箱や扉の解錠や、アイテムの鑑定。

さらに、ダンジョンの『斥候』のみが起動できる仕掛けを用いて敵にダメージを与えたり、

ダンジョン内をショートカットすることが出来た。


まとめると、直接戦闘は苦手だが、パーティーに1人居ると何かと便利な職業である。


 それはこの世界においても、変わらないだろう。

彼女はレンジャーとして、『情報収集』をしていたと言っていた。


なるほど、だから彼女はあの時、あの格好で、あの場所に居たのか。


「……君、貧民街に居ただろう?

ほら、覚えてるか?銀貨を1枚とクッキーを上げただろう?」


 忘れもしない南部教会に始めて行った、あの日。

初対面の自分に非常に失礼な態度を取ったアンナと初めて顔合わせをした後。

1人で貧民街の見回りをしていた時にクッキーをあげた物乞いの少女。


 あの時は、ボロの布切れをフードの様にずっぽりと覆っていたが、

見間違いではないはずだ。


自分の言葉を聞いた少女は驚愕に目を見開き、ビクンと身体を震わせる。


「お、お、お……」


「お?」


「覚えていてくれたのですね!!

さすがはソージ様です!!」


そう言った瞬間、目をキラキラと輝かせ、一瞬で自分の目の前に移動する。


「はや!

って、か、顔! 近い!!」


 驚き、一歩後ろに後退した自分に対して、ワーウルフの少女『エル』は逆に一歩間合いを詰める。

彼女は小さな身体を精一杯伸ばし、早口で捲くし立てる。


「あの時のことは、忘れもしません!

私は浮浪児に紛れて情報収集をするため、あの場に居ました!

任務とはいえ、満足な衣服も無く、貧民街で凍えるような日々を過ごしていたのです!

あの時の私はソージ様から見れば、薄汚れた物乞いに見えたでしょう!

であるにもかかわらず、ソージ様はあのとても甘いお菓子をくれました!

あの時の暖かな気持ちは、とても言葉で表せるものではありません!!

そして、私は確信しました。ソージ様は真の善なる心を持つ神官であると!!!」


「は、あ、え、ちょ、お、落ち着け、な」


 マシンガンのような怒涛の言葉に、たじろぎ後退すると、

エルは身振り手振りを交えつつ、さらに勢いを増した賞賛の言葉を吐きながら、

飛びつかんばかりの勢いで距離を詰める。


 その様は、主人にじゃれ付き、顔を舐めまくる子犬のようだ。

実際、尻尾はブンブンと勢い良く振り回されており、その目はキラキラと輝いている。

尊敬、憧れ、そして何より最大限の好意。

その目の輝きは、小さい子が憧れのスポーツ選手やアイドルを見るアレだ。


「やめろ、そんな、目で、俺の、事を、見るん、じゃ、ない。

俺は、善人、じゃない、薄汚れて、小賢しい、ただの、汚い、くそ、野郎だ」


エルに押されるように後退する自分に対し、彼女はずんずんと間合いを詰める。


「何をおっしゃいますか!

あの貧民街のことだけではありません!

私は物陰からソージ様の事を見ておりました!

アンデッドスライムに立ち向かって行った事も、

我らブラックファングの者達を一人一人丁寧に治療してくれたことも!!」


「いや、それは、仕方がなく……」


 と言うか、物陰でって何だよ。ストーカーか!

何なんだこの子、超怖いんだけど。


 だいたい、アンデッドスライムとの戦いは、自分なりにケジメをつける必要があっただけだし、

ブラックファングの治療については、放置出来ないから仕方なくだ。

一人一人丁寧に見たのも、手を抜くのが嫌いなだけで、

別にブラックファングに対して特別な感情はない。


 しかし、この少女『エル』は、いかに自分が素晴らしいことをしたのだと言うことを褒め称えつつ、

にじり寄ってくる。

その勢いは凄まじく、自分はいつの間にか壁際まで追い詰められていた。


「そこまでにしておけ、エル。

ソージ殿が困っているだろう」


「ああ、す、すみません。私としたことが、つい……」


レンさんに注意されたエルは、しゅーんと耳が垂れ下がる。


「すまんな。

ちょっとばかりソージ殿に入れ込んじゃいるが、

根は真面目で良い娘なんだ」


 ちょっとばかり……? 真面目……?

いやいや、これはどう見てもただのストーカーだろう。


さてはあれか、厄介者を自分に押し付ける気だな。


 疑念の目で見つめる自分を余所に、レンさんはエルに視線を向けると、

姿勢を正し真面目な声で語りかける。


「エル、お前が俺らの家族であることは変わらないが、

今日からソージ殿がお前の主人だ。

ソージ殿の目となり耳となり、時には牙となり……

精一杯ソージ殿に仕えるのだ」


「は!

ブラックファングの名に恥じぬように誠心誠意ソージ様に尽くすことを、

ここに誓います!!」


 先程の態度はどこへやら、エルはビシッとした綺麗な敬礼をしつつレンさんに宣言する。

その言葉にレンさんは深く頷いた。

そして、エルは自分の方に顔を向ける。


「そういうわけですので、ソージ様!

今日からあなた様の事を、ご主人様と呼ばせてください!!」


エルは胸に手を当て、キラキラとした目で懇願する。


「え……ご主人、さ、ま?」


「はい!よろしくお願いします!ご主人様!!」


エルは満面の笑みで、そう応えた。




 レンさんの自室から退出した自分は、

エルの案内でブラックファングのアジトから地上への通路を歩く。


 隣には、ウキウキとした足取りで歩くエルがいる。

ただ自分の隣を歩いているだけなのに、とても幸せそうだ。


「はぁ……やれやれ……」


 結論から言えば、『チェンジで』とは言えなかった。

……言える筈が無い。

あの期待に満ち満ちた目、自分に断られるとは微塵も考えていなかったに違いない。

そんな娘の期待を裏切ることは自分には出来なかった。


まあ、自分も別にあの娘を嫌っているわけではない。


 初めて会った時、薄汚れた布切れを纏う彼女からは、

何一つ希望と言うものが見出せなかった。

彼女1人ぐらいなら引き取ることも出来ると考えたが、

結局、何もしなかった。


 騙されたことに思うことが無いわけではないが、

不幸なワーウルフの少女はいなかったと納得しておこう。

ただ、やはりあのテンションと自分に対する過大な期待がどうにも苦手だ。


 彼女は、自分の事を善人だと言うが、はっきり言ってそれは間違いだ。

別に謙遜をしているわけではない。


 自分は、出来る限り善く生きようと心掛けてはいるが、

それは結局、『出来る限り』以上ではない。

自分にだって当然の様に都合があり、あくまでも自分が優先だ。

そんなのは当たり前だろう。


 現実世界にも居たが、別に自分は便利なヒーローではない。

いつでも助けてもらえると思ってもらっては困る。

結局、自分を助けてくれる人間は自分以外にいないのだ。


 でも、彼らは肝心な時に助けてくれないと罵るのだ。

勝手に人に期待して、勝手に裏切られたと非難する。


 まあ、そこまで酷いのは100人中1人ぐらいの割合で、

そうそう出くわすものではない。

だが間違いなく居るのだ、そんなくそのような人間は。



 彼女も自分に過大な期待を寄せているようだが、

一緒に行動していれば、どうせすぐにボロが出る。

その時、この娘はどんな顔をするだろうか?


 まあ、いい。

他人に嫌われるのは慣れている。

成る様に成るだろう。


 そう結論付けたところで、通路の先。

1人のワーウルフの青年が道を塞ぐように仁王立ちしていた。

エルと同じ、紫色の髪と紫色の瞳。

年の頃は16、17ぐらいか?

ブラックファングの黒い戦装束を纏った青年は、

体の線はまだ細いが、それでも鍛えられていることは分かる。


 そんな青年であるが、その顔には強い不快感が滲み出ている。

しかし、この青年とは初対面であり、恨まれるような心当たりはない。


「ソージ様、アレは私の兄『エン』です。

お兄様……これは何の真似でしょう?

私がソージ様の所に行くことは、リーダーがお決めになったことです」


 お兄様……?

ああ、そう言われるとエルと同じ髪と瞳の色をしているし、

顔立ちも似ている。


「それでも、オレは認めねぇ!

オレは親父にエルを頼むと、任されたんだ!

だいたいレベルが高いっつても、どこの出自かも分からん男に、

大事な妹を任せられるか!」


「……やれやれ、困ったお兄様ですね」


 そう言うと、エルは手で自分を制すると、

1人、エンのもとに歩いていく。


「何だよ……何を言っても、オレは認めないぞ」


「ええ、分かっていますとも。

ところでお兄様、靴紐が解けていますよ」


「へ?」


 エルの言葉でエンは足元を見る。

その瞬間――エルの右腕が動いた。


 エンの視界の外から繰り出されたエルの拳は、綺麗に彼の顎を打つ。

まさか妹に攻撃を受けるとは思っていなかったのだろう。

防御も無くエルの不意打ちを受けた彼は、糸が切れたマリオネットの様に、

地面に崩れ落ちた。


「ご主人様、片付きました」


「いやいや、片付けちゃダメだろ!」


 急いで駆け寄ると、エンはピクピクと痙攣し、白目をむいて気絶していた。

HPを確認するが、幸いにして命に別状はなさそうだ。


「加減はしていますので、大丈夫ですよ。

しかし、いつまでも妹離れ出来ない兄で困ります。

私はお父様から兄のことを頼むと言われているのに……」


 やれやれ、とエルは首を振る。

その親父さんに頼まれた兄を、たった今不意打ちで叩きのめしたのがこの子なんだが……



 自分にも兄はいたが、兄の『宗市』の事はどうにも複雑だ。

兄は勉強も出来たし、運動も出来たし、人付き合いも良かった。

まさに文武両道、漫画の中にしかいないような完璧超人だった。


 尊敬もしているし、自慢の兄ではあったが、

自分はそんな兄と比べ続けられたのだ、たまったものでは無い。

好きか嫌いかで言えば、間違いなく嫌いである。


 しかし、よく兄を殴るなんて発想が出てくるものだ。

自分は兄の事は好きじゃないが、殴り合いはしたことがない。

口論になったことも……結局、あの1回だけだったな……


 まあ、もう会う事も無くなった兄のことよりも、

今は目の前のかわいそうな兄のことだ。


「おーい、大丈夫か?

一応、ヒールもかけとくか。

――清浄なる神の光よ、傷を癒せ――ヒール!!」


「何と!

初対面であんな失礼な物言いのお兄様に、ヒールをかけてくれるとは!

さすが、ご主人様です!」


「ああ、うん……

まあ、過去にもっと酷い初対面はあったから……」


 これでもアンナよりはマシである。

あれを経験すれば、だいたいのことは気にならなくなる。


そうこうしていると、エンの体がビクンと動く。


「う、……はっ!!」


「お、気が付いた。

大丈夫か?ヒールは必要か?」


「て、敵の施しは受けん!!」


自分の言葉に何が起きたのかを察すると、自分の手を振り払い起き上がる。


「お、オレは認めたわけじゃないからな!

エルに手を出したら、ただじゃおかないからな!」


そう捨て台詞を吐くと、エンは走り去っていった。


「敵じゃないんだが……」


 唐突に出てきたと思ったら、嵐の様に去っていった。

その姿に、呆然と呟く。


「まったく、あの兄は!

私がきつく言っておきますので!!

どうかお許し下さい!!」


「気にして無いから、お兄さんには優しくしてあげて……」


 レンさんとジンさん。

エルとエン。

世の中には色々な兄弟がいるのだなぁと、そんなことを思った。





「……と、言う訳で今日からお世話になります。

ブラックファングのエルです。

よろしくお願いします」


「むぅ!」


「……」


場所は変わって、南部教会に戻ってきた。

リゼットとアンナに、ブラックファングの依頼やエルの事を話した反応がこれである。

リゼットは普段とは変わらないが、アンナはやや機嫌が悪い。


「ソージ、1つ聞くけど。

そのエルって娘、いつまでここにいる気だ?」


「えーと……そう言えば、期限は決めて無いな……」


「無論、この命、尽きるまで」


「え、そうなるのか?」


「あーあ……結束の固いブラックファングがお前を主人とするって言ったんだ。

言葉通りただの連絡要員、人員の派遣で終わる訳ないだろうよ。

早い話が側室目的で送りこんでるんだよ」


 ああ、そっちか。

監視目的や厄介者を押し付けるのではなくて、政略結婚狙いだったのか。

……こんな小さい子を送り込むとは、レンさんは頭がおかしいんじゃないのか?


「勘違いして貰っては困ります。

それでは、まるで私がソージ様を騙して取り入ろうとしているみたいじゃないですか。

ご主人様、私は身も心も全て、あなた様のものです。

お好きなようにお使い下さい。

もちろん、手を出すも出さないもソージ様の考え次第で御座います。

ですが……個人的には手を出してくれると嬉しいです!!」


「ほら見ろ、ほら見ろ。

これがこいつの本性だよ。

でもな、そんな貧相な身体じゃ、ソージは手を出さないぜ」


 アンナはこれ見よがしに、その巨乳を腕で押し上げると、

身体をくねらせ、腰や尻を強調する。


「はぁ……確かに私には胸も尻も肉が足りないことは自覚しています。

しかし、母性の伴わない胸や尻は、ただの脂肪の塊です。

あなたは女と言うものが、まるで分かっていない」


「は、何だ?負け惜しみか?」


ドヤ顔で挑発するアンナに対して、エルの目が妖しく光る。


「――試してみますか?」


 エルはそう言うと、アンナの顎を無理やり掴み、

顔を引き寄せると、その口に自身の舌をねじ込んだ。


「へ?

ん!ちょ、やめ、くちゅ、あ、あ、あ…………ん、い、んぅ!!」


 エルは艶かしく舌を動かし、まるで熟れた果物にむしゃぶりつく様にアンナの唇を蹂躙する。

濃厚な口付けを終えると、アンナは腰が砕けたようにその場に座り込んだ。


「……ぷはっ!

分かりましたか?これが『女』を使うと言うことです。

あなたはソージ様を満足させられていますか?」


「ヒギィィ!!ソージ助けて!

犯される!」


 腰が抜けて立てないのか、アンナは這いずる様にエルから距離を取ると、

自分の背に隠れる。


「まったく、それだけの美貌と豊満な身体を持っているのですから、

優しく微笑むだけで男を虜に出来るでしょうに……なんと勿体無い」


「うるせー!余計なお世話だ!

つーか、その技でソージを誘惑する気だろ!

でも、ソージにはそんな色仕掛けは効かないんだからな!」


アンナは何の根拠があるのか分からないが、自分の背後から言い返す。


「別に誘惑する気はありませんが……

私の技術がどこまで通用するか、興味はありますね」


エルは瞳を輝かせると、そんな事をのたまう。


え、何、この流れ……


『色仕掛けになんて絶対に負けない!』からの

『色仕掛けには勝てなかったよ……』でもやればいいのか?


 エルは、しばしお待ちを、と言うと、

こちらに背を向け、腰につけたポーチからピンク色の液体の入った小瓶を取り出す。


 香水だろうか?

エルはその中身を少量取り出すと、身体に振り掛ける。

そして、彼女は紫色の髪を1つにまとめていた髪留めを外すと同時に、

振り返る。


 髪留めを外した髪はその動きで、ふわりと綺麗に宙に広がる。

同時に、先程の香水と思われる甘い香りが広がっていく。


 こちらを振り向いたエルの表情は、先程までの幼さを残した顔では無い。

いや、顔は変わらない。

だが、小悪魔のような被虐的であり、加虐的でもある妖艶な表情を浮かべている。


「ふふ……ねぇ、ソージ様はどういう女の子が好みなのかしら?」


 エルは蠱惑的な笑みを浮かべ、自分に対して身体を預けるように寄りかかると、

細くて小さな手で顔を撫でる。


 密着する体からは、香水の甘い香りがよりはっきりと香り、

理性を塗りつぶすように頭の中までピンク色に染まってしまいそうになる。


「ほら……目を閉じて、私が全部してあげる……」


 小さな身体を精一杯伸ばし、そっと顔を寄せる。

エルの息遣いが鼻にあたり、柔らかそうな艶かしい唇が迫る。


その紅潮した顔に対して――



――自分の頭を叩きつけた。



「きゃん!!」


 ゴッという、額と額がぶつかる鈍い音ともに、衝撃が頭に響く。

脳が揺れ、視界は白く染まる。

頭痛をこらえ頭を振ると、視界は徐々に戻ってくる。

見れば、エルは頭を押さえ床に倒れていた。


「あいたたた……

私の色仕掛けが効かないとは……

さすが、ソージ様です……」


 頭突きを受けてこの反応、この子やっぱりおかしいぞ。

いや、それよりも。


「お前……さっきのピンク色の液体……

あれ、ただの香水じゃないな」


 あの香りを嗅いでから、頭の中がピンクになるし、

今も下半身に血がたぎっている。


「ご明察の通りです。

あの香水は、私特性の媚薬です。

あ、ご心配なく! 中毒性はありませんから!」


「いや、そうじゃなくてだな……」


「あ、そういうことですね!

こちらに未使用の物がありますので、どうぞお使い下さい。

この媚薬を使えば、そこのおっぱい女もエロエロのグチョグチョですよ!」


「いや、そうじゃなくてだな……」


 この歳で媚薬やら色仕掛けやら……本当に碌でもない。

この子がおかしいのか、ブラックファングがおかしいのか……

両方だな、たぶん。


「って、そう言いつつ、さりげなく受け取ってんじゃねーよ!!

アタシに使う気だな!

だが、アタシには『リフレッシュ』の魔法があるからな。

そんなクスリなんて、効かねぇよ!!」


「――試してみますか?」


「へ?」


「――試してみますか?

私の薬を受けて尚、魔法を使うだけの理性が残っているか――」


エルはにやりと笑うと、ポーチの中から緑や紫の液体が入った小瓶を取り出す。


「ヒィイイ!ソージ、助けて!

こいつ怖い!」


「ようし、この話題は止めよう!!

エルも落ち着け!!」


 だいたい第5開拓村の事や、大貴族『ジェローム・ゴーン』の事について、

話し合うことは他にもあるのだ。


「……ソージさん、よろしいでしょうか?」


今まで黙って、成り行きを見ていたリゼットが口を挟む。


「よろしいですけど、何でしょう?」


リゼットは頷くと、エルに対して視線を向ける。


「エルさん……あなたは、ソージさんのために、死ねますか?」


「はい!ご命令とあらば、この命!

ご主人様のために捧げることを誓いましょう!!」


「そう……ソージさん、私は良いと思います」


「あ、リゼットはそれでいいんだ」


 今までの流れは一切無視。

リゼットにとって大事なのは、自分のために死ねるかどうかだった……



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